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2017年05月16日

ラスパトリウム|整形外科手術器械(4)

手術室にある医療器械について、元手術室勤務のナースが解説します。
今回は、整形外科の手術で使用される『ラスパトリウム(ラスパ)』についてのお話です。
なお、医療器械の歴史や取り扱い方についてはさまざまな説があるため、内容の一部については、筆者の経験などに基づいて解説しています。

 

黒須美由紀

ラスパトリウム|整形外科手術器械(4)

 

〈目次〉

 

ラスパトリウムは骨膜を剥離するための器械

骨と骨膜の間の状況に合わせて押したり、引いたり

ラスパトリウムとは骨膜剥離子のことで、「ラスパ」と略して呼ばれることの多い器械です。

ラスパトリウムは、骨と骨膜の間を剥離する器械で、骨に沿って移動させて使います。先端が彎曲しているため、その内側に骨が接するように押し当てて使います(図1)。

図1ラスパトリウムは骨膜剥離子

ラスパトリウムは骨膜剥離子

彎曲した先端部の内側に骨を押し当てます。

 

ラスパトリウムには、押し当てて使用する“押しラスパ”と、手前に引いて使用する“引きラスパ”の2つがあります。

 

整形外科以外にも骨を扱うすべての診療科で重宝される

ラスパトリウムは、骨膜を剥離するための器械のため、骨やその周辺の組織を扱う診療科では必ず使用されます。その形状は診療科ごとに特徴的なものになりますが、整形外科はもちろん、脳神経外科、呼吸器外科、心臓血管外科、耳鼻科、歯科口腔外科などでも使用されます。

このように、ラスパトリウムは、多くの診療科で非常に重宝される器械です。

 

ラスパトリウムの誕生秘話

ラスパトリウムもDr. ランゲンベックが開発した!?

ラスパトリウムを最初に開発した人物や経緯については、はっきりとした文献が残っていないため、わかりません。しかし、エレバトリウム(エレバ、イレパ)にランゲンベック型があるように、ラスパトリウムにも同様の型があります。そのため、ラスパトリムもDr.ランゲンベックが開発したと考えてもよいのかもしれません。

*参考:『エレバトリウム|整形外科手術器械(3)

 

フランス人外科医のDr. ファラボイフの名前がついた型も

ランゲンベック型とは別の型で、ファラボイフ(氏)型のラスパトリウムがあります。

これは、フランス人外科医、ルイ・ヒューバート・ファラボイフ(Louis Hubert Farabeuf;1841-1910)という人物の名前だと思われます。Dr. ファラボイフは、フランスの医学学校に衛生学を導入したと言われている高名な医師で、多くの書物や文献、教科書を残し、医療機器の開発に力をいれていた人物です。また、フランス国内の国立医学校には、銅像が残っています。

Dr. ファラボイフは、手術解剖学の実践教育のカリキュラムを改修し、その発展に貢献しました。このDr.ファラボイフが開発した多くの手術器械のなかに、ラスパトリウムもあります。

Dr.ファラボイフは、四肢などの切断や術後感染に対して、非常に研究熱心だったようです。骨膜の剥離はその手技を進めるうえで欠かせない操作だったのではないかと、筆者は推測しています。

 

脊椎損傷外科に捧げた日本人医師 岩原氏の名前の型も

ラスパトリウムのなかには、日本人の名前が残るものも多くあります。1974年に刊行された『解説 医科器械』には、ほかのラスパトリウムとともに、“岩原型ラスパトリウム”が掲載されています。この時点で、岩原型ラスパトリウムがスタンダードな型式として認識されていたと推測できます。

この“岩原”という名称は、医師 岩原寅猪氏(いわはらとらい:1901-1988)のことです。Dr.岩原は、慶應義塾大学医学部整形外科の3代目の教授で、多くの学会の長を務めた人物です。脊椎外科(特に脊椎損傷外科)での先鋭的な報告で、多くの業績を残したと記録されています。

 

memoDr.岩原が残した数多くの功績

Dr.岩原は、慶應義塾大学の教授職と同時期に、戦傷軍人の重度脊椎損傷専門の医療施設の施設長も兼任していました。ほかにも、骨折や骨移植、先天性奇形、手の外科など、複数の分野でも研究を深め、多くの後進を育てたと言われています。

