腎不全に関するQ&A
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『看護のための病気のなぜ?ガイドブック』より転載。
今回は「腎不全」に関するQ&Aです。
山田幸宏
昭和伊南総合病院健診センター長
〈目次〉
- 1.腎不全ってどんな病気?
- 2.腎不全って何が原因なの?
- 3.急性腎不全(急性腎障害)はどんな症状が出現するの?
- 4.尿毒症ってどんな症状?
- 5.慢性腎不全はどんな症状が出現するの?
- 6.腎不全ではどんな治療が行われるの?
- 7.透析療法ってどんな治療法?
- 8.腎不全・透析療法時の看護のポイントは?
- 9.透析療法により血圧変動や不均衡症候群はなぜ起こるの?
腎不全ってどんな病気?
腎不全とは腎臓の働きが低下し、体液の恒常性が維持できない状態です。
腎臓には、①身体に不要な老廃物(窒素代謝産物など)を排泄する、②水と電解質の量を一定に保つ、③酸塩基平衡を保つ、④ホルモンを分泌する、⑤ビタミンDを活性化する、という働きがあります。腎不全では、これらの働きが障害されます。
腎不全には、腎臓の機能が急激に低下する急性腎不全(急性腎障害)と、徐々に腎機能が低下する慢性腎不全があります。一般的に、急性腎不全は予後は良好ですが、慢性腎不全は予後不良です。
腎不全って何が原因なの?
急性腎不全(急性腎障害)の原因は、原因の存在部位により、①腎前性、②腎性、③腎後性、の3つに分けられます(図1)。
①腎前性
血液が腎動脈を経て糸球体に流入するまでに起こる障害です。血液は腎臓の糸球体で濾過され、ボウマン嚢(のう)を経て尿細管に入り、生体に必要な水と成分が再吸収され、残りが尿として排泄されます。出血や脱水、著しい心機能の低下により、腎臓への血流量が低下すると、十分な尿が生成されません。
②腎性
腎臓そのものの原因で、糸球体の障害と尿細管の障害があります。糸球体の障害とは、糸球体毛細血管の基底膜や内皮細胞の障害です。これらの障害により血液が濾過されにくくなり、糸球体濾過量が低下します。尿細管の障害とは、尿細管の変性、壊死、閉塞などです。尿細管が変性・壊死すると、生体に不要な水・電解質、窒素代謝産物を再吸収してしまいます。また、尿細管が完全に閉塞した場合は、糸球体濾過液がボウマン嚢を通過できなくなり、糸球体濾過量が低下します。
③腎後性
腎盂以下の尿路の原因で、尿路結石、膀胱・尿道の閉塞などがあります。尿路が閉塞されると、腎臓で生成された尿が流れなくなり、糸球体での血液の濾過が滞るようになります。
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慢性腎不全の原因は、腎性です。原因疾患で最も多いのは、糖尿病性腎症、次いで慢性糸球体腎炎です。
急性腎不全(急性腎障害)はどんな症状が出現するの?
急性腎不全(急性腎障害)は、ほんんどの場合、尿量の減少(乏尿あるいは無尿)が数週間続きます。そのため、本来なら尿中に排泄される窒素化合物(尿素、尿酸、クレアチニンなど)、電解質、水分が血中に貯留します。その結果、高窒素血症、高カリウム血症、代謝性アシドーシス、浮腫、高血圧が出現します。
代謝性アシドーシスとは、血液のpH(水素イオン濃度)が酸性(pH<7.40)に傾いた状態のことです。水素イオンの排泄低下と、重炭酸イオンの再吸収低下により起こります。
腎臓では、赤血球造血作用があるエリスロポエチンを分泌していますが、腎機能が低下すると、エリスロポエチンの分泌量が減少するため、貧血になります。
急性腎不全(急性腎障害)は適切な治療を行えば、多くの場合は腎機能は回復します。ところが悪化すると、尿毒症の症状が出現します。
COLUMN尿が生成される過程
腎臓には1分間に約1,200mLの血液が流れ込んでくる。この血液が、糸球体と尿細管を経て尿になる。その過程は以下の通りである(図2)。
〔1〕糸球体での濾過
1つの腎臓には、約100万個のネフロンという最小機能単位がある。ネフロンは腎小体(マルピーギ小体;ボウマン嚢と糸球体)と尿細管からなる。糸球体は毛細血管が毛糸玉のように集まったもので、毛細血管壁が濾過フィルタになっている。
糸球体に流入した血液は、糸球体毛細血管を流れる間に特定の物質が濾過される。この濾過液が、尿のもとになる原尿である。原尿に含まれる物質(毛細血管壁を通過する物質)は①水分、②栄養素(ブドウ糖、アミノ酸)、③電解質、④タンパク質の代謝産物である窒素化合物(尿素、尿酸、クレアチニン)、⑤有機酸(リン酸、硫酸)である。一方、通過しない物質は、血球、タンパク質、脂肪などの大きな分子の物質と、マイナスに荷電したの物質である。
