入浴中に患者さんが熱傷で死亡! 看護師の判断と注意義務の必要性

生命を扱う臨床現場で日夜働く看護師さんにとって、医療事故や医療訴訟は決して他人事ではありません。
前回は、「誤嚥によって、患者さんが窒息死してしまった事例」について紹介しました。
第5回は、「入浴中に、患者さんが熱傷で死亡してしまった事例」についてのお話です。

 

 

大磯義一郎谷口かおり
(浜松医科大学医学部「医療法学」教室)

 

入浴中に、患者さんが熱傷で死亡してしまった事例

 

人物紹介:患者さん(佐藤さん)、3年目 看護師(亜紀さん

 

注意:登場人物の名前は、すべて仮のものです。

 

【実際に起こった医療事故例⑤:入浴中に転倒し、熱傷にて死亡

 

佐藤さん(79歳、女性)は、変形性膝関節症の手術と術後リハビリのために、病院に入院しました。看護担当チームは、入院時の情報をもとに、「佐藤さんは小浴室を使用し、介助はなしで入浴できる」とカンファレンスで判断しました。そのため、看護師の亜紀さんは、小浴室への案内までを行い、佐藤さんは一人で小浴室内に入りました。

 

40分後、佐藤さんは浴槽内にもたれかかるような形で意識を失っており、全身に熱傷を負い、心肺停止状態で発見されました。

 

注意:登場人物の名前は、すべて仮のものです。

 

先生、佐藤さんが一人で入浴中に、熱傷でお亡くなりになったそうです。
入浴の介助は日常的な看護業務ですが、すべての患者さんの介助につくことは難しいです。

 

佐藤さんのご家族は訴訟を起こすようですね。
入浴中の事故には、熱傷だけでなく、転倒や溺水といったものもあります。
場合によっては、今回のように死亡という悲しい結果になってしまうこともあります。

 

私たちも普段から、患者さんのADL(日常生活動作)や自宅での様子など、情報収集をして入浴介助の必要性を判断しているつもりです。
でも、その判断が間違っていたのかと思うと・・・
患者さんも亡くなってしまったうえに、医療訴訟にまで巻き込まれるなんてとても怖いです。

 

そうですね、決していい加減な判断で入浴に付き添わなかったわけではないのでしょうが、看護師さんは患者さんの入浴中の危険を予測する必要があります。
今回の医療訴訟では、どのような点が問題となっているか整理してみましょう。

 

〈目次〉

 

医療事故「入浴中の熱傷死」が発生した背景と原因

入浴の介助は、看護師さんの療養上の世話として、日常的に行われています。しかし、入浴による事故は多く、その内容も溺死や熱傷、転倒、介護による骨折などさまざまです。

 

本件から、入浴介助を行うにあたり、看護師さんが注意すべき点を一緒に振り返りましょう。

 

1入院時の情報から、カンファレンスで入浴介助は不要と判断

入院時の情報から、カンファレンスで入浴介助は不要と判断

 

佐藤さんは、歩行や移乗、浴槽に入る、髪を洗う、重い荷物を持つという日常生活については、自分なりに工夫をしていると話していました。また、佐藤さんのご家族も、「浴室には一人で行っている」と話していました。

 

佐藤さんのADL(日常生活動作;activities of daily living)は、跛行(はこう)はありましたが、ふらつきや膝折れはなく、病室のトイレに往復することができました。

 

そのため、亜紀さんら病棟担当チームの看護師は、「佐藤さんの入浴は小浴室で介助を付けずに入浴させる」ことをカンファレンスで決定しました。

 

memo跛行(はこう)

歩行異常の一つで、足をひきずって歩くことです。

 

骨折や化膿性関節炎、腫瘍などによる場合は痛みを伴うことが多いですが、股関節筋肉の異常による場合は、痛みを伴わずに症状が現れることもあります。

 

2「何かあったらナースコールを!」のみで、詳しい説明や注意喚起はなし

「何かあったらナースコールを!」のみで、詳しい説明や注意喚起はなし

 

入浴当日、看護師の亜紀さんは「午後2時に入浴してください」と佐藤さんに伝えました。しかし、浴室内の設備や、その他の入浴に関する具体的な説明や注意はしませんでした。

 

亜紀さんは、14時(午後2時)頃、佐藤さんを小浴室まで案内しました。亜紀さんは、「何かあったらナースコールを押してくださいね。それと鍵を閉めないようにしてください」と言いましたが、それ以外の注意や説明はせず、佐藤さんは1人で小浴室へ入り、入浴しました。

 

3身体の90%に熱傷を負い、心肺停止の状態で発見される

身体の90%に熱傷を負い、心肺停止の状態で発見される

 

14時40分(午後2時40分)頃、佐藤さんが自室に戻っていなかったため、亜紀さんが小浴室に行ってみると、浴槽内で、全身に熱傷を負い、浴槽にもたれかかるような形で意識を失っている佐藤さんを発見しました。佐藤さんは、頭と顔以外の身体の90%に熱傷を負い、心肺停止の状態でした。

 

佐藤さんが発見された時、給湯栓から55~56℃のお湯が注ぎ込まれている状態でした。浴槽底の排水栓は開いていましたが、佐藤さんの体が排水口を塞いでいたため、浴槽内には20~30cmの深さのお湯が溜まっていました。

 

4全身熱傷のため翌日に死亡。医療訴訟に発展

発見後、すぐに佐藤さんは治療を受けましたが、翌日、全身熱傷のため死亡しました。佐藤さんのご遺族は、病院に対して約2,900万円の損害賠償請求を行いました。

 

医療事故から学ぶこと ~ 入浴についての説明義務や安全配慮が必須

Point!

