最終更新日 2019/09/02

肺塞栓

肺塞栓とは・・・

肺塞栓(はいそくせん、pulmonary embolism;PE)とは、静脈や心臓に形成された血栓が急激に肺動脈を閉塞し、呼吸不全および循環不全を引き起こす疾患である。特に肺塞栓症(PTE)、急性肺血栓塞栓症(APTE)と呼ぶ。

肺塞栓は、発症後短時間で心肺停止に陥る場合もあり、死亡率が高いことが知られている。好発年齢は60歳以上で、高齢者に多いことがわかっている1)

塞栓の90%以上が下肢深部静脈あるいは骨盤内静脈にできる(深部静脈血栓症)。
肺塞栓の合併症として、出血性梗塞が挙げられる。

 

原因

下記3つの状態が、静脈血栓塞栓症を起こしやすくする。

 

(1)血流停滞(肥満、加齢、寝たきりなど)
(2)血管内皮障害(手術、血管炎など)
(3)血液凝固能の亢進脱水、手術、薬剤など)

 

単独ではなく、複数の危険因子が重なって発症することもある。

 

主な危険因子としては、肥満、長時間の寝たきり、下肢麻痺、手術(腹部手術の合併など)、抗がん薬を用いたがん治療、血液凝固異常、血管疾患、外傷・骨折、旅行者血栓症(エコノミークラス症候群、ロングフライト血栓症)、妊娠出産などがある。肺塞栓症患者の半数程度が入院中(手術、治療、寝たきりの環境)に発症しているといわれる1)

 

症状

・肺塞栓症による症状
呼吸困難、胸痛、咳嗽、血痰、失神動悸、冷や汗

・深部静脈血栓症による症状
下肢の腫れ、下肢痛、下肢の色調変化

 

検査・診断

身体所見に加え、スクリーニング検査(胸部X線、心電図、Dダイマー測定、動脈血ガス)、超音波(エコー)検査、肺シンチグラフィー、CT、MRI、肺動脈造影などの検査を行い診断する。スクリーニング検査は、心不全や呼吸不全を起こす他疾患の鑑別と肺塞栓症診断の補助的情報を得るのに有用である2)

 

治療

急性期を乗り切ることが予後良好の条件である。そのため、早期の治療が最も重要である。主な治療法として、投薬、カテーテル治療、手術がある。大半の患者で酸素吸入が必要。重篤な場合は、人工呼吸器や経皮的心肺補助装置(PCPS)が必要となるケースもある2)

 

(1)抗凝固療法

薬剤(ヘパリン、ワルファリン等)を用いて血液を固まりにくくし、新たな血栓の形成を抑制する。

 

(2)血栓溶解療法

血栓溶解薬(ウロキナーゼ)により、血栓を溶かす。ただし、出血を起こしやすくなるため、合併症に注意が必要である。

 

(3)カテーテル治療

カテーテル的血栓溶解療法(CDT)、カテーテル的血栓除去術(CATR)を行う。

 

(4)外科治療(血栓摘除術)

肺血管内にある血栓を手術で取り除く。重症かつ抗凝固療法、血栓溶解療法が行えない場合に用いられる。

 

(5)下大静脈フィルター

下大静脈に設置したフィルターで血栓を捕らえる予防法。下大静脈フィルターには、永久留置型フィルターと非永久留置型フィルターがある。永久留置型フィルターは長期的には深部静脈血栓症を増やしてしまうことがわかってきたため、国内では非永久留置型フィルターを用いる場合が多い2)

 

予防

物理的予防法と服薬的予防法がある。

 

物理的予防法

(1)歩行する
歩くことで、脚の筋肉が静脈をマッサージし、血液を脚から心臓まで戻す補助ポンプの役割を果たす。よく歩くことで血液の流れを正常化できる。歩けない場合は脚関節を動かす、脚を上げ下げする、脚をマッサージする。

(2)弾性ストッキング、弾性包帯の着用
術後の患者で下肢に浮腫が認められる場合、圧迫力のあるストッキングや包帯を脚に装着するのが予防に有効である。

(3)機械を使う予防法
術後や寝たきりの患者には、脚にゴムチューブを巻いて、周期的に空気を送り込んで加圧するなど、機械を使った予防法がある。既に深部静脈血栓ができている場合は肺塞栓症を引き起こす危険性があるので使用しない。

 

薬物的予防法

予防薬(低分子量ヘパリン、第10凝固因子阻害薬)が用いられる場合もある。ただし、予防薬では出血性の合併症を起こす可能性があるので、ガイドラインが定められている1)

 

引用参考文献
1)“肺塞栓症”国立循環器研究センター 循環器病情報サービス.
2)班長 伊藤正明. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版).日本循環器学会.(最新情報はhttp://www.j-circ.or.jp/guideline/をご確認下さい).

 

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