甲状腺手術後ドレナージ | ドレーン・カテーテル・チューブ管理

ドレーンカテーテル・チューブ管理完全ガイド』より転載。

 

今回は甲状腺手術後ドレナージについて説明します。

 

岡村律子
日本医科大学武蔵小杉病院総合診療科病院講師
杉谷 巌
日本医科大学付属病院内分泌外科教授
齋藤牧子
日本医科大学付属病院看護部

 

《甲状腺手術後ドレナージについて》

 

主な適応
腺腫様甲状腺腫、濾胞腺腫、バセドウ病乳頭癌などのうち、甲状腺の切除範囲やリンパ節郭清の範囲にあわせて適応を決定する
目的
術後、創内に貯留する血液・リンパ液などの滲出液を創外へ排出し、その性状・量よりドレーン抜去時期を判断する
合併症
新たな瘢痕の形成、頸部不快感、入院期間の長期化、創部感染など
抜去のめやす
バセドウ病、甲状腺良性疾患、甲状腺悪性疾患で、前頸部リンパ節郭清術までの手術の場合、手術翌日に抜去
左外側頸部リンパ節郭清を行った場合には、リンパ漏がないことを確認後に抜去
観察ポイント
特に術後6時間は術後出血のリスクが高いため、排液の性状・量の確認のほか、頸部腫脹、呼吸困難の有無を含むバイタルサインの変化について頻回の巡視を行う。
体位変換や移動時は、ルートの屈曲、排液バックの位置に注意して観察する。バックが拡張している際は、エアリークのサインとして対処する。
ケアのポイント
固定方法 : ドレーンは絹糸・テープで創外、皮膚に固定する
抜去予防 : ドレーンバックが歩行時に牽引されないようにポシェット、バッグなどに入れる

 

〈目次〉

 

甲状腺手術後ドレナージの定義

甲状腺手術後ドレナージとは、甲状腺手術後の創内に貯留する血液・リンパ液などの滲出液を創外へ排出することである。創外へ排出する機材をドレーンと呼ぶ。

 

ドレーンから排出される血液・リンパ液などの滲出液の性状を確認し、排液量を測定することにより、留置したドレーンの抜去時期を適切に判断することができる。

 

甲状腺手術後ドレナージの適応と禁忌

1甲状腺手術の適応・術式

甲状腺手術の対象には、「腺腫様甲状腺腫」、「濾胞ろほう腺腫」や「バセドウ病」などの良性疾患、「乳頭癌」を主とした悪性疾患がある。治療の目的により、甲状腺(図1)の切除範囲やリンパ節(図2)の郭清範囲が決まる。

 

濾胞性腫を含む結節性甲状腺腫では甲状腺片葉切除術、バセドウ病では甲状腺両葉を対象に甲状腺亜全摘~全摘術を行う。

 

甲状腺乳頭癌を主とした悪性疾患では、甲状腺片葉切除または全摘術とリンパ節の郭清範囲に応じた前頸部および一側または両側の外側頸部リンパ節郭清術を行う。

 

図1頸部・甲状腺の解剖

頸部・甲状腺の解剖

 

図2甲状腺の所属リンパ節

甲状腺の所属リンパ節

 

 

2ドレーン留置の適応

甲状腺手術後のドレーン留置の適応は、甲状腺の摘出範囲、頸部リンパ節郭清の範囲などに応じて決める。

 

術中の出血量が少ない場合、小さい甲状腺腫瘍の切除、前頸部リンパ節郭清術などの切除範囲が小さい手術では死腔が少ないため、ドレーンを留置しない場合もある。

 

内視鏡下甲状腺切除術では超音波駆動メスの使用により、術中出血量は少なく、整容性を重視した手術でもあるため、ドレーンを留置することはまれである1

 

3甲状腺手術の合併症①術後出血(図3

甲状腺手術後の合併症で最も緊急性の高いものは「術後出血」である。術後出血をきたした場合には、頸部の圧迫解除のため創部を再開創し血腫除去術が必要となる。適切な対応ができない場合には窒息し、死に至ることがある。

