ペースメーカーの心電図

 

心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。
今回は、ペースメーカーの心電図について解説します。

 

田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長

 

[前回の内容]

ペースメーカーの種類と適応

 

〈目次〉

 

VVIモード

図1の心電図を見てください。P波はVではっきりします。

 

図1VVIモード①の心電図

VVIモード①の心電図

 

ディバイダーでPP間隔をチェックしてみると、約20コマ、1500÷20=75回/分で心房は規則正しく興奮しています。QRS波は、規則正しく25コマ(1秒)ごとに出現していますが、P波とは無関係のようです。QRS波の幅は3コマで幅広く、“完全房室ブロック・心室補充調律”と診断しそうです。

 

しかし、とくにV、V誘導をよく見てみましょう。QRS波の始まりに縦線がありますね。これはスパイクといって、ペースメーカーの電気刺激です。

 

QRS波は心室の興奮ですから、刺激に引き続いて心室興奮が出現していますから、心室ペーシング(V pacing:VP)ですね。通常右心室の心尖部で刺激しますので、QRS波はヒス束~脚~プルキンエ線維を通らないため、幅が広いQRS波となります。

 

設定のペーシング周期は、スパイクの間隔(つまりRR間隔)を見ましょう。そう25コマで1秒設定ですね。心拍数でいえば、60回/分に設定されています。

 

さらに、P波とは同期していませんので、同期(トリガー、T)機能はありません。この心電図はすべてペーシングですが、もう1つ心電図を提示しましょう(図2)。

 

図2VVIモード②の心電図

VVIモード②の心電図

 

最初の2拍は、スパイクの直後に幅の広いQRS波が見られますから心室ペーシングですね。

 

スパイク間隔を測ってみましょう。25コマ=1秒です。設定心拍数は60回/分ですね。3拍目は、スパイクが先行しない幅の狭いQRS波で自己心拍です。前のペーシングQRS波から約17コマ、約0.7秒で出現しています。4拍目は、自己QRS波から25コマ、1秒でスパイク・幅広QRS波でペーシングですね。

 

つまり、3拍目の自己QRS波を“感知”して、ペーシングを抑制し、そこから設定の1秒の間に自己心拍がなかったため、ペーシングされているわけです。

 

心室で感知して、自己QRS波が1秒以内に出現すればペーシングは出ないという機能をもっていますから、心室(V)でペーシング、心室(V)で感知、自己波形が出れば抑制(I)で、VVIモードです。

 

まとめ

  • スパイクに引き続いて見られる幅広QRS波は、心室ペーシング
  • P波と同期していない
  • 自己QRS波を感知した場合は、設定時間内はペーシングをしない(抑制:I)

 

VDDモード

図3の心電図はどうしょうか。

 

図3VDDモードの心電図

VDDモードの心電図

 

Ⅰ誘導、Ⅱ誘導、aVFで陽性P波、幅が広く左房負荷かもしれませんが、27コマ間隔で規則正しいので、洞性P波です。PQ間隔は、約6コマ0.24秒ですが、P波の後には必ずQRS波が見られます。Ⅱ誘導ではっきりしていますが、スパイク-幅広QRS波ですから心室ペーシングですね。

 

つまり、これは心房のP波を感知(心房センス:A sense、AS)して、そのP波に同期して(0.24秒遅らせて)、心室ペーシング(VP)しているわけです。

 

まとめ

  • 心房興奮P波を感知して、それに同期して(任意時間を遅らせて:AVディレイ)心室をペーシングするモードがVDD
  • 心房波の頻拍、徐脈に同期するのを防ぐため、上限心拍数、下限心拍数が設定されている

 

メモ

心房センス(AS)・心室ペーシング(VP)

これはVVIに比較して、ペーシングは心室だけだが、感知は心房と心室両方(D)、反応様式は抑制(I)と同期(T)なので、モードはVDDである。心房P波を感知してから、0.24秒以内(設定は任意に可能でAVdelay:AVディレイという)に、自己QRS波が出現すれば、心室はペーシングしない。

 

上限心拍数(upper rate:アッパーレート)

心房頻拍などで、心房が暴走して心房心拍数が200回/分になり、心室が心房に同期してしまうと心室心拍数も200回/分になってしまう。そのため、上限心拍数(upper rate:アッパーレート)を設定する。150回/分に設定すれば、それを超える心房心拍数には追従せず、心室は150回/分までしかペーシングしない。

 

下限心拍数(lower rate:ロウアーレート)

洞性徐脈で心房が30回/分まで低下した場合、P波に同期すると心室も30回/分に低下する。そこで下限心拍数(lower rate:ロウアーレート)を設定する。50回/分に設定すれば、心房が50回/分を下回ったときは、自動的にVVIモードになり、P波と関係なく50回/分で心室ペーシングする。

 

DDDモード

図4の心電図はどうしょうか。

 

図4DDDモードの心電図

DDDモードの心電図

 

Ⅲ誘導ではっきりしますが、スパイクの直後にP波が見られます。ご存じのようにP波は心房興奮ですから、スパイク-P波なら心房ペーシング(A pacing:AP)ですね。その心房スパイクから約5コマ(0.20秒)遅れて、スパイク-幅広QRS波が見られ、心室ペーシング(V pacing:VP)です。

 

ペーシングは両室でD、両室とも自己心拍を感知可能でD、感知に対する反応様式は、自己心拍が出れば抑制(I)、また心房に対して心室が連動する同期(T)の両方あるのでDで、DDDモードです。

 

まとめ

  • VDDに加えて心房にペーシング機能があるものがDDDモード

 

[次回]

ペースメーカ装着患者の観察ポイント

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『アクティブ心電図』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版

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