患者は騎手や調教師、出勤は月5日⁉ 競馬場看護師の仕事とは|病院以外のレア職場(1)

多くの看護師は病院やクリニックで働いていますが、意外な場所で働く看護師もいます。

 

この連載では、いろいろな職場で働く看護師を紹介していきます。レアな職場もたくさんある、看護の仕事の幅広さを感じてもらえたらと思います。

 

第1回は、全国25カ所の競馬場の中から、ある地方競馬場で働くAさんにインタビュー。主に騎手や調教師の応急処置などを担当しているという、Aさんのお仕事やそのやりがいを、じっくり伺いました!


取材・文 トヤカン(元看護師・フリーライター)

競馬場で働く看護師の仕事って? Aさんの場合

――まず、お仕事についてお聞きしたいと思います。競馬場のお仕事って、月に何日くらいあるんですか?

 

私が働いている競馬場だと、レースが月5日しかないので、月の勤務日はその5日間だけなんです。しかも、その年の3月に、翌年3月までの年間勤務スケジュールがわかるんですよ。

 

勤務日が急に変更されることもほぼないので、他の職場と掛け持ちで働いていても安心です。

 

――1年分の出勤日が決まっているって新鮮です。勤務日は土日が多いんでしょうか?

 

いえ、だいたい平日(月~金)の連続5日間です。GWなど、祝日にかぶることはありますが、土日はないですね。

 

――勤務時間は、だいたいどれくらいですか?

 

うちの競馬場はナイターのレースが中心なので、それに合わせて出退勤しています。だいたい14時から勤務が始まって、21時に仕事が終わるかな。クリニック勤務や日勤中心の看護師さんよりは、ちょっと遅めの時間帯だと思います。

 

コロナ禍以前の有観客時、ナイターのレースが始まる前のパドックの様子

 

――勤務日の1日のスケジュールは、どんな感じでしょうか?

 

競馬場によって違いがあると思いますが、うちの場合、最初は医務室の掃除から始めます。その後は救護用品などの物品をチェックして、競馬中継が見られるモニターの電源を入れて、緊急時に対応できるように準備します。

 

レースが始まるまでには準備を済ませておいて、それからは基本的に医師1人と私で待機して、患者さんが来たら対応する、という流れですね。

 

――競馬中継が見られるモニター、といいますと…?

 

落馬したときの状況が自分たちの目で確認できるように、すべてのレースをモニターで観戦してるんですよ。「落馬の90%はスタート時」と言われているので、ゲートが開く直後は特に緊張して観ています。

 

Aさんが普段働いている医務室の様子。競馬中継が見られるモニターがある

 

――なるほど! リアルタイムで見守っているんですね。医務室には、どんな患者さんが来るんですか?

 

競馬場のスタッフを中心に、騎手や観客の方も来ますよ。コロナ禍になってからは無観客ですが…。

 

競馬場のスタッフは、急な体調不良で医務室を訪れることが多いです。厩務員や調教師だと、馬に踏まれた、蹴られた、ゲートにぶつかって擦り傷ができてしまった、っていうこともありますね。誰も来ない日もたまにあるけど、だいたい1日1人は、誰かしら来てるかな。

 

騎手は落馬で運ばれてくることがほとんど。月5日の勤務のうち、1~2件は落馬があります。

 

――落馬! 大きい馬だと体高170cm以上にもなりますし、その高さから落ちるんですから、かなり危険ですよね?

 

本当に危険です。ただ落ちるだけでも危ないのに、巻き添えになって何人も一緒に落馬することもあるんです。そうなったときはもう、大変!

 

他にも、落馬で騎手がいなくなった馬が、レース中にコースを逆走してしまって、危うく他の馬と正面衝突しそうになったときもありました…。幸い大きな事故にはなりませんでしたが、かなり怖かったのを覚えています。もちろんごく稀ですが。

 

ゴール直前の攻防。ゴールに向かって猛スピードで馬が走ってくる、迫力の一瞬

 

――落馬のときには、具体的にどんな処置をするんですか?

 

落馬した騎手は、たいてい頭を打っているので、担架で運ばれてきてすぐに、医師が意識レベルを確認します。瞳孔の状態と、自分で名前が言えるか、会話ができるかを確認した後、手足を自由に動かせるか、自分で歩けるかチェックしています。

 

少しでも問題があれば、救急車を要請するように医師から指示が出るので、その手配をします。

 

――救急車が到着するまでは、どんなことをしているんでしょうか?

 

騎手は締め付けが強い服を着ているので、それをゆるめたり、コースの砂が顔や手足についてしまっているのを、拭き取ったりしています。動かさないように、細心の注意を払いながら。余裕があればバイタルも測っておきます。

 

また、救急隊員に伝える情報も集めなくてはいけないので、医務室にある騎手名簿で、名前・年齢・所属先を確認してメモをとっておきます

 

――救急隊を待っている間、手足などの外傷への処置はしないんですか?

 

そうですね。頭を打っているので、「動かさない」っていうのが一番大事になってくるんです。一時的な手当てをするための設備しかない医務室で何か処置をするよりは、救急隊に的確に引き継ぐ、というスタンスです。

 

医務室内のベッドと血圧計。「血圧計がいまだに水銀式なんです。扱いには困ってないけど、もうそろそろ新しいのに買い替えてもらえたらな~…(笑)」とのこと

 

――救急車を呼ばない場合もあるんでしょうか?

