陸上自衛隊看護師（前編）｜病院外の看護現場探訪【6】

医療機関以外で働く看護師さんのお仕事の様子を紹介する「病院外の看護現場探訪」シリーズ。今回は陸上自衛隊ナースです。

単に陸上自衛隊で医療活動をするのではなく、看護学校入学と同時に陸上自衛官となる自衛隊ナース。看護師としての業務の他に、定期的に有事や国際平和協力活動、災害派遣などを想定した訓練も行うそうです。いったいどんな仕事なのでしょうか？

看護学生も射撃訓練

今回、取材させていただいたのは、入隊して20数年になるベテラン看護師・Fさん。

高校卒業後、自衛隊ナースを養成する自衛隊中央病院高等看護学院で学び、現在、東京都世田谷区の陸上自衛隊三宿駐屯地内に隣接して設置されている自衛隊中央病院に勤務しています。

16個ある自衛隊病院はすべて陸上、海上、航空自衛隊の共同機関である自衛隊中央病院と、札幌、仙台、富士、阪神、福岡、熊本、別府の7つの病院は陸上自衛隊が管理しています。Fさんが勤務する中央病院は、1次医療（部隊・医務室レベル）、2次医療（地区病院）と続き、3次医療の役割を担い高度先進医療を行う、全国の自衛隊病院の最終後送病院になっています。

勤務中のFさん。病院ではもちろんナース服で仕事をするが、

式典や会議出席などでは制服を着用する（写真提供：陸上自衛隊）

そもそもFさんは、なぜ自衛隊ナースになろうと思ったのでしょうか。

「父が自衛官で、駐屯地の近くで育ったこともあり、自衛隊が身近だったことは大きいです。

進路を考えた時、看護師になりたいという気持ちと、父のように国のために役に立ちたいという両方の気持ちがあり、迷わず高等看護学院を選びました。2次試験の時、自衛官の働く姿がとても凛々しく見えて、思いが強くなりました」

陸上自衛隊三宿駐屯地内にある自衛隊中央病院高等看護学院は3年課程（※）。入学と同時に陸上自衛官となるため、看護系科目以外にも自衛官としての心構えを学ぶなど、さまざまな訓練が行われます。

自衛隊関連科目は3年間で616時間。実際に銃の扱い方を学ぶ射撃訓練をはじめ、1年次と2年次には東富士演習場での野外訓練もあり、地図の見方や穴の掘り方、重い荷物を背負って歩く徒歩行進などを行います。

また有事などを想定して、野外病院を開設して治療を行う訓練もあります。

野外訓練では泥だらけになり穴を掘る訓練も。写真は学生ではないが、同様の訓練を行う（写真提供：陸上自衛隊）

※防衛省看護基礎教育は2014年度より4年制化され、防衛医科大学校医学教育部看護学科となるため、自衛隊中央病院高等看護学院と防衛医科大学校高等看護学院は募集停止となっています。

「入学後、勉強や訓練の大変さ、規則の厳しさなどに本当にびっくりしました。全寮制で朝6時にラッパの音で起床。点呼と掃除から始まり、食事の時間も決まっている生活に驚きましたし、野外訓練では泥まみれになったり、テントの下での宿泊で『こんな所に寝るの？』と戸惑ったり。きついと思ったことは何度もありました」

やめていく同期生もいましたが、仲間と共に励まし合い助け合ってきたことと、教官の暖かい励ましのおかげで続けられたと語ります。

卒業後は「看護師」かつ「2等陸曹」

「学校や寮で、24時間ずっと一緒に過ごしてきた同期の存在は宝物。一緒に卒業した約80人のうち、自衛隊で仕事を続けているのは少なくなってしまいましたが、今も共に支え合う大切な関係です。

勉強や訓練以外にもバレー部の活動にも一生懸命でしたし、門限はありましたが、寮のある三宿駐屯地の1駅先は渋谷なので、休日は友達とショッピングに出かけるなど、楽しい学生生活でした。

在学中、ニュースなどで、事故や災害の現場で活動する自衛官の姿を見ると、『自分もいつかこうやって役に立てるかもしれない』と思い、それが支えになりました」

自衛隊中央病院高等看護学院の特徴は、入学と同時に2等陸士となり、学年が上がると、階級も上がっていくことです。卒業後、国家試験に合格すると2等陸曹になります。国家試験合格率はほぼ100％です。

そして、もう1つの特徴は、入学料・授業料が無料の上、給与も支払われること。入学と同時に陸上自衛官となることから、特別職国家公務員としての給与が支給されます。

自衛隊中央病院高等看護学院での階級図。卒業後、看護師資格を取得すると2等陸曹になる

国家試験合格後は全国にある8つの陸上自衛隊が管理する自衛隊病院に配属されます。

次回は、自衛隊病院が一般的な病院と何が違うか、そして病院勤務以外ではどのような活動をしているかなどを伺います。

【自衛隊看護師インタビュー】

（前編） 陸上自衛隊看護師

（中編） 肩書きはナース兼『1等陸尉』

（後編） 訓練が活きるとき―東日本大震災