転びやすい患者に有効な、 身体機能を強化する運動ってあるの?|転倒予防

『エキスパートナース』2015年9月号<根拠に基づく転倒予防Q&A>より転載。
転びやすい患者に有効な、身体機能を強化する運動ってあるの?について解説します。

 

松田直美
国立病院機構東名古屋病院リハビリテーション科

 

転びやすい患者に有効な、身体機能を強化する運動ってあるの?

転びやすい患者に有効な、身体機能を強化する運動ってあるの?

 

〈目次〉

 

トレーニングを行うことで「身体要因」による転倒は起こさせない!

転倒は高齢者に多く、転倒による骨折は要介護状態となる主要な要因となっています。また、高齢者の転倒は高齢であるほどリスクが高い傾向がみられます。

 

転倒の要因は、身体要因環境要因 に二分して考えられています。

 

転倒に関与する身体要因には、筋力低下やバランス能力の低下歩行能力の低下薬剤要因が挙げられます(1)。環境要因には、障害物の存在や不十分な照明などが挙げられます(2)

 

予防・改善可能な身体要因に対し、筋力向上トレーニングやバランストレーニングを中心にストレッチや歩行練習、持久力向上トレーニングなど複合的な運動を行うことで、転倒予防に効果があります(3)

 

姿勢を支える筋肉たちと歩行に必要な筋肉たち

1姿勢を支える筋肉

老化に伴い、姿勢を支える筋肉抗重力筋)が萎縮し、筋力低下となって現れます(図1)。

 

図1高齢者にみられる不良姿勢(前屈み姿勢)

高齢者にみられる不良姿勢(前屈み姿勢)

 

抗重力筋が萎縮すると、姿勢が変化し、筋力低下やバランス能力の低下柔軟性の低下持久力の低下が起き、転びやすくなります。

 

転倒を予防する運動を行うときは、抗重力筋を意識した正しい姿勢でトレーニングを行うことが大切です(図2)。

 

図2抗重力筋を意識した正しい姿勢

抗重力筋を意識した正しい姿勢

 

 

2歩行に必要な筋肉

歩行に必要な筋肉として、(図3)が挙げられます。

 

図3歩行に必要な筋肉

歩行に必要な筋肉

 

これらの筋肉の萎縮は、歩行時の安定性低下、推進力・制動力の低下が起きるため、転びやすくなります。

 

これらの筋肉をはたらかせるように、筋力トレーニングとバランストレーニングを行います。

 

病棟や在宅でできる!簡便な転倒予防のトレーニング

運動の際は、「転倒しないよう、安全に運動を行う」ことが重要です。患者の全身状態や身体機能に合わせて運動を選択できるように、座位・立位・臥位で行うことができる転倒予防トレーニングを紹介します。

 

当院では、転倒予防体操パンフレットを作成しています。そこに記載された運動内容を理学療法士が指導することで、看護師とともに、患者が病棟で転倒予防運動を簡便に行うことができるように取り組んでいます。また、在宅でも自主トレーニングとして継続できるように家族指導も行っています。

 

以下にパンフレットの内容を紹介します。

 

1座位姿勢でのトレーニング(図4

図4座位姿勢でのトレーニング内容

座位姿勢でのトレーニング内容

 

立位が不安定な患者は、身体機能が脆弱化している可能性があります。安全を考慮して座位姿勢で運動を行いましょう。 

 

座位姿勢で姿勢を支える筋肉や歩行に必要な筋肉を意識したトレーニングを行い、身体機能の改善とともに立位の運動へとステップアップしましょう。

 

2立位姿勢でのトレーニング(図5

図5立位姿勢でのトレーニング内容

立位姿勢でのトレーニング内容

 

立位・歩行が可能な患者には、身体機能を強化するために立位での筋力トレーニングやバランストレーニングの運動を行います。運動時の転倒を防ぐため、廊下の手すりやベッド柵を把持できる場所で行いましょう。

 

3臥位姿勢でのトレーニング(図6

図6臥位姿勢でのトレーニング内容

臥位姿勢でのトレーニング内容

 

安静臥床が必要な患者は、廃用による筋力低下関節拘縮持久力低下などを起こす恐れがあります。特に高齢の患者は短期間で廃用を起こすため、離床が可能となったときに転倒しやすい状態となります。 

 

臥床期から身体に負担となるリスクに配慮しつつ、廃用を予防する運動を行いましょう。

 

トレーニングで“万事OK”にあらず!多面的な介入を

病院入院や施設入所患者に対する試験的介入の報告として、Becker(ベッカー)らは、スタッフ教育と患者教育環境整備指導筋力トレーニングおよびバランストレーニング外傷予防のためのヒッププロテクター装着からなる多面的アプローチの介入により、有意に転倒発生率を減少したと報告しています(4)。 

 

転倒予防のための運動だけでなく、多職種で連携をとりながら、患者それぞれの状態に合わせた多面的なアプローチを実施していくことが重要です。

 


 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社

 

P.108~111「転びやすい患者に有効な、身体機能を強化する運動ってあるの?」

 

[出典] 『エキスパートナース』 2015年9月号/ 照林社

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