「看護師派遣は違法」は間違い。OKな理由と違法派遣との違い

「看護師派遣は違法」と思っている人がたくさんいます。しかし、結論から先にお伝えすると、「看護師派遣が違法である」というのは間違いです。確かに禁止されていることもありますが、看護師派遣=違法ではありません。
このページでは、法律に照らしながら、看護師派遣が違法という誤解を解いていくとともに、なぜ看護師派遣が違法と言われるようになったのか…その原因にも迫ります。

1. 看護師派遣は違法ではない

看護師派遣が全面的に禁止されていたのは2006年以前の話

看護師派遣は、違法ではありません。

日本での派遣業のスタートは、1986年、労働者派遣法が施行されたときに遡ります。当時はたった13種類でのみ許可されていた派遣ですが、その後歳月を追う毎に規制が緩和され、今ではほとんどの職種で許可されるまでになりました。

看護師も例外ではなく、2006年から条件付きで解禁されました。直近では2015年10月にも派遣法が改正されましたが、引き続き、条件はありますが、看護師派遣は許可されています。

その後10年以上経った今でも、「看護師派遣が違法」と誤解されているのは、1999年に制定されたネガティブリストの影響が色濃いと言われています。

1999年に制定されたネガティブリストが誤解の種

それまで派遣は一部の職種でのみ許可される“ポジティブリスト”型でしたが、1999年、派遣を許可する範囲を一気に広げるにあたって、「次の職種以外は派遣を許可する」という一覧をつくりました。その“次の職種”にあたる業務がネガティブリストです。

ネガティブリストの内容(1999年施行)
  • × 湾港運送業務
  • × 建設業務
  • × 警備業務
  • × 病院・診療所での医療業務
  • × 弁護士・公認会計士・税理士などの士業
  • × 建築士事務所の管理建築士など、他の法令で禁止されている業務
  • ×人事労務関係で労使協議の際、経営者側の直接当事者として行う業務

これら以外なら派遣就業が許可される。

現在の法律には看護師派遣が禁止とは書かれていない

その後、派遣法は変更され、看護師は一定条件下であれば派遣が許可されるようになりました。なお、現在の法律では、港湾運送業務と建設業務、警備業法で認められていない職種の3つのみが禁止されています。

現行労働者派遣法の内容はこちら

このように法改正された今も、1999年に施行された古いネガティブリストがインターネット上に残っているのが見受けられます。そのため、「今も看護師派遣は全て違法行為にあたる」と誤解する人が後を絶たないのです。

2. ひと目でわかる、看護師派遣OKの条件

2006年から解禁された看護師派遣。ですが、先述の通り、全面解禁ではなく、一部の条件下でのみ許可されています。その条件とは、まず看護師として業務を行う場所がどこであるか。

医療機関以外での看護師業務はOK

医療機関以外の場所で行う看護師業務は、派遣が全面解禁されています。

“医療機関”と定義される場所(派遣NG)
  • 病院
  • クリニック
  • 助産所
  • 介護老人保健施設(訪問入浴介護・訪問予防入浴介護を除く)
  • 患者の自宅(=訪問看護師など)
“医療機関”ではない場所(派遣OK)
  • 有料老人ホーム
  • デイサービス
  • 特別養護老人ホーム
  • 社会福祉施設(保護施設 児童福祉施設 障害者施設など)
  • 保育園

上記を定めた労働派遣法第二条四節の原文はこちら

さらに、次の条件に該当すれば医療機関でもOK

次のような場合であれば、病院やクリニックといった医療機関での看護師派遣も許可されます。

  • 産休代替
    医療機関で働く看護師が産休・育休に入っている間の助っ人として就業する場合
  • 紹介予定派遣
    3~6ヶ月後に正職員など直接雇用に切り替わることを前提とした派遣の場合

図でわかる、違法の派遣・違法ではない派遣

紹介予定派遣 産休代替 左記に当てはまらない派遣
病院 ×
診療所 ×
患者宅(訪問看護など) ×
助産院 ×
介護老人保健施設 ×
健診センター ×
有料老人ホーム
デイサービス
特別養護老人ホーム
社会福祉施設
保育園

例えば…

  • 東京23区にある病院の長期派遣 → ×
  • 東京23区にある病院の産休代替による長期派遣 → ○
  • 訪問看護ステーションでの紹介予定派遣 → ○
  • 訪問看護ステーションでの産休代替による長期派遣 → ○

3. 看護師の単発派遣も違法ではない

改正派遣法は、2015年9月30日に施行こそされたものの、実際に適用されるのはいつからなのでしょうか。施行日(2015年9月30日)を基準に、ケース別に見てみましょう。

日雇い派遣は法律で禁止されているはずなのに…

看護師派遣が違法でなかったとしても、単発派遣は違法。なぜなら看護師である・ないに関わらず、派遣法で日雇い派遣自体が禁止されているから。そう考えている人は多いです。

確かに2012年10月1日の派遣法改正により、日雇い派遣はすべての職種で禁止されました。ですが、看護師派遣には単発派遣が数多く存在しています。それらが派遣法の基準を満たしているのは、日雇い派遣=単発派遣ではないからです。

