静脈注射でどの血管を選ぶべき?判例から解説

第2話では、第1話の事例をもとに、「静脈穿刺時に看護師に求められる注意義務」を説明していきます。

 

 

大磯義一郎谷口かおり
(浜松医科大学医学部「医療法学」教室)

 

第1話では、「静脈注射時の神経損傷により後遺障害が残った事例」を紹介しました。どこにポイントがあったか覚えていますか?

 

静脈注射による正中神経の損傷は認められませんでしたよね。でも、静脈穿刺は侵襲性のある医行為ですので、十分な注意が必要ですし、患者さんへの説明が大切だと思いました。

 

その通りです。 静脈注射をはじめ、点滴のルート確保や採血等、看護師さんが行う静脈穿刺の機会は多くあります。静脈穿刺は侵襲性のある医行為ですので、十分なスキルが求められます。今回は患者さんの主張は認められず棄却されましたが、静脈穿刺を争点とする訴訟は多くあります。
前回取り上げた医療訴訟での争点、および表1に示した過去の医療訴訟の争点を踏まえ、静脈穿刺に関する医療訴訟において問題となる看護師さんの責任を確認していきましょう。
皆さんが日ごろから行っている静脈穿刺を思い返しながら読み進めてみてください。

 

表1過去の静脈穿刺による裁判の概要

 

静脈穿刺時の血管の選択

静脈注射でよく選択される血管は、前腕の肘正中皮静脈、尺骨皮静脈、橈骨皮静脈です(図11)

 

手関節部分の橈骨皮静脈は橈骨神経浅枝が橈骨神経に近接しているため、避けた方がよいとされています2)。過去の判例でも、「橈骨神経走行部位付近である肘関節上部外側の部位に点滴(静脈注射)をする場合には、付近の橈骨神経走行部等不適切な部分に注射針を刺入することのないように十分に注意する義務があるというべきである」と過失としていることから、橈骨皮静脈への穿刺は注意する必要があります。

 

できる限り太く弾力のある血管を選択し、針の固定が容易な場所など適切な刺入部位を選択するようにしましょう3)

 

図1静脈や神経の走行

 

患者さんの痛みの確認をする義務

裁判で、「皮神経の損傷を完全に予防することは困難である」と認められています。それは、患者さんの痛みの程度や注射部位の腫脹、神経損傷と起因する症状かどうかで判断されています。

 

過去の判例でも、「痛いと訴えたが針を進めた」「放散痛、激痛の有無」「声に出すほどの痛み」など、客観的な事実が認められた場合は、原告勝訴となっていますので、静脈穿刺時の患者さんの訴えには注意しなければなりません。

 

患者さんへの痛みに関する具体的な説明

針を刺されることは、患者さんにとっては苦痛ですが、十分に注意していても、皮神経の損傷は完全に予防はできないとの見解を、裁判所は過去の判例で示しています。痛みは個人の感覚なので、患者さんから直接伝えてもらわなければわかりません。しかも、穿刺自体に痛みがあるので、具体的にどういう痛みかを伝えてもらう必要があります。

 


[引用・参考文献]
1)五味敏昭.安全・確実な静脈採血(肘窩)に必要な解剖学の知識.メディカル・テクノロジー.38(1),14-20.
2)一般社団法人日本臨床衛生検査技師会.事例で学ぶ!!手関節橈側で採血を実施し橈骨神経浅枝を損傷(採血事例-その1).(2017年10月10日閲覧)
3)公益社団法人日本看護協会静脈注射の実施に関する指針.2003.(2017年10月10日閲覧)
4)TKC法律データべース.(2017年10月11日閲覧)

 

[次回]

第3話:静脈注射で痛いと言われたら、どうする?

 

⇒『ナース×医療訴訟』の【総目次】を見る

 


[執筆者]
大磯義一郎
浜松医科大学医学部「医療法学」教室 教授
谷口かおり
浜松医科大学医学部「医療法学」教室 研究員

 


Illustration:宗本真里奈

 


SNSシェア

看護ケアトップへ