2018年09月06日

ABCDEバンドル

『基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座』より転載。
今回は、ABCDEバンドルについて解説します。

これだけはおさえておこう

  • 「鎮静よりも鎮痛,隙あらば鎮静薬からの離脱と自発呼吸トライアル,脱安静,その結果,予後に影響を与えるせん妄発症を減らそう」がABCDEバンドルの中心概念です.
  • ABCDEバンドルは,PADガイドラインに沿った内容に自発呼吸トライアルを加えたものと考えるとよいです.
  • バンドルをそのまま使用するよりは,施設の実情に合わせて,実行可能な形にした方がよいでしょう.

〈目次〉

ABCDEバンドルって何?

ABCDEバンドルのABCDEとはAwakening(覚醒),Breathing(自発呼吸),Coordination(A とB の共同),Choice of sedatives(鎮静薬の選択),Delirium(せん妄),Early Exercise/Mobility(早期離床/ 運動)の頭文字を取ったものです.

ABCDEバンドル

もう少し具体的に説明すると,以下のようになります.

  1. A毎日鎮静薬を中断して覚醒させる
  2. B毎日自発呼吸テスト(spontaneous breathing trial:SBT)を行い人工呼吸器から離脱できそうか判断する
  3. CAとBを一緒に行い,非ベンゾジアゼピン系の鎮静薬を選択する
  4. Dせん妄を毎日ちゃんとモニタリングし予防・対策する
  5. Eせっかく覚醒させるのだから早期から離床や運動を行う

バンドルなので,この5 つの項目を同時進行的に行います.

ABCDEバンドルの多くはPADガイドラインの内容に類似しており,さらにPADで触れられなかった自発呼吸トライアルが加えられています.

 

ABCDEバンドルの効果—ABCDEバンドルにエビデンスはあるのか?

ここでは,まずはABCDEをそれぞれ分解して単独の効果や方法を確認し,続いてABCDEバンドルの効果(全部まとめて行った時の効果)をみていきましょう.

 

1覚醒(A)の効果と方法

SAT(spontaneous awakening trial,覚醒トライアル)とは,鎮静薬を中断して,覚醒を促す方法(トライアル)のことです.

SATには,1日1回鎮静を中断するというdaily interruption of sedatives(DIS)やsedation vacation2)と呼ばれる鎮静管理法,no sedation3)と呼ばれる鎮静薬を使わない無鎮静プロトコルなどが含まれます.

なぜ鎮静薬を毎日切る必要があるかと言うと,鎮静薬には蓄積性があるため,長期間持続投与すると覚醒するまでに時間がかかり,そのために抜管までの時間が長くなってしまうからです.

また,毎日鎮静を中断することによって,意識状態などを早期に確認できる他,リハビリテーションも行いやすくなるといったメリットがあります.実際に,DISにより人工呼吸管理期間は短縮することが報告されています4)

具体的なSATの方法は,SATの安全スクリーニング基準(表1)を確認した後,鎮静薬を中断し,覚醒,あるいは不穏が生じた場合に中断前の1/2量で鎮静薬を再開する方法などがあります(SBTと組み合わせる場合は,SBT後に再開する).

表1安全スクリーニング基準と中止基準13)

安全スクリーニング基準と中止基準

ここでの覚醒は,「に対して目を開ける」「指示に従い,追視することができる」「指示に従い手を握ることができる」「指示に従い舌を出すことができる」のうち,少なくとも3つができることとされています.不穏の発症以外のSAT の中断基準は表1を参照してください.

 

2自発呼吸促進(B)の効果と方法

SBT(spontaneous breathing trial,自発呼吸トライアル)とは,抜管あるいは人工呼吸器からの離脱(ウィーニング)ができるかどうかを評価するためのテスト(トライアル)のことです.

ウィーニングとは,乳離れを意味する言葉で,呼吸器に依存していた状態から,呼吸器に頼らず自分自身で呼吸できるように人工呼吸器を調節する作業です.

SBTは,過去に行われていた段々とウィーニングする方法とは違い,ある状態まできたら(表1の安全スクリーニング基準を参照)一気に呼吸器を外すことができるかを評価します.

具体的には以下の2 つの方法があります.

  1. T-peace(Tピース)にする方法(図1
  2. 人工呼吸器の設定をPEEP 5 cmH2Oのみ,またはPSV 5 〜7 cmH2O+ PEEP 5 cmH2Oへ変更する方法

サポートなし,または最低限のサポート下で自発呼吸状態に患者さんが耐えられるかを評価します.一般的にこのテストは30 〜120 分間行われます.

図1T-peace(Tピース)にする方法

T-peace(Tピース)にする方法

 

SBTが成功したか否かの判断は,酸素化の能力や換気の能力・呼吸仕事量・循環動態を複合的に評価することによって行われます(表1参照).実際にSBTを行うことで,人工呼吸管理期間の短縮,医療費の削減,VAP発生率の減少などの効果が報告されています5 —9).今回の論文で使用された開始・中止基準を表1に示します.