〔2〕尿細管での再吸収
原尿は、ボウマン嚢に集められ、近位尿細管へ流出する。原尿の中には、身体に不要な物質だけではなく、必要な物質(水分、栄養素、電解質)も多く含まれており、尿細管を通過する間に、それらの体に必要な物質が血液に再吸収される。
尿細管を通過した結果、栄養素はほぼ100%、水分は約99%再吸収され、残り1%の水分と不要な物質(尿素、尿酸、クレアチニンなど)が尿として排泄される。原尿は1日に150〜180L生成され、尿として排泄されるのは1.5〜1.8L(原尿の1%)である。
メモ1尿量異常
乏尿:腎臓で生成される1日の尿量が、400mL以下になった状態である。
無尿:腎臓で生成される1日の尿量が、100mL以下になった状態である。
尿閉:尿は腎臓で生成されているが、尿路の通過障害によって排泄できない状態である。
メモ2アシドーシスとアルカローシス
体液のpH(水素イオン濃度)は、正常では7.40と弱酸性である。7.40より酸性に傾くことをアシドーシス、アルカリ性に傾くことをアルカローシスという。どちらも、代謝上の問題によって起こるものと、呼吸性の問題によって起こるものがあり、代謝性アシドーシス、呼吸性アシドーシスなど呼ぶ。アシドーシス:pH<7.40であり、アルカローシス:pH>7.40である。
尿毒症ってどんな症状?
消化器症状(食欲不振、悪心・嘔吐)、循環・呼吸器症状(高血圧、心不全、不整脈、呼吸困難)、精神・神経症状(全身倦怠感、意識障害、けいれん)が、尿毒症の症状です。
尿素窒素やクレアチニンなどの老廃物が排泄できなくなり、こられの全身症状が出現します。なお、最近は血清クレアチニン濃度を用いて推算糸球体濾過量が腎機能を表す指標として用いられています(表1)。
病期(ステージ) | 重症度の説明 | eGFR |
---|---|---|
1 | 腎障害は存在するが、GFRは正常または亢進 | 90以上 |
2 | 腎障害は存在し、GFR軽度低下 | 60~89 |
3 | GFR中程度低下 | 30~59 |
4 | GFR高度低下 | 15~29 |
5 | 腎不全 | 15未満 |
慢性腎不全はどんな症状が出現するの?
急性腎不全とほぼ同じで、高窒素血症、高カリウム血症、代謝性アシドーシス、浮腫、高血圧、貧血などです。急激に重度の症状が現れるのではなく、徐々に悪化していきます。やはり終末像は尿毒症です(表2)。
なお、最近はタンパク尿などの腎障害や推算糸球体濾過量の低下がみられる場合を慢性腎臓病(CKD)といいます。
腎不全ではどんな治療が行われるの?
急性腎不全は、原因が腎前性や腎後性の場合は、まずその原因疾患の治療を行います。また、原因が腎性の場合と慢性腎不全では、食事療法、薬物療法、透析療法が行われます。
食事療法は、低塩分、低タンパク質、高エネルギー食が基本です。
タンパク質の摂取を控えるのは、腎不全ではタンパク質の代謝産物が排泄されないためです。また、摂取タンパク質を有効利用するために、糖質と脂肪から十分なエネルギーを摂取します。病態に応じて、水分とカリウムが制限されることもあります。
薬物療法では、浮腫を改善するために利尿薬、高血圧を改善するために降圧薬が使用されます。
重症化した場合や、食事療法と薬物療法で改善が見込めない場合は、透析療法が開始されます。
最近では、推算糸球体濾過量〔mL/min/1.73㎡〕(eGFR)が15未満(末期腎不全)の場合には透析療法が行われます。
メモ3慢性腎不全患者の透析導入基準
Ⅰ.臨床症状
1.体液貯留
2.体液異常
3.消化器症状
4.循環器症状
5.神経症状
6.血液異常
7.視力障害
これら1〜7項目のうち3個以上のものを高度(30点)、2個以上のものを中程度(20点)1個を軽度(10点)とする。
Ⅱ.腎機能
血清クレアチニン〔点数〕
・8mg/dL以上〔30点〕
・5〜8mg/dL未満〔20点〕
・3〜5mg/dL未満〔10点〕
Ⅲ.日常生活
・尿毒症のため起床できない者〔30点〕
・日常生活が著しく制限される者〔20点〕
・通勤、通学あるいは家庭内労働が困難となった者〔10点〕
Ⅰ.臨床症状、Ⅱ.腎機能、Ⅲ.日常生活のそれぞれの点数の合計が60点以上を透析導入とする
注)年少者(10歳以下)、高齢者(65歳以上)、全身合併症のあるものについては10点を加算する
(厚生科学研究・腎不全医療研究班,透析療法合同専門委員会:透析導入のガイドライン、1992)
透析療法ってどんな治療法?
