低体温療法の各時期(導入・冷却期、維持期、 復温期)の看護

『ICU看護実践マニュアル』(サイオ出版)より転載。
今回は、「低体温療法の各時期(導入・冷却期、維持期、 復温期)の看護」について解説します。

礒崎裕子
青梅市立総合病院救命救急センター集中治療室 看護師

河西克介
青梅市立総合病院 救急科部長

 

 

 

Key point
  • 低体温療法の各時期(導入・冷却期、維持期、復温期)の特徴に応じた看護のポイントを押さえ、看護ができる。

 

 

導入・冷却期

迅速な冷却開始と目標体温への到達が患者の予後に影響を与えるため、速やかかつ安全に導入の準備を行うことが重要である。冷却装置や各種温度測定モニター、人工呼吸器、点滴スタンドや各種ラインなどベッドとその周囲の準備を行う。

 

1導入・冷却期の体温管理

急速な体温低下による生体防御反応とシバリング(表1図1)の誘発を防ぐため、1時間に0.5~1℃以内のペースで冷却することが多い。シバリング予防のため、末梢を保温し薬剤を使用する。四肢は末梢循環が悪く、皮膚障害が起こりやすいため観察していく。

 

表1シバリングスコア

シバリングスコア

(Badjatia N,et al: Metabolic impact of shivering during therapeutic temperature modulation: the Bedside Shivering Assessment Scale. Stroke. 2008 Dec;39(12):3242-7.)

 

図1シバリングプロトコル

シバリングスコア

(Brophy GM,et al: Emergency Neurological Life Support:Pharmacotherapy.Neurocrit Care. 2015 Dec;23 Suppl2:S48-68より改変)

 

2導入・冷却期の薬剤管理

シバリングを防ぐ確実な薬剤が必要となるため、十分な鎮静・鎮痛薬や筋弛緩薬(図2)を投与する。

 

図2低体温療法中の鎮静・鎮痛方法1)

低体温療法中の鎮静・鎮痛方法

(Scirica BM: Therapeutic Hypothermia After Cardiac Arrest. Circulation. 2013;127:244‒250より改変)

 

投与後は、自発呼吸や咳嗽反射の有無など、薬剤投与の効果を経時的に評価し、効果が乏しくシバリングや咳嗽反射がみられた場合は、医師に報告し薬剤投与量を検討しなければならない。

 

3導入・冷却期の全身管理

循環血液量の低下、心筋収縮力の低下、徐脈が起こるためバイタルサイン変動に注意する。

 

低体温時は抗利尿ホルモンの分泌が抑制され、尿量増加するので 1~2時間ごとに尿量確認する。

 

血清カリウムが細胞内へ移行するため低カリウム血症が起こりやすいのでQT延長、VTが誘発しやすいため心電図波形に注意する。深部体温が30~32℃に低下するとVFが起こりやすい(表2)。

 

表2導入・冷却期の生体反応

導入・冷却期の生体反応

 

 

 

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維持期

生体侵襲反応を最小限に抑えるため、厳密な温度管理により脳内環境を整え合併症対策を行う必要がある。

 

1維持期の体温管理

目標体温を維持し、体温変動は±0.5℃以内で管理する。

 

2維持期の皮膚管理

ジェルパッド剥離時に皮膚損傷など起こす可能性が高いため、各勤務で装着時の皮膚トラブルを確認しスプレー式の被膜剤(リモイスコート®)を噴霧し皮膚障害を予防する。

 

3維持期の全身管理

循環動態の変動、電解質(カリウム値に注意)、不整脈と心電図の変化、腹部症状(腸蠕動の低下)・高血糖の有無(低体温は糖代謝を抑制するため高血糖になりやすい)に注意して観察する。

 

血小板凝集に関与する酸素の生産が低下し血小板が減少、易出血状態となるため確実な止血を行う。低体温により白血球や好中球の機能が抑制されるため易感染状態になるため口腔内やライン刺入部などの清潔保持を行う。

 

筋弛緩や鎮静により咳嗽反射が消失するため、人工呼吸器関連肺炎が起こりやすい。肺炎や無気肺予防のため吸引、体位変換、口腔ケアが重要である。

 

 

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復温期

復温期は脳浮腫が起こりやすく、脳虚血状態に移行しやすい時期である。

 

1復温期の体温管理

復温開始のタイミングや復温ペースは、低体温療法を開始してから24時間後に開始する。または、0.1℃/時のペースで復温していく(一般的には36時間必要)。

 

急激な復温は神経学的予後を悪化させる可能性があるため、体温を1時間に0.5℃以上上昇させず、復温は緩徐に行う必要がある。

 

シバリング防止のため筋弛緩薬、鎮静・鎮痛薬を継続する。復温したら筋弛緩薬を中止し、その後鎮静鎮痛を中止する。

 

2復温期の全身管理(表3表4)

急激な復温は脳代謝を亢進させ、脳浮腫をまねきやすいため頭蓋内圧亢進症状に注意する。頭蓋内圧亢進にて脳還流が保たれない場合は、視床下部や下垂体の虚血により尿崩症が生じるため、IN-OUT バランスが重要である。

 

復温とともにカリウムが血管内に戻り、高カリウム血症となりやすい。意識レベルの回復とともに体動が出現する。痙攣発作は脳の酸素需要を増大させるため、抗痙攣薬を使用して速やかに止め、脳障害の軽減を図る必要がある。

 

予後評価は、復温後72時間以降に評価する(脳波、CT、MRI など)。

 

表3復温期の生体反応

復温期の生体反応

 

表4低体温療法中の全身状態と看護ケア

低体温療法中の全身状態と看護ケア

 

引用・参考文献 閉じる

1 )Scirica BM:Therapeutic Hypothermia After Cardiac Arrest. Circulation. 2013;127:244‒250

 

 


 

本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『ICU看護実践マニュアル』 監修/肥留川賢一 編著/剱持 雄二 サイオ出版

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