その症状、もしかしたら違法ドラッグかも?!|キケンな動植物による患者の症状【1】

嘔吐や気分不良など、中毒症状を訴えて来院する患者の中には、まれに「え?これが?」と驚くようなものが原因の場合があります。
この連載では、外来などで比較的遭遇する確率の高い意外な原因について、特徴的な症状や気を付けておきたいポイントなどについて説明します。ぜひ、看護師の皆さんには「あれ?もしかしたら○○が原因?」と疑える力(知識)を身に付けていただければと思います。

 

守田誠司
東海大学医学部付属病院 外科学系救命救急医学講座教授

違法ドラッグ,危険ドラッグ,麻薬

 

〈目次〉

 

違法ドラッグって?

現在、厚生労働省で「違法ドラッグ」と呼ばれているものは、かつて、「合法・脱法ドラッグ」や「危険ドラッグ」などとも呼ばれていました。それらが法律の目をかいくぐって世の中に流通し、さまざまな社会問題を引き起こしたのはまだ皆さんの記憶にも新しいと思います。

 

2013年には薬機法(旧:薬事法)の一部が改正され、現在は「個人の使用・所持・譲渡」は禁止になり、違反すれば犯罪となります(1)。これによって、最近は使用者が少なくなったように見えますが、実際には多くの使用者がいると考えられています。

 

さらに、現在もさまざまな種類の違法ドラッグが開発され、それがどのような主成分で、どのような副作用があるか分からないことが多く、また剤型も錠剤・アロマ・吸入剤などさまざまです。
従って、違法ドラッグにより中毒に陥った患者は、雰囲気や直感から疑い、上手に問診を行うことが診断のカギになります。

 

違法ドラッグ中毒患者にはどんな症状が出る?

違法ドラッグによる症状や重症度はさまざまですが、一般的には嘔気・嘔吐・気分不快や意識障害などの症状が見られます。
医学的に説明できない興奮や意識障害などは違法ドラッグの可能性を疑ったほうがいいでしょう。過去には、既往のない初発の痙攣で来院した患者もいました。

 

違法ドラッグには、覚醒剤のように過度な興奮を出現させるアッパー系やヘロインなどのようにボーっとするダウナー系があります。アッパー系では、興奮・発汗・瞳孔散大など交感神経優位の症状が出現し、ダウナー系では、意識障害などの症状が中心に出現します。

 

違法ドラッグ中毒患者はこんな雰囲気や発言が決め手!

違法という性質上、患者も本当のことを話さないことが多いと思われます。なんとなく不自然な受け答えや、つじつまの合わない発言をする場合、また質問に対してごまかすような対応をする患者には違法ドラッグを疑う必要があるかもしれません。また、幻覚が見えているような発言なども決め手になることがあります。

 

患者さんにどんな幻覚が見えてるかは聞かないほうがいいかもしれません。

 

違法ドラッグ中毒患者の問診ポイント

違法ドラッグは、「トライエージ DOA®」のような、薬物中毒検出用キットでも検出されないので、問診が非常に大切になります。現状では、医学的な診断方法はありません。従って、診断には問診しかないのです。

 

違法でなかったころには、患者自ら「これを使ったら気分が悪くなった」など、自己申告してくれることもありましたが、違法となった現在では「通報される」「警察に逮捕される」などの理由から、本当のことを言わない患者が多くなりました。そういう患者の場合、どのように問診を進めていくべきかを以下に説明します。

 

ポイント1 違法性を強調しない

あまり、「違法」を強調すると、患者は本当のことを話さなくなってしまいます。また、原因が違法ドラッグでなかった場合、トラブルを起こすこともあるので注意が必要です。原因が違法ドラッグによるものか疑っても、そのことだけを強調すると、診察自体にマイナスになることが多いです。

 

ポイント2 疑っているのではなく、「皆に聞いていること」と強調する

「とりあえず、皆さんに聞いているんですけど、変な薬とか使ったり、飲まされたりしたようなことはないですか?」など、会話の中に自然に入れて聞いていくのが効果的です。

 

ポイント3 症状を良くしてあげたいことを強調する。

自分たちは医療者であり警察ではないこと、とにかく「原因を知って症状を改善してあげたい」ということを強調することで、本当のことを話してもらえることがあります。

 

違法ドラッグ中毒患者の処置・治療法

違法ドラッグは使用した物(名前)が分かっても、その成分が何か分からないことがほとんどです。そのため、輸液を行い、尿中への排泄を促進させるしかありません。従って、積極的な治療をすることは困難であり、たとえば、痙攣などの身体症状が出現すれば、抗痙攣薬を投与するといった対処療法が基本的な治療の中心となります。

 

違法ドラッグ中毒患者にはここにも注意!

注意1 患者は若者とは限らない

なんとなく「違法ドラッグ使用者=若者」というイメージがないですか? しかし、実際には、50代、60代の患者もたくさんいます

 

注意2 雰囲気で疑って、ほかの疾患をおろそかにしない

違法ドラッグが原因だと医学的に確定診断する方法がない以上、前述したような雰囲気や発言で疑っても、必ずほかの疾患がないかどうかを鑑別する必要があります。
違法ドラッグ中毒患者の場合、どちらかというと、除外診断的な進め方になることを覚えておいてください。

 

注意3 重症化も

違法ドラッグは主成分が不明なものが多く、使用量や使用方法によっては重篤になる可能性があります。血液検査などで臓器障害の有無を確認する必要があります。死亡例も報告があるため(2)、慎重に検査・治療を行わなければいけません。

 


 


⇒『覚えておきたい キケンな動植物による患者の症状』の【総目次】を見る

 


[Design]
ロケットデザイン

 

[Illustration]
山本チー子

 


SNSシェア

看護知識トップへ