正常心電図の原則|心臓と心電図の原理

看護師のための心電図の解説書『モニター心電図なんて恐くない』より。

 

[前回の内容]

心臓の電気伝導の原理(原則1~5)

 

今回は、正常心電図の原則について解説します。

 

田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長

 

〈目次〉

 

では、心臓の活動と心電図の関係を順序立てて見ていきましょう。

 

<原則6> 心電図の波形は、心房由来か心室由来のどちらかである

まず、大切なこと。

 

心電図は心臓の電気活動を表現しますが、心電図に描出される波形は、心房由来の波と心室由来の波だけです。つまり心房筋か心室筋からの電位しか心電図には出てこないということを知っておきましょう。

 

<原則7> 洞結節からの信号はまず心房を収縮させ、心電図ではP波として見られる

心房の収縮は、心電図ではP波として見られます。

 

<原則8> PQ間隔は房室間の興奮の潜伏時間を反映する

心房からの電気信号は房室結節で、グンとスピードダウンし、ゆっくりゆっくり伝導します。そのため、心房と心室の収縮には時間差ができます。P波つまり心房の収縮開始からQRS波(下記)すなわち心室の収縮開始までの時間がPQ間隔で、この時間差を反映します。

 

<原則9> QRS波は心室の収縮を現す

房室結節でゆっくり伝導した信号は、時間差をつくってヒス束で心室に伝わります。心室内は脚・プルキンエ線維で素早く・効率よく心室を収縮させます。

 

これは心電図上QRS波として見られます。

 

<原則10> T波は心室の興奮からの回復過程を見ている

QRS波で心室の隅々まで信号が行きわたり、心室は収縮します。T波は心室筋がクールダウンして元の静止状態に戻っていく過程を示しています。

 

*****

 

以上で述べたように、P波は心房由来、QRS-Tは心室由来で、P~QRSTの周期的な繰り返しが心臓の正常サイクルです(図1)。

 

図1心臓の電気伝導と収縮と心電図の関係

心臓の電気伝導と収縮と心電図の関係

 

<原則α> 心臓を日本列島にたとえてみよう!

皆さんの頭の中で整理していただくために、無理を承知のうえで、たとえ話をしてみましょう。

 

題して「日本列島新聞配達物語」。

 

心臓が日本列島だとしましょう(図2)。

 

図2心臓を日本列島にたとえると……

心臓を日本列島にたとえると……

 

北海道が心房で、本州以南が心室です。最北端の宗谷岬に新聞の発行所をつくりました。新聞の発行所は洞結節です。発行された新聞は、新聞配達員によって日本全国に配達されます。つまり、心臓の興奮の伝導は新聞配達です。

 

宗谷岬(洞結節)では毎日、一定時間に新聞を発送します。

 

この新聞は北海道全土(心房)に配達された後、青函トンネル(房室接合部)でいったん足止めされます。

 

遮断機をコントロールしているオジさんのゴーサインにより、青函トンネルを通って新聞は本州に渡ります。本州に上陸すると、日本海側の高速道路(右脚)と太平洋側の高速道路(左脚)の2つのルートで、各インターチェンジから各家庭に配られます。新聞のニュースは人に興奮を与えますので、その興奮は人々のウェーブ(波)となって現れます。

 

宗谷岬の発行所(洞結節)の興奮は小さすぎて見えません。P波は、本州に比べると人口が少ない北海道(心房)の人たちのウェーブなので、多少小さめのウェーブ(P波)です。また、P波の後QRS波出現まで、基線が一度平坦になるのは、興奮が海の底にある青函トンネル(房室接合部)を通っているため、心電図には現れないのです。

 

青函トンネル(房室接合部)を抜けた新聞(興奮)は、日本海側高速道(右脚)と太平洋側高速道(左脚)の両方から本州(心室)に速やかに配達されます。配達された新聞は、本州全土の多くの人を興奮させるので、狭くて大きなウェーブ(QRS波)をつくります。ひと通り新聞により広がった興奮は時間が経つと収まります。その様子が、T波ということになります。

 

どうでしょうか。正常心電図の各波の意味が、少しはおわかりいただけたでしょうか。

 

[次回]

心臓の電気伝導の性質

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 モニター心電図なんて恐くない』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版

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