『基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座』より転載。
今回は、呼吸器外科手術後の鎮痛・鎮静管理について解説します。
呼吸器外科手術後の鎮痛・鎮静管理
1)呼吸器外科手術後の病態
呼吸器外科手術は,内視鏡下や開胸によって行われます.
①胸腔鏡下手術(VATS:video-assisted thoracic surgery)
近年,胸腔鏡による低侵襲手術(図1)が主流となっています.
VATSは,切開創が小さく肋骨を切除しないため,侵襲や疼痛が少なくなり,早期離床が可能となります.
高齢者や低肺機能の患者さんには優先して選択されます.
しかし,VATSが低浸襲であっても,術前の呼吸機能や残存肺の機能によっては,術後に肺合併症を起こす危険性があります.
②開胸手術
開胸手術は,側方切開(図2)による手術と胸骨正中切開(図3)による手術が大半です.
切開創の大きさに加え,肋骨切除をして手術が行われるため,術後の疼痛が強くなります.
側方切開による手術の中でも,後側方切開(図4)になると,僧帽筋,広背筋,菱形筋などを切断するため,疼痛が強く,上肢の運動が制限されることがあります.
2)鎮痛・鎮静管理の方法
十分な鎮痛管理を行わなければ,肺合併症の発症につながります.
アセスメントツールを用いて主観的な疼痛評価と客観的な疼痛評価を経時的に行いながら,早期対応できるように心がけます.
鎮痛は,一般的に,胸部硬膜外鎮痛法(TAE:thoracic epidural analgesia)が用いられます.
TAEには,局所麻酔薬(アナペイン®)に加え,オピオイド(フェンタニル)を混入して確実な鎮痛を行います.
NSAIDsを併用するとより効果的です.
NRS:0 ~ 2 点,PHPS:0 ~ 1 点を目標にします.
3)アセスメントの視点
呼吸器外科手術後の疼痛には,創部痛,ドレーン刺入部痛,ドレーンによる肺尖部痛,肋間神経痛,内臓痛,患側肩の痛みなどがあります.
疼痛は咳嗽や離床の阻害因子になるため,常に疼痛のアセスメントをする必要があります.
「 痛いから動かない」「痛いから咳を控えめにする」などがないように注意をします.
つまり,いかに鎮痛コントロールを図りながら,早期離床による肺合併症の予防ができるかがポイントです.
4)咳嗽時の疼痛を軽減するコツ
咳嗽時には疼痛が伴いますので,創部保護を行います.
図5は左側方切開による開胸手術(鏡視下手術を含む)に対する創部保護の方法です.
咳嗽の呼気のタイミングに合わせ,患側の脇を締めるとともに,健側の手で包み込みます.
[Profile]
増居 洋介 (ますい ようすけ)
北九州市立医療センター 集中ケア認定看護師
*所属は掲載時のものです。
本記事は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典]『基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座~せん妄予防と早期離床のために~』(監修)道又元裕、(編集)剱持雄二/2015年2月刊行