胃瘻造設術後の管理

『病院から在宅までPEG(瘻)ケアの最新技術』より転載。

 

今回は胃瘻(PEG)造設術後の管理について説明します。

 

新堀みゆき
函館市医師会病院3階東病棟看護師
紺野潤
函館中央病院消化器内科診療部長
伊藤礎子
函館市医師会病院3階西病棟看護課長
熊谷康子
函館市医師会病院4階東病棟看護課長
菊池扶美子
函館市医師会病院4階東病棟主査看護師

 

Point

  • 胃瘻造設術後2週間以内は胃瘻が不安定であるため、合併症の徴候を見落とさないよう、全身・局所を注意深く観察する。
  • 術後2週間は「瘻孔部の洗浄」を行い、スキントラブルや感染を予防する。局所圧迫の解除も重要である。
  • 術直後のPEGカテーテル事故抜去は、腹膜炎症状を引き起こし、致命的となる場合もあるため、厳重な注意が必要である。

 

〈目次〉

 

はじめに

PEG(percutaneous endoscopic gastrostomy:経皮内視鏡的胃瘻造設術)は、長期にわたって経腸栄養を必要とする患者に有用ですが、合併症も少なくありません(表1)。

 

表1PEGに関連した主な合併症

PEGに関連した主な合併症

 

瘻孔が完成する2週間以内(術後早期)に起こる合併症を「早期合併症」、それ以後に起こる合併症を「晩期合併症」と呼びます。

 

特に術後早期は、胃瘻が脆弱なため、綿密な観察が必要です。また、この時期に事故抜去が起こると致命的になりかねないため、予防が大切になります。

 

本コラムでは造設術後早期の管理について解説します。

 

胃瘻造設術後の観察ポイント

全身状態の観察

図1術後の観察(全身状態)

術後の観察(全身状態)

 

術直後

バイタルサインは正常か?

PEG造設のために鎮静剤を使用していることもあるので、術直後は呼吸血圧など、バイタルサインに留意します。

 

胃瘻造設の対象となるのは高齢の患者が多いため、鎮静剤の効果が遅れて出る場合や、覚醒が悪い場合があり、注意が必要です。

 

また、鎮静剤を使用していない場合でも、呼吸停止や心停止を起こすことがあるので、定期的にバイタルサインのチェックを行います。

 

貧血・腹膜炎の徴候はないか?

術創からの出血による貧血、あるいは、腹膜炎の徴候である発熱や腹痛にも注意が必要です。

 

胃内の出血は見逃しやすいので、意識レベルや血圧の変化がないか、注意深く観察しましょう。

 

術後早期

誤嚥の徴候はないか?

誤嚥性肺炎や、栄養剤の注入後の胃食道逆流による嚥下性肺炎を合併することがあるため、呼吸状態を注意深く観察し、肺雑音も聴取しましょう。

 

誤嚥性肺炎の予防には、術前からの口腔ケアが重要です。

 

事故抜去の可能性はないか?

上肢の動きや、カテーテルチューブの位置について確認します。

 

特に認知症患者の場合では、事故抜去のリスクについて確認しておきましょう。

 

局所状態の観察

図2術後の観察(局所状態)

術後の観察(局所状態)

 

感染の徴候はないか?

創部からの出血、感染徴候(発赤や腫脹など)がないかを確認します。

 

腹膜炎の徴候はないか?

腹膜炎徴候(腹部の圧痛や抵抗など)がないか確認します。

 

腹腔内に誤挿入されていないか?

バンパー型ストッパーによって皮膚が圧迫されると、創部の壊死・感染のもとになります。圧迫を避けるため、1cm程度のあそびをつくっておきます。

 

誤挿入のチェックポイントを以下に示します。

 

PEGカテーテルが上下に移働するか

造設時には、内部ストッパーが胃内にあることを胃内視鏡で確認します。しかし、その後、外力によって、胃壁内または胃外に内部ストッパーが逸脱してしまうことがあります。

 

内部ストッパーが逸脱している場合、PEGカテーテルは、スムーズに上下動しないことが多くなります。

 

ストッパーとシャフトに異常はないか

ストッパーがきちんと機能しているか、シャフトに傷がないか、にも注意が必要です。

 

胃壁固定部に異常はないか

胃壁固定されている場合、きちんと糸がかかっているかを観察することも重要です。

 

