腹臥位療法|ICU看護実践マニュアル

『ICU看護実践マニュアル』(サイオ出版)より転載。
今回は、「ICUにおける腹臥位療法」について解説します。

剱持雄二
市立青梅総合医療センター 救命救急センター 院内ICU 看護主任

石田 佐織
市立青梅総合医療センター 看護師

 

 

 

Key point
  • 重症呼吸不全に対する腹臥位療法の効果が認められている。
  • 非気管挿管患者に適用すると気管挿管が回避できるかもしれない。

 

 

腹臥位療法の適応・対象

腹臥位療法は、成人の重症呼吸不全患者に対して行う。

 

気管挿管患者の場合

ICUで6時間以上の原疾患治療並びに肺保護戦略(TV:6mL/kg、PEEP≧10、プラトー圧≦30)で呼吸状態が改善しないARDS、COVID-19などによる重症呼吸不全患者。

 

人工呼吸療法開始後36時間以内に行う。

 

ARDS診断は、以下のBerlin基準に準じる1)

①発症7日以内、②両側肺浸潤影、③心原性肺水腫は否定的、④PaO₂/FiO₂≦150のARDSまたはCOVID-19(PEEP≧5cmH₂O、FiO₂>0.6)

 

脳圧が30mmHgを超える、15日以内の間肺術、平均血圧65mmHg未満などは除外される。

上記以外でも必要時はカンファレンスで適応を検討する。

 

非気管挿管患者の場合

酸素流量:4L/分以上、高流量鼻カニュラ酸素療法(high flow nasal cannula oxygen:HFNC):40L/分の酸素療法が必要な患者、またPaO/FiO≦300で原疾患治療により呼吸状態が改善しないARDS、COVID-19などによる重症または中等症呼吸不全患者。

 

 

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腹臥位療法の施行時間

腹臥位療法の施行時間は、12~16時間推奨されている2)(意識下の場合にはこれに限らない)。

 

COVID-19による急性低酸素性呼吸不全のためHFNCを受けている患者を対象に腹臥位(うつ伏せ寝)を行うと、酸素化の改善だけでなく気管挿管の必要性が減ることが示唆された。

 

また、この効果は腹臥位を1日8時間以上行うことでより明確になることが示唆されている3)

 

仰臥位に戻し、4時間以降にPaO2/FiO2:150以上+PEEP10cmH2O以下、FiO2:0.6以下であった場合、腹臥位は中止する。腹臥位で仰臥位よりPaO2/FiO2が20を超えて低下することが2回継続するときは中止する4)

 

 

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腹臥位療法の実際

腹臥位療法の適応

1患者状態について看護師・医師が以下いずれかに該当することを判断する。

 

酸素流量:4L/分以上、HFNC:40L/分の酸素療法が必要またPaO2/FiO2≦300で原疾患治療により呼吸状態が改善しないARDS、COVID-19などによる重症または中等症呼吸不全患者

呼吸数:25回/分以上

 

2看護師、医師は患者状態が腹臥位療法適応に該当しない事をチェックする。PROSEVA studyにおける腹臥位療法の禁忌項目を以下に示す。

①頭蓋内圧亢進(>30mmHg) もしくは脳灌流圧低下(<60mmHg)

②侵襲的処置が必要な大量出血

③15日以内の気管・胸部手術

④15日以内の顔面の外傷・外科手術

⑤深部静脈血栓症もしくは2日以内の肺塞栓増加歴

⑥2日以内の心臓ペースメーカー植え込み術

⑦四肢、躯幹、脊椎の骨折・脱臼

⑧心臓作動薬を使用しても平均動脈圧が70mmHg以下

⑨妊娠

⑩前面の1本の胸腔ドレーンで管理する気胸

 

3医師は、患者に説明をする。

 

4医師は、体位呼吸療法実施を指示簿に入力する。

 

5腹臥位を開始する。

 

腹臥位療法の中止基準

以下の項目に該当する場合には、腹臥位療法を中止する。

鎮静・鎮痛

□RASS:-4以上に浅鎮静レベルになってしまうとき

□CPOT:3以上鎮痛ができていないとき

 

呼吸

□呼吸数35回/分以上が一定時間持続

□SpO2:90%以下が持続

□PaO2/FiO2:20以上低下したとき

 (FiO2:0.6以下)

 

循環

□心拍数50回/分以下もしくは120回/分以上が一定時間持続

□新たな不整脈の出現

□新たな心筋虚血を示す心電図変化

□平均血圧65mmHg以下が一定時間持続

□カテコラミンの増量

 