 

あるけど、かなり少ないですね。意識レベルに問題がなくて、自分で歩ける捻挫や打撲程度で済んでいるときは、湿布薬(消炎鎮痛薬)を貼るなど、医務室で処置しています。

 

医師からは念のため、かかりつけ医などへの受診を勧めていますね。

 

――頭を打っていると、見かけ上問題はなくても実は…ということもありますもんね。

 

そうなんですよね。他には、医師が「この騎手は次のレースに出られない」と判断したときの対応もしています

 

競馬場では1日に12レースほど行われていて、騎手の多くは複数回レースに出場するんですよ。1レース目に大きな怪我をして次のレースに出られなくなったときは、専門の部署に伝えなくちゃいけないんです。診断書を医師が書いて、伝達の手続きは看護師の私が担当しています。

 

――処置だけでなく、事務的なお仕事もあるんですね。

 

競馬場で働き始めたきっかけは?

――競馬場の看護師って、かなりレアなお仕事という印象があります。気になる人も多いと思うので、今までの経歴について、簡単に教えていただけますか?

 

看護師免許を取ったあとに助産師・保健師の免許も取得して、最初は大学病院の助産師として働いていました。看護師歴でいうと、ちょうど30年目くらいですね

 

その後は鉄道会社の産業保健師をして、結婚・出産してからは、保健所の健診業務にも携わりました。他にも、保健センターで新生児訪問や乳児健診のパートもしましたね。

 

いまは競馬場の看護師と、新型コロナワクチンの集団接種会場の看護師をしています。

 

――掛け持ちで働いていらっしゃるんですね。競馬場で働き始めたときは、求人に応募して、面接して、という流れだったんでしょうか?

 

いえ、自分から応募したわけじゃないんです。看護協会の研修を受けに行ったとき、たまたま顔見知りの方に、「競馬場でのお仕事があるんだけど、どう?」と声をかけてもらって

 

前に働いていた方が退職したそうで、競馬場が看護師を探していたみたいでした。私も、前の職場を辞めて次の仕事を探していたし、タイミングが良かったんです。

 

――紹介だったんですね! お話をいただいたとき、どう思いましたか?

 

正直、競馬場はそんなに馴染みがない場所でした(笑)。ただ、子どもが小さかったとき、ほかの競馬場に遊びに行ったことがあって。その時すごく楽しかった思い出があったので、嬉しかったですよ。

 

医師も必ず一緒に勤務するという話だったので、心細さも感じませんでした

 

元気な姿で復帰した騎手を見れるとうれしい。競馬場看護師のやりがい

――競馬場看護師として働く中で、競馬場ならではのやりがいを感じることはありますか?

 

やっぱり、落馬して大怪我を負って処置した騎手が、元気に復帰してると、うれしいなって思いますね

 

落馬って、1つ間違えれば後遺症が残ったり、命の危険もありますから、競馬場で働く医療者の責任は重大です。だからこそ、騎手が元気になってまたレースに出ているのを見れたときは、心の底から「良かった……」と思えますね。

 

あと、処置をした翌日に、「昨日はありがとうございました」と、騎手がお礼を言ってくれることもありますよ。これもやりがいの1つですね。

 

ゴールの瞬間の騎手と競走馬。処置をした騎手のレース復帰は、感動もひとしお

 

――働き方の魅力としては、どんなことがありますか?

 

出勤日が早い段階でわかるし、日数も少ないので、他の職場と掛け持ちしやすかったり、予定を立てやすいことですね。

 

掛け持ち勤務で他の職場とのバランスを取りながら、仕事に変化をつけられるのは、技術や知識の面でも、気持ちの面でも、いいなと思ってます。

 

――競馬場看護師として働くにあたって、必要なスキルなどはありますか?

 

競馬場看護師だからといって、特別なスキルが必要、ということはないですよ

 

患者さんは、ゲートにぶつかったときの擦り傷や、体調不良が一番多いので、身体症状の聴取、バイタルチェック、傷口の消毒と手当ての3点が主な業務です。医務室は、あくまでも一時的な対処をするだけなので、採血などの医療技術は必要ないですね。

 

ただ、競馬場によって業務内容に違いがあると聞くので、もし競馬場で働く機会があるときは、事前に確認を取るといいと思います。

 

――意外とハードルは高くないんですね! 最後に、若手の看護師に向けて、Aさんから一言いただけますか?

 

私は、結婚や出産など、状況が変わるごとに職場を変えてきたんですが、子育てがひと段落した今、競馬場とワクチン接種会場の掛け持ちで、今の自分に合ったペースで働けていると感じています。

 

1~4年目の看護師さんだと、中にはこれから結婚・出産・子育てを経験する方もいて、働き方を変えるときがくるかもしれませんね。働ける場所の多さはもちろん、ひとつの病院で勤め上げるか、職場を変えながら働くか、どちらも選べるのも、看護の仕事の魅力ですよね。

 

いろんな働き方を試しながら、その時々の自分に合った場所を探すのも、一つの方法かな、と思いますよ。

 

執筆

ライタートヤカン

大学病院の正看護師として働いた後、フリーライターに転身。
『まいにちdoda』『ダ・ヴィンチニュース』『bizSPA!フレッシュ』にて記事を執筆。エンタメ、社会問題、はたらくこと、看護に関するジャンルを中心に幅広く活動中。

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