喘息【疾患解説編】|気をつけておきたい季節の疾患【6】

来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。

 

→喘息【ケア編】はこちら

 

喘息_呼吸困難_喘鳴_笛様音_呼気延長_努力呼吸

 

小谷祐樹
日本赤十字社和歌山医療センター集中治療部

 

〈目次〉

 

喘息ってどんな疾患?

喘息日本で増加傾向にあり、1960年代は小児・成人ともに1%ほどだったのが、2000年代では小児で6%、成人で3%、全体で400万人が喘息の診断を受けています。

 

喘息は「発作的に」「繰り返す」呼吸困難、咳、喘鳴などを起こす疾患です。患者の症状が、軽症から重症まで非常にさまざまであるため、一言で定義しにくい疾患です。

 

喘息の病態

喘息の病態としては、「可逆的に気道狭窄が起こる」「気道過敏性が高い」という2点が重要です。この2点の背景には、慢性的な気道の炎症があり、炎症が持続するために、気道の壁が分厚くなること(リモデリング)が知られています。
つまり、喘息患者は、発作が出ていない間も気道の炎症が持続しており、治療しないとゆっくり時間をかけて気道が狭くなっていくのです。

 

喘息の原因

喘息は、アトピー型と非アトピー型に分類されます。アトピー型は何らかの原因物質(アレルゲン)に対して起こる反応で、小児の90%、成人の50~70%が含まれます。アトピー型と非アトピー型で、臨床症状に差はありません。

 

アトピー型喘息の原因は、吸入アレルゲンが最も重要で、チリダニ、動物の毛(ネコ、イヌ、ウサギなど)、花粉などがあります。ほかにも、運動により起こる喘息(運動誘発性喘息)や、NSAIDsによって引き起こされる喘息やアスピリン喘息などがあります

 

喘息の診断・問診

喘息は、以下の2点をもって診断されます。
・呼吸困難や咳、喘鳴といった症状が「可逆的」で「繰り返す」
・ほかの鑑別疾患が除外される

 

呼吸困難、喘鳴という喘息の症状は、決して喘息だけに起こるわけではありません。しかし、喘息では「可逆的であること」、「反復すること」が重要です。また、夜間から明け方に増悪しやすいこと、季節の変わり目に多いことや、逆にまったく症状がない時間帯や時期があることが特徴です。

 

成人でもアトピーの要素を持つ患者が多いため、アトピーやほかのアレルギー性疾患(花粉症、アレルギー性鼻炎など)についても、問診が必要です。
原因物質(アレルゲン)に関して聴取することで、喘息の診断がつきやすくなったり、診断がついた後の予防につながったりします。また、喘鳴はなくて、慢性的な咳を主な症状とする咳喘息も知られています。

 

喘息患者の身体所見

喘息では、笛様音(てきようおん;wheeze)が、広い範囲で聴取されるのが特徴です。軽症例では、息をしっかり吐かせることで、笛様音が呼気時に聞こえることがあります。重症例では、笛様音に加え、頻呼吸、呼気延長、呼吸補助筋(胸鎖乳突筋など)の使用が見られます。最重症例では、呼吸音がまったく聴取できなくなります(silent lung)。こうなると緊急事態で、直ちに人工呼吸が必要です。

 

喘息に必要な検査

喘息の診断では、呼吸機能検査により、喘息の特徴である「気道狭窄が可逆的であること」を示すことが重要です。通常、喘息では、閉塞性換気障害(肺活量は正常、1秒率〈FEV1%〉は低下)のパターンを取りますが、気管支拡張薬(β2刺激薬)の吸入により、1秒量(FEV1)が改善することで「可逆性あり」と判断します。

 

喘息の鑑別診断

喘息以外で、喘鳴や呼吸困難を生じるものとしては、上気道疾患では気管狭窄や喉頭狭窄があります。また、肺疾患ではCOPD、心疾患では心不全が重要な鑑別疾患です。消化器疾患では、食道逆流症(GERD)により、慢性の咳を生じることがあります。喘息の鑑別診断では、これらの疾患を除外していきます。

 

喘息患者の処置・治療法

喘息の治療は、長期管理と発作時で大きく異なります。

 

喘息の長期管理

以前の喘息の治療は、「発作が出れば抑える」という方法でしたが、現在は「発作が出ないように予防し、健常人と変わらない日常生活を送ることができるようにする」ことが目標になっています。慢性的な気道の炎症が、喘息の病態の本体ですから、発作を抑えることが治療の目標です。喘息のコントロール状態は、表1に従って評価されます。

 

表1喘息のコントロール状態

 

文献(1)より引用

 

