2018年03月15日

痛みの評価スケール

『基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座』より転載。
今回は、痛みの評価スケールについて解説します。

これだけはおさえておこう

  • 患者さんが痛みを感じる状況や痛みの程度をスタッフ間で共有し,適切な鎮痛管理をするためには,スケールを用いた痛みの評価が必要です.
  • 患者さんが自分で痛みを訴えることができる場合は,主観的な痛みの評価スケールであるNRS やVAS,FPS などを用い,自分で訴えることができない場合は,客観的な痛みの評価スケールであるBPS やCPOT などを用います.

〈目次〉

なぜ痛みの評価スケールが必要か?

ビギナー編1(鎮痛・鎮静管理はどのような流れで行う?)でみてきたように,重症患者さんにおける鎮痛・鎮静管理では,まず適切に鎮痛を行うことが基本であり,最も重要なことです.鎮痛がうまく行われているかは,患者さんがどれくらいの痛みを感じているかによって評価されます.

痛みとは,本来,主観的なものですから,数値化するのはそぐわないものかもしれません.しかし,患者さんが平常時やさまざまな処置・ケア時にどのくらいの痛みを感じているのかによって,鎮痛薬の投与量を調整したり,ケアや処置のしかたを工夫したり,鎮痛薬の効果をみたりする必要があります.

また,その痛みを感じる状況と痛みの程度を,スタッフ間で共有しないといけません.

そのため,患者さんの痛みを数値や視覚で表す評価スケールを用いる必要があります.

 

代表的な疼痛スケール

代表的な疼痛スケールを表1に示します.

表1代表的な疼痛スケール

代表的な疼痛スケール

 

患者さんに意識があり,自分で意思を表示できる状態であれば,本人の主観的な痛みの程度を表現してもらうことが可能です.この場合,主観的な評価スケールを用いることができます.

一方,重症患者さんは自分で痛みを訴えることができないことが多く,その場合には,医療者が客観的に評価する必要があります.この時に用いられるのが,客観的な評価スケールです.

 

1主観的な痛みの評価スケール

簡便に即座に評価できる利点はありますが,さまざまな注意点があります.

どの主観的な痛みの評価スケールを用いるにしても,①患者さんに評価スケールの目的や使用方法などを説明し理解してもらうこと,②患者さんが自分の痛みを(ある程度)的確に表示することができること,が必要になります.高齢で認知機能が低下している患者さんや,不安などが強く精神状態が安定していない患者さんでは,適切な評価は難しいでしょう.

また,重症患者さんの鎮痛管理は,痛みを適切に評価し,それに応じて鎮痛薬の投与量を調整します.バラツキのある患者さんの主観的な評価に依存して投与量を決めるのは,信頼性が高い方法とは言えません.

したがって,重症患者さんの鎮痛管理では,客観的な評価が必要です.

図1NRS(numerical rating scale,数字評価スケール)

NRS(numerical rating scale,数字評価スケール)

 

図2VAS(visual analogue scale,視覚的アナログ評価スケール)

VAS(visual analogue scale,視覚的アナログ評価スケール)

 

図3FPS(face pain scale,フェイスペインスケール)

FPS(face pain scale,フェイスペインスケール)

 

表2PHPS(Prince Henry pain scale,プリンス・ヘンリー疼痛スケール)

PHPS(Prince Henry pain scale,プリンス・ヘンリー疼痛スケール)

[Movafegh A et al:Post-thoracotomy analgesia ̶ comparison epidural fentanyl to intravenous pethidine. Middle East J Anesthesiol 19(1):111-122, 2007 より筆者翻訳して引用]

 

2客観的な痛みの評価スケール

客観的な評価スケールは,患者さんの意識の有無や,意思表示の可否にかかわらず使用可能です.また,評価者が変わっても評価がぶれにくいのもメリットです.

一方で,客観的な評価スケールにも注意点があります.

鎮静が深いと患者さんは痛みを表出しなくなり,適切に評価ができません.また,上肢や体動・筋緊張などの項目がありますが,麻痺や障害などがあり痛みがあっても上肢や体動・筋緊張に現れていないだけかもしれません.

目の前の患者さんにその評価スケールが適切に使用できるのか,確認することが大切です.

 

BPS(behavioral pain scale)

患者さんが人工呼吸管理中で,直接疼痛の自己申告が不能な場合,運動機能が保たれていれば,BPSは妥当かつ信頼性のあるスケールです.

