統合失調症患者の看護計画の書き方とポイント【例文付き】|これでカンペキ!看護計画(4)

#看護計画の書き方 #便秘の看護計画 #褥瘡の看護計画 #転倒リスク状態の看護計画

 

この記事では、「統合失調症患者」の看護計画書を作成する方法を解説します。

 

※この記事では、具体的な看護計画を「O-P」「C-P」「E-P」に分けずに書く方法を取っています。

 

 

看護計画書の見本❶


立案日:〇月△日 評価日:〇月〇日

看護診断


#1 薬への不信感がある
 

患者目標
(outcome)

確実に服薬できる

具体的な
看護計画

配薬場所に自ら来て内服するのか、看護師が呼びに行って内服するのか、服薬状況を確認する
与薬時に内服の様子と、その後トイレなどで吐き出している様子などがないか見守る
精神症状の観察(Dさんの悪口を他患が言っているという訴えの有無、表情、食事・作業療法時など他患がいる中での焦燥感の有無)、睡眠状況、追加の眠剤使用の有無も把握する
入院時と比べて、Dさんのつらい思いなどに変化があったか、薬の効果の認識について聞く
抗精神病薬(エビリファイ®)の副作用が出現していないか観察する(不眠、眩暈、頭痛、便秘など)
薬について知りたいことがないか確認する
医師・薬剤師と調整し、薬についての説明を聞く機会を作る

評価

看護師の促しがなくても、自ら配薬場所に来て服薬できていた。
薬に対する不安の言葉もみられなくなったため、薬への不信感の問題は解決したと判断する。

 

 

看護計画書の見本❷

立案日:〇月△日 評価日:〇月〇日

看護診断


#2 自分の気持ちが表出できない
 

患者目標
(outcome)

自身の気持ちを他者に表出できる

具体的な
看護計画

14時ごろに必ずDさんの部屋を訪室し、眠気が強くない場合は静かな場所で10分程度看護師と話す時間を取る
入院生活のこと、症状や病気のこと、大学のことなどについてどのように感じているか、焦りや不安などがないか、本人の言葉を待ちながら気持ちを聞く
受け取った本人の言葉を確認(反復)しながら時間を共有する
話すことの受け入れ状況、話している時のDさんの表情を観察する(表情の硬さ、視線など)
話してみてどうだったか、話した後、Dさん自身の気持ちを再確認する

評価

Dさん自ら、看護師に声をかけることができるようになった。しかし、何かを訴えてくることはない。
そのため、引き続き、この看護計画を続行し、再度一週間後に評価する。

 

執筆:渡辺尚子(東邦大学健康科学部看護学科ファミリーヘルス看護領域〈精神看護学〉 教授)
監修:茂野香おる(淑徳大学看護栄養学部看護学科・同大学院看護学研究科看護学専攻 教授)

 

 

統合失調症患者の事例紹介

Dさんの事例(架空の設定)はこちら。
Dさんの事例/文学部に通う大学生のDさん、22歳女性。高校までは両親と3人で暮らしていたが、大学に入ってから一人暮らし。大学3年生になったころ、友達関係でトラブルがあり、それまで仲の良かったグループから外れて一人で過ごすことが多くなった。3年生の終わりごろより「周りの学生が私の悪口を言っている」と言い、被害妄想や、「自分は誰かにいつも見張られている」という注察妄想が出現。授業中も落ち着かない様子で焦燥感も見られた。その後、大学を無断欠席し、カーテンを閉め切ってアパートの部屋に引きこもるようになった。携帯の電話がつながらないこと心配した母親がDさんを訪ねると、元々おしゃれできれい好きだったDさんが、お風呂も入らず部屋も散らかしっぱなしの状態。びっくりした母親に連れられ、近くのクリニックを受診後、大学病院精神科を紹介され、統合失調症と診断されて同日入院となった。

 

最初、母親は「うちのDちゃんが精神科に入院ですか?」とオロオロし、Dさんは「なんで私を閉じ込めるの!お母さんは私のことを嫌いになったのね!」と怒鳴り、本人も母親も入院には同意しませんでした。

 

しかし、戸惑っている母親に看護師が「Dさんはとてもつらい状況なのです。嫌がっているDさんを入院させるなんて、お母様も大変な状況だと思いますが、今は入院してしっかり治療することが、Dさんにとって大切なことなのです。それがDさんの将来のためでもあるんですよ」と説明し、母親の同意を得ることができ、Dさんは閉鎖病棟に入院することになりました。

 

現在は下記【処方箋】の薬が処方されています。

 

