抗がん剤投与時、点滴ラインを満たす際に抗がん剤が看護師の手にこぼれたが、手袋を装着していなかった!

『看護のピンチ!』(照林社)より転載。
今回は、抗がん剤投与時、点滴ラインを満たす際に抗がん剤が看護師の手にこぼれたが、手袋を装着していなかった場合について解説します。

戸坂 優花

河北総合病院薬剤科
薬剤師

 

 

 

患者に抗がん剤投与時、点滴ラインを満たす際に抗がん剤が看護師の手にこぼれたが、手袋を装着していなかった焦っている看護師のイラスト

 

ピンチを切り抜ける鉄則

抗がん剤曝露は予防が第一ですから必ず個人防護具を装着して取り扱います。
しかし、曝露した場合は直ちに適切な対応を行うことが大切です。
曝露による影響をよく理解し、正しい知識に基づいた安全な取り扱いをすることによって曝露のリスクを低減することができます。

 

POINT
  • 抗がん剤はHD(hazardous drugs)の1つであり、抗がん剤の曝露は医療従事者にとって大きなリスクです。
    そのため、職業性曝露の機会や曝露による影響について理解し、適切な対策をとる必要があります。
    また、実際に曝露した際の対応について知っておくことも重要です。

 

 

起こった状況

症例

胃がんで入院中の患者Aさん。治療目的に抗がん剤の投与が開始となりました。
抗がん剤投与にあたりプライミングをした際に、輸液チューブの先端から抗がん剤の薬液が漏れ、看護師の手にこぼれてしまいました。
その際、看護師は手袋を装着しておらず、どう対応してよいかわからずオロオロしています。

 

 

どうしてそうなった?

本来、曝露予防対策の観点から抗がん剤投与前に生食などでプライミングをする必要がありますが、今回の症例では抗がん剤入りの輸液でプライミングを行っていたと考えられます。

 

また、個人防護具(personal protective equipment:PPE)の適切な使用方法や抗がん剤曝露のリスクに関する知識が不十分であったと考えられます。

 

 

どう切り抜ける?

1 HDの定義

HD(hazardous drugs)とは職業上の曝露によって健康被害をもたらすことが知られているか、あるいは疑われている薬品のことです。
米国国立労働安全衛生研究所(National Institute for Occupational Safety and Health:NIOSH)では、ヒトまたは動物に対して表1に示した6項目のうち、いずれか1つ以上に該当するものと定義しています。

 

表1HDの定義

HDの定義を表した表

 

2 職業性曝露による健康への影響

抗がん剤は、がん細胞に対しては殺細胞作用がある反面、変異原性、催奇形性、発がん性をもつことが明らかになっています。
抗がん剤曝露による影響は、急性症状の発現と長期的な健康への影響です(表2)。

 

表2HDの職業性曝露による影響

HDの職業性曝露による影響を表した表

日本がん看護学会,日本臨床腫瘍学会,日本臨床腫瘍薬学会:がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン 2019年度版,金原出版,東京,2019:23.より引用

 

3 注射薬投与管理時の曝露機会

投与の場面において、輸液チューブを輸液バッグに刺入するときや輸液チューブ内を薬液で満たすプライミング作業時、輸液チューブの接続や取り外し時などさまざまな曝露の機会があります。

 

4 注射薬プライミング時の曝露予防対策

適切なPPEを装着し、皮膚や粘膜への曝露を防ぐ必要があります(図1)。

 

図1投与時のPPE

投与時のPPEを表した図

 

手袋は抗がん剤への耐性が確認されているニトリル製、ラテックス製などのパウダーフリーの製品を使用し、ガウンは背開きで長袖のものを選択します。
手袋は二重に着用することが望ましく、1枚はガウンの袖口の下、1枚は袖口の上に着用します。

 

閉鎖式薬物移送システム(closed system drug transferdevice:CSTD)を使用できない場合は、フェイスシールドやゴーグル、呼吸器防護具(N95マスクなど)の着用が必要になります。

 

投与時にCSTDを用いることが推奨されますが、これを用いない場合はバックプライミング注1を行うことによってHDによる汚染を最小限に抑えることができます。
ただし、輸液チューブに逆流防止弁がついている場合にはバックプライミングは行えません。

 

注1:バックプライミングとはメインボトルから生理食塩液を逆流させてプライミングする方法。

 

5 抗がん剤曝露時の対応

皮膚や手指に付着した場合は、直ちに流水と石けんで十分に洗浄します。
大量に付着した場合は応急処置後に皮膚科を受診します。
汚染された衣類やPPEは汚染した部位に触らないように、また周囲を汚染しないように注意しながら、直ちに脱ぎます。

 

 

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文献 閉じる

1) 日本がん看護学会,日本臨床腫瘍学会,日本臨床腫瘍薬学会:がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン 2019年度版,金原出版,東京,2019.

2) 日本薬剤師会:抗がん薬安全取扱いに関する指針の作成に向けた調査・研究(最終報告).2014.

3) 佐伯康之,松尾裕彰:抗がん薬曝露のリスク軽減に向けて.日本小児血液・がん学会雑誌 2020;57(3):251-256,2020.

 


 

本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『看護のピンチ』 編集/道又元裕/2024年4月刊行/ 照林社

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