 

ラスパトリウムの特徴

サイズ

ラスパトリウムのサイズは、型式や用途、診療科にもよって変わってきます。整形外科で使用されるものであれば、全長は15cm~20cmくらいのラインナップが多く、先端部分の幅や厚み、長さなどのバリエーションがあります。

 

形状

ラスパトリウムの先端部の形状は、“押しラスパ”と“引きラスパ”で異なります。

押して剥離をする“押しラスパ”は先端がやや屈曲しています。引いて剥離をする“引きラスパ”は先端が90°か、それに近い角度をつけて曲がっています(図2)。

図2ラスパトリウムの先端部の形状の違い

ラスパトリウムの先端部の形状の違い

A(上):押しラスパは、先端がやや屈曲しています。
B(下):引きラスパは、先端が90°(またはそれに近い角度)に屈曲しています。

 

また、ラスパトリウムのなかには、両頭ラスパトリウムと呼ばれるものもあります(図3)。

図3両頭ラスパトリウム

両頭ラスパトリウム

両端の幅や角度がわずかに異なっています。

 

両頭ラスパトリウムは、文字通り1本の器械の両端に骨膜剥離ができる機能が付いたものです。術野の状況によって、両頭ラスパトリウムをくるりと回転させ、持ち替えて使用します。

両頭ラスパトリウムの両端は、先端部分の幅や角度が異なります。ここで紹介したものは、両端に極端な差があるものではありませんが、製品によっては、幅や角度だけなく、両端の形状が全く異なるものもあります。

 

材質

ラスパトリウムは、その多くがステンレス製です。一部、歯科口腔外科などで使用するものにはチタン製のものもあります。

 

製造工程

素材を型押しし、余分な部分を取り除き、各種加工と熱処理を行い、最終調整を行います。

 

memoラスパトリウムとエレバトリウムの形状をしたエレバラスパトリウム

ラスパトリウムとエレバトリウム(イレパトリウム)は、セットのように並べられることの多い器械です。その使用用途は全く違いますが、手の外科のように手術部位が浅い場合や、手術対象が小さい場合には、通常のものよりも小ぶりな器械を使うことになります。

このような手術で、ラスパトリウムとエレバトリウムを使う場合は、器械の両端がラスパトリウムとエレバトリウムの形状になった「エレバラスパトリウム」と呼ばれる器械を使うこともあります(図4)。

図4エレバラスパトリウム

エレバラスパトリウム

左側がラスパトリウム、右側がエレバトリウムの先端の形状をしています。

 

価格

価格帯は、6,000円程度のものから、40,000円を超えるものまで、幅広いラインナップがあります。先端の形状や長さ、押しラスパなのか引きラスパなのかなど、様々な要素で変わってくるようです。

ほぼ同サイズのエレバトリウムと比較すると、やや高めに設定されています。先端部分が刃物となっているため、研磨などの手間がかかるためかもしれません。

 

寿命

ラスパトリウムの寿命は明確に決まっているわけではありません。エレバトリウムとともに使用されることが多い器械ですが、骨という固い組織に対して使用するものですので、刃先の欠けなどには、十分注意しましょう。

 

ラスパトリウムの使い方

使用方法

ラスパトリウムは、骨膜を剥離する際に欠かせない器械です。例えば、下腿骨骨折の際、骨折部周囲の骨を露出するために、骨に付着した軟部組織などを剥離するために使用します(図5)。

図5ラスパトリウムの使用例

ラスパトリウムの使用例

A:押しラスパは膝の方(中枢)に向けて、押すように力を加えます。
B:引きラスパは足首の方(末梢)に向けて、引くように力を加えます。

 

また、人工関節置換術などの手術でも、術野を展開するときに効力を発揮します。偽関節包後方の剥離を十分に行い可視化することで、術野を正確に切開することができます。

 

類似器械との使い分け

ラスパトリウムとエレバトリウムは、形状は似て非なるものですが、セットで使用されることの多い器械です。また、名前も似ているので、混乱してしまうかもしれません。それぞれの特徴と用途をしっかり理解しておきましょう(表1)。

