電気メスとバイポーラのしくみ |いまさら聞けない!ナースの常識【22】

毎日の業務の中で触れているけど、『いまさら聞けない』ことってありませんか?

知っているつもりで実は説明できない基礎知識や、ちょっと気になるけど調べるほどでもないな、なんてこと。

そんな看護師の素朴な疑問を、元看護師ライターがこっそり教えます。

 

Vol.22 電気メスとバイポーラのしくみ

 

電気メスとバイポーラ。どちらも手術室では毎日のように使用されている器械であり、救急外来や、ICU・CCUなどでも突発的に使用することがある。使い方はそれほど難しくはないのだが、少しでも間違えると大きな医療事故に繋がる器械だ。ここでは、医療事故から患者を守るために、電気メスとバイポーラのしくみについて理解したい。

 

電気メスとバイポーラの器械的なしくみ

どちらも基本的な仕組みは同じ。本体からの高周波電流がコード内を流れ、ハンドルの先端(メス先)で電流を集中させ、発熱する。このメス先が皮膚や組織に触れることで、切開や凝固といった作用が起こる。

 

一方、本体からコードを伝って流れてきた高周波の電流は、人体を流れることで一度分散する。これを対極版で安全に回収し、本体へ返す。こうすることで、人体には余分な電流が残らない仕組みとなっている。

 

電気メスには、切開と凝固のモードがあり、それぞれで電流の流れ方が違う。

 

切開は、電気メス先に接触している細胞を消滅させることで組織を切り開く

一方の凝固は、電気メス先に接触している細胞を熱凝固させるため、それが血管であれば止血となる

 

図1 切開と凝固の電流の流れ方の違い

 

電気メスとバイポーラの違い

では、電気メスとバイポーラは何が違うのだろうか。

 

電気メスは、バイポーラと比較して「モノポーラ」ともいう。電気メスのメス先は1本のため、「1本=モノ」というわけだ。

 

電気メスの仕組みは、1本のメス先から高周波電流を流し、それを対極版で回収する。通常、対極版は電気メスを使用する部位とは離れた部位に貼る。例えば、腹部の手術で電気メスを使用する場合、対極版は大腿部などに貼付する。このため、腹部から体内に入った電流は対極版で回収されるまで体内を流れていることになる。

 

しかし、この電流が高周波であるため、非常に素早く変わる電気の流れに自体の細胞が反応できず、神経や筋肉への刺激が非常に少なく、分散して流れている限りでは感電しないのだ。

 

バイポーラは、先端が2本になっており、セッシのような形をしている。「2本=バイ」でバイポーラとよばれている。この場合、1本のメス先から高周波電流を流し、反対側のメス先から回収している。左右のどちらが、ということではなく、双方で電流を流す働きと電流を回収する働きを行っている。

 

電流を流す方と回収する方が非常に近くにあるため、流れる電流自体も少ない(電圧が低い)もので十分な効果があるので、余分な電流が体内を流れることもない。このため、基本的にバイポーラだけであれば対極版は不要、とされている。ただし、使用する電流には限りがあり、基本的に凝固はできるが切開には向いていない。

 

実際に起きた医療事故の例とその原因

ここまでみると非常に安全な器械に見えるが、使い方を間違えたり、ちょっとした不注意で事故に繋がることもある。これまでに実際に起こった事故の例を挙げてみる。

 

■ケース1:対極版の貼り方が不十分なことによる熱傷事故

電気メス先からの電流を回収するのに十分な面積が確保されず、多くの電流を少ない面積で回収する状態となり、一度に想定よりも多くの電流が流れてしまい、熱傷を起こした。

 

■ケース2:患者の身体の一部が金属と接触していたために起きた熱傷事故

電気メスはメス先から対極版までという電流の流れだけではなく、金属との接触部分でも狭い範囲で電流が流れてしまうことがあり、接触部分での熱傷を起こした。

 

■ケース3:腹部の消毒薬に引火した事故

電気メスを使用する際に引火性の何かがある場合は爆発を起こすことがある。消毒用アルコールが臍部に溜まっているのにも関わらずすぐ近くで電気メスを使用し、電流が流れるときに作用部位で発生した小さな火花が引火して小さな爆発を起こした。

 

■ケース4:気管内チューブのすぐ近くで電気メスを使用して気管熱傷を起こした事故

気管挿管術の際に気管内チューブ自体が電気メスの熱で高温となり、気管熱傷を起こして死亡した。

 

いずれも重大な医療事故であり、電気メスやバイポーラを使用する側が十分注意していれば、防げたかもしれない事故だ。

 

看護師が気をつけるべきポイント

では、看護師として気を付ける点とは何か。

 

まずは、電気メス・バイポーラの仕組みを十分理解し、取扱い方法を間違えないこと。それから、ドレープをかけてしまうと術者から見えなくなる対極版の貼付状態や、不要なアルコールの残存が無いか、ピアス(だけではなく臍や身体全体のもの)・イヤリングや指輪などの金属類が除去されているかなど、術者の手元以外でも確認することはたくさんある。

 

これらを1つ1つしっかり確認することが、電気メス・バイポーラによる事故を防止することに繋がるのだ。

 

【岡部美由紀】

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