【処方箋】
●定時薬
 朝食後:エビリファイ®OD錠(6mg)1T
 夕食後:エビリファイ®OD錠(6mg)1T
 眠前:レンドルミン®錠(0.25mg)1T 
●頓用薬/不穏時
 リスペリドン内用液(0.5mg)1包 ※1日2回まで
●頓用薬/不眠時
 メイラックス®錠(2mg)1T
●頓用薬/便秘時
 ピコスルファートナトリウム内用液 15滴

 

現在入院10日目。4人部屋に入院していますが、Dさんは「お部屋の人とは話が合わない」「時々他の患者がひそひそ話をして私をバカにしている」と言います。

 

看護師は様子を見ていますが、他の患者さんがDさんのことを話している様子はありません。

 

また、食事はデイルームで食べていますがいつも落ち着かない様子で、誰とも話さず2~3割しか食べられない状況です。看護師が「食欲がありませんか?」と話しかけると「そうではありません!」と言って、取り付く島もなく自室に戻ってしまう状況です。

 

服薬時は看護師に呼ばれないと配薬場所に薬を取りに来て内服することはありません。声をかけて配薬場所に来てもらっていますが、Dさんは「ここにいても具合は悪くなるばかり。ここの人たちはみんな信用できない」と言います。看護師が「もう少しお話ししましょう」と話しかけても、いつも「トイレ」と言って会話に応じることなく立ち去り、部屋に戻ってしまいます。

 

統合失調症患者の看護診断

看護診断


#1 薬への不信感がある
#2 自分の気持ちが表出できない

 

 

Dさんの状態を、オレム/アンダーウッドのセルフケア理論を使って、全体像を把握してみましょう。

 

1 オレム/アンダーウッドのセルフケア理論

オレムは、人はみな自分のことを自分で行う「セルフケア」能力を持っており、そのバランスが崩れ、人の助けが必要となった時にケアが必要となると考えています。

 

例えば、手足が不自由な人でも、それによって自分でできない部分を人の助けを借りながら社会でその人らしく生活できていれば、それは「セルフケアができている」と考えられます。

 

しかし、いつもは食事をしたり勉強をしたりすることができる人が、風邪を引いたことで寝込んでしまい、食事を作ったり食べる意欲も湧かず、時に人の助けが必要になることがあります。いつもは自分でできるのに、その時には親や友人に食事を作ってもらう場合は、「セルフケアが不足しているので、他者の助けが必要となる」と考えられます。
 

オレムのこうしたセルフケア理論を、アンダーウッドが精神看護領域で活用できるように発展させたのが、「オレム/アンダーウッドのセルフケア理論」です。

 

アンダーウッドは、精神科の患者さんは日常生活能力が病気によって低下することがあることに着目し、6つの領域に分けて丁寧にセルフケア能力をアセスメントすることで、患者さんの全体像をとらえ、必要な援助ができると考えました1)

 

オレム/アンダーウッドのセルフケア理論6つの領域/1:空気・水・食物、2:排泄、3:個人衛生、4:活動と休息、5:孤独と付き合い、6:安全と安寧 それぞれの項目をアセスメントし、レベル1~4で評価(レベル1:全介助が必要な状態、レベル2:部分介助が必要な状態、レベル3:支援・教育が必要な状態、レベル4:自立した状態 ※より丁寧にアセスメントするためのレベル1~5で評価する考え方もあります)

 

注意しなくてはいけないのは、この評価のレベルは、年齢や身体状態、社会文化的背景、あるいは元々の能力がどのレベルであったかに左右されるということです。

 

例えば、80代、90代の高齢の人が、昼間に寝てしまうとか、日中外に出ないということが、「活動と休息」の領域で問題があると言えるでしょうか?

 

高齢になれば筋力も低下するし疲れやすいので、昼間に少し寝てしまうのは当然です。元々その人が、社会生活上問題がなく、習慣として昼寝はしているものの夕飯はしっかり摂り、夜間の睡眠は問題なく取れていて、日常生活を規則正しく送れているのでしたら、セルフケアレベルは「4(自立した状態)」と言えます。

 

しかし、これが昼夜逆転になったり、引きこもって誰かと交流するのを避けるようになっていたら、問題があると言えます。元々、昼寝をしても夜間の睡眠に問題がなかったが、次第に昼夜逆転になってしまい、生活リズムが崩れてしまった、というのであれば、セルフケアレベルは「2(部分介助が必要な状態)」あるいは「3(支援・教育が必要な状態)」となり、看護介入が必要になります。 


これが、もっと若い世代、例えば20代、30代で日中仕事がある人が、仕事も行かず日中寝ている、というのはどうでしょう。

 