その他

□ショック状態

□病態が不安定

□出血傾向

 

腹臥位療法の事前準備

カンファレンス

全身状態について医師・看護師・臨床工学技士・理学療法士・薬剤師にてカンファレンスを行い、前傾側臥位が可能か判断する。

 

前傾側臥位にするためのメンバー(看護師3名以上、医師・臨床工学技士それぞれ1名以上)を確保する(体外式膜型人工肺(Extracorporeal membrane oxygenation:ECMO) 使用の場合は、さらに医師1名以上、モニタリング要員として臨床工学技士1名以上が加わる)。

 

患者の準備

□RASS-4をめざし、鎮痛薬、鎮静薬、筋弛緩薬を増量する(鎮痛薬、鎮静薬、筋弛緩薬投与量を事前に薬剤師へ相談しておく)。

 

□人工呼吸回路、ドレーンやルート類の刺入部、位置、長さを確認し回転させる方向を決める。

 

□人工呼吸回路の分泌物や水分を除去する。

 

□関節可動域を確認する(頚部、肩関節の可動域を理学療法士が事前に評価しておく)。

 

□皮膚ケア(褥瘡好発部位には事前にドレッシング材を貼付)。

 

□下部になる部分の突起部には皮膚保護剤(ワセリンなど油性軟膏類)を厚塗りし、スライディングしやすいシーツとエアマットが当たるようにする。

 

□空間になる部分にはチップ・ビーズタイプのクッションを入れる。

 

□眼球保護(眼洗浄、眼点眼・眼軟膏、眼パッチ貼付)直前までに口腔ケアを済ませておく。

 

□1時間前までに経腸栄養を済ませておく。

 

□気管チューブの位置をX-Pで確認する(前回撮影のもの)。

 

□気管チューブ挿入位置を受け持ちが目視再確認し、気管チューブ固定位置はマットレスと接触しない口角とする。

 

□気管チューブ固定具(アンカーファス  ト®など)を使用している場合はテープ固定に変更する。

 

□患者の上半身のライン(モニタケーブル、動脈圧ライン、静脈ラインなど)は頭側にまとめる。患者の下半身のライン(膀胱留置カテーテルなど)は下肢に沿うようにまとめる。

 

□モニタ電極は背部側に貼る(場合によっては胸部側のままでよい)。

 

□ベッドの高さを調整する(身長の低い介助者に合わせる)。

 

必要物品

体位変換の枕(ポスフィット®、ミント F®、ピーチラージ®、プリコンクッション® など)、皮膚保護剤(油性軟膏類が望ましい)、ドレッシング材 : アレビンライフ®、ハイドロサイト AD®、ブラバ伸縮性皮膚保護テープ®など、眼球保護品(眼洗浄生食20mL、眼点眼・眼軟膏、眼パッチ)、ガーゼ(舌を収容する可能性あり)

 

気管・口腔・鼻腔を吸引するための吸引管、12Fr 吸引カテーテル

 

腹臥位療法の方法

気管挿管患者の場合

1看護師3名以上、医師と臨床工学技士それぞれ1名を確保する(ECMOの場合、さらに医師1名以上、モニタリング要員として臨床工学技士1名以上が加わる)。

 

2役割分担をする(モニター監視、各チューブ類の観察など)。

 

3左右向くと逆側に患者の身体を寄せる。

 

4側臥位(左右前傾側臥位にする側)にする(写真1)。

 

写真1患者を側臥位にする

患者を側臥位にする方法

 

5そのまま前傾になり、頭部、顔を向けた側の肩~胸、股関節に枕を入れる(⇒陰部やドレーン、カテーテル挿入部が圧迫されないように枕を挿入する)。

下側になる上肢を抜く場合:回転側の手のひらを上になるように、上肢をお尻の下にできるかぎり滑り込ませる(自分のお尻を触るような格好、写真2)。

 

写真2下側になる上肢を抜く場合

下側になる上肢を抜く場合の手順

 

6そのまま姿勢を傾ける。顔面にはU字枕を下に敷き、気管チューブなどのテンションがかからないようにする。

 

7頭部・顔を向けた側の肩~胸、股関節に枕を入れる(陰部やドレーン挿入部位が圧迫されないよう枕を挿入、除圧する。写真3

 

写真3頭部・顔の位置を確認

頭部・顔の位置の確認手順

 

8回路やルートが引っ張られていないか、皮膚障害が起こりそうな部位がないか確認。再度、カフ圧測定・調整をする。腹臥位療法中は30分~1時間おきに介護手袋等で除圧を行う(写真4)。