また、胃壁固定用の縫合糸が食い込んでいたり、周囲が感染したりしていないかを観察します。

 

局所管理とスキンケア

瘻孔が完成するまでの約2週間は、ケアの目標を「瘻孔の完成」「合併症の予防」に設定します。

 

さらに、スキンケア時には、早期の合併症として挙げられる以下の項目を、注意して観察します(文献1)。

 

  1. 創部感染
  2. 局所圧迫壊死
  3. 瘻孔周囲炎
  4. 腹膜炎・敗血症
  5. カテーテル逸脱

そもそも、PEGを必要とする患者の大半は、高齢で、栄養状態不良や免疫力低下が認められることが多いことから、毎日のケアが重要になってきます。

 

ケアのポイントを以下に示します。

 

術翌日から消毒は行わない

胃瘻造設時にはイソジン®液などを用いて消毒しますが、術後の瘻孔消毒は不要です。瘻孔部は、造設術後の翌日より、微温湯で洗浄します。

 

創部を消毒する行為自体には、感染を防ぐ効果がなく、逆に、傷が治癒しようとする力を阻害してしまうといわれています(文献2)。また、イソジン®液は、有機物に触れたとたんに効果を失うため、化膿した創部に使用しても、あまり効果はありません(文献2)。

 

Yガーゼを使い続けない

図3Yガーゼの危険性

Yガーゼの危険性

 

術直後は瘻孔部にYガーゼを留置しますが、翌日より開放します。Yガーゼを使い続けると、瘻孔部の清浄化が遅れ、感染を引き起こす恐れがあるためです。

 

また、Yガーゼの厚みで、胃内のストッパー(またはバルーン)が胃粘膜に食い込み、圧迫壊死を起こす危険性が高くなります。特に、ボタン型PEGカテーテルでは、外部ストッパーによる調整ができないので、胃内の状態を想像し、圧迫がないように心がけることが重要です。

 

洗浄を行う

図4胃瘻造設術直後の洗浄の手順

胃瘻造設術直後の洗浄の手順

 

洗浄は、スキントラブルや感染予防に有効です。瘻孔は消毒せず、翌日より洗浄を行います。

 

洗浄の目的を、以下に示します(文献3)。

 

  1. 瘻孔周囲の汚れをとる
  2. 快適な状態を保持する
  3. 皮膚の持つ生理機能を正常に保つ

 

胃瘻造設術直後の洗浄

胃瘻造設直後は「炎症期」にあたります。腫脹・熱感・疼痛などがあるため、瘻孔が安定するまでの1週間程度は、石鹸などの洗浄剤を使わずに洗浄し、洗浄後は自然乾燥させましょう。

 

洗浄は、1日1回ではなく、滲出液の量などの状態に合わせて、1日数回施行することもあります。

 

経過期(胃瘻造設術後早期)の洗浄

瘻孔は、胃から皮膚に開口しているため、通常でも多少の粘液が滲出しています。そのため、毎日、微温湯による洗浄を継続します。

 

洗浄時には、PEGカテーテル・瘻孔・周囲皮膚を十分に観察しましょう。炎症所見がなく、滲出液が少なく、全身状態が安定していれば、対象者の状況に合ったスキンケア方法を選択し、続けていきます。

 

当院では、造設術後1週間後から、シャワー浴を開始しています。

 

感染を予防する

洗浄によるpH調節

皮膚には生理機能があります。

 

本来、皮膚のpHは弱酸性ですが、胃に開口している瘻孔の粘液はアルカリ性です。ここで、皮膚表面がアルカリ性に傾いてしまうと、皮膚の常在菌が起炎菌になり、感染を招きやすくなります(文献4)。

 

そこで、前述のように、洗浄が重要になってきます。

 

局所圧迫の解除

PEGの局所圧迫は、感染を悪化させます。

 

造設翌日には、1cm程度ストッパーをゆるめます。また、外部ストッパーによる同一部位への圧迫を避けるため、1日1回はPEGカテーテルを回転させ、位置を変えましょう(図5

 

図5PEGカテーテルの回転

PEGカテーテルの回転

 

全身的感染徴候への対応

発赤や膿がある場合には、十分に洗浄を行い、壊死組織の除去を早期に行いましょう。必要があれば、切開・排膿も行います。

 