セルフケアができているとは言えませんよね。もちろん、その人の仕事が夜間の仕事なら昼間に寝ていることは問題があるとは一概には言えません。

 

このように、精神看護領域では、その人が元々どのような能力を持っていたか、また年齢や仕事は何かなど、その人の背景、そして精神症状を踏まえながら、その人の日常生活に必要なセルフケア能力を丁寧に見ていくことによって、6つの領域のセルフケアのレベルが決まるのです。

 

Dさんの事例で、情報を6つの領域に整理し、セルフケア能力を次のようにアセスメントしました。

 

表1Dさんのセルフケア能力の評価

領域 情報 アセスメント レベル
空気・水・食物 ●食事を食べない理由についてDさんは「食欲がないわけではない」と言う。

●身長158cm、体重47.0kg。入院後、体重が1.0㎏減少

●病院で出された食事は2~3割しか食べられない。食事の時間は周りをきょろきょろ見て落ち着かない様子。人と話すこともなく、途中で部屋に戻ってしまう。

●Dさんは「他の患者がひそひそ話をして私をバカにしている」「ここの人たちは信用できない」と言っている。なお、看護師が確認している中で他の患者がそのようなことを言ったりしている事実はない。

●BMI 18.83で痩せており、入院10日目で1.0kg減っている。Dさんの言動から精神症状(幻聴や妄想)の影響で食事摂取ができないのかもしれない。人が自分のことについて何かを言っている、という不安感による落ち着かなさや、焦燥感も考えられる。食べたいのに食べられないのか、食べたくなくて食べないのか、引き続き精神症状と摂取量を見ていく必要がある。
また、便秘による腹部膨満感など身体状況も確認が必要である。既往歴として摂食障害など食行動に問題がなかったかも合わせて把握していく。

3
排泄

●入院前は毎日排便があったが、入院後より「便が出なくてお腹が張る」と言う。

●看護師の促しで眠前にピコスルファートナトリウム内用液を内服し、2日に1回は排便がある。当初は「本当に下剤なの?」と疑うような言動があったが、現在はない。

●朝・夕食後、エビリファイ®OD錠内服中

●元々毎日排便があったDさんが、現在下剤を内服しても2日に1回の排便で、看護師の促しで眠前に下剤を内服している。当初疑う言動があった下剤に関しては、実際に翌日排便があることから、疑う言動がなくなったとも考えられる。

●下剤に関して、本人はその効果を納得している可能性もあるが、現在も看護師の促しで内服し、自ら服薬希望してくることはない。現在エビリファイ®OD錠(抗精神病薬)を内服しており、本人から「お腹が張る」と言う言葉も聞かれている。多くはないものの抗精神病薬の副作用による便秘の可能性も考慮し、今後、イレウスを起こさないよう、腹部の観察は必要である。

●また、便秘の原因として、食事・水分摂取量の不足、活動量低下も挙げられるため(これでカンペキ!看護計画(2)便秘の看護計画の書き方とポイント参照)、摂取する食事量や水分量、活動の状態も確認していく。

3
個人衛生

●看護師に促されて入浴している。「お風呂は家で入りたい。どうして私は入院しなくちゃいけないの」と言い、いらいらした様子が見られる。

●髪はボサボサであまり身なりを気にする様子はない。

●元々おしゃれできれい好きな20代のDさんが「お風呂は家で入りたい」と言うのは、「一人で入りたい、病院は落ち着かない」のだとしたら当然の感覚と言える。いつもどのくらい入浴していたのか、病院でもゆっくり入れるなら入浴できるのか、あるいは単に、家に帰りたいのか、羞恥心からなのかは確認する必要がある。

●現在身なりを気にしていない様子から、その精神的余裕がなく焦燥感や落ち着きのなさが感じられるため、薬により症状がコントロールできているのか、確認していく必要がある。

●朝は鏡を見るなど、元々おしゃれであったDさんの力を維持しながら、現実感を持って生活できるようかかわることが早期退院につながると考える。本人のペースを大切にしつつ休息しながらもセルフケア能力が維持できるようにしていく。

3
活動と休息

●日中は自室にこもって頭から布団をかぶって臥床。しかし眠っている様子はない。

●看護師の促しで、病棟内で行われる作業療法に時々参加するが、びくびくした感じで楽しそうではない。やるべきことをやったらすぐ自室に戻る。自ら参加することはない。


●眠前にレンドルミン®を内服。入院してから5日間は深夜まで寝付けない様子があり、不眠時の頓用薬を促しにより内服していたが、現在は夜間起きていることはない。

●日中自室にこもっているが、眠っているわけではない。頭から布団をかぶるということは、幻聴がうるさい、という可能性もある。本人からの訴えはない。今後そのつらさを一人で抱えるのではなく、看護師に言えるようにかかわり、つらさの軽減、病感、病識につなげていくことが、病気と付き合いながら社会生活を送るDさんにとって必要である。