透析療法とは、半透膜を介して血液と透析液を接触させることにより、腎臓の機能を代行する療法です(図3)。
血液透析HDと腹膜透析PDがあります。血液透析は、血液を体外に導き、人工腎臓(透析膜)を用いて血中の老廃物と余分な水分を除去し、浄化後の血液を体内に戻す方法です(図4)。通常は1回5時間程度、週に3回、医療施設で行われます。
腹膜透析は、腹腔内に埋め込んだカテーテルから約2Lの透析液を注入し、腹腔膜を利用して血中の老廃物を透析薬に移行させ、その透析液をサイホンの原理で排出させる方法です(図5)。
腹膜透析には、間欠的腹膜透析IPDと、持続的携帯型腹膜透析(CAPD)があります。
IPDは、透析液を注入して20〜60分腹腔に貯留し、透析液を排出します。これを1日に10〜20回行います。
一方、CAPDは、透析液を注入して6〜8時間腹腔に貯留し、その後透析液を排出します。これを1日に4回行います。CAPDは、透析液を腹腔に貯留している6〜8時間は行動が制限されないため、社会復帰がしやすくなるというメリットがあります。
腎不全・透析療法時の看護のポイントは?
急性腎不全は、初期の治療が重要です。肺水腫や心不全などの合併症を起こすことがあるので、十分に観察し、異常を早期発見します。慢性腎不全は、経過が長くなるため、食事療法などの自己管理ができるように援助します。また、予後に対する不安の軽減に努めることも大切です。
血液透析を受けている場合は、シャント側での血圧測定や採血を行わないように注意します。また透析導入期は、血圧の変動と、頭痛、悪心・嘔吐、脱力感、けいれんなどが生じる不均衡症候群に注意が必要です。
透析療法により血圧変動や不均衡症候群はなぜ起こるの?
血圧の変動は、透析により血流量が減少するために起こります。透析導入期は、腎臓の機能が残存していることが多く、血流量の減少に伴ってレニンが分泌され、血圧が上昇します(コラム参照)。腎機能が著しく低下していると、レニンが分泌されず、血圧は低下します。
不均衡症候群は、末梢の血中と脳の血中との間に生じた濃度差のために起こります。そのメカニズムは次のとおりです。
透析により血液中の老廃物や水分が除去されます。末梢血中の老廃物などは急速に濾過されますが、脳は血液脳関門により物質の移動速度が遅く、老廃物などの除去が遅れます。そのために濃度差が生じ、水分が脳内に移行して脳浮腫が起こり、脳圧が亢進します。その結果、頭痛や悪心・嘔吐などが出現します。
メモ4血液脳関門
脳の組織と血液との間に存在する防御システム。脳の毛細血管の内皮細胞や基底膜、周囲の神経膠細胞(グリア細胞)などが関与し、有害な物質が血中から脳へ通過させないようにしている。
COLUMNレニンが分泌されると血圧が上昇するわけ
腎動脈の血圧や血流量が低下すると、レニンの分泌が亢進する。レニンは、血漿中のアンジオテンシンノーゲンに作用して、アンジオテンシンⅠに変換する。アンジオテンシンⅠは、アンジオテンシン変換酵素によってアンジオテンシンⅡになる。アンジオテンシンⅡには、血管収縮作用と昇圧作用がある。さらに、アンジオテンシンⅡには、副腎皮質から分泌されるアルデステロンの分泌を促進させる作用がある。アルデステロンには、水やナトリウムの再吸収を促進し、体液量を増加させる働きがある。体液量の増加によっても、血圧が上昇する。このような一連の作用をレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系という。
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のための病気のなぜ?ガイドブック』 (監修)山田 幸宏/2016年2月刊行/ サイオ出版