 

3AとBの共同または鎮静薬の選択(C)の効果

SBTだけを行うよりも,SATの後にSBTを行った方が,人工呼吸器から早く離脱でき,肺炎を起こさず,予後がよくなることがわかっています10)

また,ガイドラインでも推奨されているように,せん妄予防や在院日数の観点から,ベンゾジアゼピン系の鎮静薬の使用を避けた方がよいとも言われています1)

 

4せん妄評価(D)の重要性

Dはせん妄のモニタリングと管理でした.

せん妄は死亡率増加や認知機能障害などの要因であるとされています.しかしながら,せん妄を予防,治療するためのはっきりとした方法はわかっていません.

唯一効果がはっきりとしているのは,人工呼吸管理中からの積極的なリハビリテーションです11)

そのため,われわれには,積極的なリハビリテーション以外は,せん妄状態にあるかしっかりと観察し,せん妄の原因かもしれない要因を取り除くことしかできません.その要因の1つが,鎮静薬の量が多い・鎮静が深いことです.

 

5早期離床/ 運動(E)の効果と方法

人工呼吸管理が必要な患者さんに,毎朝鎮静を中断し,四肢の他動運動から始め,もしコミュニケーションが取れれば自動運動へと移り,坐位から立位,立位から椅子への移動,椅子への移動から歩行へと段階的に,かつ積極的に進めることで,人工呼吸管理期間を短縮し,せん妄である期間を短縮できるようです11)

よく使用される早期離床の段階的な進め方は図2を参照してください.

図2早期離床プロトコル

早期離床プロトコル

 

実際のABCDE バンドルの研究で使用された開始基準と中断基準は表1に示します.

 

6ABC+D+E—ABCDEをまとめて行うことの効果は?

ABCやEの効果,Dの重要性に関してはそれなりに論文があり,よいことははっきりしています.しかし,ABCDEバンドルとなると話は別です.

実際のABCDE バンドルの効果(全部を同時に行った結果)に関する論文はほとんどありません.

もちろんよいことを集めたものですからよいに決まっていますが……実際に効果をみた数少ない論文13)の結果を紹介します.

バンドルを行っていない期間(前)と,バンドルを全員に行っている期間(後)の人工呼吸管理期間などを比べています.

その結果,人工呼吸療法を受ける期間は減り,せん妄は減少し,早期離床の実行割合は増えるという結果でした.

しかしながら,ICU 滞在期間・在院日数などに差はみられませんでした.また,ABCDE バンドルの実施前後では,自己抜管などは増えなかったようです.

 

ABCDEバンドルの始め方とやめ方

実際にABCDE バンドルを行っている研究はほとんどありませんので,これが最もよいやり方ですというものは紹介できません.ここでは,ごくわずかな研究の中から,実際に使われたバンドルの基準ややり方を紹介します13)

まずはSATです.人工呼吸管理中の鎮静薬を持続的に受けている患者さんに毎日SATを行います.SATを行う前に,表1のSAT 安全スクリーニングを実行し,安全に行える対象ではSATを行います.

SATの具体的な方法は「覚醒(A)の効果と方法」を,成功と失敗の基準は表1を参照してください.

SAT

 

SATに成功したら,SBTを行います.こちらも表1と「自発呼吸促進(B)の効果と方法」を参照し実行します.

SBTに成功したら,抜管を目指します.SATとSBTを行いながら,せん妄のモニタリングや早期離床を一緒に行っていきます.

SBT

 

せん妄は「せん妄評価(D)の重要性」や後述のコラム「せん妄のモニタリングは必須で行った方が本当によいのか?」に記述するとおり,治療や予防方法が確立していません.

むしろABCEを行うことがそのまま治療や予防につながるとも言えます.

具体的な方法としては,2時間おきにRASSなどの鎮静・不穏スケールで評価し,鎮静・不穏状態に変化がみられたらCAM-ICUの評価を,それ以外では8時間置きにCAM-ICUを評価します.

また,鎮静やせん妄の状態はICUでの治療が深くかかわっていますので,その治療方法がせん妄などに悪影響を与えていないかなど話し合う必要があります.

CAM-ICUの評価

 

続いて,人工呼吸療法中からの早期離床です.ベッドから下りることができるのか,まず安全スクリーニングを行います(表1).

その後,問題なければ端坐位,立位,歩行と進めていきます.その時の中断基準も表1に示してあります.

早期離床

 

ABCDEバンドル活用の実際:本当に全部できるのか?

ここまで偉そうにPADガイドラインやABCDEバンドルについて記述してきましたが,筆者の施設ではABCDE バンドルを行っていません(!!).

正確に言えば,AEバンドルとなっています.BとDは積極的には行っておらず.各個人の努力で行っています.

なぜそうしたかと言うと,ABCDEバンドルの要であり,スタート地点であるのは覚醒(A),つまり鎮静薬を中断(浅い鎮静,無鎮静)することです.