●作業療法は楽しむ様子はなく、焦燥感が見られる。周りの人が自分の悪口を言っている幻聴が聞こえている可能性がある。本人の負担にならない程度に日中起きていることを確認しながら、夜間十分な睡眠を確保できているか、注意して見る必要がある。

●睡眠は定時の眠前薬でコントロールできるようになっている。夜間追加で眠剤を内服する様子もないため、睡眠は取れていると考えられる。

3
孤独と付き合い

●「他の患者が私をバカにする」「ここの人たちは信用できない」という言動がある。

●元気な時は、お菓子を作って友達にあげるなど社交的であったという(母親からの情報)

●他の患者に話しかけたり、また会話したりする様子はほとんど見られない。作業療法に出ても、作業療法士にすすめられた切り絵を一人黙々と行い、終わるとさっさと自室に戻ってしまう。

●看護師から声をかけると、一言、二言話せるが、自分から何かを訴えてくることはない。

●昨日面会に来た母親は「元々お菓子を作っては友達に持って行くなど、あんなに明るかったのに」と、帰り際に涙をためながら看護師に話していた。

●母親はDさんのことを「Dちゃん」と呼んでいる。

●人とかかわらず、避けている様子が見られる。元々社交性があったということから、今、人とかかわれないほどつらい状況であることが考えられる。精神症状を把握するとともに不安や怖い気持ちなどを表出し、入院生活や、今後継続していく治療に不信感を持たないようにしていくことが大切である。また、他の患者が自分をバカにしていると感じ、入院生活の中で誰も信用できないと思っているDさんは幻聴や妄想など精神症状の落ち着かなさとともに孤立感を抱いたまま、不安や困っていることも表現できていないと考える。時間を決めて看護師と二人だけで話す時間を取るなど、話す環境や時間を考えて本人の気持ちを聞いていく。

●母親は元気だったころのDさんと比べて悲しむ様子が見られる。家族の気持ちの表出も、Dさんの退院には重要であるため、家族と看護師が話す時間を取り、家族の思いも聞いていく必要がある。また、母親は“Dちゃん”と声をかけており、二人の関係の良さ、親密さも感じられる。Dさんと母親の距離感が、お互いに負担になっていないかも様子を見ていく。

3
安全と安寧

●自傷行為などの危険な行為は見られない。

●薬は、朝食ともに食後にエビリファイ®OD錠を内服。看護師の呼びかけで、いらいらしたように配薬場所に来て薬をむしり取るように内服。「ここにいても具合は悪くなるばかり。ここの人たちはみんな信用できない」と言う。看護師が「もう少しお話しましょう」と言っても、すぐに「トイレ」と言い、戻ってしまう。

●朝・夕ともにOD錠のため口腔内で溶解し内服することができていると考えるが、確実に服薬をしているかを確認し、症状の安定を図る。また、抗精神病薬の副作用として便秘のほか、アカシジア(錐体外路症状)がある。副作用は薬の不信感にもつながるので副作用の早期発見に努める。

●本人が積極的にではなく、看護師に促され仕方なく内服しているようで、薬物治療の必要性を理解していないと考えられる。Dさんは大学生であり、理解力は落ちていないので簡単な薬の説明や、不信感の払しょくは今後の生活のためにも必要である。服薬グループの参加、あるいは薬剤師などとも連携を取っていく。
なお、入院後10日経つが、あまり精神症状が落ち着いていない様子も見られる。服薬はいつも看護師に促されて内服に来ること、薬に不信感のある言動がみられ、内服後いつもトイレに行っているので、確実に服薬できているか精神症状と合わせて様子を見ていく必要があるだろう。精神看護における服薬管理については、【#1 薬への不信感がある】に対する患者目標参照

3

 


この6つの領域からDさんの日常生活の情報を整理しアセスメントをしてみると、多くの領域に共通することとして精神症状が落ち着いていないことがわかります。

 

この記事では、アセスメント結果から挙げた看護診断のうち、「#1 薬への不信感がある」と「#2 自分の気持ちが表出できない」の2つの看護診断について解説していきます。

 

 

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看護診断に基づく患者目標

Dさんに対し、次のように患者目標を挙げました。
 

【#1 薬への不信感がある】に対する患者目標

患者目標
(outcome)

●確実に服薬できる


 