  • 看護師は、患者さんの入浴介助につく義務があったか?
  • 看護師は、患者さんが安全に入浴できるよう浴室設備などの説明を行ったか?
  • 看護師は、患者さんが安全に入浴できているかの観察をしていたか?

 

入浴中の事故は多いですが、実は訴訟自体は少なく、司法による判断基準が決まっていません。そこで、入浴介助につくべきかの判断と、各病院・施設が患者の入浴に対して説明義務や安全への配慮を行っているかが重要と考えられます。

 

介助をつく義務

患者さんや利用者のADLはさまざまです。徐々に身体能力が低下している高齢者に対して、どの段階で入浴介助が必要になるかの判断は、現場では難しいと思います。

 

本件では、①入院時の質問票の回答、②入院中の患者さんの様子、③意識状態も含めた患者さんとのやりとりを総合的に判断して、佐藤さんに対し介助につかないとした亜紀さんたちの判断に過失はなかったとしています。

 

入院時の質問票には、佐藤さんが自分ですることはできないけれど、工夫して行っている動作として「浴槽に入る」が選択されていました。このことを過度に重視して、介助につく義務があったとすると、患者さんの自立心や羞恥心を無視しても入浴の介助を行なわなければならなくなります。これでは、萎縮的な対応が行われることにも繋がりかねません。

 

看護師さんは、患者さんのADLの状態から入浴に介助が必要かどうか判断しますが、入院時の情報や、患者さんの身体的状況からどのように判断したかを記録に残し、病棟スタッフが情報を共有することが大切です。

 

浴室設備などの説明義務

亜紀さんは、小浴室で入浴する佐藤さんに浴室の説明をしていなかった説明義務違反があるとされています。佐藤さんは、小浴室の設備の説明や注意などを受けておらず、亜紀さんは、「何かあったらナースコールを押してください、鍵はかけないでください」と伝えていますが、それだけでは十分な安全配慮に基づく説明ではないとされました。

 

本件では、佐藤さんの発見時、給湯栓(55~56℃)のみが誤って使用されていたことから、全身に熱傷を負い、死亡につながったと過失が認められました。

 

入浴看視の義務

入浴は、入浴行為自体が体力を消耗することであり、それに加え高齢者や下肢に障害のある患者さんにとっては転倒しやすい環境です。特に、佐藤さんは、「歩行」「浴槽に入る」という行為に不安があると言っていたわけですから、常時観察する必要がなかったとしも、入浴中の事故防止のため、安全配慮義務に基づいた入浴看視義務があるということとなります。

 

亜紀さんは、40分後に、佐藤さんの異常を発見しましたが、佐藤さんのADLを考慮すると、入浴看視間隔は30分以内である必要があったとしています。

 

自立している患者さんに対して、入浴行為が、単純に事故の危険性があるとして看視義務が発生するというわけではありません。
高齢者や、転倒リスクの高い患者さんなどが、安全に入浴できているかの注意義務があったということです。

 

本件の結末 ~ 遺族側の主張が認められ、病院側に約2,900万円の損害賠償が発生

今回の判決では、「佐藤さんの入浴介助につかない」と判断した亜紀さんたちの過失はありませんでした。

 

しかし、佐藤さんへの浴室設備などの説明義務を怠ったことと、入浴事故防止(転倒・溺死など)のために患者さんの状態(膝関節変形症のため跛行があること、一人で浴槽に入れないことなど)に応じた安全義務への配慮がなかったことが、佐藤さんの死亡と因果関係があるとして、病院側に約2,900万円の損害賠償を求めました。

 

私も、一人で入浴できる患者さんなら、大丈夫と思ってしまうと思います。
適切な判断だとしても、その後の対処が必要なんですね。

 

入浴は日常的なことですが、入浴中の事故は転倒など突発的に起こることがほとんどです。
熱傷や溺水など、異常事態を早期発見するためにも、患者さんが安全に入浴できているか確認することは大切ですね。

 

[次回]

第2話:療養上の世話で大切な3つの義務

 

⇒『ナース×医療訴訟』の【総目次】を見る

 


[執筆者]
大磯義一郎
浜松医科大学医学部「医療法学」教室 教授
谷口かおり
浜松医科大学医学部「医療法学」教室 研究員

 


Illustration:宗本真里奈

 


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