ICUにおける敗血症の管理
『ICU看護実践マニュアル』(サイオ出版)より転載。
今回は、「ICUにおける敗血症の管理」について解説します。
石田恵充佳
東京科学大学病院 集中ケア認定看護師・感染症看護専門看護師
- 敗血症診療のキーは、早期診断と早期治療
- 敗血症を早期に認識し迅速に介入するためには、携わるすべての医療従事者の連携が欠かせない。
- 救急・ICU看護師は、敗血症患者の複雑な病態を理解し、全身状態の安定化と合併症予防のための知識とスキルが必要
敗血症、敗血症性ショックの定義
敗血症の定義は「感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態」であり、敗血症性ショックは「敗血症に急性循環不全を伴い、細胞障害及び代謝異常が重度となる状態」と定義1)され、小児から成人に至るまであらゆる年齢層が罹患する重篤な疾患である。
敗血症、敗血症ショックの診断
敗血症の診断基準は、ICU患者とそれ以外(ERや一般病棟)で区別されている。ICU患者の敗血症の診断は、①感染症もしくは感染症の疑いがあり、 かつ②SOFA スコア(sequential organ failure assessment、表1)の合計2点以上の急上昇としている1)。
表1SOFAスコア
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(日本集中治療医学会:日本版敗血症診療ガイドライン2020、https://www.jsicm.org/pdf/jjsicm28Suppl.pdf)
一方で、 非ICU患者では、quick SOFA(qSOFA、表2)を使用し、2項目以上の該当で敗血症を疑い、早期治療の開始やICU入室/転棟の目安とする。
表2quick SOFAスコア

(日本集中治療医学会:日本版敗血症診療ガイドライン2020、https://www.jsicm.org/pdf/jjsicm28Suppl.pdf)
敗血症において平均血圧65mmHgを保つために輸液療法に加えてノルアドレナリンなどの血管収縮薬を必要とし、かつ血中乳酸値2mmol/L(18mg/dL) を超える場合に敗血症性ショックと診断する。
敗血症および敗血症ショックの診断の流れ(図1)を把握しておくことで、看護師として敗血症の早期診断と早期治療へ繋ぐための行動化に役立てることができる。
図1敗血症と敗血症性ショックの診断の流れ

(日本集中治療医学会:日本版敗血症診療ガイドライン2020,p.25, https://www.jsicm.org/pdf/jjsicm28Suppl.pdfより改変)
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敗血症患者の看護:早期感染症診断・診療のための看護師の先を見越した迅速な行動
敗血症(疑い含む)または敗血症性ショック患者の対応・管理に従事または関与する救急外来(Emergency Room、以下 ER)、集中治療室(Intensive Care Unit、以下ICU)のすべての医療従事者は、敗血症を早期に認識し、迅速に介入するための連携が欠かせない。
そのなかで看護師は敗血症の複雑な病態をタイムリーに判断し、先を見越し迅速な対応をめざす。それと同時に、起こり得る合併症予防のための多角的知識とスキルが求められる。
敗血症・敗血症性ショックの患者に対し原因となる感染症診断、適切な治療が行われなければ敗血症から回復する可能性は低い。
感染症診断のためには、迅速かつ適切な検体採取および画像検査による感染臓器および病原微生物の同定が極めて重要となる。さらに、抗菌薬投与や外科的感染巣コントロールは敗血症の根本治療である。
感染症や感染症が疑われる患者では、医師からの検体採取や画像検査の指示への対応、抗菌薬投与や手術・処置等の準備等は後回しせずに迅速に実施すべき事項である。
迅速かつ適切な検体採取
血液培養は、菌血症を診断するうえで標準的な検査法である。
菌血症を疑う症状(発熱、悪寒・戦慄、低血圧、頻呼吸)などの出現、原因不明の低体温、低血圧、意識障害(とくに高齢者)、白血球数増加や減少、代謝性アシドーシス、免疫不全患者における呼吸不全・急性腎障害・急性肝機能障害などがみられたら敗血症を疑い血液培養採取を想定する1)。
尿路感染、肺炎、髄膜炎などの感染症によって生じた敗血症の場合は、血液培養だけで感染臓器および原因微生物を同定することは極めて難しい。
たとえば、尿路感染症が疑われる場合は尿培養検査、細菌性髄膜炎が疑われる場合は髄液採取というように、患者の状況に応じ必要となる培養検体を想定し、医師の指示が出されたら抗菌薬投与前に血液培養や推定される感染部位から各種培養検体を迅速かつ適切に採取できるよう準備を進めておく。
培養検体を看護師が採取する際は、検査結果がde-escalationを含む抗菌薬適正使用など治療に影響する可能性があることを意識し、コンタミネーションをきたさないように注意する。
さらに、検体培養は採取して終わりではなく、速やかに検査室に提出するまでが結果にかかわるため、搬送上の注意点を理解しておくことも重要となる(表3)。
表3検体搬送上の注意点

