「今日の看護、これでよかった?」ドラマ『風、薫る』の考証者に聞く、看護に迷ったときの“2つのものさし”

風薫るの集合写真

(写真提供:NHK、以下同)

 

「毎日忙しく作業に追われ、『今日やったことって、本当に看護だったのかな…』とモヤモヤする」 そんな悩みを抱えていませんか?

 

朝の連続テレビ小説『風、薫る』は、明治期の看護婦・大関和をモチーフに、主人公たちが「看護とは何か」を問いかけながら成長していく物語。SNSでも看護師を中心に「セリフが刺さりすぎる」と話題を集めていました。

 

大反響のうちに最終回を迎えた本ドラマで、「ナイチンゲール考証」を務めた金井一薫先生にインタビュー。ドラマの場面を振り返りながら、明日からの現場が少しラクになり、自分の看護に自信が持てるヒントを聞きました!

 

(聞き手/看護師のかげ、ライター/白石弓夏)

 

看護師のかげ、金井先生

右:金井一薫先生(ナイチンゲール看護研究所 所長、『風、薫る』ナイチンゲール考証)

左:看護師のかげさん(ドラマ原案『明治のナイチンゲール 大関和物語』(文庫版)の「あとがき・解説」を担当)

※時代考証:作品の時代背景や記述が史実に沿っているかを確認・指導する役割。

 

「ただの優しさ」だけでは看護師になれない?

観察を考える看護学生、風薫る

第24回:『観察(Observe)』の本質とは

ノーマルなかげさんのアイコン

ドラマの前半、 第24回で「観察」がテーマになった時、個人的には「あぁ!いよいよ本格的に看護の内容に入っていくな!」とワクワクしたのを覚えています。

 

「観察」は、現場では当たり前にやっていることですが、改めて考えると奥が深いですね。

 

金井一薫さんを表すアイコン

ナイチンゲールも「正確な観察習慣を身につけないかぎり、われわれがどんなに献身的であっても看護師としては役に立たない」(『看護覚え書』第8版、現代社、p.189)と書いています。

 

ノーマルなかげさんのアイコン

おぉ…!厳しい言葉ですが、身につまされます!

 

金井一薫さんを表すアイコン

同情心や優しさ、熱意は大切ですが、それだけでは看護は成り立たないですよね。

 

「観察に始まり、観察に終わる」という看護の基本が、ドラマで丁寧に描かれたことで、看護の原点を改めて感じることができますね。

 

 

「お気持ちわかります」は、患者さんのための言葉?

風薫る場面写真

第36回:「共感」だけがケアじゃない。そばにいることの意味

ノーマルなかげさんのアイコン

乳がんの患者さんに「お気持ちわかります」と言って、「たやすく言わないでちょうだい」と拒絶されるシーンがありました。

 

SNSでも、大きな話題になったシーンです。

 

金井一薫さんを表すアイコン

つい、ね…。看護学生や看護師になりたての頃は。よかれと思って言ってしまう言葉ですよね。

 

ノーマルなかげさんのアイコン

先生は、このシーンはどうご覧になりましたか?

 

金井一薫さんを表すアイコン

私は、その後のシーンで患者さんが「あなたが身内でなくて良かった」というようなことを言っていたのが印象的でした。

 

看護師という「他人」が、職業人としてそばにいてくれる。

だからこそ患者さんは、自分の気持ちを出せることがあるんです。

 

看護師には、「ただ共感すること」を超えてできるケアがあります。

 

ノーマルなかげさんのアイコン

そのあと、りん(主人公)が落ち込んでいたら、バーンズ先生が紅茶を差し出して、何も言わず隣に座る場面もありましたよね。

 

バーンズ先生、風薫る

 

金井一薫さんを表すアイコン

あれも、とてもいい場面でした。

 

何か気の利いた言葉をかけるのではなく、ただそばにいる。

 

「何か言わなきゃ」ではなく、「そばにいること」そのものがケアになることもあるんですよね。

 

ノーマルなかげさんのアイコン

必ずしも言葉だけがケアではないのですね。

 

金井一薫さんを表すアイコン

そう。患者さんを「観察」して、「今患者さんに本当に必要なことは何か」を考える。

それを行動に移してみると、「ただそばにいること」だったりするんです。

 

 

「みんなを生かす」ために自分を守る感染対策

バーンズ先生と主人公のりん

第28回:なぜ窓を開けて換気するのか?

