甲状腺機能異常の心電図|各疾患の心電図の特徴(12)

 

心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。
今回は、甲状腺機能異常の心電図について解説します。

 

田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長

 

[前回]

薬剤による心電図変化

 

〈目次〉

 

甲状腺機能亢進症

甲状腺機能亢進症とはどんな疾患か

甲状腺は甲状軟骨(いわゆるノドボトケ)のすぐ下の気管の前に蝶々型に広がる内分泌器官です。ここから甲状腺ホルモンが分泌されて体内の新陳代謝を調整しています。甲状腺ホルモンとはいってみれば活発にするホルモンで、代謝を促進するホルモンです。

 

このホルモンの過剰状態が甲状腺機能亢進症で、全身臓器の活動が活発になって、発汗、体温上昇、手のふるえ、食欲亢進下痢眼球突出、精神不安定などさまざまな症状を呈します。

 

多くはバセドウ病という、甲状腺を分泌するスイッチとなるTSH受容体に自己抗体が結合して、不必要に多くの甲状腺ホルモンを分泌する疾患が原因です。

 

甲状腺機能亢進症の心電図所見と注意点は

心臓は甲状腺ホルモンに対してとくに敏感な臓器で、心筋の収縮力を増加させ、血圧心拍数を上昇させます。これは甲状腺ホルモンの心筋への直接作用に加えて、アドレナリンの効果を増強させる間接的作用によります。

 

心筋は過敏になり、不整脈が起こりやすい状態になっていて、とくに心房細動は20%に合併するといわれています。心室性不整脈も出現しやすくなります(図1)。

 

図1甲状腺機能亢進症(洞性頻脈)の心電図

甲状腺機能亢進症(洞性頻脈)の心電図

 

また、甲状腺ホルモンによって低カリウム血症をきたすことがあり、不整脈の原因になります。

 

さらに、甲状腺機能亢進症になんらかのストレスが加わると、甲状腺ホルモンの分泌に対する身体の反応が限界を超えて、甲状腺クリーゼという重篤な病態をきたします。“クリーゼ”とは“crisis”で危機という意味で文字どおり危機的状況です。

 

具体的には、意識障害、発熱、心不全、極端な頻脈(>130回/分)、下痢・嘔吐などをきたします。この状態では、心室頻拍や心室細動など致死性不整脈に至ることがあり、十分な注意が必要です。

 

甲状腺機能低下症

甲状腺機能低下症とはどんな疾患か

亢進症とは逆に、甲状腺ホルモンの分泌が低下して足りない状態です。甲状腺機能亢進症がアクセルを踏み過ぎてスピード違反だとすれば、甲状腺機能低下症はアクセルの踏み込みが足りないノロノロ運転です。ほとんどは、慢性甲状腺炎橋本病)による甲状腺破壊が原因で、低体温、浮腫、体重増加、発汗減少、皮膚の乾燥、意欲の低下などの症状が出現します。

 

甲状腺機能低下症の心電図所見と注意点は

心臓に対しては、甲状腺機能亢進症とは逆に心臓の収縮力低下、血圧低下とともに、徐脈を呈します。ただし、軽度から中等度の洞性徐脈がほとんどで、ペースメーカーを必要とする高度の洞性徐脈や完全房室ブロックなどはほとんどありません。

 

特徴的な症候としては、心嚢液が貯留することがあり、程度によっては心タンポナーデという、貯留液による心臓の圧迫から、血圧低下や心不全をきたし、心房細動や心室性不整脈を助長することがあります。

 

まとめ

  • 甲状腺機能亢進:循環促進~頻脈性不整脈に注意
  • 甲状腺機能低下:循環抑制~徐脈性不整脈に注意

 

[次回]

ペースメーカーの種類と適応|ペースメーカー(1)

 

[関連記事]

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『アクティブ心電図』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版

SNSシェア

看護知識トップへ