表1ラスパトリウムとエレバトリウムの特徴と用途

ラスパトリウム
(raspatories)
骨膜剝離子
骨膜を剥離する
押し・引きで先端の形状が違う
エレバトリウム
(elevators)
骨(膜)起子
骨を起こす
圧排、軟部組織の剥離

 

禁忌

ラスパトリウムに禁忌はありませんが、先端部分が鋭利になっていますので、取り扱いには注意しましょう。形状だけで判断せず、使用対象となる組織を選ぶ必要があるでしょう。

 

ナースへのワンポイントアドバイス

押しラスパか引きラスパか、術野で求められるラスパトリウムを判断しよう

ラスパトリウムには、たくさんの形状やサイズのものが存在しています。特に、ドクターが必要としているラスパトリウムは、“押しラスパ”なのか、“引きラスパ”なのか、術野では今何が起こっているのかを理解し、判断することが必要です(表2)。

表2押しラスパと引きラスパの使い分けのポイント

押しラスパ 末梢から中枢へ向かって使う場合は、骨幹部には柄の長いものを使用
引きラスパ 中枢から末梢へ向かって使う場合は、骨幹部には柄の長いものを使用
力をコントロールしやすく剥離しやすい、力が入りやすい

 

使用前はココを確認

ラスパトリウムは、骨膜を剥離するための器械です。先端部分は鋭利になっているため、先端部分の摩耗や刃こぼれは、剥離操作に影響します。また、組織を傷めてしまうことにもなり、危険です。使用前には、必ず刃先を点検しておきましょう。

また、剥離操作は力をかけて行うことも多くなります。先端部分の屈曲角度に変化がないかも併せて確認しておきましょう。

 

術中はココがポイント

器械出しの看護師はラスパトリウムの先の部分を持ちます。柄の持ち手部分がドクターの手のひらにしっかりおさまるように押し当てて渡すことが重要です(図6図7)。

図6ラスパトリウムの手渡し方例(1)

ラスパトリウムの手渡し方例(1)

柄と先端部の間を持ち、ドクターに手渡します。

 

図7ラスパトリウムの手渡し方例(2)

ラスパトリウムの手渡し方例(2)

ドクターが柄の部分を持てるように手渡します。

 

memoラスパトリウム手渡し時の注意ポイント!

ラスパトリウムの先端は鋭利になっているので、先端がドクターの手に触れないように、また、ナース自身の手に触れてしまわないように気をつけましょう。切創事故につながり、危険です。

 

使用後はココを注意

術野から戻ったラスパトリウムは、術前に確認した先端部分の確認をします。問題があった場合は術野には出しません。また、使用中に万が一欠損などがあった場合は、術野の確認が必要です。問題がなければ次の指示に備え、生食ガーゼなどで付着物を拭いておきましょう。

 

片付け時はココを注意

洗浄方法

洗浄の手順は、エレバトリウムと同じです。

(1)手術終了後は、必ず器械カウントと形状の確認を行う
(2)洗浄機にかける前に、先端部に付着した血液などの付着物を、あらかじめ落としておく
(3)感染症の患者さんに使用後、消毒液に一定時間浸ける場合は、必ず付着物を落としておく

 

(4)洗浄用ケース(カゴ)に並べるときは鈎が引っかからない場所に置く

ラスパトリウムは、1本の長い器械です。洗浄用ケース(カゴ)に並べる場合は、ほかの器械と重ならないよう、余裕を持って置きましょう。ハサミなどと一緒に、洗浄用ケースを分けておくことも大切です。

 

滅菌方法

ほかの器械類と同様に、高圧蒸気滅菌が最も有効的です。滅菌完了直後は、非常に高温になっているため、ヤケドをしないように注意しましょう。

 

 


[参考文献]


[執筆者]
黒須美由紀(くろすみゆき)
総合病院手術室看護師。埼玉県内の総合病院・東京都内の総合病院で8年間の手術室勤務を経験


Illustration:田中博志

Photo:kuma*


協力:高砂医科工業株式会社


著作権について

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