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2018年05月10日

抑制に法的な問題はない?

『基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座』より転載。
今回は、身体的拘束の法的規程について解説します。

これだけはおさえておこう

  • 介護施設での「身体的拘束」は,「切迫性」「非代替性」「一時性」をすべて満たす場合にのみ行うことが許されます.
  • 一般病床において拘束/ 抑制の実施を具体的に規定する法令はなく,してよいか否か,するべきか否かはケースバイケースです.

〈目次〉

精神科病院における規定

「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」には,「精神科病院の管理者は,入院中の者につき,医療又は保護に欠くことのできない限度において,行動について必要な制限を行うことができる」(第36条第1項)とありますが,この行動制限のうち,厚生労働大臣が定めたものについては「指定医が必要と認める場合でなければ行うことができない」(同条第3項)とされています.

前述のとおり,厚生労働大臣が定める行動制限の中には,「身体的拘束」が含まれています.また,同法に関する昭和63年厚生省告示第130号では,「身体的拘束」について表1のような事項が述べられています.

表1昭和63年 厚生省告示第130号における身体的拘束の基準

昭和63 年 厚生省告示第130 号における身体的拘束の基準

 

介護施設などの運営基準

老人福祉法,介護保険法,児童福祉法,障害者総合支援法に基づいて行われる事業や設置施設の各種運営基準(省令)では,「利用者または他の利用者の生命または身体を保護するため緊急やむをえない場合を除き,身体的拘束を行ってはならない(下記参照)」とされています.

また,やむをえず身体的拘束などを行う場合には,その態様,時間,その際の利用者の心身の状況,緊急やむをえない理由,その他必要な事項を記録しなければならないとされています.

この「緊急やむをえない場合」について法令上,とくに定めはありませんが,厚生労働省「身体拘束ゼロ作戦推進会議」作成の「身体拘束ゼロへの手引き」1)において,表2の3要件をすべて満たすことが条件とされています.

表2身体拘束原則禁止を解除する要件

身体拘束原則禁止を解除する要件

 

一般病床における規定

一般病床においては,拘束/ 抑制に関して具体的に定めた法令はありません.

しかし,精神病床や介護施設での考え方が踏襲される場合が多くみられます.とくに,身体拘束を行う要件(表2の3要件)は重要です.

 

憲法・刑法・民法上の問題

拘束/ 抑制を行うことは,憲法で定められた基本的人権の,個人の尊厳,身体的自由や表現の自由(自由権),人格権,生存権などの侵害にかかわります.

また,刑法では,逮捕監禁は犯罪として処罰されます.

民法上,故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害することは「不法行為」とされる一方,専門職は,善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務(善管注意義務)を負っています.

 

拘束・抑制に関する判例

看護師による拘束/ 抑制に関する初の最高裁判断としては,「一宮身体拘束事件」として知られる訴訟事例があります.

最終的に訴状に上がった抑制(ミトン)は,「不法行為法上違法であるということもできない」とされましたが,一般的要件や基準は示されていません.

その他の訴訟事例では,拘束が許容されたもの,「拘束帯を用いて体幹を抑制する義務があった」とされたもの,「危険行動を防止するための措置として抑制を実施すべき義務があったということはできない」とされたものなど,事例によって判断はさまざまです.

それらは,条文上の根拠や,統一的な法理論体系で理解することは困難で,拘束/ 抑制に関する裁判所の判断はまだまだ安定していません2)

 

介護施設等で禁止されている身体的拘束の具体例

厚生労働省「身体拘束ゼロ作戦推進会議」作成の「身体拘束ゼロへの手引き」1)では,介護保険の指定基準(指定居宅サービスなどの事業の人員,設備及び運営に関する基準)において禁止されている「身体的拘束等」について,具体的に以下の行為を挙げています.

1) 徘徊しないように,車いすやいす,ベッドに体幹や四肢をひもなどで縛る.
2) 転落しないように,ベッドに体幹や四肢をひもなどで縛る.
3) 自分で降りられないように,ベッドを柵(サイドレール)で囲む.
4) 点滴・経管栄養などのチューブを抜かないように,四肢をひもなどで縛る.
5) 点滴・経管栄養などのチューブを抜かないように,または皮膚をかきむしらないように,手指の機能を制限するミトン型の手袋などをつける.
6) 車いすやいすからずり落ちたり,立ち上がったりしないように,Y 字型抑制帯や腰ベルト,車いすテーブルをつける.
7) 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する.
8) 脱衣やおむつはずしを制限するために,介護衣(つなぎ服)を着せる.
9) 他人への迷惑行為を防ぐために,ベッドなどに体幹や四肢をひもなどで縛る.
10) 行動を落ち着かせるために,向精神薬を過剰に服用させる.
11) 自分の意思で開けることのできない居室などに隔離する.

これらは,あくまでも介護施設等での話であり,一般病床でも適用すべきものではありません.

しかし,上記の行為を行う際には,状況が異なれば身体的拘束と見なされる行為を行っているという自覚は必要です.

 


[引用・参考文献]

  • 1)厚生労働省身体拘束ゼロ作戦推進会議:身体拘束ゼロへの手引き―高齢者ケアに関わるすべての人に―,2001
  • 2)奥津康祐:看護師による身体拘束に関する最高裁平成22 年1 月26 日判決以降の民事裁判例動向.日看倫理会誌 6(1):61-67,2014

[Profile]
武内 龍伸 (たけうち たつのぶ)
藍野大学医療保健学部看護学科

*所属は掲載時のものです。


本記事は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

[出典]『基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座~せん妄予防と早期離床のために~』(監修)道又元裕、(編集)剱持雄二/2015年2月刊行

基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座~せん妄予防と早期離床のために~

著作権について

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