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2017年03月27日

身体拘束は限定的な行為! 切迫性・非代替性・一時性を満たすことが条件

看護師さんにとって、医療事故や医療訴訟は決して他人事ではありません。
ここでは、医療事故を起こしてしまったときに看護師さんが知っておくべき医療に関する法律の知識を解説します。
第2話では、「転倒のおそれがある患者さんを身体拘束(身体抑制)した事例」から学ぶ、「身体拘束が認められる3つの条件(切迫性・非代替性・一時性)」というお話です。

 

 

大磯義一郎、森 亘平
(浜松医科大学医学部「医療法学」教室)

 

第1話では、『転倒のおそれがある患者さんの身体拘束の事例』を紹介しましたが、ここでは、身体拘束が認められる3つの条件について解説していきます。

身体拘束は、「切迫性」、「非代替性」、「一時性」の3要件を満たしていることがポイントでしたよね。
ほかにもどんなことを覚えておかないといけないのか、しっかりと勉強したいと思います。

 

〈目次〉

 

身体拘束はあくまで例外的、かつ必要な時間に限り行われるべき

安易な身体拘束は、人権擁護の観点からも避けるべきです。しかし、実際の医療現場では、身体拘束が必要に迫られる場面もあります。

厚生労働省は、平成11年に身体拘束について省令を公布しています(下記「memo」参照)。それによると、「身体拘束(身体抑制)は、あくまで例外的、かつ必要な時間に限って行われるべき」とされています。また、身体拘束を行う際には記録を残すことが求められています。

しかし、この省令では、具体的にどのような場合が、「緊急で、やむをえない場合なのか」までは示されていません。つまり、目の前の患者さんが、客観的にどのような身体・精神状態であれば、身体拘束の要件を満たしているのかまでは、わかりません。

それでは、皆さんが、適法な看護を行うためには、何を頼りにすれば良いのか、これから解説します。

memo厚生労働省令が公布した『介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準』

平成11年に、厚生労働省は『介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準』を公布しました。このなかで、本件にかかわる項目は下記の2点です。

第13条4項:介護老人保健施設は、介護保健施設サービスの提供に当たっては、当該入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者の行動を制限する行為(以下「身体的拘束等」という。)を行ってはならない。

第13条5項:介護老人保健施設は、前項の身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録しなければならない。

 

『身体拘束ゼロへの手引き』で示された身体拘束の3要件

身体拘束は、基本的にはすべてのケースで廃止していく(行わない)という姿勢が強く求められています。そのため、例外的な場面で身体拘束を行う際は、厳格な手続きを経て、限定的に行うものとされています。平成13年に、厚生労働省が通知を出してその姿勢を示しました。

 

memo通知は法律ではなく基準にあたるため、破っても違法ではない

「通知」とは、法律の解釈や行政裁量に関する厚生労働省内部の基準です。法律ではありません。そのため、法律のように私たち国民が「守らなければただちに違法」となるわけありません。

 

また、同年に開かれた、厚生労働省の身体拘束ゼロ作戦推進会議で、『身体拘束ゼロへの手引き』が作成されました。これによると、身体拘束が認められるためには、①切迫性、②非代替性、③一時性、の3つの要件がすべて満たされていなければならないとされています(表1)。

表1身体拘束が認められる要件

切迫性 利用者やほかの利用者の生命や身体に危険が及ぶ可能性が高い場合
非代替性 身体拘束以外に大大する介護方法がない場合
一時性 身体拘束は一時的なものである場合

 

身体拘束の条件は、実際の医療現場では厳しいもの

上記の通知や『身体拘束ゼロへの手引き』で掲げられた身体拘束の条件は、極めて限定的、かつ具体的です。確かに、身体拘束を限定的なもののとし、廃止の方向に向かわせることは理想的な看護像といえます。しかし、看護師の皆さんが働く医療現場では、限られた人的・物的資源のため、患者さんの生命や身体を守るためにやむを得ず身体拘束を行わざるをえない場面があるのが現状です。

そのような現状を鑑みると、通知や『身体拘束ゼロへの手引き』で示された内容は、いささか厳しいものだと筆者は思います。

 

3つの要件は現場の実情に合わせて柔軟に解釈される

第1話『転倒のおそれがある患者の身体拘束! 裁判でネックになる3つのポイント』では、「緊急やむを得ないと認められる事情」の具体的な解釈として、「①切迫性、②非代替性、③一時性」が認められるかについて、司法判断がなされました。

最高裁判所は、通知や手引きに記載された3つの要件の内容をそのまま厳格に適用するのではなく、現場の実情に合わせて緩やかに解釈した上で、3つの要件が満たされていると判断しました。

この結果、最高裁判所は、病院側の行った身体拘束は違法ではないとしました。

*詳細については、参考付録「裁判の判決-請求棄却(最高裁判所判決)」をご覧ください

 

現場の実情に沿わない通知のため裁判所が混乱

結果的に、最高裁判所は、本件が3つの要件を満たしていると判断し結末を迎えました。しかし、高等裁判所では、「切迫性」と「非代謝性」が満たされていないと判断していました。そのため、本件は違法な身体拘束だとして、病院側に70万円の損害賠償責任があるとしていました(名古屋高判 平成20年9月5日)。