慢性的な気道の炎症を抑えて、喘息のコントロールを良くするのが、長期管理薬(コントローラー)です。発作を起こさないように、毎日使う薬です。

 

長期管理薬(コントローラー)

長期管理薬(コントローラー)は、慢性的な気道の炎症を抑えるために使う薬です。吸入ステロイド薬が、最もよく使われています。ステロイドは、炎症を抑える効果が強い半面、さまざまな副作用(高血糖胃潰瘍、免疫抑制など)が問題になることが多いです。しかし、全身投与ステロイド薬(内服や静注)に比べると、吸入ステロイド薬は副作用の頻度が少なく、なおかつ効果が十分あるため、長期管理薬(コントローラー)、ひいては喘息治療の中心的な存在です。

 

吸入ステロイド薬の開始が遅れると、喘息発作の頻度が増えたり、肺機能が低下しやすくなったり合併症が増えることが知られています。そのため、吸入ステロイド薬は軽症の喘息患者でも、早期から投与が必要です。

 

吸入ステロイド薬だけでは効果が不十分な場合には、長時間作用型β刺激薬、テオフィリン、抗アレルギー薬、ステロイド全身投与(内服、静注)が検討されますが、いずれも吸入ステロイドとの併用が原則になります。最近は吸入ステロイド薬と長時間作用型β刺激薬の配合剤も出ており、その有効性が示されています。

 

喘息発作時の治療

喘息発作が起きたときには、発作を抑える治療と同時に、バイタルサイン、特に呼吸の維持が大切です。

 

まずは発作強度を評価します。喘鳴や呼吸困難の程度といった自覚症状と、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)、呼吸音やチアノーゼなどの身体所見を併せて発作強度を判定します(表2)。その発作強度を元に、発作治療ステップにそって、治療を行います

 

表2喘息発作の強度

喘息発作の強度

 

文献(1)より引用

 

呼吸の維持

重要なのは、表2の通り、SpO2が低下している患者には、直ちに酸素投与が必要だということです。喘息発作というと息が吐けず、CO2が貯留しているイメージがあるかもしれません。確かに、CO2が貯留している患者もいます。しかし、普段からCO2が高いCOPDとは違って、喘息発作のように突然起きる呼吸困難では、酸素投与によってCO2ナルコーシスを来すことはまずありません。むしろ、SpO2が低い方が問題です。SpO2は95%以上を目標として、低下があるなら迷わず酸素を投与しましょう。

 

発作治療薬(リリーバー)

発作を抑えるには、効果が早く出る発作治療薬(リリーバー)を使います。喘息発作では、気管支の周囲にある平滑筋が収縮して、気管支が非常に狭くなっています。そのため、平滑筋の収縮を緩めることで、症状を和らげることができます。

 

代表的な発作治療薬(リリーバー)は、短時間作動型β刺激薬です。1回吸入しても症状が良くならない場合は、20分おきに2~3回吸入します。ほかの発作治療薬には、テオフィリン、全身ステロイド(内服、静注)、抗コリン薬、エピネフリン皮下注があります。もちろん長期管理薬(コントローラー)は発作時にも継続して使わないといけません。

 

喘息のコントロールが悪い患者は、長期管理薬(コントローラー)を使わず、発作が起きるたびに、短期間作動型β刺激薬だけを吸入している場合があります。しかし、喘息の本体である「慢性的な気道の炎症」を抑える長期管理薬(コントローラー)を使わずに、いくら発作を抑える発作治療薬(リリーバー)だけを使っても、根本治療にならず、喘息はコントロールできません。

 

 

喘息は、長期管理と発作時で治療がまったく違うということを理解しておいてください。

 

長期管理では、発作を起こさず、健常人と変わらない生活が送れるよう、長期管理薬(コントローラー)を患者自身が毎日使うことが必要です。治療を開始して自覚症状がなくなると、毎日の吸入薬をやめてしまう患者もいます。しかし、喘息の本体は「慢性的な気道の炎症」であり、治療を中断することで気道の炎症が悪化し、発作が再発してしまいます。継続して治療することの重要性を患者に十分伝えることが大切です。

 

発作時は、突然起こる呼吸困難に対して、発作を抑えることと並行して、呼吸の維持に努めます。まず自覚症状、バイタルサインから発作の強度を判断し、治療を開始しましょう。繰り返しになりますが、SpO2が低下している患者への酸素投与をためらってはいけません。SpO2をきちんと保った上で、発作治療薬を使って発作を抑えましょう。

 


[参考文献]

 

 


[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長

 

芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 副看護部長 救命救急センター看護師長

 


[Design]
高瀬羽衣子

 


 

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