夏の怪談―看護師が体験した怖い話【一】線香の匂い

看護師の皆さんは、「夏」と聞いて何を思い浮かべますか? 海水浴、お祭り、花火大会、BBQ、フェスなど、いろいろありますよね。

 

でも、「仕事に追われて夏休みなんてない!」という人もいるでしょう。

 

そんな忙しい看護師さん、サクッと読める怪談はいかがですか?

 

今回から5回にわたって、実際に看護師が経験した怖い話(?)をご紹介します。

 

夏の暑さを少し和らげる一服の清涼剤として、ぜひ夜勤のお供に……。

 

 

夏の怪談―看護師が体験した怖い話

第一話「線香の匂い」

 

 

世間が旧盆に差し掛かった、ある夏の夜のこと。

 

外はうだるような暑さでしたが、当時勤務していた病棟は設備が古かったせいか、冷房が効きすぎていました。

 

そもそも私が寒がりだということもありますが、夜勤のときなんかは身震いするほどでした。

 

その日も例に漏れず、夜はかなり冷えました。

 

 

あまり早い段階で厚着をするとあとが辛くなることはわかっていたのですが、いつにもまして冷えを感じた私は耐え切れず、消灯時間を過ぎてから数十分後には、バッグからカーディガンを取り出していました。

 

 

カーディガンを羽織って「寒いのイヤだなあ」なんて思っていると、どこからか線香の匂いが漂ってきたのです。

 

 

 

 

看護師をされている方なら聞いたことがあると思いますが、ふとした線香の匂いは「死の前兆」なんて言われることがあります。

 

 

私も友人から「線香の匂いがしたと思ったら、その日に患者さんが急変して亡くなった」という話を聞かされていました。

 

 

だから、急に怖くなってしまったんです。

 

 

寒さも相まって、なんだか悪寒がし始めました。

 

 

ペアの同僚はそのとき仮眠の真っ最中だったし、そもそもゴキブリよりホラーが嫌いな子だったので、相談するわけにもいかず、私はただただビクビクするばかり。

 

 

いざ自分が休憩に入っても、恐ろしさでまったく休まらない状況です。

 

 

 

「今晩、良くないことが起こるかもしれない……」

 

 

 

夜勤中はずっと、どこからか匂いがして気が気じゃありませんでした。

 

 

でも、ふたを開けてみれば、結局なにも起こらなかったんです。一晩中おびえていた私は心身ともに疲れきっていましたが。

 

 

 

家に帰るやいなや、庭で洗濯物を干していた母にびっくりされたのを覚えています。

 

 

「アンタひどい顔ね! 目の下のくまもすごいわよ」

「……そうなの、きのう仕事してたらさ」

 

 

と、母に昨晩の出来事を話そうとした、そのときでした。

 

 

 

まさかとは思いましたが、漂ってきたのです――線香の匂いが。

 

 

 

どうしてこんなところで?

 

 

 

もしかして、私の命が……?

 

 

 

動揺して泳いだ私の目は、偶然、朝から庭仕事をしていた祖母の姿を捉えました。

 

 

 

そのときの静かな怒りと大きな安堵感を、私は今も忘れることができません。

 

 

 

 

「ねえお母さん、なんでウチのおばあちゃん、木に線香の灰まいてんの……?」

 

 

 

 

母曰く、祖母はテレビ番組を観て「線香の灰はとてもいい肥料になる」と知り、それが新たな日課として定着しつつある、ということでした。

 

 

「あの年で庭仕事してるんだから、とうぶんはアンタの世話にならずに済みそうね」

「それは、まあ、いいことだね……」

 

 

でも、なにも洗濯物の近くで、そんなに勢いよくまかなくても。

 

 

 

おばあちゃんがまいた灰は微弱な風に乗り、確実に洗濯物のほうへ流されていきました。

 

 

 

あのときから、線香の匂いは「死の前兆」ではなく、私のなかで「長生きの象徴」になっています。

 

 

おわりに

お盆の時期、寒い夜の病院で、線香の匂いが……。想像するだけでゾッとしますが、犯人がわかって本当によかったですね。

 

庭で線香の灰をまくときは、ぜひ洗濯物が干されていないときに!

 

 

第二話につづく――。

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