ドラッグデリバリーシステム |いまさら聞けない!ナースの常識【25】

毎日の業務の中で触れているけど、『いまさら聞けない』ことってありませんか?

知っているつもりで実は説明できない基礎知識や、ちょっと気になるけど調べるほどでもないな、なんてこと。

そんな看護師の素朴な疑問を、元看護師ライターがこっそり教えます。

 

Vol.25 ドラックデリバリーシステム

 

ドラッグデリバリーシステムとは

ドラッグデリバリーシステム(DDS)という言葉を聞いたことがあるだろうか。

DDSとは、薬剤の副作用を極力減らしながら作用効果はアップさせようという考え方と、それに基づいた薬剤作用のこと。簡単にいえば「必要な時に・必要な場所で・必要な量だけ薬物を作用させる」ための考え方だ。

 

薬剤は体内に入ると、血管や粘膜などから吸収され、血液を介して体内に分布する。その後、肝臓による代謝腎臓による尿中などへの排泄の過程を経て、いずれは体内から消失していく。実はこれらの過程では、投与された薬剤の有効成分のうち、ごく一部しか作用部位に到達しない

 

作用部位に到達しなかった有効成分は、治療としての効果はもちろん発揮できない。そればかりか、正常である組織に対しての副作用や毒性の原因となってしまう。

 

また、有効成分がきちんと効果を発揮するためには、一定以上の期間(治療期間)に渡り、作用部位での濃度を保ち、有効濃度領域内を維持する必要がある。

 

そこで考え出されたのが、DDSという考え方だ。

 

・必要な時(=治療期間内)に

・必要な場所(=作用部位)で

・必要な量だけ薬物を作用させる(=有効濃度領域内を維持する)

 

という、理論上ではかなりの優れものだ。

 

DDSの作用のしかた4つ

では、実際にはどのように作用するのかを見てみよう。DDSは、薬剤を膜などで包むことで作用部位に到達するまで、吸収・分解が行われないようにしている

 

これにはいくつかの種類がある。比較的分かりやすい4つを挙げてみよう。

 

【1】徐放製剤

製品名:ミラペックスLA錠®(パーキンソン病治療薬)など

一定量の薬物を、長時間にわたって少しずつ放出するように工夫されたもの

 

【2】プロドラッグ

ロキソニン®(解熱鎮痛消炎剤)

作用させたい薬物に別の分子を化学的に付加して作られている。これを投与してもそのままでは有効成分の効果は発揮されず、付加された分子が体内の酵素などによりはがされる(代謝される)と、元の作用させたい薬物に戻る。プロドラッグ投与の際は、代謝を促進するために作用部位を温めるなどの方法がとられることもある。

 

【3】アンテドラッグ

製品名:メンソレータム メディクイック®(市販されている頭皮湿疹治療薬)

投与されて有効成分の効果を発揮した後、すみやかに代謝・分解され、副作用のない物質に変わる性質の薬物。

 

【4】ターゲティング

ハーセプチン®(乳がんに対する抗がん剤)

細胞の持つ受容体・酵素など、その疾患に特異的な部分だけに作用するように開発されたもの。いわゆる抗がん剤の分子標的薬などがこれにあたる。

 

それぞれの作用を持つ薬剤はすでに多数存在しているが、中でもプロドラッグの性質をもつものは、抗がん剤としての今後の研究や活用が期待されている。

 

プロドラッグと抗がん剤

正常細胞への影響を少なくし、がん細胞に対してだけ効果を発揮するための仕組みのひとつが、プロドラッグだ。

 

がん細胞の周辺にできる太い血管『新生血管』は表面の細胞組成が粗く、いくつもの穴が開いていることがわかっている。プロドラッグの機能を持つ抗がん剤は、この特徴を利用したもの。

 

薬物に別の分子を付加して適当な大きさにすると、正常な血管の壁の穴は通らないが、がん細胞周囲の新生血管の壁の穴だけは通れるようになる。つまり、がん細胞に対して特異的に薬物を到達させることができるのだ。

 

図1 DDS作用を持つ抗がん剤が効く仕組み

 

看護師が仕事上で手に取る薬剤がDDSによるものかどうか?ということはあまり考えないだろう。しかし実は、現在日本で承認されている薬剤のうち、DDS作用を持つ薬剤は非常に多い。

 

比較的新しいものとしては抗がん剤(分子標的薬)などがあるが、古くからあるものとしては、硝酸イソソルビド(製品名:フランドルテープ®)などもある。他にも、細菌感染症に対する抗生物質喘息に対するキサンチン誘導体、免疫疾患に対するサイトカインなど、その応用範囲は非常に広いのだ。

 

今回のまとめ

「早く確実に良く効く」ことを目的として、薬剤は開発されている。看護師としては薬剤の用法・用量をしっかり守ることはもちろん、なぜこの薬がこんな効果を示すのか、どういった仕組みで効果を示すのか、なぜ使用禁忌となる例があるのかなど、薬剤のもつ性質も併せて知っておくと、投薬という看護技術がより意味のあるものになるかもしれない。

 

【岡部美由紀】

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