ノーマルなかげさんのアイコン

第28回では、コレラ患者への対応を練習する場面がありました。

 

主人公のりんは、何度もやり直しをさせられたあと、ついにOKをもらって。

 

そのとき自分が意識したのは、「自分自身が感染しないことだった」と話します。

 

金井一薫さんを表すアイコン

指導役のバーンズ先生が「あなたの手は、この先何万人もの患者を救う手になる」と指導していましたね。

 

ノーマルなかげさんのアイコン

ナイチンゲールも、自分自身が感染しないための方法を教えていたのでしょうか?

 

金井一薫さんを表すアイコン

当時はまだ「細菌」が発見される前で、病気は汚れた空気から起こる(瘴気説:しょうきせつ)と考えられていました。

 

ナイチンゲールが重視したのは、自分だけが感染しないようにすることではなく、患者さんを含めたその場にいる人たちが感染しない環境をつくることでした。

 

そのために、換気や清潔、陽光などを重視したんです(『看護覚え書』第8版、現代社、p.21「換気と保温」)。

 

ノーマルなかげさんのアイコン

ドラマでも、窓を開けたり、掃除をしたりする場面が繰り返し出てきましたよね。

 

金井一薫さんを表すアイコン

あれは象徴的な演出だと思います。

『看護覚え書』には、空気の通り道をつくることまで、詳しく書かれているんですよ。

 

 

「私たちは、お医者様の部下ではありません」

風薫る、主人公の直美

第61回:対等な専門職としての看護師

ノーマルなかげさんのアイコン

第61回では、もう一人の主人公・直美が医師に向かって、「私たちは、お医者様方の部下ではありませんので」と言い放ちます。

 

SNSでも「かっこいい」「よく言った!」と大きな反響があった場面でしたね。

 

私だったら、なかなか言えないですが(笑)。

 

金井一薫さんを表すアイコン

本当に気持ちのいいセリフですよね。

 

もちろん、当時の時代背景を考えると、実際にはこんなふうに言うのは簡単ではないだろうと思います。

 

でも、ドラマの中でこのセリフが表しているのは、

「看護には、看護師だからこそ担える専門性がある」

ということだと思っています。

 

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看護の専門性を堂々と伝えてくれて、誇りに思った視聴者も多いと思います。

 

金井一薫さんを表すアイコン

とはいえ、看護には医師の指示を受けて行う仕事も多いのです。

でも、それだけではありません。

 

「患者さんを観察し、生活を見て、変化を捉え、必要なケアを考える」

そこに看護の専門性があります。

 

風薫る

 

 

「今日やった看護」に自信が持てる“2つのものさし”

ノーマルなかげさんのアイコン

ここまでドラマのいろいろな場面を振り返ってきましたが、実際の毎日はこんなにドラマチックなことばかりではなく…。

 

一日を振り返って、「今日やったことって何だったんだろう」とモヤモヤすることがあります。

 

金井一薫さんを表すアイコン

そういうときに役立つのが、ナイチンゲールの考え方です。

『看護覚え書』のサブタイトルは、「看護であること・看護でないこと」。

 

つまりナイチンゲールは、「看護とは何か」を考え・定義することができる、と伝えているんです。

 

ナイチンゲールの『看護覚え書』について笑顔で話す金井一薫先生

 

金井一薫さんを表すアイコン

「今日の自分のケアは、看護だったのかな?」

そう思ったら、2つのものさしで振り返ってみてください。

 

①その人の「もてる力」を活かせたか

②その人の「生命力」の消耗を最小にしたか

 

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「もてる力」「生命力を高める」とは、たとえば、どんなことでしょう?

