細胞はタンパク質の工場|細胞ってなんだ(3)

解剖生理が苦手なナースのための解説書『解剖生理をおもしろく学ぶ』より
今回は、細胞についてのお話の3回目です。

 

[前回の内容]

実は多機能、細胞膜|細胞ってなんだ(2)
細胞の世界を探検中のナスカ。前回は細胞膜がとても働きものであることを知りました。

 


今回は「細胞はタンパク質の工場」と聞いて、それぞれの作業場を探検することに・・・。

 

増田敦子
了徳寺大学医学教育センター教授

 

細胞はタンパク質の工場

それにしても、細胞の中ってずいぶんといろんなものが詰まっていますね

 

細胞は、巨大な工業地帯みたいにさまざまな作業所をもっているの。たとえばね、エネルギーを作り出す発電所、それを使って身体の材料を作り出す工場、それに、出てきたゴミを処分する焼却炉といった感じ……

 

ゴミ焼却炉まであるんですか

 

そうよ

 

それにしても、細胞の役割って、いったいなんだろう?

 

ひと言でいえば、タンパク質の工場ね

 

タンパク質の工場?

 

これからその作業場を、一つひとつ案内するわね

 

図1細胞はタンパク質工場

細胞ってなんだ(4)発電所-ミトコンドリア・ゴミ処分場-リソソーム

 

設計図を保管するコントロールタワー──核

真ん中に丸くなっているのがあるでしょ。あれが

 

核の中には、DNAがあるんですよね

 

DNAはよく、身体の設計図にたとえられます。でも、見た目は全然、設計図じゃないの。実際はヌクレオチドとよばれる物質が鎖状につながった1本のヒモ。1個の細胞にあるDNAを伸ばすと、なんと2mにもなるのよ

 

核内にあるDNAの正式名称は、デオキシリボ核酸とよばれます。4つの「ヌクレオチド」が鎖状につながった、ヒモ状の形をしています。ヌクレオチドの糖とリン酸が交互に結合してできる鎖が2本、塩基を向かい合わせにしてより合わさり、ねじれたらせん構造をしています(図2図3)。

 

図2

核

 

図3DNAとは

DNAとは

 

細くて長いDNAは、からまったり切れたりしないように、ヒストンというタンパク質に巻きついています。いくつものヒストンに巻きついたDNAが連なって、真珠のネックレスのような構造をつくり、それが幾重にも規則的に折りたたまれ、染色体とよばれる太い構造をつくります。ヒストンとういうアルカリ性のタンパク質によって酸性の核酸が中和されます。

 

図4DNAの基本構造

DNAの基本構造

 

DNAは、塩基(A:アデニン、T:チミン、C:シトシン、G:グアニン)と糖、リン酸から構成される。ヌクレオチドとはDNAの基本単位である。AとT、CとGは必ず対となり、水素によって結合している。

 

うーん、DNAは1本の長いヒモか。で、その長いヒモがどうして身体の設計図になるんですか

 

その秘密はね……実はDNAに刻み込まれたアミノ酸の配列情報にあるの

 

アミノ酸の配列?

 

さっき、細胞はタンパク質の工場だっていったでしょう。タンパク質は、たくさんのアミノ酸がくっついてできるの。だから、アミノ酸の種類や並ぶ順番によって、できあがるタンパク質の性質も違ってくるのよ

 

遺伝子に記録されたアミノ酸の配列

DNAが身体の設計図といっても、そこには手足のサイズや、心臓肝臓の場所といった、構造上の特徴が描かれているわけではありません。DNAに記録されているのは、身体に必要なタンパク質をつくるためのアミノ酸の配列方法。つまり、どのアミノ酸(全部で20種類ある)をどのように並べて、どんなタンパク質をつくるのかということだけです(図5)。
DNAのうち、このアミノ酸の配列情報が記録された部分を遺伝子といいます。人間の場合、全体で5万~10万ほどの遺伝子があり、1つの遺伝子がもつのは1つのタンパク質をつくる情報だけです。したがって、身体全体でつくれるタンパク質の数も、遺伝子の数に等しい、ということになります。
長いヒモ状になったDNAの上で、遺伝子は飛び飛びに存在しています。DNA全体に占める遺伝子の割合はそれほど多くなく、人間など哺乳類の場合、その比率は10%以下だといわれています。

 

私たちの身体をつくる60兆個の細胞にはすべて同じDNA、つまり遺伝子が収納されているの

 

ということはつまり、どの細胞でも、同じタンパク質が同じ量だけつくられるってことですか

 

ところが違うの。心臓の細胞は、心臓に必要なタンパク質、は脳に必要なタンパク質しかつくらないの

 

どうしてそんなことができるんだろう?