これがしっかり行われなければ,SBT(B)もSAT とSBT の共同(C)も早期離床(E)もできませんし.せん妄(D)は発生率が上昇します.つまり,われわれの施設では十分覚醒させること(A)にすべてを注いだわけです.

その結果,少なくとも早期離床を十分行え,鎮静も浅いためにせん妄の発生予防にもなっていると考えています(せん妄評価は結果的に4 時間ごとに評価されている).

このように,各施設の実情に合わせ,できることを地道に行うことが重要であると考えます.

 

【コラム】せん妄のモニタリングは必須で行った方が本当によいのか?

ABCDEバンドルの項目は効果的な介入(治療やケア)を集めたものなのですが,唯一せん妄(D)のみ治療・ケア方法ではありません.

要するにモニタリング(観察することのみ)しているだけなのです.モニタリングしているだけでは,予防・治療効果はありません.また,せん妄には特別な予防・治療方法がほとんど存在しないという話をしました.

そうしてみると,SAT,SBT,早期の離床/ 運動だけでも大変なのに,加えて,ルーチンでせん妄の評価をした方がよいのか疑問に思えてきます.

たとえば,ABCDE バンドルやPAD ケアバンドルには,鎮静薬を中断した期間や抜管までの期間,再挿管率をルーチンで評価しなさいとは書いてありません.

バンドルは行う項目が少ないほど実施率が高くなります.要するに,約束事は少ない方が守られやすいのです.

そうした意味から考えると,せん妄の評価をバンドルに組み込み,ルーチンでチームメンバーに行ってもらうのはやめておこうという戦略もありに思えてきます(もちろん各個人が測定するのはよいことですが,バンドルとしてその実施率を測定したり,教育をしたりといった労力を避けることを意味する).

ちなみに,「ABCDEをまとめて行うことの効果は?」で紹介した論文のABCDEバンドルの実施率は,SATは50%の人で毎日行われるものの,ベンゾジアゼピン系鎮静薬使用量は減らず(21.2 mg vs. 17.4 mg,p = 0.41),鎮静深度も変化しない(- 0.64vs. - 0.59,p = 0.68),せん妄評価も50%の時間しか行われませんでした.最も大きな変化を見せたのは,SAT とSBT の実施とともにICU滞在中に立位または歩行を行った割合が増えたことでした(48%から66%へ).

ここから考えても,SATやSBT,早期離床/ 運動に力を入れて,観察のみのせん妄に力を注がないというのもよいのかもしれません.

 

【コラム】Early Goal-Directed Sedation(早期目標志向型鎮静法)

Early Goal-Directed Sedation(早期目標志向型鎮静法)はEGDS と呼ばれ,2013 年に発表されたシェハビらの研究*で行われた鎮静管理の方法です.

EGDSという名称は,セプシス(敗血症)ガイドラインのEGDT(Early Goal-Directed Therapy)を意識して,シャハビらが名付けたものです.

EGDSは,人工呼吸管理開始後早期から目標(Goal)を見据えて可能ならいつでもライトセデーション(浅い鎮静)にし,デクスメデトミジンを主な鎮静薬として使用したベンゾジアゼピン系薬剤の使用を最小限とする鎮静管理のアルゴリズムです(図3).

図3EGDSアルゴリズム

EGDSアルゴリズム

文献1より筆者翻訳して引用]

この研究では,人工呼吸管理中の重症患者さんにおけるEGDS と従来通りの標準的な鎮静法の比較が行われています.以下に,概要を示します.

【比較方法】

  • EGDS は,ミダゾラムを使用せず,デクスメデトミジンをベースとし,必要時にプロポフォールを使用します.
  • 標準的な鎮静法は,デクスメデトミジンは使用せず,ミダゾラムやプロポフォールなどを使用しています.
  • 浅い鎮静(RASSはー2 〜ー1)への達成時間,せん妄,血管収縮薬,抑制,自己抜管などを評価しました.

【結果】

  • 最初の48時間の浅い鎮静が増加することができました(p=0.01).
  • せん妄がなかった日数,抑制の有無,血管収縮薬使用の有無,自己抜管,ICU滞在日数などは差がありませんでした.
  • また,EGDS群は,患者さんはケアへ協力的でした.

 

上記の結果,EGDSは臨床現場において実施可能であり,安全であることが報告されました.

また,EGDSは標準鎮静法に比べて,早期にライトセデーションに到達させ,ベンゾジアゼピン系薬剤とプロポフォールの使用を最小限にし,身体抑制の必要性を減少させることが示唆されました.

(文献)*Shehabi Y et al:Early goal-directed sedation versus standard sedation in mechanically ventilated critically ill patients:a pilot study. Crit Care Med 41(8):1983-1991, 2013

 


[引用・参考文献]


[Profile]
櫻本 秀明(さくらもと ひであき)
筑波大学附属病院ICU

*所属は掲載時のものです。


本記事は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

[出典]『基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座~せん妄予防と早期離床のために~』(監修)道又元裕、(編集)剱持雄二/2015年2月刊行

基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座~せん妄予防と早期離床のために~

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