どうする? 言葉が通じない多数外国人観光客への救護活動

熊本県山間部の観光地で、韓国人観光客20名を乗せたバスが街路樹に衝突し、消防、警察が現場で救護活動を行ったほか、ドクターヘリが要請され、フライトドクターとフライトナースの医療チームも現場でトリアージおよび初期治療を行った。しかし、その現場には通訳がいなかったために、現場で救護活動に当たった医療チーム(医師、看護師)、消防、警察の救護活動はかなり困難を極めたという。

 

加藤陽一氏(熊本赤十字病院)は現場活動を行った救護者に聞き取り調査を行い、その状況をまとめ、「第19回日本臨床救急医学会総会・学術集会2016」にて、「20名の傷病者発生!日本語も英語も通じません!~観光バス事故現場での困難、教訓と今後の課題~」として発表した。


加藤陽一氏(熊本赤十字病院)

言葉が通じない状況下での救護活動について発表した加藤陽一氏

 

加藤氏によると、ガイド兼通訳が一番先に搬送された上に、ほかの20名の傷病者は日本語も英語も通じず、当初は「アジア人だとはわかっているが、何語を話しているかも分からない状態」であったという。

 

言葉が通じないため、痛みの部位や程度が分からず、現場の医療チームを含む救護者はジェスチャーや処置を行う際に針や輸液製剤などの実物を見せるなどで対処した。
しかし、トリアージ後も現場で動き回る傷病者が多く、トリアージが分からなくなってしまったり、傷病者が医療チームを囲んで同時に話しかけられるなど、現場での混乱ぶりが報告された。

 

さらに、20名中11名が同一の名字であったこと、また現場で聞き取った名前を「イー」と記入した記録に基づいて搬送後の病院で確認したところ「リー」であったりするなどの記録についての混乱も見られたという。

 

加藤氏は、「観光で訪れるツアー客が乗ったバス事故の場合、ガイドや通訳は一般的に最前列に座ることが多い。そうなると最も受傷の可能性が高く、現場から最初に搬送されてしまうため、ほかの傷病者を救護する際に、言語的な問題がかなり重要になる」と指摘する。

 

言語的な問題を解決するには、通訳やアプリなどの利用が考えられるが、事故などの救護現場に通訳を派遣するのは時間的にも現実的にも難しい。
また、アプリについても、現在すでにいくつか市販されているが、精度的な問題のほか、今回のように傷病者が何語を話しているか分からない場合に使えるアプリは少なく、あったとしてもやはり医療用語をどこまで正確に翻訳できているかは分からず、現段階ではなかなか救護活動に使うことは難しい

 

ちなみに、発表の中では、パナソニック株式会社が開発中の「メガホンヤク(R)」も紹介された。
これは、メガホン型の翻訳機で、日本語で話すと、それを英語、中国語、韓国語に翻訳して自動的に繰り替えし大音量で流すことができるもの。
緊急時や災害時に空港や駅など、外国人が多く利用する施設などでの使用が想定されているが、翻訳などは通信で行われるため、電波の届かない山間部などでは使用できないという問題もある。

 

加藤氏は、「東京オリンピックの開催などもあり、世界中からの観光客が増加していく中で、今後、同じようなことが起こる可能性は十分ある」と指摘し、「翻訳精度の高いアプリの開発も望まれる」としつつ、現在できる対処法としては、「現場で救護活動に当たるときに使う単語はそう多くない。あらかじめ、いくつかの言語のそういった単語をスマートフォンなどに入れておくことなどではないか」と話した。

 

【看護roo!編集部】

 

 

2016年5月12(木)~14日(土)
第19回日本臨床救急医学会総会・学術集会2016

【会長】

高田雄三(福島県医師会)

 

【副会長】

田勢長一郎(福島県立医科大学)

 

【副会長】

石井正三(日本医師会)

 

【会場】

ホテルハマツ/ビッグパレットふくしま

 

【学会HP】

日本臨床救急医学会

SNSシェア

コメント

0/100

掲示板でいま話題

他の話題を見る

アンケート受付中

他の本音アンケートを見る

今日の看護クイズ

本日の問題

◆看護技術の問題◆指先の血糖測定で、穿刺前に指を温める理由は何でしょうか?

  1. 感染予防のため
  2. 消毒のため
  3. 血液が出やすくなるため
  4. 患者さんとコミュニケーションをとるため

6425人が挑戦!

解答してポイントをGET

ナースの給料明細

9078人の年収・手当公開中!

給料明細を検索