肺がん

『本当に大切なことが1冊でわかる呼吸器』より転載。
今回は肺がんについて解説します。

 

 

佐々木陽子
さいたま赤十字病院外来化学療法室看護係長
がん化学療法看護認定看護師

 

 

肺腫瘍の全体像

肺腫瘍は、原発巣によって原発性肺腫瘍と転移性肺腫瘍に分類されます(図1)。

 

図1 肺腫瘍の種類

肺腫瘍の種類

 

原発性肺腫瘍には悪性と良性があります。悪性腫瘍(肺がん)のほとんどが上皮性悪性腫瘍です。上皮性悪性腫瘍は、組織型で分類します。

 

memo:過誤腫

肺の正常細胞が局所的に異常増殖したもの。50~60歳代男性に好発し、良性腫瘍の中で最も頻度が高い。大部分は無症状で偶然発見されるが、気管支閉塞を伴うと、咳嗽、喀痰、無気肺を呈することがある。悪性との鑑別が困難な場合は腫瘍切除術が行われる。

memo:硬化性肺胞上皮腫

肺胞上皮に由来し、肺末梢に発生する良性腫瘍。30~60歳代の女性に好発し、血痰を呈する。気管支動脈造影でメロンの皮様という特徴的な所見がみられる。

memo:カルチノイド

気管支上皮基底部に存在する神経内分泌顆粒を持つ細胞由来とされ、神経内分泌腫瘍に分類される。発生部位では中枢型と末梢型があり、中枢型は血痰、咳嗽、気管支狭窄による喘息などの症状があり、末梢型は無症状のことが多い。肺がんに準じた治療が行われる。

 

 

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肺がんの統計

令和元(2019)年にがんで死亡した人は376,425人(男性220,339人、女性156,086人)で、部位別の順位をみると肺がんは1位男性1位女性2位)です(表1)。

 

表1 2019年の部位別のがん死亡数順位

2019年の部位別のがん死亡数順位

 

 

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肺がんの危険因子

喫煙は最も重要な危険因子となっています。特に扁平上皮がん小細胞がんでは喫煙との関係が深いとされています。喫煙者が肺がんとなるリスクは男性で4.4倍、女性では2.8倍ほど高いといわれていて、喫煙開始年齢が低いほどリスクが高くなっています。

 

その他の危険因子には、COPD(肺気腫、慢性気管支炎)、間質性肺炎、職業性曝露(アスベスト、ラドン、ヒ素、クロロメチルエーテル、クロム酸、ニッケル)、大気汚染、肺がんの既往歴や家族歴、肺結核症、50歳以上などがあります。

 

 

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患者さんはどんな状態?

肺がん特有の臨床症状はないとされていますが、多くは咳嗽、喀痰、血痰、発熱、呼吸困難、胸痛のような呼吸器症状や、転移病巣による症状をきっかけに発見されます。

 

肺がんは発生部位(図2)や大きさ、進行度によって出現する症状が異なります。

 

図2 肺がんの発生部位

肺がんの発生部位

 

肺門近くにできる腫瘍(中枢型)は気管支粘膜を刺激し、咳嗽や喀痰、血痰を生じ、腫瘍が気管支に浸潤すると喘鳴や呼吸困難を引き起こします。肺野にできる腫瘍(末梢型)では、胸痛や胸水貯留をまねきます。

 

腫瘍や腫大したリンパ節が上大静脈を圧迫し、上大静脈症候群が起きることがあります(図3)。

 

図3 上大静脈症候群

上大静脈症候群

 

 

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どんな検査をして診断する?

患者さんの受診動機としては、検診での胸部X線上の異常陰影や、呼吸器症状が多くみられます。その場合、簡便なスクリーニング検査として喀痰細胞診が行われます。

 

肺がんの診断は、病変から採取した細胞や組織検体の病理検査で確定診断がされます。その方法には、気管支鏡検査やCTガイド下生検、外科的生検があります。


肺がんの病期診断では、CT、MRI、FDG–PET骨シンチグラフィなどが行われます。

 

肺がんの組織型

肺がんの組織型には、神経内分泌細胞由来の小細胞がんと、気道内上皮由来の非小細胞がんがあります(表2)。

 

原発性肺がんは、扁平上皮がん腺がん大細胞がん小細胞がんで90%が占められています。

 

表2 肺がんの組織型

肺がんの組織型

★1 SCC(squamous cell carcinoma related antigen)
★2 CYFRA(cytokeratin 19 fragment)
★3 CEA(carcinoembryonic antigen)
★4 SLX(sialyl lewis X-i antigen)
★5 NSE(neuronspecificenolase)
★6 Pro-GRP(pro gastrin releasing peptide)

