酸素吸入を開始する際、急に多量の酸素を流してはいけないのはなぜ?
『根拠から学ぶ基礎看護技術』より転載。
今回は酸素吸入に関するQ&Aです。
江口正信
公立福生病院診療部部長
酸素吸入を開始する際、急に多量の酸素を流してはいけないのはなぜ?
酸素中毒により、自発呼吸が抑制されて呼吸停止を引き起こす可能性があるためです。
〈目次〉
吸入とは
吸入(inhalation)は、薬液やガスを霧状にして吸気中に混入させ、気道内に引き入れて、気道や肺胞あるいは全身に作用させることを目的とした治療法です。
局所的な作用を期待して行なう吸入に薬液噴霧があり、全身的な作用を目的とした吸入には酸素吸入があります。
気道内感染症や気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患などの患者、術前・術後での呼吸管理(酸素吸入や麻酔ガスの吸入)が必要とされる患者、痰の多い患者などに対して行われます。
酸素療法とは
酸素療法とは、低酸素状態となり呼吸困難にある患者に対して行なうものです。その適応は、一般に動脈血酸素分圧(PaO2)が 60%以下、あるいは経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)が 90%以下とされ、また頻呼吸や補助呼吸筋を使った呼吸など重度の呼吸困難を示す徴候がみられる場合に酸素投与すべきとされています。
酸素を急に多量に与えてはいけないのは
急に多量の酸素を投与して問題となるのは、慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)の患者の場合です。チアノーゼは改善しても、まもなく呼吸抑制や無呼吸を起こすことがあるからです。COPDの患者は長期にわたる呼吸障害で二酸化炭素(CO2)が常に蓄積しているため、呼吸中枢は正常人のように、動脈血中のCO2に反応せず、呼吸は主として頸動脈小体からの低酸素刺激によってのみ働いています。
そこへ急激に高濃度の酸素が投与されると、酸素分圧は一気に上がり、呼吸中枢は一時的に低酸素血症が取り除かれて、呼吸の刺激がなくなり呼吸停止を起こす可能性があります。したがって、COPDの患者への酸素投与は0.5~1L/分から開始し、慎重に投与しなければなりません。
※編集部注※
当記事は、2017年2月4日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 根拠から学ぶ基礎看護技術 第2版』 (編著)江口正信/2024年5月刊行/ サイオ出版


