病院の空気をもっとおいしく! 芸術学生が病院を変える |筑波大学ホスピタルアート【後編】

筑波大学附属病院が行っている「ホスピタルアート」のレポート。前編では、病院側の目線から取り組みについてご紹介いただきました。

 

「アートで病院を楽しくする」挑戦 |筑波大学ホスピタルアート【前編】

 

後編では、学生のアートプロダクトチーム「アスパラガス」に関わるスタッフの方に、活動内容やホスピタルアートの変遷について伺います。

 

子どもにとても喜ばれたワークショップ

まずは、筑波大学大学院人間総合科学研究科の学生で、実際にアスパラガスで活動をされている井上大志さんに、活動の内容を伺いました。

 

 

「去年の夏に、アスパラガスとは別の団体の主催で、小児科に入院されている患者さんが花火を見に行くという企画がありました。その際、花火の前に気分を盛り上げるようなワークショップを開催してほしいと、その団体から相談があったんです」

 

時間は花火への出発前の30分程度ということで、ちょっとした小物作りのワークショップを開催することに。

 

 

「夜のイベントなので光るものがいいだろうと考えて、子どもたちと一緒に光るアクセサリを作りました。カプセル部分に自分で花火を書いて、キラキラしたラメの入ったジェルが背景になり、LEDの下地で光るようになっています」

 

 

花火会場へ向かう暗いバスの中でキラキラ光る腕輪は、子どもたちにとても喜んでもらえたそうです。

 

こうした企画を考えるのは大変ですが、やりがいも大きいといいます。

 

「対象となる患者さんによって、この企画はOK、この企画はNGというものがいろいろ出てくるので、考えなければいけないことたくさんあります。ただ、実際に企画したもので患者さんに喜んでもらえるとやはり嬉しいです。面白いのは、自分たちが作成の手順まですべて考えていっても、ワークショップの現場では子どもたちのほうが簡単でユニークな方法を見つけてくれたりすること。子どもの想像力は無限大ですね」

 

このようなワークショップやイベントをおよそ年に2回のペースで実施し、患者さんたちからは毎回ご好評をいただいているそうです。

 

 

白いツナギとアスパラガスがトレードマーク

日本ではまだ取り組んでいる医療機関が少ないホスピタルアート。筑波大学ではどのような経緯で始まったのでしょうか。筑波大学芸術学系准教授であり、アスパラガスの指導を担当されている貝島桃代先生にお話を伺いました。

 

 

「蓮見孝先生(現札幌市立大学長)が当学にいらっしゃった頃、当時の筑波大学病院の看護部長さんからお話を伺って、病院の中のいろいろなものを学生が考える試みを始めてみよう、という話になったのがきっかけだそうです。それが2003年頃。2005年になって、芸術学群で『アートデザインプロデュース』という現場実践型のカリキュラムとしてやることになり、その中のひとつとして、大学病院でのホスピタルアートの取り組みが始まりました」

 

そのときにできた病院アートの学生チームが、現在まで活動を続けている『アスパラガス』です。

 

「アスパラガスは立ち上げ当初から現在まで、『病院の空気をおいしくする』をコンセプトに活動しています。最初のメンバーは、病院の中でどのように活動してよいかが分からないので、まずボランティアをさせていただいて、現場のサポートをすることから始めました」

 

さらに、当時の看護部で環境改善に取り組んでいた「アメニティグループ」の話し合いに参加するなどして、現場の雰囲気や要望をつかもうと努力していたのだといいます。

 

自ら課題を見つけるタイプのカリキュラムなので、教員から指示するようなこともなく、学生さんが自分で課題を発見し企画を立てているそうです。

 

「附属病院の中に、アスパラガスの活動の中心になっている『アートステーションSOH(ソウ)』という廊下があります。最初の年は、単なる廊下だったこの場所にペンキを塗ったり、ギャラリー的に白く改装したりしました。そのとき、翌年はこの『SOH』を使ってワークショップやアートのいろんなイベントをしよう、ということになったのです。こうした工夫や企画が毎年行われて、アスパラガスの活動は現在まで続いています」

 

 

今では、アスパラガスの学生さんたちは病院にすっかり溶け込んでいるそうです。

 

「彼らはフェルトのアップリケを付けた白いツナギをユニフォームにしています。院内ではいつもそれを着て活動しているので、病院の人たちも『ああ、アスパラがまた何か面白いことをやっているのね』という感じで暖かく見守ってくれます。存在を認知してもらう上ではユニフォームの役割は大きかったと思います」

 

 

病院スタッフとも気軽に話せる間柄になっているため、現場で質問をしたり、逆に意見を言ったりすることも多いとか。

 

「学生は思ったことをはっきりと言っちゃうんですよね。『この廊下、無味乾燥ですよね』『ここはきれいはきれいだけどこざっぱりしすぎていて、味気ない』なんて言ったりとか。でも、フレッシュな視点で意見を言われるのは病院の方にとっても新鮮なようで、喜んでいただけているみたいです」

 

広がるホスピタルアート活動

現在、日本でホスピタルアートへの関心が徐々に関心は高まってきているそうです。

 

「ホスピタルアートに本格的に取り組んでいるところはまだ少数ですが、機運の高まりは感じるので、できれば活動の輪を広げていきたいです。ただ、筑波大学だけでやろうとしても、芸術のスタッフ数には限りがあります。そのため、もっとたくさんの方に興味を持ってもらって、やり方やノウハウをいろいろな方と共有していければと思っています。病院によって患者さんの傾向はさまざまなので、ケースバイケースで考えなければならないことは多いですが、その分、多種多様なやり方が出てきてくれればと考えています」

 

芸術の力で、より良い病院環境を目指すホスピタルアートの取り組み。

この活動が今後いっそう広まって、患者さんにとって過ごしやすい病院が増えると良いですね。

 

「アートで病院を楽しくする」挑戦 |筑波大学ホスピタルアート【前編】

 


■取材協力

筑波大学

http://www.tsukuba.ac.jp/

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