「1年目の就職で精神科にいきなり行くのは不安…」「一般科からスタートすべき？」 そんな迷いを持つ看護学生さんもいるかもしれません。
精神科看護師は、身体的な処置が少ない一方で、観察力やコミュニケーション力を活かして患者さんの心に寄り添う専門職です。この記事では、精神科の仕事内容や適性、教育体制、給料のことまで、就活中の看護学生が気になるポイントを解説します。
「新卒で精神科」はあり？
一昔前までは「まずは一般科に行くべき」と言われていましたが、最近では新卒から精神科に進む選択も徐々に広がりを見せています。
背景にあるのは、精神医療の需要の高まりと、看護職全体の働き方の多様化です。
精神疾患のある患者さんは年々増加しており、チーム医療の中でも看護師の役割が大きくなっています。また、精神科は比較的急変が少ないため、業務ペースも安定しやすいといった働き方の特徴もあります。
「専門性を持ってじっくり患者さんと向き合いたい」「忙しすぎない環境で、自分のペースで成長したい」。そんな思いを持つ看護学生が、新卒で精神科を前向きに選ぶようになっているようです。
一般科と精神科の看護師 業務・働き方の違い
一般科と精神科の主な違いを表にまとめてみました。「どちらが正解」はなく、違いを知ったうえで「自分が何を重視したいか」で選ぶのが大切です。
| 一般科 | 精神科 | |
|---|---|---|
| 主な業務 | 急性期の身体的なケア・処置 | 精神症状の観察・関わり・服薬管理 |
| スキル習得 | 基本的な看護技術 （点滴・採血・清潔ケアなど） | 治療的コミュニケーション・傾聴 |
| 夜勤の忙しさ | 急変対応が多いことも | 比較的落ち着いている |
| キャリア | 幅広い経験を積みやすい | 専門性を深めやすい |
精神科看護師とは？どんな患者さんをケアするの？
精神科看護師は、うつ病、統合失調症、パニック障害、認知症、摂食障害、アルコール依存症など、精神疾患を抱える患者さんに対して、医療と生活の両面からサポートを行う専門職です。
精神科看護師が働く職場
精神科看護師の勤務先はさまざまです。
- 総合病院内の精神科病棟・外来
- 精神科専門の単科病院
- 精神科のクリニック
- 精神科デイケア・ナイトケア（通所によるリハビリ支援）
- 訪問看護ステーション（在宅療養支援）
新卒で配属されるのは病棟や外来が中心ですが、将来的に地域医療や訪問看護へキャリアを広げる方も増えています。
精神科看護師の具体的な業務
精神科の看護では、次のような業務を行います。
- 患者さんとのコミュニケーションによる心理的ケア
- 表情・言動・バイタルサインの観察とアセスメント
- 服薬管理・与薬（副作用やアドヒアランスの確認）
- 身体ケア（清潔援助・排泄・食事など）
- セルフケア支援・社会生活復帰のサポート
- 医師・多職種との連携、チームカンファレンス参加
「ただ話を聴くだけ」ではなく、看護師の視点で状態を把握し、チームの一員として治療に関わる重要な役割があります。
精神科看護の特徴は長期入院の多さ
精神科では、慢性的な疾患を抱える患者さんが多いため、長期入院になるケースも少なくありません。
厚生労働省のデータによれば、精神病床の平均在院日数は約250日（一般病床は約16日）と非常に長く、継続的な関わりと信頼関係の構築が求められる分野です。
※厚生労働省「病院報告（令和6年4月分概数）」
「こころの回復」には時間がかかるからこそ、寄り添う看護のやりがいも深まる。それが精神科看護の大きな魅力です。
精神科病棟での勤務スケジュール（日勤・夜勤）
新卒が配属されやすい精神科病棟の日勤・夜勤のスケジュール例を紹介します。
日勤のスケジュール（例）
| 08:30 | 出勤・情報収集・夜勤看護師から申し送り | ||
| 09:00 | バイタルチェック・表情や言動の観察・清潔ケア・環境整備など | ||
| 11:00 | 看護記録・配薬の準備 | ||
| 12:00 | 配膳・食事介助・見守り・配薬 | ||
| 13:00 | 交代で休憩へ | ||
| 14:00 | 作業療法・レクリエーション支援・患者さんとの個別関わり（傾聴など） | ||
| 15:00 | チームカンファレンス・多職種カンファレンス・リスク評価など | ||
| 16:00 | 看護記録 | ||