精神症状を薬によってコントロールし、病気や症状と付き合いながら生活できるようにするのが看護になります。

 

現在、「他の患者が私をバカにする」「周りの人は信用できない」という幻聴や妄想により、落ち着いた療養生活ができておらず、入院して10日経ってもDさんの精神症状は落ち着いていないようです。

 

Dさんは入院したくないし、病気だと思っている様子もないので、「幻聴や妄想は現実である」と考えているのです。

 

Dさんの内服している抗精神病薬は1~2週間くらいで効果が出てくると考えられます。朝・夕ともにOD錠を内服していることから、医師が拒薬を予測し、すぐに口腔内で溶解する薬を処方している可能性があります。そのため、精神症状の把握、そして、薬がDさんに合っているのか、あるいは確実に服薬できているのかを確認する必要があります。

 

看護援助を行うことで確実に服薬できれば、幻聴や妄想が落ち着きます。

 

その際、それまでの看護師のかかわり(悪口を言われていることの気持ちを受け止めつつ、誰が言っていると限定できない状況から、自分でもおかしいな、不思議だな、と思え、現実世界に目を向けられるようにする)も並行して大切になります。

 

また、精神看護では、服薬の方法も患者さんの病状や認識を把握するための重要な情報になります。看護師がそれぞれの病室まで配薬に回ることもありますし、患者さんに配薬場所まで来ていただいて内服する方法もあります。

 

今回のケースは、配薬場所まで来ていただく、という方法をとっていますね。患者さん自身に、配薬場所に来ていただくという行動について、さらに丁寧にアセスメントしてみると、配薬時間になったら患者さん自身が自主的に行くのか、あるいは看護師に促されていくのかで、行動の意味が違ってきます。

 

自分から自主的に行くということは、服薬をしなくてはいけない、という服薬意識、服薬の必要性を認識している、ともアセスメントできますし、人によっては、配薬場所に来て内服する、という約束事や規則を守る力がある、ともアセスメントできます。

 

一方、看護師に促されて配薬場所に行く、ということは、薬を積極的には飲みたくない、と思っている可能性もありますし、内服時間を忘れてしまっているなど、さまざまな理由が考えられます。


このように、患者さんの言動やその意味を深く理解し個別性のある看護を行っていくことが、患者さんの病状の変化の把握や早期退院につながることになります。精神看護では常に、どうしてそのような言動があるのかを考え、本人に確認を取りながら、様子を観察しながらケアを進めていくことが大切なのです。
 

 

【#2 自分の気持ちが表出できない】に対する患者目標

患者目標
(outcome)

●自身の気持ちを他者に表出できる

 

Dさんは幻聴や妄想によって、周りが信じられない状況にいます。また、閉鎖病棟に入院しており自由に出入りができず、孤立感を持っていることが想像できます。その孤立感は大変つらいものでしょう。

 

定期的に、場所を考え、Dさんと二人だけの時間を取ることで、Dさんは自分が守られている、大切にされている、見守られているという感覚を持つことにつながります。不安な気持ちを誰かに伝えることができる、信用できる人がいる、という感覚を持つことは、安心した療養生活に欠かせないものとなるでしょう。

 

Dさんは人とかかわることを避けており、与薬時に看護師が「もう少しお話しましょう」と声をかけてもすぐに部屋に戻ってしまいます。しかし、きちんと時間を決めDさんのためだけの時間を作ることは、自身の病気と向き合い、治療に前向きになるために必要と考え、自身の気持ちを表出できるようになることを患者目標としました。
 

 

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患者目標に基づく具体的な看護計画

患者目標を達成するために考えた具体的な看護計画は、それぞれ次のとおりです。

 

【#1 薬への不信感がある】に対する看護計画

具体的な
看護計画

配薬場所に自ら来て内服するのか、看護師が呼びに行って内服するのか、服薬状況を確認する
与薬時に内服の様子と、その後トイレなどで吐き出している様子などがないか見守る
精神症状の観察(Dさんの悪口を他患が言っているという訴えの有無、表情、食事・作業療法時など他患がいる中での焦燥感の有無)、睡眠状況、追加の眠剤使用の有無も把握する
入院時と比べて、Dさんのつらい思いなどに変化があったか、薬の効果の認識について聞く
抗精神病薬(エビリファイ®)の副作用が出現していないか観察する(不眠、眩暈、頭痛、便秘など)
薬について知りたいことがないか確認する
医師・薬剤師と調整し、薬についての説明を聞く機会を作る

 

Dさんは現在、自己管理ができないため、配薬場所に行って薬をもらい内服し、看護師の管理で薬を内服しています。

 