 

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「もてる力」というのは、大げさなことでなくていいんです。

「今日は笑顔が見られた」

「看護師の声かけに反応してくれた」

「自分で少し歩けた」

 

など、患者さんを観察してつかむ、ちょっとした力です。

 

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小さな変化でもいいのですね。

 

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そうです。たとえば、認知症の患者さんが「夜間徘徊する」と考えると、それは「問題行動」になります。

 

でも、「たくさん歩く力がある」と捉えれば、それはその人の「もてる力」です。

その力をどうケアに活かせるかを考える。

 

ノーマルなかげさんのアイコン

そう考えると、同じ患者さんの姿でも、見え方が全然変わりますね。

 

金井一薫さんを表すアイコン

そうなんです。

「できなかったこと」ではなく、「できたこと」に目を向ける。

 

そこから、「患者さんの生命力を高めるケアってなんだろう」と考えます。

 

患者さんの回復につながるケアになりますし、看護師自身のやりがいにもつながります。

▶詳しくは「小さなケアに思えることでも患者の回復につながっている|本当に知りたいナイチンゲールの看護の話【5】」

 

ノーマルなかげさんのアイコン

わかりやすくてシンプルですね。私もやってみます!

 

▶後編へ続く!

後編では、金井先生が「台本を読んで鳥肌が立った」という制作舞台裏を伺います!

 

編集・取材時写真/坂本綾子(看護roo!編集部)

 

●文献

・湯槇ます,薄井坦子,小玉香津子,他訳,フロレンス・ナイチンゲール:看護覚え書―看護であること 看護でないこと(改訳第8版).現代社,2023

 

●新刊

・金井一薫 著:介護とは何か―いのちのしくみに基づくケア.現代社,2026

・金井一薫 著:ナイチンゲールKOMIケア理論―生命科学モデルに基づく看護理論.現代社,2026

・小南吉彦 著,金井一薫 監:看護とは何か―連続講義『看護覚え書』を読む.現代社,2025

 

●これならできるKOMIシステム

KOMIシステムは「ナイチンゲール看護思想」と「KOMIケア理論」とを合体させたうえで、 その理論にもとづいて実践を展開できるように開発された実践記録のためのツールです。

「無償版」と「有償版」があります。(▶詳しくはコチラ)

 

●訪問看護ステーションユーナ

「ユーナ」とは、ナイチンゲールが彼女の一番弟子、アグネス・ジョーンズにつけた愛称です。

訪問看護ステーションユーナでは、ナイチンゲール思想を大切にし、KOMIケア理論を学び合い、KOMIシステムを活用したケアを展開しています。

▶ホームページ

 

●ナイチンゲール研究所

[ホームページ]

新しいナイチンゲール看護研究所

F.N.A.ナイチンゲール看護研究所HPバナー

 

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金井 一薫(かない・ひとえ)

金井一薫さんを表すアイコン

●主な経歴
1993年1月~2008年3月
日本社会事業大学社会福祉学部 福祉援助学科 講師・助教授を経て教授
2008年4月~2009年3月
東京有明医療大学設立準備室
2009年4月~2013年3月
東京有明医療大学 看護学部看護学科 教授・看護学部長
2013年4月~2015年3月
東京有明医療大学 看護学部 看護学科 特任教授
2015年4月~現在
東京有明医療大学 名誉教授
2017年10月~2025年3月
徳島文理大学大学院 看護学研究科 教授
2019年6月
『新版 ナイチンゲール看護論・入門』(現代社)
著書・論文多数

 

【聞き手:かげ】X

ノーマルなかげさんのアイコン

総合病院で働き、絵を描く看護師です。医療の勉強に役立つ(てほしい)絵や仕事でのほっこり話などを発信しています。

 

●2026年度前期 連続テレビ小説「風、薫る」

【放送予定】 2026年3月30日(月)より、全26週(130回) ※NHK ONEで同時・見逃し配信中

【原案】 田中ひかる 『明治のナイチンゲール 大関和物語』

【主題歌】 「風と町」Mrs. GREEN APPLE

【出演】 見上愛、上坂樹里 ほか

 

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