(Miller JM, et al. A Guide to Utilization of the Microbiology Laboratory for Diagnosis of Infectious Diseases: 2018 Update bythe Infectious Diseases Society of America and the American Society for Microbiology. Infect Dis. 31;67(6):e1-e94., 吉田敦他:感染症診断に向けた微生物検査ー米国のガイドラインを通して,本邦での今後を模索するー,日本臨床微生物学雑誌,23(4):1-6,2013より改変)
迅速な画像検査のための準備、他職種との連携
迅速かつ適切な早期の感染源のコントロールは、敗血症患者の転帰を左右する。感染源検索のための画像検査には、単純 X線、超音波検査、CT検査、MRI検査があり、治療方針を策定するためにも必要不可欠である。
このことから、スムーズに検査が受けられるように放射線技師との情報共有や連携が必要となる。
緊急時は患者のアレルギー歴が不明な場合もあるため、造影剤使用時のリスクを把握したうえで十分な観察、検査室移動時の急変リスクも想定した準備が必要となる。
迅速な感染源コントロールのための準備、他職種との連携
感染源のコントロールが重要と考えられる6つの感染源は、①腹腔内感染症、②感染性膵壊死、③尿管閉塞を原因とする急性腎盂腎炎、④壊死性軟部組織感染症、⑤カテーテル関連血流感染、⑥膿胸である1)。
感染源のコントロールについて表4に示す。緊急対応の遅れが致死的となる可能性もあるため、手術室をはじめとする関係部門との連携、手術・処置を想定した速やかな準備/介助が必要となる。
表4敗血症となる感染源とその対応
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敗血症患者の看護:全身状態の安定化・重篤化回避のための看護
意図的な情報収集、身体観察
敗血症の原因となる微生物は患者の既往歴や生活歴などの背景により想定される(表5)。
表5感染症や感染症が疑われる患者の情報収集項目

救急場面や緊急時に詳細な情報収集は難しい場合もあるが、感染症と診断されている患者や感染症が疑われる患者はとくに、患者の周辺環境や既往歴、手術歴などの情報を意図的に収集し、得た情報を医師と共有することが重要である。
病原微生物により侵入門戸は異なるが、頻度の高い感染巣(呼吸器、尿路、腹腔内、皮膚軟部組織)と見逃しやすい感染巣(前立腺、胆管、関節、感染性心内膜炎)があることを頭の片隅に置き、頭から指先まで隅々を観察することが重要である。
敗血症患者看護の臨床の実際
敗血症や敗血症性ショックの患者は、不安定な循環動態、重度の貧血、感染症による代謝亢進による酸素需要の高まりや酸素供給が低下している状態が予測される。
酸素需給バランスを評価し、看護ケアが酸素需給バランスを崩すきっかけにならないように注意しなければならない(表6)。
表6酸素需給バランスに影響する要因