Dさんは入院して10日目であり、薬の効果が得られる2週間が経過していません。自分のことを噂されているような落ち着きのなさ、焦燥感も見られ、自室で布団を頭からかぶって臥床する様子もみられています。

 

このことから、幻聴や妄想など、精神症状が落ち着いていない様子がうかがえます。

 

また、看護師が呼びに行かないと薬を飲む気配はなく、薬を飲んだとしても、すぐにトイレに行く様子があります。もしかしたら、強制嘔吐しているのかもしれません。看護師が声をかけても「具合は悪くなるばかり」と、Dさん自身も「具合がよくなっている」という感覚を得られておらず、客観的にも症状の改善がみられていません。

 

Dさんにとって幻聴や妄想は現実であり、それによって、周りが信用できない、何か言われている、と感じており、精神症状に左右された言動があると考えられます。

 

これらのことから、幻聴や妄想など精神症状を軽快させるために確実な服薬につなげる必要があります。

 

「服薬した」という行為だけでなく、どのように服薬しているのか、患者さんの行動を丁寧に見ることは、精神看護ではアセスメントをするための重要な情報になります。

 

例えば、与薬の時間に“自分から”薬を飲もうと配薬場所に足を運ぶ場合と、「内服の時間ですよ」「飲みに来てください」という看護師の声かけによって内服する場合では、本人の服薬に対する認識が違うことがわかるでしょう。

 

また、服薬後の行動を見ることで、確実に服薬してもらい、精神症状をまず落ち着かせることを考えましょう。

 

そして、服薬してもらうだけでなく、本人が、症状の変化をどのように認識しているか、本人の現在のつらさが、症状なのか、薬の副作用なのかを把握し、副作用なら早めに対処します。理解力がある場合には、客観的に薬の説明をしてもらうために薬剤師に依頼し、直接説明をしてもらうなど多職種と連携することも必要です。そのことが、今後Dさんが薬に不信感を持つことなく、症状と付き合いながら生活していく援助につながるのです。

 

【#2 自分の気持ちが表出できない】に対する看護計画

具体的な
看護計画

14時ごろに必ずDさんの部屋を訪室し、眠気が強くない場合は静かな場所で10分程度看護師と話す時間を取る
入院生活のこと、症状や病気のこと、大学のことなどについてどのように感じているか、焦りや不安などがないか、本人の言葉を待ちながら気持ちを聞く
受け取った本人の言葉を確認(反復)しながら時間を共有する
話すことの受け入れ状況、話している時のD さんの表情を観察する(表情の硬さ、視線など)
話してみてどうだったか、話した後、Dさん自身の気持ちを再確認する

 

Dさんは自ら希望して入院した状況ではありません。また、周りが自分の悪口を言っていることに確信を持っています。そのような中では、孤立感、つらさがあり、落ち着いて入院生活ができているとは考えられません。

 

時間を決め、必ず看護師が声をかけ、二人だけの時間を取ることは、Dさんが見守られ、大切にされているという感覚を持つことにつながります。また、定期的に時間を決めてから会うことは、Dさん自身が自分の行動に予測ができ安心して生活できる一助になります。

 

そのため、看護師と話す機会を定期的につくり、Dさんが気持ちを表出しやすいかかわり方や気持ちの確認の仕方を計画に盛り込みました。

 

 

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統合失調症患者の看護の評価

【#1 薬への不信感がある】に対する評価

評価

 

看護師の促しがなくても、自ら配薬場所に来て服薬できていた。
薬に対する不安の言葉もみられなくなったため、薬への不信感の問題は解決したと判断する。

 

 

後述しますが、入院して10日目のDさんは統合失調症の急性期から休息期であると考えられます。この時には薬による症状の変化も目に見えてきます。計画は1~2週間で評価し、セルフケアレベルに応じて計画を適宜修正していくことが大切です。

 

いつも看護師に呼ばれて配薬場所で内服をしていましたが、自分から薬を飲みに来るというのは、薬を飲まなくてはいけないのだという行動に現れたDさんの服薬に対する認識の変化と言えます。

 

もちろん、「嫌だけど看護師に言われて、飲まないと退院できないから」と思わせてしまうようなケアはよくありません。周りの人の悪口や落ち着かなさがなくなってきた、という感覚が得られるよう、毎日のDさんの言動とともに、Dさん自身が、「悪口がなくなってきたな」と思えるような病気への気づき(病感や病識)を持てるようなかかわりが必要です。

 

また、Dさんは今後社会に出ていくために薬のことを勉強したり理解したりする必要もあります。適切な時期に服薬教室、薬剤師や医師に客観的な話をしてもらうことも効果的でしょう。多職種につなげて看護を展開することで、Dさんが病気を理解し、自分で病気と付き合いながら生活する能力を身につけられるようにかかわりましょう。