 

memo:腫瘍マーカー(表3

がん細胞がつくり出す物質、またはがん細胞に反応してがんではない細胞がつくり出す物質のこと。組織や血液、尿等で検出され、がん細胞の存在や種類の補助診断で用いられている。

 

表3 腫瘍マーカーの例

腫瘍マーカーの例

 

非小細胞肺がん

非小細胞肺がんは、扁平上皮がん、腺がん、大細胞がんがあります。臨床病期やパフォーマンスステータス(PS;performance status)、遺伝子変異による分子マーカー診断に応じて治療が行われます。

 

扁平上皮がんの特徴は表4です。

 

表4 扁平上皮がんの特徴

扁平上皮がんの特徴

★1 PTHrP(parathyroid hormone-related peptide)

 

memo:パパニコロウ染色

肺がんのスクリーニング検査の喀痰細胞診で行われ、染色液を用いて細胞を染色する手法。核は青(ヘマトキシリン)、角化細胞の細胞質はオレンジ、その他の細胞質はライトグリーンに染め分けられる。

memo:副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)による高カルシウム血症

がんが副甲状腺ホルモンに類似した蛋白質をもち、血液中に分泌することで、副甲状腺ホルモン受容体に結合し、骨からカルシウムが血液中に放出され、腎臓でのカルシウムの再吸収が促進することで高カルシウム血症を生じる。扁平上皮がんで過剰に産生される。症状として倦怠感、嘔気、嘔吐、食欲不振、脱水による口渇、多飲、多尿があり、放置すると意識障害がみられることがある。

 

腺がんの特徴(表5)と、X線とCT(図4)は下記のとおりです。

 

表5 腺がんの特徴

腺がんの特徴

 

図4 腺がんのX線、CT

腺がんのX線、CT

 

非小細胞肺がんの治療の選択概要は図5です。

 

図5 非小細胞肺がんの治療の選択

非小細胞肺がんの治療の選択

日本肺癌学会ウェブサイト「肺癌診療ガイドライン2019年版 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む」より作成
国立がん研究センター:がん情報サービスウェブサイトより転載(2020.12.01アクセス)

 

小細胞肺がん

小細胞肺がんは、限局型(LD;limited disease)進展型(ED;extensive disease)に大別され、治療方針が決定されています。

 

進行が速く、診断時に浸潤や転移していることも多いため、再発が多く予後は不良とされています。

 

好発や症状などの特徴は表6です。

 

表6 小細胞肺がんの特徴

小細胞肺がんの特徴

 

memo:バソプレシン分泌過剰症

小細胞肺がんなどの腫瘍細胞から、抗利尿ホルモンの異所性産生により発生する。抗利尿ホルモンの不適合分泌により体内に水分が貯留することで血液が希釈され、低ナトリウム血症や低浸透圧血症を引き起こし、食欲低下、頭痛、病的反射、傾眠などの症状が起こる。

memo:クッシング症候群

副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)または副腎皮質刺激ホルモン様分子の異所性産生により発生する。主な症状にはコルチゾール過剰による高血糖、低カリウム血症、高血圧、中心性肥満、満月様顔貌などがある。小細胞肺がんやカルチノイドなどで最も多くみられる。

 

小細胞肺がんのX線とCT(図6)、治療の選択概要(図7)は下記のとおりです。

 

図6 肺がん(小細胞がん)のX線、CT

肺がん(小細胞がん)のX線、CT

 

図7 小細胞肺がんの治療の選択

小細胞肺がんの治療の選択

★1 PS(パフォーマンスステータス)

 

日本肺癌学会ウェブサイト「肺癌診療ガイドライン2019年版 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む」より作成
国立がん研究センター:がん情報サービスウェブサイトより転載(2020.12.01アクセス)

 

 

転移性肺がん

他臓器を原発巣とする悪性腫瘍が肺に転移巣を形成したものをいいます。

 

転移様式には、主に血行性転移リンパ行性転移があります(表7)。

 

表7 肺がんの転移様式

肺がんの転移様式

 

転移性肺がんの治療は、原発臓器に応じて行われています。

 

CTは図8です。

 

図8 転移性肺がんのCT

転移性肺がんのCT

 

 

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どんな治療を行う?

