頭に爪楊枝が30本刺さった患者さんが…⁉ 後楽園ホールで働く看護師の仕事とは? | 病院以外のレア職場(2)

さまざまな場所で働くナースを紹介する連載『病院以外のレア職場』。

 

第2回は、プロレス・ボクシングをはじめ格闘技の聖地とされている、後楽園ホールで働くSさんにインタビュー!

 

命がけで戦う選手を支えるSさんに、後楽園ホールでの看護師のお仕事について、たっぷりお話を聞いてみました。


取材・文 トヤカン(元看護師・フリーライター)

後楽園ホールで働く看護師の仕事って? Sさんの場合

――今日は後楽園ホールでの看護師のお仕事について、たくさんお話を聞かせてください! いきなりなんですが、格闘技の会場って、どんな患者さんがいるんでしょうか?

 

主に試合中に怪我をした選手ですね。切り傷(裂挫創)が一番多くて、次に骨折、ごくまれに頭部の大きい怪我もあります。

 

――後楽園ホールでは、プロレスやボクシング、キックボクシングなど、さまざまな格闘技の試合が行われていますが、それぞれ特徴や違いはありますか?

 

全然違います!

 

私の印象だと、

 

  • 裂挫創や足首の骨折などが多いのがキックボクサー
  • 試合後のバイタルチェックなど、怪我の有無にかかわらず全員に対応が必要なのがボクサー
  • 医務室に来るような怪我はめったにないけど、たまに驚くほど大きな怪我をして運ばれてくるのがプロレスラー

 

っていう感じです。

 

処置が必要で医務室に来る患者さんの数も、キックボクサーが一番多くて、次にボクサー、一番少ないのがプロレスラー、だと思います。

 

――キックボクサーの患者さんが一番多いのは、なぜなんでしょうか?

 

キックボクサーって、競技の特性上、裂挫創が多いんですよ。1日に10試合ほど組まれるんですが、全試合でどちらかの選手が傷を負って、1日に10人以上処置をするケースもあるくらい。

 

試合後に、ナート待ちの選手が何人も並んでいたこともありました。医師も看護師も1人ずつでの処置なので、かなりバタバタしましたね…。

 

――縫うような怪我が頻発するって、すごいですね…。ボクシングはどうですか?

 

ボクサーの場合、処置が必要な患者さんは1日2~3人くらいで、キックボクシングよりは少ない印象です。

 

というのも、脳にダメージを負うような大きい怪我につながりやすい競技なので、最近は「危なくなる前にレフェリーが止めに入る」という方針で試合をしているらしいんですよね。

 

ただ、万が一に備えて、試合後には必ず医師と看護師で、全選手のバイタルチェックと全身状態の確認を行っています

 

――無事に試合ができるよう、万全を期しているんですね。プロレスはどうでしょう?

 

プロレスラーは、「医務室に来るような怪我人は、ほとんどいない」と言っていいくらいだと思います。

 

技をかけられる時にしっかり受け身を取っていたり、選手自身も怪我慣れしていたりするからですかね。新日本プロレスなど、団体によっては、専属のトレーナーさんが怪我の対応をしている場合もありますよ。

 

――なるほど。そうすると、プロレスの場合、医務室に選手が来ることはほとんどないのでしょうか?

 

いえ、全く誰も来ない、というわけではないですよ。怪我の治療で、ではなく、医師に会いに来る選手もいるんです。

 

――医師に会いに、というと…?

 

新日本プロレスの興行日は、昔から同じ医師が勤務していて、選手にも信頼されているので、「先生!」って会いに来るんです。その流れで、「最近どう?」と、私にも話しかけてくれることもありますね

 

よく声をかけてくれるという、新日本プロレス所属の棚橋弘至選手(左)、本間朋晃選手(右)。サービス精神旺盛な棚橋選手は、医務室でも盛り上げ上手だそう

 

裂挫創、骨折、頭に爪楊枝…⁉ 医務室での実際の処置とは

――裂挫創や骨折の患者さんが多いそうですが、医務室では、どんな処置をするんでしょうか?

 

処置自体は基本的に医師が行い、私はそのサポートをしているんですが、ナートがメインで、次に骨折の処置が多いですね。よくある骨折の部位は指、鼻、足首あたりです。

 

キックボクサーは、蹴った方の選手が足首を折ることもあるので、シーネ固定をしたりしています。

ナートで使う主な物品。処置に必要な外科用品はすべて医務室にそろっています

 

――印象に残っている患者さんはいますか?

 

過去に2回ほど、衝撃的な処置をしたことがあります……。

 

どちらもプロレスのデスマッチの日なんですが、1回目は、剣山が頭に刺さって抜けなくなったプロレスラーの対応、2回目は楊枝が頭に30本ぐらい刺さって、腫れて取れないプロレスラーの対応、ですね…。どちらも同じ選手でした。

 

――え! 爪楊枝が頭に刺さっているんですか!?