 

【#2 自分の気持ちが表出できない】に対する評価

評価

 

Dさん自ら、看護師に声をかけることができるようになった。しかし、何かを訴えてくることはない。
そのため、引き続き、この看護計画を続行し、再度1~2週間後に評価する。

 

 

現在、Dさんから看護師に声をかけることはあるが、何かを訴えてくることはありません。

 

自分の意志に反して入院したDさんにとって、入院生活がつらいことだとは容易に想像できます。Dさんと、決まった時間に話をする、という二人だけの時間を設けることで、安心して話すことにもつながります。そして、入院生活の中で、自分から声をかけ、症状やつらさ、困ったことなどを打ち明けられることは、看護師―患者関係の深まりとともに、Dさん自身、他者への恐怖感など、症状が軽快したというアセスメントにもつながります。

 

症状が軽快したら、「看護師―Dさん」という1対1の関係から、徐々に、「他の患者―Dさん」、「他の患者さんたち―Dさん」というように、対人関係を入院前の状況に広げていくことが、Dさんの元々備え持った対人関係能力の維持、回復につながります。

 

1~2週間後(長くても2週間以内)に評価し、計画を修正していきましょう。

 

 

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統合失調症患者の看護計画書を作成するポイント3つ

統合失調症患者の看護計画書を作成するためのポイント3つを解説します。

 

1 患者さんがどの病期かを確認しよう

次の図は、統合失調症という病気の理解のためによく使用されているものです。

 

統合失調症の病期

 

前兆期:発症の前触れのサインが現れる時期

症状が出現する前には、必ずいつもと違う様子が見られます。それが「前兆期」です。

 

自分の病期の理解が進めば、この前駆症状を自覚することができます。例えば、今まで眠れていたのに、最近眠れない、食欲がない、なんとなく落ち着かない(焦燥感)などです。

 

また、このような前駆症状を家族が理解することで、早めに病院を受診して早めに対処できます。これによって、本人がつらい症状を我慢して疲れ切って入院する、ということを避けることができます。

 

前兆期のポイント

眠れなくなったり、落ち着かなかったりするので、早期の受診、あるいは現在服薬しているのであれば、適切な臨時薬(頓用薬)の活用により、十分な睡眠や安寧(安全、安心感を持てる場)が確保できるように支援しましょう。

気分転換やストレス解消を支援するのも一つです。

また将来的には、患者さん自身が前駆症状を理解し、自分で病状を把握し対処できるように支援することも大切です。

 

 

急性期:幻覚や妄想などの陽性症状が目立つようになる時期

前駆症状に気づかないまま経過すると、「急性期」を迎えます。

 

眠れない、食べられない、落ち着かない、という状態が長く続くと、神経が過敏になったり落ち着いた判断ができにくくなることで、陽性症状が出現します。

 

周りの人が「大丈夫?」と心配してくれた声かけを「私をずっと監視している」と感じてしまったりすることで興奮したり、その人を下げたり怒ったりする場合があります。

 

これによって、自ら、あるいは周りから入院をすすめられることになります。

 

激しい興奮状態が続く場合は、病院に入院すると落ち着いて休んでもらうために鎮静薬や睡眠薬が処方されることになります。今まで眠れなかったため、心も体もゆっくり休んでもらう時期になります。

 

急性期のポイント

不安や恐怖が強い時期なので、患者さんのペースに合わせて寄り添うことが大切。

服薬により症状をコントロールすることが中心になるため、確実な服薬の支援をすることが必要です。

副作用の出現は拒薬の一つの要因になります。患者さん本人に副作用の説明をするとともに、患者さんの状態をしっかり観察し、副作用が出現したら薬の変更や副作用を抑える薬が必要になるので医師に報告しましょう。

 

 

消耗期(休息期):心身の疲労が現れる時期

その後、どっと疲れが出て、しばらく疲労感が強い「消耗期(休息期)」が続きます。意欲がわかず、寝て過ごすことが多くなります。

 

消耗期(休息期)のポイント

焦らず、ゆっくり休めるようにかかわることが大切です。ただし、症状に合わせてですが、基本的なセルフケア能力を維持し、社会生活から離れないように支援していきます。作業療法でも、集団で行うものよりはパラレルなもの(それぞれが自由に自分のペースで行うもの)に参加できないか、作業療法士を含む多職種と連携しながら支援していきましょう。

 

 

