「働く意義」は、心がけ1つで作り出せる ｜ナースのお悩み処方箋【29】

「あなたがそこで働いている意味なんて、ない。ただ、あなたがそこにいる意義なら、心がけ次第でいくらでも作り出せる」

長い読者さんはご存じでしょう、新人時代の私は本当に使えない看護師だったことを。
ですが、もう何年もこの仕事に就いていると、それなりに使えるようになってくるものですね。
『石の上にも三年』。
そのことわざが身に染みます。

自分が使えない看護師だと自覚している間は、本当に辛かったです。
回してもらえる仕事は誰にでも――それこそ看護師免許がなくてもできる仕事ばかり。
褥瘡のない患者さんのおむつ交換、食前食後の口腔ケア、体位変換に洗髪・清拭、挙げ句の果てには、清拭用のタオル巻き。

それなりに有名な看護学校を出たプライドがへこみまくりです。
「こんな仕事、私がする意味、あるの？」
そんなことばかり考えて、いつ辞めようかと、辞め時を狙っていました。

そんなある日、師長に呼び出されました。
「仕事に不満があるなら、全部話せ」と。

その言葉に甘えて、言いたいことを全部ぶちまけました。
途中、感情が高ぶって泣いてしまいましたよ、あまりにも自分が情けなくて、みじめで。
だって、他の先輩たちは普通に働いているのに、私にはその『普通』ができないのですから。

師長は黙って聞いてくれた後、静かに言いました。
「あんた、自分の立場、わかってる？」

意味がわかりませんでした。
話せと言われたから話したのに、そんな言葉をぶつけられるなんて。

「あんたは自分がデキない看護師や思って、拗ねるだけ。
で、何でもかんでも、エエ加減にやっとる。
もしかしたら、あんたはものすごくデキる看護師かもしれん。
でもな、実際、ウチらはあんたがエエ加減じゃない仕事をしてる様子を見たことないから、あんたがデキる看護師かどうかなんてわからん。
わからんことは、評価しようがない」

だったら、ちゃんとした仕事をやらせてくれればいいのに、と思いました。

「ぶっちゃけた話をするとな、あんたがデキる看護師かどうかなんて、病棟には関係ないねん。
病棟にしてみれば、何人もいてる看護師の全員が優秀やなくてもええねん。
そりゃあ、スタッフは優秀な方がええけどな」

更に意味がわかりません。
優秀でないスタッフでも良いなんて、どんな物好きかと思いました。

「言い方は悪いけど、スタッフっていうのは歯車のひとつやねん。
たとえガタガタで使い勝手の悪そうな、デキの悪い歯車でも、それなりの使い道は必ずある。
それを探すんが、うちら肩書きつきの役目や」
「……だから、誰にでもできるような仕事をさせてるってわけですか？」
「ありていに言えば、そうやな」

ショックでした。
自分が使い勝手の悪い人材だとはわかっていても、はっきり面と向かって言われるとは思いませんでしたから。
だから、こう言ってしまったんです。
「それじゃあ、私がここで働いている意味はないじゃないですか」

師長はあっさりと頷きました。
「ん、ないな」

もうこれ以上は働けないと思いました。
寮に帰ったら辞表を書こうとも思いました。

「病院があんたを雇ったのは、あんたが看護師免許を持った看護師やからやで。
あんたの働く意味なんざ、病院の知ったことやない。
あんたがココで働く意味なんざ、あんた自身が作るもんで、病院や上司が見つけてやるようなもんでもないわ」

みなさんが、私のように使えない新人だったら、この師長の言葉をどう受け止めるのでしょうか。
逆に、もし師長だったら、使えない新人にこういうアドバイスができるでしょうか。

当時の私は何も見えていなかったので、師長の言葉の意味はわかりませんでした。

でも、今ならわかります。
使えない見習い看護師なんて切り捨てて、もう少し使える見習い看護師を雇えば良かったのに、師長はそうしなかったのです。

腑に落ちない顔をしている私に、もっとわかりやすく説明してもらったのですが、長くなったので、それはまた次回へ。

 【岡田久美】 兵庫県出身。看護書籍の編集とゲームシナリオライターを本業に、フリーの看護師として活躍中。いつでもどこでもどんなところでも勤務できるオールマイティな看護師を目指し、これまでの勤務職場は病院、クリニックなど30以上。

著書に「看護師の流した涙」（ぶんか社）がある。