肺がんの治療は、確定診断による組織型、病期分類(表8)、パフォーマンスステータス(表9)、臓器機能、合併症、年齢に応じて選択されます。

 

表8 肺がんの病期分類

肺がんの病期分類

日本肺癌学会編:肺癌取扱い規約 第8版.金原出版,東京 2017:4, 6. より作成
日本肺癌学会:肺癌診療ガイドライン 2020年版より転載( 2020.12.01アクセス)

 

memo:各因子の概要

T因子(Tumor:原発腫瘍の進展度)
N因子(LymPHNode:所属リンパ節の有無)
M因子(Metastasis:遠隔転移の有無)

 

表9 パフォーマンスステータス(PS)

パフォーマンスステータス(PS)

Common Toxicity Criteria, Version2.0 Publish Date April 30, 1999.
JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)ホームページ:ECOG のPerformance Status(PS)の日本語訳.より引用(2020.12.01アクセス)

 

手術療法、薬物療法、放射線療法など集学的治療が行われます。

 

進行度にかかわらず緩和療法を行うことも大切です。

 

手術療法

臨床病期がⅠ・Ⅱ期であり、手術に耐えられる全身状態(心肺機能、合併症の有無、年齢など)であるときに行われます。ⅢA期でも症状に応じて考慮されています。


術式としては、標準術式の肺葉切除、縮小手術の区域切除、部分切除が行われています。方法としては、胸腔鏡下手術と開胸手術があり、8割が胸腔鏡下で行われています。

 

放射線療法

腫瘍に放射線を照射することにより、DNAを損傷し細胞を障害することで腫瘍の縮小を図ります。

 

根治照射は、原則的にⅢ期非小細胞肺がんと限局型小細胞肺がんが適応となっています。

 

姑息的照射は、圧迫による症状や疼痛緩和のために行われています。

 

脳転移に対する照射は、症状に応じて行われています。また、限局型小細胞肺がんでは、脳転移の予防のため予防的全脳照射が行われることがあります。

 

肺がんの遠隔転移の例を図9に示します。

 

図9 肺がんの遠隔転移

肺がんの遠隔転移

 

薬物療法

肺がんの薬物療法には、細胞障害性抗がん剤、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬があり、病期や標的分子の有無で選択されています。

 

 

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看護師は何に注意する?

診断時のケア

検診などで発見され無症状の場合のほか、血痰、咳嗽、呼吸困難、発熱などの症状を伴う場合があります。継続的な症状の観察とケア、特に呼吸状態に注意しましょう。

 

確定診断には喀痰細胞診、生検、画像診断、気管支鏡検査などが行われ、医師によるインフォームド・コンセントにより治療の選択が行われます。患者さんが治療内容を十分理解したうえで治療が行えるよう、意思決定支援を行うことが重要です。

 

術前・術後のケア

手術療法では、手術前から禁煙・禁酒、口腔ケア、呼吸訓練などの指導を行い、肺合併症の予防が重要です。

 

手術後は疼痛コントロールを行って早期離床につなげると同時に、不安軽減のため適切な情報提供を行い、心理的支援を行います。

 

放射線療法時のケア

放射線療法では、薬物療法との併用で放射線皮膚炎放射線肺炎気管支炎食道炎などが起こりやすく、治療後も皮膚炎、発熱、呼吸困難、咳嗽、痰などの症状の継続的な観察が必要なため、セルフモニタリングや対処方法についての指導を行います。

 

薬物療法のケア

薬剤は組織型、病期分類、遺伝子変異、免疫学的因子により選択されます。使用される抗がん剤の特徴的な副作用を把握し、適切な支持療法の選択や、対処方法の情報提供を行い、安心して治療が受けられるような支援が必要です。

 

治療後のさまざまな症状(悪心・嘔吐、骨髄抑制、感染予防など)に対するセルフケアが行えるように指導を行います。

 

退院指導

患者さん自身が退院時の病状を理解し、症状によって日常生活を工夫して送れるように退院指導を行いましょう。

 

身体的、社会的、精神的サポート体制を把握し、継続的な治療を受けられるように多職種と連携して患者さんを支えていくことも重要です。

 

 

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肺がんの看護の経過

肺がんの看護の経過は以下のとおりです(表10-1表10-2表10-3表10)。

 

表10-1 肺がんの看護の経過(発症から入院・診断)

肺がんの看護の経過(発症から入院・診断)

 

表10-2 肺がんの看護の経過(入院直後・急性期)

肺がんの看護の経過(入院直後・急性期)

 

表10-3 肺がんの看護の経過(一般病棟・自宅療養(外来)に向けて)

肺がんの看護の経過(一般病棟・自宅療養(外来)に向けて)

 

表10 肺がんの看護の経過

※横にスクロールしてご覧ください。

肺がんの看護の経過

 

 

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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器』 編集/さいたま赤十字病院看護部/2021年3月刊行/ 照林社

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