回復期:症状が改善してくる時期

消耗期(休息期)が過ぎると、次第に元の生活に戻り、心のエネルギーも回復していきます。これは回復期になり、退院に向かっている、ということになります。

 

回復期のポイント

患者さんの意思を尊重しながら、社会復帰をサポートしていくことが大切です。本人がどこに退院し、どのような生活を営んでいきたいか、家族はどう考えるのか、経済的なこともありますから、PSW(精神保健福祉士)と連携し、本人や家族の気持ちと、その可能性をアセスメントし、患者がその人らしく生活ができるよう支援していきましょう。

 

 

現在は、長く入院していることの弊害がわかっており、ホスピタリズム(施設や病院で長期間過ごすことによる障害)に陥らないようにする必要があると言われています。

 

具体的には、

・入院時から、どこに退院することができるのか

・退院するためにはどのような力を身につけたり、再獲得したらよいのか

・症状コントロールには、どのような薬がその人の生活に合った方法か(例えば、舌下で溶解するOD錠や注射により、内服の機会を減らすなど)

などを多職種連携の中で看護師が個別性を考えて提案、調整していくことが大切でしょう。

 

2 陽性症状や陰性症状を理解しよう

不安そうな統合失調症患者

 

陽性症状(幻覚や妄想)は、急性期では特に、患者さん本人は事実としてしか捉えられないため、それを否定する周りの人に対しては「なんで理解してくれないの」という不信感を持ちやすくなります。

 

本人にとっては確かに聞こえる声であり、事実だと思ったり感じてしまう妄想なのです。周りの人が理解してくれないとしたら、孤独感、孤立感を感じて人間不信になるのも当然です。

 

陰性症状は、感情の表出、例えばうれしい、悲しい、怒っているなどの喜怒哀楽の表現が乏しくなる状況です。

 

考えや行動がまとまらず、色々な社会活動をする能力や力が落ちてきて引きこもってしまう状況と言えます。また、他者との会話で冗談や抽象的な表現を理解する能力も低下し、自分から何か行動を起こそう、何かをしようという意欲がなくなった状態と言えます。

 

例えば買い物に行こう、友達に会おう、という普段何気なく行っている行動も、それを行うエネルギーが枯渇して、自分だけの世界に引きこもる(閉じこもってしまう)状態と言えます。

 

統合失調症の陰性症状がある場合は、基本的なセルフケアの6領域について、元々力があったのに、症状によってできなくなっているのか、長く引きこもってしまって能力が低下したため再獲得する必要があるのか、元々持っていなかった能力をこれから身につけなければいけないのかを丁寧にアセスメントし、かかわっていくことが必要です。

 

看護計画を考えるポイント

患者さんにとっては事実として疑いようのないことでも、実際に見えたり聞こえたりしない周りからすると理解ができないと思います。しかし、幻覚や妄想によって怖かったり、不安だったりする気持ちは理解できると思います。

その気持ちを受け止めながら、どのような時には声が聞こえないのか、妄想に囚われないでいられるのかを本人が感じることができるようにすることが大切です。

また、陰性症状が強く出ている患者さんに対しては、自分の世界に閉じこもっているから、起きてもらう、人とかかわってもらう、という単純なかかわりは、患者さんにとって強要であるだけでなく信頼関係さえ得られず、適切な治療もできなくなる可能性があります。引きこもってしまった患者さんの気持ち、エネルギーが枯渇してしまったつらさを理解し、丁寧に、患者さんの今できていないことを「なぜ?」と考え、患者さんのできている部分を見逃さないことが看護師に求められることと言えます。

 

 

3 患者さんの個別性を考えよう

今のDさんの状態をアセスメントする際には、「元々の力がどれだけあったのか」、つまりセルフケア欠如の理由(精神症状のためにセルフケアができないのか、元々そのような力を獲得していなかったのか)、またDさん自身が望む生き方が主体的にできるようなリカバリー的視点を持ちましょう。

 

そして、本人の回復する力、つまりレジリエンスを信じて、その能力を捉え、本来持っている力を回復できるようエンパワメント的視点を持ちながらアセスメントすることが大切です。

 

入院した時から、退院後の生活を見据えながら、将来住む場所、どのような生活をしていきたいか、そのために家族を含めた環境調整を行うことが、早期退院につながるのです。

 

***

 

次の第5回は「転倒予防の看護計画」です。

 

編集:看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo

 

 

引用・参考文献

  • 1)水野恵理子、上野恭子編著.看護学生のための精神看護技術.サイオ出版,2023,118-129.
  • 2)地域精神保健福祉機構・コンボ.統合失調症を知る心理教育テキスト家族版 じょうずな対処 今日から明日へ.22,2021.

 

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