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2018年05月31日

せん妄の症状・分類・発症原因を知ろう

『基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座』より転載。
今回は、せん妄の症状・分類・原因について解説します。

〈目次〉

せん妄の症状

せん妄は,脳機能障害が急性に発症し,これに伴って精神状態の変化や変動,認知機能障害(記憶欠損,失見当識,言語障害など),注意力障害,および思考の混乱または意識レベルの変化がみられる症候群です1)

随伴症状として,幻覚や妄想,他に睡眠障害,精神運動異常や情緒障害(恐怖,不安,怒り,うつ,無感情,多幸症)などがあります.

せん妄を発症すると,患者さんは注意力の欠如や認知機能の低下のため,たとえば医療者がルート・チューブの説明をし,一時は理解が得られて安静にしていても,次の瞬間にはチューブを抜去してしまうこともあります.

せん妄の症状

せん妄の分類―意外と知らない低活動型せん妄

せん妄というと,暴れたり興奮したりしているイメージがあるかもしれません.しかしそれは,不穏を示す過活動型せん妄というせん妄の1タイプであり,実は他にもタイプがあります(表1).

表1せん妄のサブタイプ

せん妄のサブタイプ

 

1つは,落ち着きがあり倦怠感を示す低活動型せん妄です.これは意外と知られておらず,また静かな症状のため,見逃されやすいせん妄です(ほとんどが見逃されていると言われています).低活動型せん妄の主な症状は注意力の障害です.

そして,過活動型と低活動型を交互に示す混合型せん妄があります.

気づきやすい過活動型せん妄は実は少なく,気づかないだけで,水面下では低活動型せん妄の方が多く発生していると言われています(コラム参照).

 

コラム:低活動型せん妄には要注意!

とくに,低活動型に注意が必要です.

予定手術後の高齢患者さんのせん妄発症の調査では,せん妄全体(74例)のうち67.6%が低活動型せん妄と判定され,過活動型せん妄はわずか1.4%(1例のみ)でした.

図1サブタイプに分けたせん妄発生率

サブタイプに分けたせん妄発生率

 

さらにこの調査では,低活動型せん妄は高い死亡率や高い褥瘡発生が指摘されました.

低活動せん妄は私たちが認識しているより多く存在し,予後も悪いことがわかっているのです.

(文献)Robinson TN et al:Motor subtypes of postoperative delirium in older adults. Arch Surg 146(3):295-300, 2011

 

せん妄はなぜ起こる?

せん妄の発症のメカニズムは完全にはわかっていませんが,身体的障害などによる生理学的な変動や精神的ストレスなどが脳に影響を及ぼし,せん妄が発症するとされています(図2).

図2せん妄は急性の脳機能不全

せん妄は急性の脳機能不全

 

ドパミンなどの神経伝達物質が増えると大脳辺縁系が過剰に興奮し,不安や緊張が高まり,過活動型せん妄を呈します.また,脳血流の低下や鎮静薬の作用などにより中脳・視床・皮質系の活動が低下すると,意識が混濁し,低活動型のせん妄を呈します2)

 

せん妄のリスク因子

せん妄のリスク因子には,準備因子誘発因子直接因子があります.

準備因子は,年齢(高齢)や喫煙歴などの患者特性や,認知症や慢性心疾患,慢性呼吸器疾患などの慢性的な病態など,患者さん個人がもともと抱えているせん妄を発症しやすい基質や性質です.

誘発因子は,入院に伴う環境の変化,疾患や治療に伴う身体的・精神的ストレスなどのせん妄を誘発しやすい要因であり,直接因子は,低酸素血症や電解質異常,鎮静薬などの直接脳に影響を及ぼしせん妄を引き起こす要因です.

準備因子は患者さん個人がもともと抱えているものなので介入によって変えることができませんが,誘発因子や直接因子は入院に伴って患者さんに新たに加わったものなので,多くは,入院環境を整えたり,身体に加わる侵襲を抑えたり,急性病態を治療したり,鎮静薬をコントロールしたりするなど,医療者の介入によって改善が可能です(図3).

図3せん妄のリスク因子

せん妄のリスク因子

「修正不能」とはもともと患者さん自身がもっている因子を指し,「修正可能かもしれない」とは入院によって生じ,改善の可能性がある因子を指します.
Van Rompaey B et al:Risk factors for delirium in intensive care patients:a prospective cohort study. crit care 13(3):R77, 2009 より筆者翻訳して引用,各因子は筆者が追加・修正]

 

せん妄の診断基準

米国精神医学会の定める精神疾患の診断基準(DSM-5)では,せん妄の診断基準は次のようになっています.

