誰のための看護|マンガ・ぴんとこなーす【54】

終末期の患者さんが苦しがる痰の吸引。でも、吸引しないと呼吸困難になってしまう… 2年目のナスさんが直面した看護のジレンマとは?

これはナスさんが2年目を迎えた頃の話です。ユリカワさんは70代女性。肺がんの終末期でしたが身寄りがなく、ADLが低下し身の回りのことができないため、今後の方針検討と緩和、看取り目的で入院していました。最初はなんとか自分で痰を出すなど、できていたのですが入院して間もなくご飯が食べられなくなり、元々のるい痩体系と体力の低下もあり、自力で痰を出すことはおろか寝返りをすることもできなくなってしまいました。そうなると器官内の吸引をしなければ痰がだせなくて、窒息してしまうのですが、ユリカワさんはこれをとても嫌がっていました。痩せて抵抗する力もないはずのユリカワさんは、それでも吸引の時は必死で抵抗していたことを覚えていました。

ある夜勤の日、ユリカワさんの痰が上がってきたことに気付いたナスさんは、ユリカワさんに「苦しいですね。少し痰引きましょうか。」と声をかけたところ、かぶせるように「やだ。吸引は…やだ…」と抵抗します。「苦しいですよね、でも痰を引かないと。」と説得すると、「死にたい。こんな苦しいことして生きなきゃいけないなら、どうせ死ぬんだから死んじゃいたい…。」とつぶやきます。

ユリカワさんのつぶやきを聞いて、考えるナスさん。『そりゃ…吸引って言ったって器官に異物入れてるんだから、死ぬほど苦しいだろうなぁ…ターミナルなんだから苦しい思いさせて、呼吸を楽にして何になるんだろう。呼吸が楽になる名目で苦痛を与えているのは、私なのかも…』『今ここで私が吸引しなかったら…』

『最後の希望、どうして吸引しなかったの?、吸引怠り停痰で窒息、吸引せず死亡…』など、『今ここで渡しが吸引しなかったら…』のその後に起るかもしれない出来事がナスさんの脳裏をよぎります。「お願い…」と泣きながら訴えるユリカワさんに、ナスさんはとまどいながら… 

「また来ます!」とユリカワさんの部屋から逃げてしまいました。『どうしようどうしよう。だってユリカワさん嫌だって…つらいって…!でも吸引しなきゃ痰出せないじゃん!苦しいじゃん!でも否定できなかった…だって私…』『自分のためにユリカワさんに苦しい思いさせてる…!』と目に涙をためるナスさん。

ナースセンターに戻り、先輩に声をかけました。すると涙がとめどなく出てきて、「私…私のせいで…でも分かんなくて…逃げてきちゃいました、どうしようーーー!」と、たまたま一緒の夜勤だったプリセプターに事情を話、ユリカワさんの対応は先輩が行ってくれました。悩み落ち込むナスさん。

先輩は、ナスさんの話を聞いて「なるほどね、自分のためにやってる看護か…」と言葉を選びながら、「まずあんたは、『ユリカワさんだから気づけた』ということをユリカワさんに感謝するべきね。」と言いました。続けて、「今まで何回吸引した?覚えてないでしょ。たまたま意識があって吸引を拒むユリカワさんだからあんたは気づけた。どの患者さんだってつらかったはずよ。でも頭で分かっていても、その感覚に麻痺してきていたんじゃない?」とナスさんに言います。

先輩の言葉に、納得し愕然とするナスさん。『処置になれて、ごめんねなんて言いながら、本当にごめんなんて思っていたか。』と最低な自分を責めました。すると先輩は、「だけどどんな医療者もきっとあんたのことを責められない。」と続けます。「ジレンマなのよ、吸引だけじゃなく、その人の意志は尊重すべきだけど、必要なのは行為。この仕事を続けていく以上、悩み続けるの。みんなだって同じよ。」と言いました。

「今夜のように逃げるか、感情を麻痺させるか、忘れず苦しみ続けるかを選ぶのはあんただけど、その環状を知っていいるかいないかで、これからの看護は変わると思う…私は忘れてほしくないけどね…」と先輩はナスさんにいいました。それから一週間程してユリカワさんはなく鳴りました。最期のユリカワさんを見つめながら、ナスさんは『ユリカワさんは、苦しい生から開放されて本当に幸せだったのか』と考えました。今も、「ナスさん、吸引できなくて手かりてもいいですか?」と助けをもとめてきた後輩の手伝いをしながら、今も答えは出ていませんが、考え続けているナスさんなのでした。


【著者プロフィール】

ぷろぺら(@puropera44

現役で病棟看護師やってます
ぴんとこなーすをどうぞよろしくお願いします!

Twitter[https://twitter.com/puropera44

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