| 16:30 | 夜勤看護師へ申し送り | ||
| 17:00 | 退勤 | ||
精神科の日勤は、処置よりも観察・記録・コミュニケーションが中心のため、比較的、患者さん一人ひとりと向き合う時間を確保しやすいのが特徴です。
夜勤のスケジュール（例）
| 16:30 | 出勤・情報収集・日勤看護師から申し送り | ||
| 17:00 | ラウンド・観察・患者さんのケア・配薬の準備 | ||
| 18:00 | 夕食の配膳・食事介助・見守り・配薬 | ||
| 19:00 | 交代で休憩へ | ||
| 20:00 | 就寝前薬の配薬 | ||
| 21:00 | 消灯 | ||
| 23:00~05:00 | 2～3時間ごとにラウンド・観察・患者さんの不穏や不眠への対応・交代で仮眠 | ||
| 06:00 | 起床促し | ||
| 07:00 | 看護記録・配薬の準備 | ||
| 08:00 | 朝食の配膳・食事介助・見守り・配薬 | ||
夜勤帯では、不眠や不穏状態にある患者さんの対応、定期的なラウンド（巡視）、緊急対応が中心になります。チームで連携しながら、夜間も患者さんの安全と安心を守るのが大きな役割です。
精神科看護師に向いてる人・向いていない人
「精神科看護師に向いているかどうか、わからない…」という不安があるかもしれません。精神科看護師の向き不向きを自己分析するヒントとして、10のチェック項目を参考にしてみてください。
精神科看護師の向き不向き
セルフチェック
- 表情や声色のわずかな変化に気づくことがある（観察力）
- 相手の話を最後まで遮らずに聴ける（傾聴力）
- すぐに結果が出なくても関わりを続けられる（忍耐力）
- 緊張する場面でもある程度落ち着いていられる（感情コントロール）
- 危険場面を事前に察知して行動できる（リスク予測力）
- 多職種と協力して働くのが好き（チーム連携力）
- メモや記録で自分の行動を見直すことがある（振り返り力）
- 精神科特有の環境を理解して自分の役割に責任を持てる（責任意識）
- 暴言・拒否に直面しても冷静に対応できる（ストレス耐性）
- 看護技術は現場で学んで補えると考えられる（自己学習意欲）
このセルフチェックは文献や実際の求人情報などに基づいたものですが、あくまで参考です。「向いていない」と感じた項目があっても「伸ばすべき部分」として捉えてください。
精神科看護師の「やりがい」と「きつい」
精神科看護師の仕事には、他の診療科にはない「やりがい」と「難しさ」があります。
先輩たちがやりがいを感じた瞬間は？
必ずしも派手な場面ではありませんが、看護師として患者さんに寄り添い、じっくり支えてきた手応えを実感できるのが精神科の魅力と言えるでしょう。
先輩たちはつらさをどう乗り越えた？
一方で、精神科看護は長期入院で回復に時間がかかる、ときには患者さんからの暴言や拒否的な態度と向き合う場面もあるなど、特有の難しさもあります。先輩たちはどのように乗り越えているのでしょうか。
精神科ならではの悩みも、安全対策やサポート体制が整った環境があれば、しっかり乗り越えていけるでしょう。病院見学やインターンに参加し、体制や実際の雰囲気を感じてみるのがおすすめです。
病院の見学会・インターンシップに行ってみよう
精神科看護師の教育体制とスキルアップ支援
多くの精神科病院では、プリセプター制度を導入しています。
プリセプター制度とは、新人看護師（プリセプティ）に対して、経験を積んだ先輩看護師（プリセプター）がマンツーマンで指導・サポートを行う教育制度のこと。精神症状の観察・対応から患者さんとの関わり方、記録の書き方まで丁寧にサポートしてもらえます。
また、病院によってはスキルラボ（技術練習室）での手技練習や、身体合併症のある患者さんへのケア方法なども学べるプログラムが用意されており、「精神科＝処置ができない」という不安も解消されやすくなっています。
精神科で学べる基礎看護技術10選
「精神科は経験できる処置が少ないのでは」と不安になる方もいますが、精神科病棟でも以下のような技術に触れる機会があり、基礎看護のスキルもしっかり磨いていくことが可能です。
- バイタルサイン測定
- 採血・血糖測定・インスリン注射
- 創傷処置・褥瘡ケア
- 清拭・整容・入浴などの清潔ケア
- 経管栄養
- 食事・排泄介助・オムツ交換