 

術後出血は、ドレーン留置により回避できたとの報告はなく、特に手術後6時間以内に起こる頻度が高いとされている。当科では、術翌日朝まではベッド上安静としている。ドレーンの排液の性状や排液量の確認だけでなく、頸部腫脹、呼吸苦の有無を含むバイタルサインの変化について術後頻回の巡視を行うことが重要である。

 

緊急時には、病棟での再開創、血腫除去や気管切開を行うこともあるため、準備を整えておく。

 

図3術後出血の診断と治療

術後出血の診断と治療

 

 

4甲状腺手術の合併症②乳び漏(図4

甲状腺癌のリンパ節転移症例では、転移部位により外側頸部リンパ節郭清術を行う。

 

外側頸部リンパ節郭清術では、「胸管損傷」に注意が必要である。胸管は、左静脈角と呼ばれる左内頸静脈と左鎖骨下静脈の合流部付近にある太いリンパ管のことである。胸管を損傷した場合には、ドレーンに淡黄色のリンパ液が排出され、脂肪分を含む食事を摂取したあとには乳びと呼ばれる白濁した液体が大量に排液(「乳び漏」)される。

 

乳び漏を生じた際、排液量が1日1,000mL以上持続する場合には、脂肪制限食または絶食を行い、経過観察する2。それでも排液量が減少しない場合には、早めに再開創し胸管を結紮するための再手術を検討する。

 

まれに胸腔内にリンパ液が貯留して「乳び胸」となることがある。呼吸苦を訴えるような場合には、胸部X線で確認したうえで胸腔ドレナージが必要となる2

 

図4乳び漏の診断と治療

乳び漏の診断と治療

 

 

甲状腺手術後ドレナージの挿入経路と留置部位

甲状腺手術後ドレナージでは、排液の性状の確認、排液量の測定、感染の回避などの観点から閉鎖式ドレーン(低圧持続吸引システム)を用いている(図5)。

 

図5低圧持続吸引システムの例

低圧持続吸引システムの例

 

一般的には、ドレーン挿入部位と留置部位は別々にすることが推奨されているため、低圧持続吸引システムは鋭的な操作でドレーンの挿入が行える構造になっている(図6-a)。しかし、甲状腺手術後においては、頸部に新たな瘢痕を形成すること、鋭的操作により前頸静脈から出血をきたすリスクがある1,2。そのため当科では、手術創縁の延長線上に小切開をおき、ドレーンを挿入している(図6-b)。ドレーンは、絹糸にて皮膚に固定している(図7)。

 

図6ドレーン挿入操作

ドレーン挿入操作

 

図7ドレーン挿入時の固定

ドレーン挿入時の固定

 

ドレーンの先端は、手術切除範囲に応じて必要十分な範囲に留置する。通常、ドレーンは1本挿入しているが、両側の外側頸部リンパ節郭清術を行った場合など、必要と判断した場合には2本留置することもある。

 

低圧持続吸引システムは、携帯用吸引バックに接続し、持続的に陰圧をかけて貯留液を吸引する。

 

甲状腺手術後ドレナージの合併症

ドレーン挿入の合併症として、新たな瘢痕の形成、頸部不快感、入院期間の長期化、創部感染などが挙げられる。

 

最近の欧米からの文献3では、ドレーン留置の有無により術後出血や低カルシウム血症、反回神経麻痺などの術後合併症に統計学的有意差はないが、ドレーンを留置することにより、かえって入院期間の延長、創部の疼痛スコア、創部感染の確率が高くなるとの報告がある。

 

甲状腺手術後ドレナージの利点と欠点

甲状腺手術後ドレナージの利点として、適切なドレーン管理により、ドレーンの抜去時期や再手術など、次の治療方針決定の情報源となる。

 

一方で、ドレーン留置は、甲状腺手術後の合併症である術後出血やリンパ漏の回避および予防にはつながらない。さらに、ドレーンの長期留置により頸部不快感の増長、入院の長期化、創部感染をきたす可能性があることに注意する。

 

