退院後の生活はどうなる?地域医療やチーム医療は?

『本当に大切なことが1冊でわかる脳神経』より転載。
今回は脳神経疾患をもつ患者さんの退院支援や地域との連携について解説します。

 

大澤玲奈
東海大学医学部付属八王子病院看護部副主任 脳卒中リハビリテーション看護認定看護師
太田雅子
東海大学医学部付属八王子病院看護部師長

 

 

退院後の生活はどうなる?

退院後の生活を見据えた支援を行う

脳神経疾患をもつ患者さんは、障害や後遺症を抱えながら退院を考えなくてはならないため、入院中から、将来の生活を見据えてサポートをしていく必要があります。

 

必ずしも自宅退院・在宅療養ができるとは限りません。1人1人のADLや社会・生活背景、家族のマンパワーなど、さまざまな要素によって将来の療養先を選択する必要があります。

 

図1のような場合など、在宅療養が困難な場合は転院するケースも珍しくありません。

 

図1自宅退院が難しい例

図1自宅退院が難しい例

 

地域包括ケアシステムの視点が重要

高齢化がどんどん進むわが国では、およそ800万人いる団塊の世代が2025年に75歳以上となり、医療や介護の需要が増加する見込みです。

 

厚生労働省は、「高齢者が重度な要介護状態となっても、住み慣れた地域でできる限り自立した自分らしい暮らしを続けることができるように」と、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム図2)の構築を推進しています。

 

memo:地域包括ケアシステム

住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるシステムをめざす。保険者となる市町村や都道府県が地域の自主性・主体性に基づき、地域の特性に応じてつくり上げていく必要がある。

 

図2地域包括ケアシステムのイメージ

図2地域包括ケアシステムのイメージ

厚生労働省:地域包括ケアシステム. を参考に作成(2019.10.31アクセス)

 

医療連携で退院後の生活を支援する

医療機関の中でも、病院や施設の機能によって役割は異なります。複数の医療関連施設が連携して退院後の生活を支えます。

 

患者さん・家族にとって、療養の継続が可能な方針を入院中からチームで考えていきます。病状、ADL、生活環境(自宅環境、家族関係、介護能力)、経済力など、さまざまな情報をもとに判断します。

 

介護支援や身体障害者支援・難病支援などに関しては、社会資源を活用した支援ができるよう、MSWやケアマネジャー・自治体職員など多職種との連携が欠かせません(図3)。

 

フキダシ:介護保険の申請、社会資源や福祉サービスの情報提供も重要です

図3医療連携のイメージ

図3医療連携のイメージ

 

 

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地域医療とチーム医療

地域への情報提供・連携が必要

病院の機能分化

現在の医療提供体制は、高度急性期・急性期・回復期・慢性期・在宅医療と機能が分化されています。

 

これまで救命・延命・治療・社会復帰まで1つの病院で担っていた「病院完結型」の医療提供から、慢性期疾患やさまざまな疾患を抱えながら住み慣れた地域や自宅で、暮らしの中で医療を継続し、QOL(quality of life:生活の質・生命の質)を維持・向上させる「地域完結型」医療提供へと変化しています(地域包括ケアシステム)。

 

患者さんは疾患の状態により機能の異なる病院や病床に移ります。そのため、機能分化した施設で看護を提供する看護師は、患者さんに直接にかかわる場面・期間だけでなく、それまでの背景はもちろんのこと、退院後・社会復帰までを見越した看護実践ができることが重要です。

 

継続看護と医療連携

脳神経疾患をもつ患者さんは、さまざまな機能障害を残していることが多く、社会復帰に向けたリハビリテーションの継続が必要となります。疾患のステージが変わる場面においても、途切れることのない継続看護が実践できるよう、他施設との連携・情報の共有は必須です。

 

機能分化した医療機能の中で、疾患のステージに合った専門性の高いケアを提供し、途切れることなく看護を実践するためには、他施設の機能を理解しておく必要があります(表1図4)。連携先の機能を知ることで、連携先が必要とする情報提供につながります。

 

表1病院の医療機能

表1病院の医療機能

 

図4脳神経疾患で特におさえておきたい病床機能

図4脳神経疾患で特におさえておきたい病床機能

 

継続看護のため看護サマリーを作成する

途切れのない継続した看護を実践するためには、疾患や症状のマネジメントや社会福祉制度に関する知識や看護技術はもちろんのこと、多職種連携のためのコミュニケーション能力が必要です。

 

日ごろより地域の医療機関との密な関係性を構築し、前方・後方連携を円滑に進めることが、何よりも患者さんへのよりよい医療・看護提供となり、社会復帰への道へとつながります。

 

それぞれの病院で継続看護を目的として、看護サマリー(要約)を作成していますが、現状は自施設の決まったフォーマットに準じた内容となり、看護実践記録に留まっていることも少なくありません。看護の継続を目的とするサマリーは、転院先などの医療機能や特徴を理解した受け手側が必要とする内容を記載することが重要です(表2)。

 

受け手側の必要とする内容はさまざまですが、例えば二次医療圏内や自治体内の連携する病院で検討し、共通項目や医療機能別項目などを設定することも、継続看護や地域連携の強化に必要でしょう。

 

表2看護サマリーへの記載が必須な情報の例

表2看護サマリーへの記載が必須な情報の例

 

患者さんの地域生活をふまえて退院支援を行う

脳神経疾患をもつ患者さんは、突然発症し緊急入院をするケースや、慢性的な経過による治療・検査などで予定入院をするケースなど多岐にわたります。病状の経過はさまざまですが、患者さんの社会復帰や、地域で暮らす生活者として過ごせるよう支援することは、医療者として重要な役割です。

 

患者さんのこれまでの生活を知り、患者さんの病状と疾患に伴う持続的な機能障害や療養生活による機能低下、また必要となる社会資源などの可能性を入院早期に予測し、退院に向けた支援計画を検討します。

 

疾患の発症により、役割や環境変化を余儀なくされた患者さんや家族に対し、看護師は多職種と協働し支援・調整を実践する役割を担っています。患者さんの療養生活において、看護師は医療者の中で最も近い存在です。患者さんの病状や生活状況を把握している看護師が、多職種協働の退院支援においてリーダシップを発揮することが望まれます。

 

医療機関では、MSWや看護師・事務職員などで構成する退院支援を専門に行う部署が設置されることが多くなっています。しかし退院支援では、専門の部署だけでなく、医師・病棟看護師・外来看護師・コメディカルスタッフなど、協働したチーム医療が求められます。それぞれの専門性を最大限に発揮し、患者さんへのよりよい支援を実践しましょう(表3)。

 

表3脳神経疾患の患者さん・家族に行う退院支援のポイント

表3脳神経疾患の患者さん・家族に行う退院支援のポイント
 

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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 脳神経』 編集/東海大学医学部付属八王子病院看護部/2020年4月刊行/ 照林社

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