- 感染予防と衛生管理
- 転倒・転落防止の安全管理
- 身体疾患による急変時の初期対応
- 点滴管理（身体合併症病棟など）
- 医師の診察介助や処置補助
認定・専門看護師、公認心理師の取得ルート
精神科で働く中で専門性を高めたいと思ったら、以下のような資格取得を目指すこともできます。
| 資格名 | 要件 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 精神科 認定看護師 | 実務経験5年 ＋ 認定教育機関の修了 ＋ 審査合格 | 精神科での専門的な看護提供 |
| 精神看護 専門看護師 | 実務経験5年 ＋ 大学院修了 ＋ 審査合格 | 看護職などへのコンサルテーション・倫理調整など高度な看護実践 |
| 公認心理師 | 所定の大学院修了あるいは2年以上の実務経験 ＋ 国家試験合格 | 心理支援・発達支援・カウンセリングなど |
出典：日精看オンライン「精神科認定看護師制度」日本看護協会「看護のスペシャリスト 精神看護専門看護師」厚生労働省「公認心理師」「公認心理師試験の受験を検討されている皆さまへ」
スキルアップやキャリア形成を見据えて、自分に合った学びのステップを選んでいけるのも、精神科看護の大きな魅力です。
精神科看護師の病院選びと面接対策
ここでは、新卒で精神科看護師を目指す看護学生のみなさんに役立つ「就活のヒント」をお届けします。
精神科病院選びのポイント
精神科の病院を選ぶときには、新卒ならではの視点で見るべきポイントがあります。以下のような点を意識して比較・検討してみるのがおすすめです。
新人教育体制が整っているか
プリセプター制度の有無やOJT内容は重要です。手厚い研修があるかどうかで、配属後の安心感が大きく変わります。
安全管理の仕組みがあるか
精神科では暴力・暴言などのリスクがゼロではありません。複数対応などの安全体制や緊急コール、リスクマニュアルの有無を確認しましょう。
スタッフ同士の雰囲気や働きやすさ
人間関係やチームの雰囲気は働き続けられるかどうかに直結します。見学時にスタッフの表情やスタッフ同士のコミュニケーションの雰囲気を観察してみましょう。
対象となる患者層や医療機能
どんな患者さん・疾患が多いか、急性期中心か慢性期中心か、精神科スーパー救急に指定されているかなどを確認しましょう。それによって、看護業務の密度や傾向も病院ごとに特性があります。
病院の見学会・インターンシップに行ってみよう
志望動機のポイントと例文
志望動機では「なぜ精神科なのか」「なぜこの病院なのか」の2点を明確にしておくことが大切です。
【例文】精神科の志望動機（新卒向け）
精神科看護実習を通じて、「支える看護」の大切さを学びました。患者さんが安心して自分らしく過ごせるように、じっくり寄り添う関わりができる点に魅力を感じ、精神科を志望しています。中でも貴院は、新人教育が充実しており、チームでの支援体制が整っている点に強く惹かれました。貴院で精神科看護師としての基礎を学び、患者さんやご家族の生活を見据えた支える看護を実践したいと考えています。
精神科の面接でよくある質問と回答例
精神科看護師の給料事情は？
「精神科はお給料が低いのでは…？」と心配されることもありますが、実際は精神科看護師の年収は400〜500万円前後と一般科と大きな差はありません。
夜勤手当のほか、
- 精神科勤務手当（月1万円）
- 危険手当（1回数千～1万円）
- 認定・専門資格手当（月数千〜1万円）
などの手当がつくこともあるようです。夜勤のない外来などに配属された場合は夜勤手当がない分、給料も少し低めになります。
【新卒向け】精神科看護師よくある質問Q&A
担任の先生が精神看護専門看護師だったので相談したところ、「どの領域でも患者さんとの関わりが何より大切。その点を深く学べる精神科は、最初の選択として良いと思うよ」と言ってくださったんです。「何を学びたいか」を軸に精神科を選んでよかったと思っています。
まとめ
精神科の看護は「こころの看護」。目に見えない部分に寄り添うからこそ、奥深くてやりがいのある仕事です。一般科とはまた異なる看護を実践できます。
精神科病院と言ってもそれぞれに特徴があるので、まずは病院見学やインターンシップに参加して、実際の現場を体感してみましょう。
病院の見学会・インターンシップに行ってみよう
