呼吸・循環動態

『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』より転載。
今回は呼吸・循環動態について解説します。

 

著者/ぷろぺら(看護師)

医学監修/平野龍亮
相澤病院外科センター乳腺・甲状腺外科
日本外科学会専門医・日本乳癌学会乳腺認定医・臨床研修指導医

 

 

看護師顔画像

術後は麻酔の影響などで呼吸抑制や頻脈が出現することも…

 

呼吸器への影響

抜管後、麻酔の影響による呼吸抑制や意識レベルの低下による舌根沈下で酸素飽和度が低下することがあります。

 

看護師顔画像

まずは呼吸状態をしっかりと観察ね!

 

❶酸素飽和度の低下

意識レベルの低下による舌根沈下喀痰による気道閉塞で酸素飽和度が低下することがあります。

 

抜管後は気道内分泌物が増加することが多く、意識レベルが悪かったり、疼痛で腹筋に力を入れることができず、十分な喀痰の自己喀出が困難な場合は、吸引をしましょう。

 

舌根沈下がみられる場合は、肩枕を入れて気道確保を行います。

 

経鼻エアウェイなどを入れて気道を確保する場合もあります。

 

術後はルーチンで酸素投与が行われていることも多いですが、それでも酸素飽和度の低下がみられる場合は、その原因を調べましょう。

 

❷呼吸抑制

原因として最も多いのはオピオイドです。

 

Point

呼吸状態は数字だけを見て安心してはいけない!!

 

麻酔を覚ますときに中和薬(主に筋弛緩への拮抗薬)を使うことがあります。

 

中和薬の効果は比較的早く切れますが、麻酔薬によっては切れるのに時間がかかるものもあり、中和薬が切れる時間になっても麻酔薬の効果が残っていると、まるでまた麻酔にかけられたように、帰室してしばらくしてから意識が落ちたり、呼吸が止まったりすることがあります。

 

しかし、酸素投与が行われていると、息が止まっていてもしばらくの間、 SpO2が保たれてしまいます。

 

そこで、 SpO2が下がる前に呼吸状態の異常に気づけるよう、観察することがとっても重要です。

 

なお、最近のモニターは呼吸性の動きがわかるので、数字だけでなく、それも確認するようにしましょうね。

 

 

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循環器への影響

術中の大量出血による影響など、術後は循環動態の観察が必須です。

 

❶頻脈

一番頻度の多い原因は疼痛です

 

心疾患などの既往がないかを確認しておきます。

 

頻脈は、疼痛や尿道カテーテルの閉塞による膀胱充満感、悪心・嘔吐なども影響するので、まずは全身をみて原因を調べ、原因の除去に努めましょう。

 

洞調律ではなく、不整脈がみられる場合は、出血や不適切な輸液による電解質異常、虚血や手術侵襲に伴う炎症の可能性があります。

 

既往のない心房細動(AF、図1)の波形がみられたら、すぐに医師に報告します!

 

図1 心房細動(AF)

心房細動(AF)心電図

 

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心房は心臓の中の筋肉としては弱いから、負担に耐えられなくなるとプルプル震えやすいんだ。でも、震えると血栓の原因になるんだよ!

 

❷低血圧・高血圧

術後24時間以内に急激な低血圧がみられた場合は、生命に直接かかわる術後出血のことがあります。

 

血圧上昇の一番頻度の多い原因は疼痛ですが、痛みに弱い人ではまれに迷走神経反射を起こして、逆に血圧低下や徐脈になったりすることもあります。

 

麻酔薬による心機能の抑制や、薬剤による末梢神経の拡張作用でも血圧は低下します。

 

不整脈があるときは心臓が十分にポンプ機能を果たせていないため、やはり血圧が下がることがあります。

 

低血圧のときは、まず意識レベルと心電図波形を確認し、医師に報告しましょう。

 

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高血圧のときは…?