また、全身的感染徴候(発熱・悪寒など)がある場合は、抗菌薬も使用します。

 

滲出液が多い場合の対応

滲出液が多い場合、ついガーゼで保護してしまいがちです。しかし、ガーゼは、濡れると乾かないため、皮膚が蒸れ、皮膚炎を起こす場合があります。

 

やはり「滲出液を、こまめに微温湯で洗い流す」「水分を拭き取り、自然乾燥させる」ことが重要です。

 

滲出液が少ない場合は「こよりティッシュ」を使用しています(図6)。これは、ティッシュを1枚はいでこより状にして、PEGカテーテルのあそび部分に巻く方法です。濡れても乾き、通気性がよく、簡単に何度も交換できるのが利点です。

 

図6こよりティッシュを用いる方法

こよりティッシュを用いる方法

 

事故抜去への対応

胃瘻造設術直後の事故抜去への対応

胃瘻を造設して間もない時期(瘻孔形成期)に、PEGカテーテル事故抜去が起きると、胃穿孔と同じような状態が起こることが想定されます。

 

腹膜炎症状(イレウス、発熱、ショック、腹膜炎)が出現し、ときに致死的となる場合があり、厳重な注意が必要な合併症です。

 

胃瘻造設術後早期の事故抜去の予防

PEGカテーテル抜去を防止するには、まず原因を探り、“未然に防ぐ”という意識が必要です。

 

カテーテルを強い力で引き抜かれた抜去

特に、体表からチューブが出ていてつかみやすい、「チューブ型カテーテル」で多く起こります。

 

患者が自分で抜去してしまう場合の予防法としては、「腹帯による固定」「ミトン手袋の使用」などが考えられます(図7)。このとき、身体拘束に対する倫理的な配慮として、患者の家族に以下の3点を説明して承諾を得て、承諾書を書いてもらってから施行します。

 

  1. 決して縛るわけではないこと
  2. カテーテルの早期抜去は腹膜炎等を引き起こし、命にかかわる合併症であること
  3. 安定期に入れば外すこと など

つかみにくいボタン型カテーテルへの変更を検討することも重要です。

 

図7事故抜去の防止

事故抜去の防止

 

バルーン虚脱による自然抜去

「バルーン型カテーテル」使用時には、バルーン虚脱による自然抜去が起こり得ます。バルーン虚脱を防ぐため、2週間に1回カフ圧を確認し、バルーン内の蒸留水を入れ替え、バルーンが正しく留置されていることを確認しましょう。

 

また、PEGカテーテルは、長期間使用すると劣化してしまいます。栄養剤の注入が困難になるばかりでなく、抜去の原因となるため、定期的に交換しましょう(図8

 

図8PEGカテーテルの交換頻度

PEGカテーテルの交換頻度

 

事故抜去発生時の対応

術後早期の事故抜去(造設後2週間以内)

術後早期(瘻孔が完成していない時期)に事故抜去が起きた場合、無理に瘻孔確保を行わず、すぐに医師に診てもらいましょう。

 

その間、腹膜刺激症状(イレウス、発熱、ショックなど)がないか観察します。

 

また、必要時には経的に胃管を挿入し、胃液の持続吸引を行います。

 

術後後期(造設後2週間以後)

術後後期(瘻孔が完成した時期)に事故抜去が起きた場合は、可能ならば早期にネラトンカテーテルなどを用いて胃瘻孔を確保したうえで、医師に再挿入をしてもらいます。瘻孔は約6時間で閉鎖してしまうことに、注意が必要です。

 

ただし、瘻孔確保時に抵抗がある場合には、無理して瘻孔確保を行わないことも大切です。

 

腸管内脱落への対応

PEGカテーテルがちぎれるなどして、腸管内に脱落した場合、PEGカテーテルが胃内にあれば、医師に連絡して上部内視鏡で除去しましょう。

 

もし、上部内視鏡の届かないところまで入ってしまったら、まず自然に排便とともに排出されるのを待ちます。大腸内に留まった場合には、大腸内視鏡で除去します。

 

ただし、PEGカテーテルの腸管内脱落によって腸閉塞となる場合もあります。この場合は、手術で対応します。

 

事例:在宅で、夜間に事故抜去が起きてしまった!