なお、2021年4月1日からは、社会福祉施設などに限って、日雇い派遣が例外的に認められます。

日雇い派遣と単発派遣は違う

派遣法で禁止されている「日雇い派遣」というのは、本人と派遣会社(派遣元)との間で結ばれた雇用期間が1日や2日など極端に少ないものを指しています。法律上は雇用期間が30日以内のものは全て日雇い派遣に分類されています。

看護師派遣でよく見かける単発派遣は、この雇用契約を31日以上とすることで、法律の基準をクリアしているのです。派遣先自体は1~2日単位の単発案件ですが、派遣スタッフが派遣会社(派遣元)と雇用契約を31日以上結ぶため、日雇い派遣には該当しません。

但し、31日以上の雇用契約を結ぶには、週20時間以上の労働があらかじめ見込まれていなければなりません。合法の単発派遣は、週3日以上の労働が見込まれるよう、複数の単発案件を組み合わせることで、派遣法を遵守しているのです。

副業での単発派遣なら週20時間以下でも許可されている

「週20時間以上単発の仕事を入れないとダメなら、副業での単発派遣は不可能では?」と思ったあなた。

そもそも派遣法で日雇い派遣が禁止された目的は、日雇い派遣で主生計を立てる人をなくすため。明日の仕事も見通せないような不安定な生活に陥る国民を減らすことが背景にありますから、あらかじめ別に本業を持っている人は例外として認められています。

週20時間未満でも単発派遣が許可される条件(どれか1つでも当てはまればOK)

  • 本業の収入が年間500万円以上
  • 世帯収入が年間500万円以上
  • 60歳以上
  • 雇用保険の適用を受けない学生(定時制・通信制を除く)
◯夫と私の二人世帯:夫 500万円 私 500万円
◯父・母・私の三人世帯:父 400万円 母 100万円 私 600万円
◯私一人世帯:年収 500万円(本業のみ)
×私一人世帯(副業あり):本業が年収400万円 副業が年収150万円 合計 550万円

4. 違法派遣で就業したら看護師はどうなるの?

では、禁止された場所へ派遣就業してしまった場合、看護師側にはどのようなペナルティがあるのでしょうか?

看護師にペナルティはない

2015年10月から施行された改正派遣法には、違法派遣を撲滅するための明確なガイドラインが設けられました。その中の「労働契約申込みみなし制度」で、労働者派遣の禁止業務に従事した場合の処遇について明確に定められています。

派遣スタッフである看護師が責任を負うことはありません。
むしろ、違法と知りながら派遣を受け入れてしまった派遣先が、違法派遣によって派遣スタッフが失業してしまうことがないよう、派遣契約時と同じ労働条件(給与額や労働時間など)でそのスタッフを直接雇用することが定められています。

改正派遣法「労働契約申込みみなし制度」
“その派遣労働者の派遣元における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなされます。”

あくまで「申し込みをしたものとみなされる」ため、派遣先に直接雇用される道を選ぶか、別の派遣先を探すかは、派遣スタッフ側の判断に委ねられています。
なお、こうした違法派遣が行われた場合、派遣会社(派遣元)側にも重大なペナルティが課せられることになっています。それについては次章で詳しく解説します。

5. 違法派遣にならない派遣会社の選び方

「厚生労働省許可番号」を提示している派遣会社を選ぼう

違法な派遣会社を使わないためにはまず、厚生労働省の許可を得ている派遣会社を選ぶことです。

厚生労働省の許可を得た派遣会社は、ホームページなどに「派XX-XXXXXX」という、「派」から始まる2ケタ・6ケタの数字(許可番号)が掲出されています。
看護roo!であれば、「派17-010017」が許可番号にあたります。

派遣会社は、厚生労働省の許可がないと労働者派遣事業を行うことができません。従って、この許可番号を持たない派遣会社は、すべて違法となります。

派遣会社は違法行為を行うと操業停止になってしまう

派遣会社が厚生労働省による派遣業の許可を得るためには、厚生労働省の定めた数十におよぶ厳しい基準を1つ残らずクリアしなければなりません。免許には有効期限があり、更新し続けるためには、5年おき(初回のみ3年後)に同様の基準をクリアし続ける必要があります。

労力をかけて許可を得たとしても、ひとたび違法行為が発覚すると、即座に免許が取り消されるなどの厳しい罰則を受けます。厚生労働省の摘発は厳格で、2016年の1月にも複数の派遣会社が免許の取り消しと事業停止の処分を受けました。違法な看護師派遣を行うことは、厚生労働省許可の派遣会社にとって、リスクでしかないのです。

参考:

それでも不安な場合は株式上場している派遣会社を選ぶ

それでも不安なら、厚生労働省許可の会社の中でも、東証やJASDAQなど、株式上場している会社を選ぶのがベターです。上場にあたって企業は財務状況や経営状況をすべて世間に公表することになり、常に株主という第三者に見張られる立場になります。従って、より不正行為を行いにくくなります。一般に「上場企業は一定の社会的信用性がある」と言われるのはこのためです。