さらに、薬剤耐性菌や医療関連感染なども敗血症の原因となるため感染症予防も重要となる。
このように、敗血症患者は高度な全身管理を必要とするため、多職種連携において看護師も専門職としての役割を果たすために、幅広い知識とスキルが求められる。
循環管理
感染症に伴う生体防御反応により放出される種々のメディエーターの働きにより、敗血症の初期には末梢血管拡張に伴う相対的循環血液量減少が起こる。
さらに、敗血症ショックは単に末梢血管拡張に伴う血液分布異常性ショックだけでなく、 循環血液量減少や心機能低下によるショック(循環血液量減少性ショック、心原性ショック)も合併する複雑な病態を形成する1)。
敗血症ショック時に、臓器灌流維持のための輸液は重要ではあるが、大量輸液療法による肺水腫や腹部コンパートメント症候群などを合併する可能性もある。
このことから、心エコーによる心機能・血行動態評価、輸液反応性評価の結果を医師に確認すること、 混合静脈血酸素飽和度(SvO2)は組織酸素需給バランスの指標、血清乳酸値は嫌気的代謝の指標として推移を観察すること、複数の生体情報モニタリングから得られるさまざまな情報から起こり得る状態変化を予測することが重要となる。
初期蘇生輸液のみで目標とする臓器灌流圧を維持できない場合はノルアドレナリンなどの血管収縮薬が必要となるため血圧の変化に注意し対応していく。
呼吸管理
敗血症による呼吸不全は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の発症メカニズムによって引き起こされることが多い1)。
敗血症患者の呼吸管理では、酸素需給バランスの崩れを補うための酸素化の改善、分時換気量増加に伴う呼吸仕事量負担軽減などが人工呼吸吸療法の目的となる。
循環動態が不安定になりやすい敗血症患者において陽圧換気等の設定が循環動態に影響を及ぼすこともあるため、人工呼吸療法開始時や設定変更時には循環変動にも着目する必要がある。また、陽圧換気によって生じ得る人工呼吸関連肺損傷、自発呼吸誘発性肺傷害にも注意し観察する。
栄養・血糖管理
敗血症および敗血症ショック患者において、栄養障害に伴う易感染性の高まり、高血糖による免疫能への影響を考慮し患者の全身状態を評価しながら栄養投与方法の検討や血糖管理が重要となる。
体温管理
発熱は感染や生体侵襲に対する生体防御反応の 1 つであるが、呼吸需要や心筋酸素需要の増大、中枢神経障害に関連する。発熱に対する解熱療法により、酸素消費量の低下や患者の不快感の軽減が期待できる一方で、生体防御反応が制御される可能性もある。
また、敗血症患者の低体温は感染防御能の低下に関連する。これらのことから、体温の数値だけを見て安易に解熱剤投与、クーリングや保温をするのではなく、バイタルサインの変化や患者の全身状態の観察・判断しながら体温管理をすることが重要である。
出血傾向や皮膚・粘膜障害予防
敗血症では凝固線溶障害が引き起こされ全身性の凝固異常であるDIC(播種性血管内凝固症候群)を合併すると、微小血栓により全身臓器に血栓症をきたし臓器障害が起こる。
また、急性肝機能障害などにより出血傾向を認めることもある。このため血栓塞栓症状、血液検査データの推移、皮膚や粘膜、デバイス刺入部も含めた出血の有無など身体観察により異常を早期発見し、対応することが重要となる。
感染予防
抗菌薬治療は敗血症診療に必須の治療であり、前述した適切な抗菌薬選択に加えて、薬剤の投与経路や投与間隔、投与時間なども重要となる。
このことから、看護師は医師の指示を確認し適切に抗菌薬を投与・管理する必要がある。
また、抗菌薬曝露歴や投与期間が長いほど薬剤耐性菌やクロストリディオイデス-ディフィシル(Clostridioides difficile)感染症などのリスクが高まり、それが新たな敗血症のリスクとなる。
ICUに入室する患者の多くは易感染性が高い状況にあり、人工呼吸器関連肺炎やカテーテル関連血流感染症などの医療関連感染症の発生リスクも高い。
このため、重症患者にかかわるすべての医療従事者が標準予防策や経路別予防策を遵守すること、医療関連感染症予防のためのエビデンスに基づくバンドルケアの実施が重要となる。
ICU-AWやPICS予防
ICU-AW(ICU-acquired weakness)やPICS(post intensive care syndrome)の発症に敗血症、敗血症性ショックが関連している2)。
敗血症、敗血症ショック患者や患者家族のICU 退出後の長期予後、生活の質への影響を考えながら多職種と連携し、ABCDEFGHバンドルをはじめとする包括的ケアが重要となる。
複数の医療機器の安全管理
敗血症は複数の生体情報モニタリングや医療機器使用により全身管理がされる。
急性腎障害(AKI)は、敗血症や敗血症性ショック患者に高頻度に認められ腎代替療法(RRT)が施行されることも多い。
使用されている生体情報モニターや医療機器の特徴を理解し、安全に管理するための事前学習が必要となる。
1 )日本集中治療医学会:日本版敗血症診療ガイドライン2020.
https://www.jsicm.org/pdf/jjsicm28Suppl.pdf よ り2021年12月14日検索 .
2 )日本集中治療医学会:PICS 集中治療後症候群 . https://www.jsicm.org/provider/pics.html よ り2021年12月14日 検索 .
3 )Miller JM,Binnicker MJ,Campbell S (2018). A Guide to Utilization of the Microbiology Laboratory for Diagnosis of Infectious Diseases: 2018 Update by the Infectious Diseases Society of America and the American Society for Microbiology. Clin Infect Dis, 31;67( 6 ), e1-e94.
4 )吉田 敦・千原晋吾・奥住捷子:感染症診断に向けた微生物検査 ―米国のガイドラインを通して, 本邦での今後を模索する―. 日本臨床微生物学雑誌 23 ( 4 ), 1 - 6 2013.
5 )石田恵充佳:敗血症の今とこれからー「これまで」の行動を修正し敗血症患者の看護に臨む . 重症集中ケア,2020,19( 4 ):97-99
本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『ICU看護実践マニュアル』 監修/肥留川賢一 編著/剱持 雄二 サイオ出版