 

そうです(笑)。1本1本が結構しっかり刺さってしまっている上に、腫れがすごくてなかなか抜けなくて。至近距離で見るのも衝撃的でした…。

 

もともと外科分野に興味があったので、どんな外傷を見ても大丈夫だと思っていたんですが、さすがに至近距離で爪楊枝を挟んで抜く作業は堪えましたね。

 

――それは…一般病棟ではまず対応しない怪我ですね…。

 

力を込めて抜いていたら暑くなってきて、クーラーをつけたかったんですが、選手は痛みが強いから「冷やさないでほしい」というので、つけられなくて。

 

選手も私も汗だくになりながら、1本ずつ持針器で挟んで抜きました

 

後楽園ホールのお仕事、1日の流れは?

新型コロナウイルス感染拡大前、満員の後楽園ホール

 

――1日の勤務の流れをお聞きしたいと思います。到着してから試合が始まるまでは、どのような流れなんですか?

 

私の場合は、事務所でタイムカードを押して検温・手指消毒を済ませたあと、薬品簿、トランシーバー、当日の対戦カード、発注していた物品などを受け取って医務室に向かいます

 

――トランシーバーはどういう時に使うんでしょうか?

 

普段はほとんど使わないんですが、緊急用・災害用に、毎回持っていっているんです。

 

――災害時のためだったんですね。医務室に着いてからは、どんな準備をするんですか?

 

それぞれの興行に合わせて、物品を準備しています

 

怪我が多いキックボクシングやボクシングだと、医師が直接リングサイドに行くことも多いので、あらかじめガーゼ、ペンライト、フェイスシールド、手袋など、医師が持っていくものをまとめています

 

――試合が始まってからは、どのように過ごしているんでしょうか?

 

医務室のモニターで、試合をモニタリングしています

 

モニターを見ていて、怪我人が出たり、「怪我人が出そうな試合だな」と感じたときは、ナートや麻酔の準備をして、選手が医務室に来るのを待っています。怪我をした選手が医務室に来たら、医師とともに必要な処置を行います。救急搬送が必要だ、と医師が判断した場合は、その準備や対応もしていますね。

 

他にも団体関係者の対応(選手の病状説明など)、看護師同士の連絡事項の記入、伝票処理といった事務的な仕事もありますよ。

 

試合終了後、すべての処置が終了したら、物品を片付けて、滅菌をかけて退勤、という流れです。

 

後楽園ホールで働き始めたきっかけと、お仕事のやりがい

写真提供:(株)東京ドーム

 

――後楽園ホールで働き始めたきっかけは、どんなことだったんですか?

 

新卒で入った病院を1年ほどで退職して、中規模のクリニックへ転職したんですけど、そこで半年働いた頃、先輩の看護師から「後楽園ホールのアルバイトしない?」と声を掛けてもらったんです。

 

――お話を聞いたとき、どう思いましたか?

 

正直に言うと、それまではまったくプロレスやボクシングに興味がなかったというのもあって、あまり前向きな気持ちではなかったんです。

 

新卒で入った病院では内科勤務だったし、外傷処置の手順すらも曖昧だったので、「私が役に立てるのか?」という不安でいっぱいでした。

 

でもやっていくうちに、やりがいを感じるようになったんです。働き始めて、もう13年目になりますね。いまも日数こそ少なくなりましたけど、本業と並行して、ずっと続けていきたいなと思っています。

 

――未経験の分野に飛び込むのは、勇気がいりますよね。後楽園ホールの看護師ならではのやりがいは何ですか?

 

やっぱり、処置をした選手が回復した姿を見れるっていうのはうれしいですね。

 

最初に勤めていた病院の患者さんは、亡くなる方や再入院になってしまう方が多くて。回復して元気になった姿を見られないことのほうが多かったんですよね。

 

あと、勤務年数が長くなるほど、選手や医師に安心してもらえるんです。「今日はSさんか、大丈夫だね」という声を聞くだけで、やり続けて良かったなと思います。

 

写真提供:(株)東京ドーム

 

――後楽園ホールのお仕事の魅力は、どんなところでしょうか?

 

外傷処置に強くなれるところかな。

 

働き始めたときは外科処置をしたことがなくて、わからないことだらけでしたが、医師が丁寧に教えてくれて。教えてもらいながら技術を身につけていって、いまは自信につながっています。

 

――Sさんにとって、未経験の分野に挑戦したり、働く場所を変えたりするときに、「これ大切だったなあ」と思うことがあればお聞きしたいです。

 

そうですね…。いま目の前にある仕事・技術をしっかり身につけるのが大事かな、と思います。

 

できること・できないことが明確にわかっていると、働く場所が変わったときも、教えてもらうべきことがクリアになるし、自分からも教えてほしいと伝えやすいな、と感じます。

 

私もなんですが、できるかできないか中途半端だと「できない」って言いにくいし、モヤモヤしますよね…。今働いている場所でも、未経験の分野に飛び込んだときも、わからないことは素直に聞いて、「自信を持ってできます!」と言えるくらい、1つ1つの技術を確実に身につけるっていうのが、すごく大切だと思っています。

 

執筆

ライタートヤカン

大学病院の正看護師として働いた後、フリーライターに転身。
『まいにちdoda』『ダ・ヴィンチニュース』『bizSPA!フレッシュ』にて記事を執筆。エンタメ、社会問題、はたらくこと、看護に関するジャンルを中心に幅広く活動中。

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