『せん妄のスタンダードケア Q&A100』より転載。
今回は、患者さんが暴れたときの対応について解説します。
患者さんが暴れ自分の身の危険を感じたとき,どうすればよいですか?
暴力発生時の原則は,すみやかに患者さんから離れ,逃げることです.暴力を受けそうなときには安全な技術を用いて回避します.
日ごろから,患者さんと職員に潜む暴力の危険を予測し,チーム行動を確認し,防止に努めましょう.
〈目次〉
危険を予測する
せん妄以外にも,脳挫傷,脳出血後遺症,統合失調症,器質性精神障害,薬物中毒,認知症など,患者さん側の要因で暴力は発生します.痛み,不眠,ストレス,身体抑制など,暴力を誘発させる要因はほかにも多くあります.
これらの要因から危険を予測し,暴力発生時の対応をあらかじめ決めておきます.
暴力発生時の原則と対応
暴力発生時の原則は,すみやかに患者さんから離れ,逃げることが基本です.暴力を受けそうになったときの対応(防御)方法がありますので,事前にトレーニングなどで身につけておくことも重要です(表1).
- 殴られないように,顔などを守り,手や物(ファイル・バインダーなど)で防御します.眼窩底骨 折,前歯の脱臼・破折など,職員が防御できなかった場合,被害が甚大です.
患者さんの行動をエスカレートさせることがあるため,手などをつかむことはしません. - 首を絞める,つねる,引っ掻くなどの暴力行為に対する回避技術があります.これらの暴力の発生頻度が高い部署では,トレーニングを受けることをお勧めします.
暴力発生の防止策
暴力の内容や発生パターンが決まっている患者さんもいます.患者さんの表情を見て状態のいい時間帯を選んで短時間に処置やケアを行い,暴力を防いだ成功事例があります.
患者さんは環境要因に影響を受けやすく,刺激を避け環境を改善していくことで暴力行為が減ることもあります.攻撃し続けるわけではないので,注意が変わりやすいことを利用し患者さんの興味・関心をひくことや,攻撃してこないかかわり方を見つけていきます.
やってはいけない
暴力対応のトレーニングを受けることのメリット
- 暴力発生の危険をアセスメントし,適切な技術を習得して初めて,患者さんと自分自身の安全を守ることができるのです.
職員向けに,暴力の危険予知訓練(KYT)1)や暴力防止プログラム2)が開発されています.なお,KYT は,Kiken(危険),Yochi(予知),Training(トレーニング)の頭文字をとったものです. - 暴力の危険予知訓練(KYT)では,危険要因を想定し(Step1),重大な危険要因を絞り込み(Step2),具体策を挙げ(Step3),チーム行動の目標を設定します(Step4).
自分たちが暴力を受けないより安全な方法をチームで選択し,確認してください. - 暴力防止プログラムは,個人の回避技術にとどまらず,チーム介入技術や,ロールプレイなどが含まれており,実践的な内容となっています.
- これらのトレーニングを受けることで,①冷静に対応する,②不適切な行動を防ぐ,③被害を最小に抑えることが可能となります.
患者さんの安全も守らなければならない
- 患者さんが暴れる一方で,患者さん自身に転倒事故などの危険がある場合は,逃げることだけでは患者さんの安全を守ることができません.
- 暴力発生時は複数の職員で対応することが原則であるため,応援が来るまで,逃げずに患者さんとの適切な距離を保つこと,殴られにくい・蹴られにくい安全な位置にポジションを取ることが必要です.患者さんを興奮させない応援の呼び方を日頃から決めておきましょう.
- たとえば,体格差のある患者さんの転倒事故防止に1 人で対応するのは危険です.患者さんを両サイドで支えることで,転倒事故防止につながります.
転倒事故防止策についても,日ごろから検討しておきましょう.
[文献]
- 1)三木明子,友田尋子:看護職が体験する患者からの暴力,p.184-193,日本看護協会出版会,2010
- 2)三木明子,小日山千絵:病院職員と看護学生のための暴力防止プログラムの有用性の検討.日本看護学会論文集 精神看護 38:18-20, 2007
[Profile]
三木 明子 (みき あきこ)
筑波大学医学医療系
*所属は掲載時のものです。
本記事は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典]『“どうすればよいか?”に答える せん妄のスタンダードケア Q&A100』(編集)酒井郁子、渡邉博幸/2014年3月刊行