鉄欠乏性貧血に関するQ&A

 

『看護のための病気のなぜ?ガイドブック』より転載。

 

今回は「鉄欠乏性貧血」に関するQ&Aです。

 

山田幸宏
昭和伊南総合病院健診センター長

 

〈目次〉

 

鉄欠乏性貧血ってどんな病気?

貧血とは、ヘモグロビン(Hb)濃度、あるいはヘマトクリット(Ht)値が、正常より低下した状態のことをいいます。

 

ヘモグロビン濃度は、赤血球に含まれている血色素の割合で、血液1dL中の重量(g)で表します。

 

ヘマトクリット値は、血液中の赤血球の占める容積比率のことで、%で表します。男性はHb13g/dL未満、あるいはHt39%未満、女性はHb12g/dL未満、あるいはHt36%未満が、貧血の診断の目安になります。

 

ヘモグロビンは、ヘムという色素とグロビンというタンパク質からできています。

 

鉄欠乏性貧血は、ヘムの構成成分である鉄の不足により、ヘモグロビンの合成が低下して生じる貧血です。

 

貧血には、鉄欠乏性貧血、巨赤芽球性貧血溶血性貧血再生不良性貧血、腎性貧血などがありますが、最も多いのは、鉄欠乏性貧血です。

 

メモ1貧血の原因

貧血の原因は、①赤血球産生の低下、②赤血球破壊の亢進溶血)、③赤血球の喪失の3つに分かれる。

 

赤血球の産生が低下する原因には、①造血幹細胞の異常、②赤血球の成熟障害、③エリスロポエチンの産生低下がある。

 

一方、赤血球の崩壊が亢進する原因には、赤血球自体に異常がある場合と、赤血球以外に異常がある場合に分かれる。

 

赤血球喪失の原因には、外傷による出血や、出血傾向などによる持続性出血がある。

 

鉄欠乏性貧血は、鉄欠乏のため赤血球の成熟障害が起こる。

 

鉄が不足するのはどうして?

鉄が不足する原因、鉄欠乏性貧血の原因には、鉄の需要増大と鉄の供給不足があります(図1)。

 

図1鉄の吸収と喪失

鉄の吸収と喪失

 

(山田幸宏編著:看護のための病態ハンドブック。改訂版、p.582、医学芸術社、2007より改変)

 

鉄の需要増大は、①持続性出血、②成長・発育、③妊娠・出産、などによります。

 

持続性出血には、胃潰瘍十二指腸潰瘍、悪性腫瘍などによる消化管出血、月経過多、子宮筋腫子宮内膜症による性器出血があります。

 

食物から摂取した鉄は体内でどうなるの?

一般的な食事には、1日平均10〜20mgの鉄が含まれており、そのうち5〜10%が十二指腸から空腸で吸収されます。吸収された血清鉄の一部は、トランスフェリンと結合して骨髄へ運搬され、ヘモグロビンの合成に利用されます。また、一部はフェリチンとして肝臓脾臓に蓄えられます。

 

赤血球の寿命は約120日で、寿命が来ると、脾臓で破壊されます。そのとき、鉄は放出されますが、いったん脾臓や肝臓などに貯蔵され、再びヘモグロビンの合成に利用されます。

 

生体内の鉄量は、男性が50mg/kg、女性が35mg/kgで、その内、2/3がヘモグロビンに存在し、1/4が蓄えられ、残りが組織に存在します。

 

鉄が不足すると貯蔵鉄がヘモグロビン合成に利用されため、貯蔵鉄の不足に伴って、貧血が出現します。

 

メモ2トランスフェリンとフェリチン

トランスフェリンとは、鉄を運搬するタンパク質。通常、血清中の鉄は、すべてトランスフェリンと結合して骨髄へ運搬される。トランスフェリンには、鉄と結合していない部分がある。フェリチンとは、鉄の貯蔵機能を持つタンパク質。鉄過剰時には増加し、鉄不足時には減少する。

 

鉄欠乏性貧血ってどんな症状が出現するの?

ヘモグロビンには、肺で受け取った酸素を全身の組織へ運ぶ役割があります。したがって、ヘモグロビン濃度が低下すると、酸素が欠乏し、頭重感、めまい、立ちくらみ、鳴り、全身倦怠感といった症状が現れます。また、酸素の欠乏を代償しようと、心臓が拍動を増加させるため、動悸息切れ頻脈などが出現します。これらの身体所見としては、顔面や粘膜の蒼白があり、眼瞼結膜やの蒼白化は診断に重要な所見です。

 

以上は、一般的貧血に出現する症状です。これらの症状に加え、高度な鉄欠乏が長期間続くと、組織鉄が減少し、①舌炎・口角炎、②嚥下痛・嚥下困難、③匙状爪、④異食症などが出現します。

 

異食症とは、氷、粘土、壁土など、脆いものやカリカリ音のするものを好んで食べることをいいます。

 

鉄欠乏性貧血の検査所見はどうなるの?

鉄欠乏の進展に伴って、検査所見が推移します。

 

最初は、貯蔵鉄を表す血清フェリチンの値が低下します。次に、血清鉄の値が低下し、不飽和鉄結合能(UIBC)が上昇し始めます。UIBCは、総鉄結合能(TIBC)と血清鉄の差を表します。TIBCは、血中のトランスフェリン濃度を表し、「TIBC=血清鉄+UIBC」となります。次に小球性低色素性の赤血球指数を示すようになり、続いてヘモグロビン濃度が低下して貧血が出現します。

 

鉄欠乏性貧血にはどんな治療が行われるの?

鉄剤を経口投与、あるいは静脈注射します。経口投与の場合は、貯蔵鉄が正常になるまで、約6か月の投与が必要で、ときに胃腸障害の副作用が見られます。原則経口投与で、静脈注射は経口投与がどうしても難しい場合や、急速に鉄欠乏を改善する必要がある場合に限ります。

 

ビタミンCは植物性食品に多く含まれている非ヘム鉄の吸収を促進します。

 

鉄欠乏性貧血の看護のポイントは?

めまい、立ちくらみ、動悸などの症状に対しては、酸素消費量を増やさず、できるだけ心臓に負荷をかけないために、安静が必要です。また、転倒しないように、歩きやすい履き物をアドバイスし、環境整備に努めます。鉄剤を服用している場合は、副作用の出現にも注意が必要です。

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための病気のなぜ?ガイドブック』 (監修)山田 幸宏/2016年2月刊行/ サイオ出版

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