  1. A.注意の障害(すなわち,注意の方向づけ,集中,維持,転換する能力の低下)および意識の障害(環境に対する見当識の低下).
  2. B.その障害は短期間のうちに出現し(通常数時間〜数日),もととなる注意および意識水準からの変化を示し,さらに1 日の経過中で重症度が変動する傾向がある.
  3. C.さらに認知の障害を伴う(例:記憶欠損,失見当識,言語,視空間認知,知覚).
  4. D.基準A およびC に示す障害は,他の既存の,確定した,または進行中の神経認知障害ではうまく説明されないし,昏睡のような覚醒水準の著しい低下という状況下で起こるものではない.
  5. E.病歴,身体診察,臨床検査所見から,その障害が他の医学的疾患,物質中毒または離脱(すなわち,乱用薬物や医薬品によるもの),または毒物への曝露,または複数の病因による直接的な生理学的結果により引き起こされたという証拠がある.

[American Psychiatric Association:DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル(高橋三郎,大野裕監訳),p.588,医学書院,2014 より引用]

 

ICUでせん妄はなぜ起こる?

ICUで考えると,前の図3の下段右側の急性病態(とくに鎮静薬やオピオイド鎮痛薬などの投与)や下段左側の環境因子(長時間の抑制や不動など)は,とくにICUの患者さんのせん妄に関係している可能性が高いと思われます.

また,ICUでは,(A)ベンゾジアゼピン系の薬剤の使用量が増える,(B)重症度が高くなる,(C)年齢が増すほどせん妄へ移行しやすくなると報告されています(図43)

図4ICUにおける要因別せん妄へ移行する確率

ICU における要因別せん妄へ移行する確率

Pandharipande P et al:Lorazepam is an independent risk factor for transitioning to delirium in intensive care unit patients. Anesthesiology 104(1):21–26, 2006 より引用]

 

ICUシンドローム(ICU症候群)と多臓器不全

ICUシンドローム(ICU症候群)という用語は,ひと昔前まで当たり前のように使われていました.しかし,この言葉はICUという環境がせん妄にさせるという印象を強く与えます.

しかし,図3にあるように,せん妄はさまざまな急性病態・治療侵襲によって直接的に引き起こされます.現在では,ICUにおけるせん妄の原因は,それらの病態や治療の影響が大きいとされています.

とくにICUの患者さんにおいてせん妄を引き起こす病態に,重症敗血症などにおける多臓器不全があります.

図5多臓器不全

多臓器不全

 

重症多臓器不全では,急性呼吸促迫症候群(ARDS)や播種性血管内凝固症候群(DIC),急性肝不全や急性腎不全などのほかに,急性脳機能不全を引き起こします.それによって,せん妄が引き起こされると考えられます.

 

せん妄が発症すると何が問題になる?

せん妄が発症すると,患者さん自身,患者さんの家族,医療を提供する看護師や医師,それぞれに悪影響があります.

臨床でとくに問題になる症状は,不穏や注意力欠如などになってチューブ類を抜去することや,興奮して暴れたり暴言を吐いたりすることではないでしょうか.

せん妄中の行為も患者さんには記憶があるとされており,自分が暴れた記憶や,医療者から抑制された記憶など,嫌な体験として残ってしまいます.

家族にとっても,患者さんが暴れている姿を見たり患者さんに暴言を吐かれたりすると,それまでとは別人のような患者さんの姿にショックを受けます.

そして,暴れる患者さんに対応する医療者自身の身の危険もありますし,何より,患者さんの安全や適切な医療の提供に支障をきたすおそれがあります.

 

ICUでせん妄が発症すると何が問題になる?

せん妄によって暴れることは,ICU においてはとくに,命にかかわるチューブ・ドレーン類の抜去にもつながりますので,一般病棟以上に,治療・安全面への悪影響は大きいと言えます.

また,ICU でのせん妄の発症は,人工呼吸管理期間やICU 在室日数または入院期間の延長,死亡率の上昇との関連があるとの報告があります(図64)

図6せん妄による生存率の低下(カプラン・マイヤー曲線による分析)

せん妄による生存率の低下(カプラン・マイヤー曲線による分析)

Ely EW et al:Delirium as a predictor of mortality in mechanically ventilated patients in the intensive care unit. JAMA 291(14):1753-1762, 2004 より引用]

さらにこの調査では,せん妄は一時的なものではなく,一般病棟に転棟した後や退院した後の認知機能まで悪影響を残していることがわかりました.

以上のことから,重症患者さんの管理において,せん妄を起こさない,起きても長引かせないことが重要であると言えます.

 


[引用・参考文献]


[Profile]
剱持 雄二(けんもつ ゆうじ)
東海大学医学部付属八王子病院ICU・CCU 集中ケア認定看護師

*所属は掲載時のものです。


本記事は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

[出典]『基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座~せん妄予防と早期離床のために~』(監修)道又元裕、(編集)剱持雄二/2015年2月刊行

基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座~せん妄予防と早期離床のために~

著作権について

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