 

タンパク質をつくる際に、細胞は遺伝子にある情報のすべてを使うのではなく、必要な部分だけを抜き出して使っているわけ。つまり、データベースは巨大だけれども、それぞれの細胞が使う部分はほんの少しずつ、しかないの

 

だったら、使う分のデータだけもてばいいのに……

 

細胞ごとに別々のデータベースをつくったら、それこそ大変でしょ。それに、大量のデータベースをもっていれば、環境が変化した際にも、必要な材料で細胞を作り替えることもできるのよ。長い目で見れば、これがいちばん、効率的だったということ

 

図5アミノ酸の配列

アミノ酸の配列

 

タンパク質の合成には、核内において核酸の塩基配列がmRNAに転写される。その後、mRNAは核外に出て、リボソームと結合。その際、転写された塩基配列は3文字ずつ翻訳され、これをもとにtRNAがアミノ酸を運んでくる。この3文字をコドンとよび、組み合わせにより運ばれてくるアミノ酸が決まっている。1文字目がU、2文字目がC、3文字目がGの場合のアミノ酸はセリンである

 

タンパク質の組み立て場──リボソーム

アミノ酸を並べてタンパク質を作るっていってましたが、それは細胞のどこで作業するんですか

 

タンパク質を合成するのはリボソーム。丸くて、小さなツブツブがリボソームよ。あそこがタンパク質を組み立てる作業場なの

 

あんなツブツブが?

 

さあ、行ってみましょう

 

図6リボソーム

リボソーム

 

転写から翻訳、そして合成へ

遺伝子に記録されたアミノ酸の配列情報は、とても貴重で大切なもの。ですから、核外への持ち出しは禁止です。そこで活躍するのがコピー機能です。細胞の中にコピー機なんてあるのかって? それが、ちゃんとあるんです。
遺伝子の情報はまず、DNAにとてもよく似た構造のRNAリボ核酸)に写されます。これをコピーならぬ、転写といいます(図7)。DNAが原本だとしたら、RNAはそのコピーになるわけです。
RNAはリボソームに結合して、写し取った遺伝子情報を伝えます。こうした「伝える役割」をするRNAをとくに、メッセンジャーRNAmRNA)とよんでいます。
mRNAからの情報がリボソームに届くと、材料となるアミノ酸を集める作業がスタートします。このとき、必要なアミノ酸をリボソームまで運んでくるのもRNAです。こうした運搬役のRNAは、トランスファーRNAtRNA)とよばれています。
1つのtRNAは、1種類のアミノ酸しか運べません。ということで、たくさんの種類のアミノ酸を運ぶためには、たくさんの種類のtRNAが必要です。タンパク質をつくるのに必要なアミノ酸は20種類ありますから、それを運ぶtRNAも20種類です。tRNAは、mRNAに写し取った情報を読み取り、20種類のアミノ酸のなかから、指示どおりのアミノ酸を運んできます。この作業を生理学では翻訳といいます(図8)。
こうして、転写から翻訳へと作業が進み、必要なアミノ酸がすべて揃ったところで合成。つまり、アミノ酸を順番につなげてタンパク質をつくる作業へと進んでいきます。

 

図7転写

転写

 

図8翻訳

翻訳

 

遺伝子に記録されているのは、アデニンチミンシトシングアニンの4つの塩基でできた暗号のようなものなの。それで20種類ものアミノ酸をつくるんだから、すごいと思わない?

 

暗号はたった4つですよね?どうやって、20種類もの指示を出せるんだろう

 

その点、細胞は本当に頭がいいの。DNAからmRNAに情報を転写する場合にまず、3つの塩基をひとまとめにしてコード化します。これを専門用語ではコドンというの。すると、理論上は4×4×4=64とおりの組み合わせが可能で、20種類のアミノ酸も、余裕で区別できちゃうわけ。どう? すごいでしょ

 

なんだかよくわからないけど、細胞はつまり、数学が得意ってことで……

 

そういうこと

 

タンパク質の配送センター──ゴルジ装置

リボソームで合成されたタンパク質は、今度はどこへ行くんですか

 

ゴルジ装置ゴルジ体ともよばれます)よ(図9

 

ゴルジ装置?

 

たとえれば、配送センターのような場所ね。リボソームでつくられたタンパク質は、小胞体という梱包材で梱包され、ここで荷札を付けられて、目的地へと送り出されるの

 

タンパク質に、荷札をつけるんですか

 

もちろん、紙の荷札じゃないわよ。実際には糖が荷札の役割を果たします

 

糖がどうして、荷札になるんですか

 

つまり、運ばれて行く場所に応じてタンパク質にそれぞれ違う糖をくっ付けるの。そうすると、別々の糖タンパクができて、細胞は、その糖タンパクの種類で、ほしいタンパク質かどうかを見分けるわけなの

 

なるほど、すごいシステムですね

 

図9ゴルジ装置(ゴルジ体)

ゴルジ装置(ゴルジ体)

 

[次回]

細胞には、発電所とゴミ処分場まである?|細胞ってなんだ(4)

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『解剖生理をおもしろく学ぶ 』 (編著)増田敦子/2015年1月刊行/ サイオ出版

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