取れない帽子|マンガ・精神科ナースになったわけ【2】

ナースに会ってきた』『じたばたナース』でおなじみの水谷緑さん。
先日、精神科の現場をリアルに描いたコミックエッセイ『精神科ナースになったわけ』が発売されました。

前回に続き、2週連続で看護roo!に出張連載です!

 

入職後、毛糸の帽子の女性、総合失調症の細木さんの担当になった。夏間近だったが、細木さんは毎日帽子をかぶり汗をかいている。寝るときもずっと取らないので臭い。帽子のことは感嘆には触れない気迫だけど、「思いっきりわしわし洗いたい!」と思っていた。

師長から、盆踊りを覚えてくださいという指示があった。院内では季節感を失わないようにイベントが開かれていた。8月は盆踊り大会があるから、患者さんと踊れるようになってほしいということだった。看護師たちは皆忙しそうだったので、10年この病院にいる細木さんに聞くことを思いついた。

細木さんに盆踊りを教えてほしいとお願いすると、緊張した面持ちながら「いいけど…」と言ってくれた。マンツーマンのレッスンが始まり、見本を見せてくれながら教えてくれる。

こうだと思ってやってみても「違うってば、あなたヘタね」と教えてもらいながら、会話も続き…

教えてもらううちに細木さんは笑うようになってきた。いつも緊張した顔をしているので、つかの間の晴れ間のようでほっとする。そこで、帽子のことを聞いてみた。帽子をかぶっている理由は「脳みそが出て来るから」という細木さん。

「この人はこの人のルールで生きているんだ」教科書では妄想は否定も肯定もしてはいけないと書いてある。でも患者さんにとっては毎日物前で起こっている現実。「大変ですね…それで帽子をかぶっていたんですね。ずっとかぶってて頭はかゆくないですぁ?大丈夫ですか?」と言うと、「わかんないけど…少しあつい」という返事が。

そこで「もしよかったら、私に3分だけ時間をもらえませんか?帽子を取って3分でタオルで髪の毛をふいて、すぐ戻してみます」と提案。細木さんは少し迷っていたようだけど、コクンとうなずいてくれました。鏡の前に座ってもらい。「帽子取ります」と声をかけて、外すときビクッとする細木さんの髪の毛をタオルでわしゃわしゃふいていきます。

ずっと緊張していた細木さんに、拭き終わって帽子をかぶせ、「どうでした!?」と聞くと「出て…ない…」と一息ついた様子。肯定も否定もしないのは…目の前にいるのに無理があるよ。そして1週間後…。「細木さん、よかったら今日は、私に5分くれませんか?」と声をかけた。

「5分あればシャワーできると思って…」と提案。「この前3分なら脳みそ出ませんでしたし…」と聞くと、「いいわよ」と答えてくれました。同じ調子で7分…10分と延ばして、シャンプー・ドライヤーまでできるようになった。

おかしな行動に見えても、何か理由がある。上辺だけ見ないように、その人その人の理由を探そう。この仕事の奥深さを感じ始めた。

 

 


【著者プロフィール】

水谷緑(みずたに・みどり)

水谷緑

著書は「コミュ障は治らなくても大丈夫」(吉田尚記、水谷緑)「まどか26歳、研修医やってます!」「あたふた研修医やってます。」(KADOKAWA) 他。小学館「いぬまみれ」にて犬漫画「ワンジェーシー」連載。

HP:http://mizutanimidori.com/

 

○●新刊情報●○ 2017/04/12発売!
『精神科ナースになったわけ 』(コミックエッセイの森)

精神科ナースになったわけ

人はなぜ心を病むんだろう
普通のOLだった太田良枝は、肉親の死による悲しみで、心のコントロールが利かなくなってしまった経験から心の病に興味を持つようになり、精神科の看護師になることを決意。
ー精神科のリアルな現場を新人看護師の目線で描くコミックエッセイ

 

 

○●『じたばたナース』が本になりました!●○

2年間の連載に加えて、50P以上の描きおろし&「腐女医」さーたりさんからの寄稿を含むオリジナルコラムも掲載しました。

Amazonや各書店で好評発売中です。

 

『じたばたナース 4年目看護師の奮闘日記』(KADOKAWA)

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