6. 看護師派遣にまつわるその他の違法行為

許可された範囲なら、看護師が派遣で働くこと自体に何ら違法性はありません。では、それ以外に看護師派遣にまつわる違法行為はないのでしょうか?看護師派遣で働く上で、気をつけておきたいポイントとしてご紹介します。

NG 3年以上同じ職場で派遣として働く

看護師が同じ職場に派遣されていられる期間は、最大3年までと定められています。
※「同じ職場」の定義はシフト管理や仕事の配分をする人(師長など)が同じかどうか。派遣先が同じでも別のフロアなど、シフト管理者が異なる場合は異なる職場と見なされます。

違反した場合は…
派遣先が責任をとって派遣スタッフの看護師を直接雇用すること

派遣先の責任となります。違法行為によって派遣スタッフが失業しないよう、派遣先は改正派遣法にある「労働契約申込みみなし制度」に基づき「その派遣労働者の派遣元における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなされます」。

NG 無許可の派遣会社から派遣就業してしまった

派遣業は厚生労働大臣の許可を得た事業者だけが営むことができるため、違法派遣にあたります。

違反した場合は…
派遣会社が罰せられる・派遣先は責任をとって派遣スタッフを直接雇用すること

派遣会社が罰せられるだけでなく、派遣先も責任をとることになります。違法行為によって派遣スタッフが失業しないよう、派遣先は改正派遣法にある「労働契約申込みみなし制度」に基づき「その派遣労働者の派遣元における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなされます」。

NG 派遣先が面接や書類選考などの選考行為を行った

派遣はあくまで派遣会社のスタッフとして派遣先に就業するものであるため、派遣先が受け入れる派遣スタッフに対して面接や選考行為を行うことは禁じられています。

違反した場合は…
派遣先と派遣会社の両者に懲役or罰金刑

職業安定法第5章第64条に基づき、派遣先と派遣会社側に1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。

NG 派遣会社が次の雇用を確保してくれない(1年以上の長期派遣の場合)

「雇用の安定化措置」といって、派遣会社は一定以上の雇用が見込まれた派遣スタッフに対して必ず「次の派遣先を紹介する」「派遣先に直接雇用してもらう」「派遣会社で無期の派遣社員として雇い入れる」のいずれかの措置を取ることが求められています。

派遣スタッフの雇用が1年以上見込まれたタイミングで努力義務が発生し、3年が見込まれた際に義務となります。

違反した場合は…
派遣会社で無期の派遣社員として雇い入れ、派遣スタッフの雇用を守ること

雇用が3年見込まれたタイミングで次の派遣先を紹介することができない場合は、派遣先に直接雇用してもらうよう働きかけます。

万が一、不採用となってしまった場合は、派遣会社が派遣スタッフの雇用を守るために、無期雇用派遣(期間の定められていない派遣。派遣先が見つからなくても給与が支給される)で雇い入れるなどの雇用の安定化措置をおこなわなければなりません。

まとめ

このように、違法と言われる看護師派遣ですが、実際は一部が禁止されているだけで、基本的には許可されています。そればかりか、派遣会社や派遣先が何かしらの違法行為を行ったとしても、看護師の立場はしっかりと守られるよう、法律が整備されているのです。

引用資料

1. 看護師派遣は違法ではないの根拠となる部分

労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)

昭和六十年七月五日法律第八十八号 最終改正:令和元年六月十四日法律第三十七号

『第二章 労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置』 第一節 業務の範囲
第四条 何人も、次の各号のいずれかに該当する業務について、労働者派遣事業を行つてはならない。

  1. 港湾運送業務(港湾労働法(昭和六十三年法律第四十号)第二条第二号に規定する港湾運送の業務及び同条第一号に規定する港湾以外の港湾において行われる当該業務に相当する業務として政令で定める業務をいう。)
  2. 建設業務(土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体の作業又はこれらの作業の準備の作業に係る業務をいう。)
  3. 警備業法(昭和四十七年法律第百十七号)第二条第一項各号に掲げる業務その他その業務の実施の適正を確保するためには業として行う労働者派遣(次節並びに第二十三条第二項、第四項及び第五項において単に「労働者派遣」という。)により派遣労働者に従事させることが適当でないと認められる業務として政令で定める業務

2. ひと目でわかる、看護師派遣OKの条件の根拠となる部分

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行令

昭和六十年政令第九十五号 最終改正:平成三十年十二月二十九日政令第三百三十九号

第二条(法第四条第一項第三号の政令で定める業務)四

保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)第二条、第三条、第五条、第六条及び第三十一条第二項に規定する業務(他の法令の規定により、同条第一項及び第三十二条の規定にかかわらず、診療の補助として行うことができることとされている業務を含み、病院等、助産所、介護老人保健施設又は居宅において行われるもの(介護保険法第八条第三項に規定する訪問入浴介護及び同法第八条の二第二項に規定する介護予防訪問入浴介護に係るものを除く。)に限る。)