この判決の違いは、裁判所が、通知に示された「身体拘束が例外的に認められているが、この例外規定は極めて限定的に考えるべきであること」という文言をそのまま適用するのか、またはあくまでも努力目標なのかを判断できなかったことが原因です。

つまり、医療の専門家ではない裁判所では通知や手引きの文言だけを見ても、これが医療現場の実情を反映したものか、努力目標なのかを判断することは困難なのです。

 

現場の看護師さんは、業務で行うべきことはしっかりと記録に残すこと

身体拘束についての通知や手引きに示された取り決めは、理想的な看護像ですが、残念ながら医療現場の実情を反映したものではありません。そのため、看護師の皆さんは、不安に思われるかもしれません。しかし、多くの場合、裁判所にしっかりと説明すれば、医療現場の実情に沿うように通知や手引を解釈してくれているので、安心してください。

ただし、省令には、「身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録しなければならない。」とあります。そのため、身体拘束を行う場合は、①切迫性、②非代替性、③一時性、以上の3つが適切に判断されているとわかる内容を記録することが求められています。

 

看護記録への記入例

実際に、看護記録に記入しておくべきポイントや記入方法を下記に紹介します。

 

memo医療現場の実情を司法は理解すべき!

安易な身体拘束は、高齢者の人権擁護の観点からも、当然避けるべきです。しかし、本件のように、裁判によって判断が分かれるレベルで、適法と違法のボーダーラインを設定することは、慢性的に人手が不足している現場に対して、不可能を強いることになる場合もあります。

身体拘束は、あくまで「より良い看護・介護を目指す現場の努力によって解決していく問題であり、司法の判断という国家権力が介入して是正する問題ではない」と筆者は考えます(図1)。

図1身体拘束の考え方

身体拘束の考え方

 

3要件(切迫性・非代謝性・一時性)の厳格な遵守はあくまで理想です。それらが厳格に守られなかったからといって直ちに違法となるのは厳しすぎます。明らかに3要件を逸脱したり、犯罪的な身体拘束をした場合のみ司法が介入することが、理想の看護・介護だと筆者は思います。

 

まとめ

今回は、転倒・転落を防止するための身体拘束が訴訟となる事例を紹介しました。

身体拘束は、患者さんの人権侵害となりかねない行為です。しかし、患者さんの身体の安全を守るため、医療現場の人手不足のためなど、やむを得ず身体拘束を行わなければならない場合もあります。その際には「切迫性」「非代替性」「一時性」という要件を満たしているかどうかがポイントになります。

また、身体拘束を行う際には、しっかりと記録を録りましょう。不要なトラブルを避け、自分の身を守るためには、上記の3要件が満たされている旨の記録を残すことが大切です。

 

〈次回〉

第3話:Q & Aでわかる これって身体拘束? 身体拘束にあたる基準とは

⇒『ナース×医療訴訟』の【総目次】を見る

 

* * *

 

参考付録裁判の判決-請求棄却(最高裁判所判決:平成22年1月26日)

X(本文:阿部さん)は、せん妄の状態で、消灯後から深夜にかけて頻繁にナースコールを繰り返し、(中略)、本件病院でも、10日ほど前に、ナースコールを繰り返し、看護師の説明を理解しないまま、車いすを押して歩いて転倒したことがあったというのである。これらのことからすれば、本件抑制行為当時、せん妄の状態で興奮したXが、歩行中に転倒したりベッドから転落したりして骨折等の重大な傷害を負う危険性は極めて高かったというべきである。

(中略)当時、当直の看護師3名で27名の入院患者に対応していたというのであるから、深夜、長時間にわたり、看護師のうち1名がXに付きっきりで対応することは困難であったと考えられる。そして、Xは腎不全の診断を受けており、薬効の強い向精神薬を服用させることは危険であると判断されたのであって、これらのことからすれば、本件抑制行為当時、他にXの転倒、転落の危険を防止する適切な代替方法はなかったというべきである。

さらに、本件抑制行為の態様は、ミトンを使用して両上肢をベッドに固定するというものであるところ、(中略)、拘束時間は約2時間にすぎなかったというのであるから、本件抑制行為は、当時のXの状態等に照らし、その転倒、転落の危険を防止するため必要最小限度のものであったということができる。

入院患者の身体を抑制することは、その患者の受傷を防止するなどのために必要やむを得ないと認められる事情がある場合にのみ許容されるべきものであるが、上記によれば、本件抑制行為は、Xの療養看護に当たっていた看護師らが、転倒、転落によりXが重大な傷害を負う危険を避けるため緊急やむを得ず行った行為であって、診療契約上の義務に違反するものではなく、不法行為法上違法であるということもできない。(中略)

 

本文解説に戻る

 


[執筆者]
大磯義一郎
浜松医科大学医学部「医療法学」教室 教授
森 亘平
浜松医科大学医学部「医療法学」教室 研究員


Illustration:宗本真里奈


著作権について

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