 

写真4腹臥位療法中のポジショニング例

腹臥位療法中のポジショニング例

 

非気管挿管患者の場合

1患者状態について看護師・医師が以下いずれかに該当することを判断する。

呼吸数:25回/分以上

PaO2/FiO2:300以下(例:酸素カヌラ1L/分でSaO2:95%以下、2L/分で97%以下、3L/分で98%以下)

 

2看護師・医師は患者状態が以下に該当しない事をチェックする。

□挿管の即時必要性がある

□頭蓋内圧亢進

□循環動態不安定(収縮期血圧90mmHg以下 or 重篤な不整脈)

□不穏、精神状態不安定、認知症などにより理解が得られない

□胸郭の外傷、直近の腹部外科手術後

□顔面の外傷

□病的肥満、妊婦

 

3該当しない場合、医師は患者に説明をして同意をとる。

 

4医師は体位呼吸療法実施を指示簿に入力する。

 

5腹臥位(前傾側臥位)開始。モニタを装着する。

 

6初回は、15分間ベッドサイドで観察を継続する(⇒2~3時間を目途に腹臥位を継続し、可能であれば酸素流量の減量を試みる)。

□自力で腹臥位をとれるか

□自力で安楽な体位を保持できるか

□頸・肩に痛みはないか

□呼吸数

□SpO2

 

7以下に該当した場合は医師に報告し、中止する。

□呼吸数:>35回/分持続

□SaO2:<93%持続

 

意識下腹臥位療法のポイント

□楽な姿勢は一人ひとり違う。

□頭・手・足の位置など患者と一緒に工夫する。

□我慢させると酸素化の改善はない。

□デバイス類の圧迫に注意する。

□目標を明確にし、病状が進行しているときは2時間しっかりできるように励ます(例:今日、明日だけはしっかりやりましょう)。

□苦痛緩和を行う(背部へのタッチング。看護師がそばにいる。苦痛がある患者に対しては1人で介助を行わない)。

 

意識下腹臥位療法における注意点

HFNCの使用や腹臥位療法により気管挿管まで粘ることができるが、挿管に至る状態を評価しておかないと気管挿管になるタイミングを見落とし、かえって重症化してしまうリスクがある。

 

HFNCや腹臥位療法を過信せず観察を継続することが必要である。

 

腹臥位療法中チェックリスト

< Step1 導入時・受け持ち開始時>

□腹臥位開始時医師は参加できるか(ECMO の場合、臨床工学技士も)

□腹臥位に関する医師指示

□鎮静レベルの確認(RASS):-5または-4になるように調整

□頸部、肩関節の関節可動域の確認:拘縮がないか

□皮膚乾燥、浮腫、脆弱の程度、スキンテアの確認:ハイドロサイト AD ジェントル®、ワセリン、保湿剤の十分な塗布(前額、前顎、両肩、前胸部、両腋窩~背部、両腸骨、両膝など)

□角膜・眼球保護( 洗浄用生理食塩液、ヒアルロン酸点眼またはタリビット点眼®・眼軟膏®)、眼パッチ:角膜・眼球トラブルの有無

□エアマット・体位分散マット使用有無

□体圧分散枕準備有無

□人員確保: 看護師が3名以上(ECMO使用時は医師1名以上、モニタリング要員として臨床工学技士1名以上が加わる)

 

< Step2 ルーティン>

□自然に近い体位になっているか

□2時間ごと体位調整(除圧を出来るかぎり2名以上で行う)

□4時間ごと顔の向き変え(除圧を出来るかぎり2名以上で行う)

 

引用・参考文献 閉じる

1 )Ferguson ND, et al: The Berlin definition of ARDS: an expanded rationale, justification, and supplementary material .Intensive Care Med. 2012;38(10):1573-82.

2 )European Society of Intensive Care Medicine and the Society of Critical Care Medicine 2020:Surviving Sepsis Campaign: Guidelines on the Management of Critically Ill Adults with Coronavirus Disease 2019(COVID-19), SSC-COVID19-GUIDELINES.pdf (esicm.org)より11月1日検索

3 )Ehrmann S.Lancet Respir Med.2021

4 )Guérin C, Reignier J, Richard JC, et al; PROSEVAStudy Group. Prone positioning in severe acuterespiratory distress syndrome. N Engl J Med2013;368:2159-68.

 


 

本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『ICU看護実践マニュアル』 監修/肥留川賢一 編著/剱持 雄二 サイオ出版

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