患者の情報

70歳代、進行性上性麻痺の女性患者。病状の進行に伴ってADLが低下し、徐々に嚥下困難となったため、他院でバンパー型ボタンPEGの造設を受け、夫の介護により、在宅で療養されていた。

 

PEG造設から約4か月後の早朝、夫が抜去されたPEGを発見し、かかりつけ医へ診察を依頼した。医師がチューブで瘻孔を確保し、同日、当院に紹介された。外来でバンパーボタン型PEGが再挿入されたが、再挿入時に瘻孔の破壊が認められたため、腹膜炎を起こす可能性が高いと判断され、経過観察目的で入院となった。

 

局所状態の観察(感染・腹膜炎徴候の有無の観察)

術後1~2日目は絶食とし、術後3日目まで挿入部の感染予防と腹膜炎に対して抗菌薬が投与されました。患者は苦痛表情を示すこともなく、採血検査でも感染・腹膜炎の徴候は見られませんでした。

 

局所管理(瘻孔の管理)

術後1日目より、瘻孔を1日1回微温湯で洗浄・乾燥させた後、こよりティッシュをPEGカテーテルのあそび部分に巻くようにしました。しかし、術後3日目ごろより瘻孔周囲に黄色滲出液が増加し、皮膚の発赤(軽度)が出現したため、洗浄は1日2回・こよりティッシュの交換は最低1日3回行うことと変更しました。

 

術後4日目、症状は改善せず、PEG周囲からの脇漏れと滲出液が多く見られ、皮膚周囲の発赤が増強しました。そのため、こよりティッシュの交換を最低1日5回とし、こよりティッシュが汚染されているときはそのつど交換するようにしたところ、術後10日目ごろより滲出液の減少・発赤の軽減が見られました。

 

その後、症状が改善したため、洗浄は1日1回・こよりティッシュの交換も最低1日1回へ変更されました。

 

退院に向けた支援(スキントラブル・事故抜去の予防策)

患者は、言語での意思確認が困難で、苦痛を訴えることが難しいと予測されたため、表情を観察し、家族から普段の様子を教えてもらいながら、必要時鎮痛剤の投与を検討しました。しかし、苦痛表情が見られなかったため、鎮痛剤の投与は行われませんでした。

 

両上肢の動きが活発に見られたため、患者の家族に抑制の必要性を説明し、承諾を得たうえで、ミトンをはめてもらいました。さらに、PEG造設部を腹帯で固定し、夫に退院後も腹帯を継続使用するよう勧めました。その後も、体動は活発でしたが、PEGに触れる様子は見られず、入院環境にも徐々に慣れ、看護師へも笑顔を見せてくれるようになりました。

 

以上のケアを行い、スキントラブルや事故抜去の危険を防止し、自宅へ退院されました。

 


[引用・参考文献]

 

  • (1)上野文昭,鈴木裕,嶋尾仁:経皮内視鏡的胃瘻造設術ガイドライン.消化器内視鏡ガイドライン第2版,日本内視鏡学会監修,医学書院,東京,2002:295-309.
  • (2)粟井一也:PEG瘻孔に消毒薬はいる?いらない?.胃ろうのケアQ&A,岡田晋吾監修,照林社,東京,2005:17.
  • (3)梶西ミチコ:皮膚の構造と機能について.胃ろうのケアQ&A,岡田晋吾監修,照林社,東京,2005:27.
  • (4)梶西ミチコ:日常的なスキンケアの手順について教えてください.胃ろうのケアQ&A,岡田晋吾監修,照林社,東京,2005:28.
  • (5)Sartori S, Trevisani L, Nielsen I., et al.Longevity of silicone and polyurethane catheters in long-term enteral feeding via percutaneous endoscopic gastrostomy. Aliment Pharmacol Ther 2003; 17: 853-856.
  • (6)駒谷末季:胃ろうチューブの交換はどんなタイミングで、どう行う?.エキスパートナース2007;23(1):112-116.
  • (7)岡田晋吾:PEG造設後のトラブル、どんなものがありますか?.胃ろうのケアQ&A,岡田晋吾監修,照林社,東京,2005:14.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2010照林社

 

[出典] 『PEG(胃瘻)ケアの最新技術』 (監修)岡田晋吾/2010年2月刊行/ 照林社

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