 

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もともと心疾患があったり、術中に血管を傷つけてしまっていて出血のリスクが高い場合でなければ、通常の血圧±20mmHgくらいなら様子をみてもいいよ。血圧が高いということは、言い換えれば十分な血流を保っている状態だし、血流が保たれているなら臓器にも十分な血液が送られているということだからね。

 

高血圧のときは頭痛や悪心など、麻酔後の合併症に似た症状も出現するから、全身状態の観察も忘れずにね。

 

❸循環血液量の減少

術後は全身の循環血液量が減少し、血圧低下や頻脈などのショック症状が出現することがあります。

 

術中の出血や不感蒸泄による全身の循環量の低下、手術で組織を破壊された部位を中心に産生されるサイトカインの影響による血管透過性の亢進図2)などが原因です。

 

図2 血管透過性が亢進した状態

血管透過性が亢進した状態

 

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出血による血圧低下と頻脈の関係は術後出血のページを参照!

 

血管透過性が亢進することにより、血管内の水分がサードスペースに移動し、十分な輸液が行われているにもかかわらず、血管内の循環血液量が減少します。

 

これにより、浮腫や尿量の減少が起こります。

 

術後の尿量は、一般的に「0.5mL/kg(体重)/時以下」の状態で乏尿と判断します。

 

乏尿が3時間以上持続する場合は、医師に報告が必要です。

 

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サードスペースっていうのは、細胞内でも血管内でもないスペースのこと。ここでは「血管外への漏出」(図3)という意味で使用しているよ。

 

図3 血管外への水分漏出

血管外への水分漏出

 

看護師顔画像

つまり輸液量は多くても少なくてもいけない…?

 

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術後の循環血液量は2〜3日で徐々に回復して、サードスペースにあった水分が血管内に戻ることで、排尿量も増えてくるよ。

 

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「利尿期」っていうのはこのことだね!

 

Point

腎臓の水分調節機能は本当にすごい!

腎臓は、体に水が足りないと判断したら、水をどんどん再吸収します(=尿量が減る)。そして、尿が十分出ているということは、「水分が足りている」というなによりのサインであると同時に、「心臓が元気だ」というサインでもあります。だから、尿が出ているだけで、医師はとても安心するのです。

 

以下に尿量が正常な場合と、尿量が減少している場合で腎臓や心臓になにが起こっているのかを示します。

 

episode 1:尿量が正常なとき

心臓が元気→しっかりと腎臓に血流が運ばれる→腎臓は血液量(水分量)が十分だと判断→尿が出る

 

episode 2:尿量が減少しているとき①

心臓が元気ではない→血液が鬱滞→腎臓への血流が不十分→腎臓は血液量(水分量)が足りないと誤解→尿が減る

 

この場合には、フロセミド(ラシックス®)などの利尿薬で尿を出し、心臓の負担を取ってあげます。

 

episode 3:尿量が減少しているとき②

心臓は元気だけど血液(水分量)が足りない→しっかりと腎臓に血流が運ばれない→腎臓は血液量(水分量)が足りないと判断→尿が減る

 

この場合には、輸液量を増やして血液量を増やしてあげます。

 

尿が減ったときには、episode2と3の区別をしっかりすることが大切です(3に利尿薬を使ってしまったら大変なことに!)。術前に心臓に問題はまずないと判断されていたら、通常は3と考えてよいでしょう。しかし、心臓に懸念があるならば、胸部X線撮影を行い、2と3を判別します(血液の鬱滞は肺にも起こるので画像で判断できます)。もちろん、X線撮影をするまでもなく、呼吸状態でわかることも。

 

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【著者プロフィール】

ぷろぺら@puropera44

看護師。これまでに慢性期病棟、クリニック、消化器外科、HCU、救急病棟、泌尿器科、腎臓内科などを経験。
看護roo!では『マンガ・ぴんとこなーす』を連載中。

 

 

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本連載は株式会社南山堂の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』 著者・ぷろぺら/医学監修・平野龍亮/2020年3月刊行/ 南山堂

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