甲状腺手術後ドレナージのケアのポイント

1甲状腺手術による合併症のケア

①術後出血

頸部に血腫を生じ、頸部の圧迫感・腫脹・呼吸困難が出現するため、術後は頻回に創部および頸部の観察を行う。

 

急激に創部が腫脹した場合には、すみやかに医師へ報告する。

 

②リンパ漏

排液が淡黄色および乳白色で術後数日過ぎても減少しない場合は、リンパ漏が考えられる。このような場合は、すみやかに医師へ報告する。

 

③乳び漏

外側頸部リンパ節郭清術を行った場合、「乳び漏」が発生することがある。その場合、淡黄色から乳白色の排液を認める。

 

絶飲食とし、創部の圧迫で対応するが、改善しない場合は再手術が検討される。

 

2排液の量・性状の観察

ドレーンを留置した場合には、ドレーンから排出される血液・リンパ液などの滲出液の性状の確認と排液量の測定を行う。

 

甲状腺手術後のドレーン排液量は、出血量の多いバセドウ病や甲状腺切除術のみであった場合やリンパ節郭清術の範囲にかかわらず、術直後の6時間以降著明に減少するとの報告がある4。当科では、バセドウ病、甲状腺良性疾患、甲状腺悪性疾患で前頸部リンパ節郭清術までの手術では、手術翌日にドレーン抜去を行っている。

 

排液が急に減少した場合は、ドレーンが閉塞した可能性もあるため、術後出血を考慮し、創部の観察も行う。

 

3ドレナージの管理

①ドレナージのルート

ドレナージの管理として、①固定がドレナージの妨げになっていないか、②身体の下になっていないか、③ねじれや屈曲がないか、④排液バックはドレーン挿入部より低い位置にあるかを体位変換後や移動の度に確認する。

 

患者も自己管理できるように指導する。

 

②排液バック

ドレーン挿入後は、排液バック内を陰圧に保つ。

 

エアリークがある場合には、バック内に空気が充満し陰圧を保持できない(図8)。そのためエアリークを認めた場合には、創部、ドレーン挿入部、ドレーンとバックの接続部などを確認し、必要に応じて軟膏の塗布やテープで固定し、陰圧を保つようにする。

 

図8エアリーク時の排液バック

エアリーク時の排液バック

 

 

4ドレナージの事故防止

排液バックが牽引されてドレーンが抜けてしまうことがあるため、創部付近での体幹へのテープ固定を行い(図7)、排液バックは首から下げられるような袋に入れて、身体から離れないようにする(図9)。

 

図9ドレーン事故抜去の予防

ドレーン事故抜去の予防

 

縫合不全、ドレーン挿入部の哆開しかい、ドレーンの抜去などによって創内の陰圧が保持されなくなると、排液バックが拡張する。このような場合は、血腫や二次感染のリスクが高くなるので、すぐに医師へ報告する。

 

5感染予防

挿入部位を清潔に保つことで、感染を予防する。感染の徴候(発赤・腫脹・疼痛・熱感・膿性分泌物・臭気など)がないか創部を観察する。

 

患者が自己管理できるように指導する。

 


[引用・参考文献]

 

  • (1)清水一雄,赤須東樹,五十嵐健人:甲状腺・副甲状腺手術後のドレナージ.手術2008;62(11):1497-1502.
  • (2)Minami S, Sakimura C, Hayashida N. Timing of drainage tuberemoval after thyroid surgery: a retrospective study. Surg Today 2014;44:137-141.
  • (3)杉谷巌:甲状腺手術後ドレナージ.臨牀看護 2003;29(6):794-799.
  • (4)Woods RS, Woods JF, Duignan ES,et al. Systematic review and meta-analysis of wound drains after thyroid surgery. BJS 2014;101:446-456.
  • (5)永井秀雄,中村美鈴 編:臨床に活かせるドレーン&チューブ管理マニュアル. 学研メディカル秀潤社,東京,2011: 194-195.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社

 

[出典] 『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版』 (編著)窪田敬一/2015年7月刊行/ 株式会社照林社

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