BPS では患者さんの表情,上肢の動き,人工呼吸器との同調性の3項目について,それぞれ4段階のスコアをつけます.人工呼吸管理中でコミュニケーションを十分に取れない患者さんでも痛みの評価を行うことができます.

スコア範囲は3~12点で,5点以上は強い痛みと評価します.BPSの作成者は,2時間おきに評価することを推奨しています.

 

表3BPS(behavioral pain scale)2)

BPS(behavioral pain scale)

 

CPOT(critical-care pain observation tool)

患者さんの表情,身体の動き,人工呼吸器との同調性または挿管していない患者さんでは発声,そして筋緊張の4つの項目からなり,それぞれ3段階のスコアをつけていくスケールです.

CPOTは意識レベルに関係なく,疼痛に関する有害な刺激に反応が表現されることによってスコアリングできることが示されています3)

各項目は0から2点で得点され,スコア範囲は0~8点で,3点以上は強い痛みと評価します.

BPSは人工呼吸管理が前提ですが,CPOTは挿管・非挿管どちらの場合にも使用でき,人工呼吸管理前後を通しての評価が可能である点が特徴です.

表4CPOT(critical-care pain observation tool)2)

CPOT(critical-care pain observation tool)

 

 

適切な鎮痛レベルとは?

鎮痛薬が投与され,痛みを感じていなければ,理想的な鎮痛が行えていると判断します.

鎮静

しかし,鎮痛薬としてよく使用されるオピオイドには,便秘,悪心・嘔吐や,呼吸抑制などの副作用があるので,過剰投与はよくありません.BPS≧5,CPOT≧3は強い痛みを感じているとされているので,これを超えないことを鎮痛レベルの目安にするとよいかもしれません.

オピオイドを投与している場合で,眠気が強い,呼吸抑制の出現など副作用を思わせる症状が現れた場合,過量投与を考え,30~50%程度を目安に減量していきます.

呼吸抑制が起こる前には,痛みの消失……傾眠……縮瞳などの前駆症状があります.痛みを訴えたまま呼吸抑制が起こることはまずありません.

呼びかけに反応しなかったり,呼吸回数が少ない(5回/分以下)場合は,ナロキソン投与を考慮します.

 

CULUMN血圧上昇や頻脈は痛みの指標となる?

ICUにおける日常臨床ではよく,「血圧が上がってきたから痛そう」とか「タキってきた(頻脈になってきた)ね.痛いのかな」と血圧上昇や頻脈を痛みの指標とすることがあります.これは,本当に患者さんの痛みの訴えとなっているのでしょうか?

確かに痛みは,身体的ストレスから内因性カテコラミンなどを放出させ,心臓・血管系に収縮期血圧上昇や心拍数増加といったバイタルサインの変化を引き起こします.他にも,痛みがあれば不眠を起こし,食欲行動・意欲を減退させ,心配や不安を募らせます.

しかし,重症患者さんにおいては,痛み以外の原因によっても,血圧上昇,頻脈が生じえます.「血圧上昇や頻脈があるから痛いんだ」などと安易に判断せず,さまざまな可能性をアセスメントすることが重要です.

 


[文献]


[Profile]
剱持 雄二
東海大学医学部付属八王子病院ICU・CCU 集中ケア認定看護師

*所属は掲載時のものです。


本記事は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

[出典]『基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座~せん妄予防と早期離床のために~』(監修)道又元裕、(編集)剱持雄二/2015年2月刊行

基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座~せん妄予防と早期離床のために~

著作権について

この連載

  • 鎮痛薬には何がある? [03/29up]

    『基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座』より転載。 今回は、鎮痛薬の種類と使用方法について解説します。 〈目次〉 鎮痛薬の種類・使用方法 代表的な鎮痛薬 -フェンタニル -モルヒネ 鎮... [ 記事を読む ]

  • 鎮静の評価スケール [03/22up]

    『基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座』より転載。 今回は、鎮静の評価スケールについて解説します。 これだけはおさえておこう 不穏も過鎮静も患者さんに悪影響をもたらすため,鎮静が必要か,適切な鎮静レベル... [ 記事を読む ]

  • 痛みの評価スケール [03/15up]

    『基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座』より転載。 今回は、痛みの評価スケールについて解説します。 これだけはおさえておこう 患者さんが痛みを感じる状況や痛みの程度をスタッフ間で共有し,適切な鎮痛管理を...

  • 鎮痛・鎮静管理はどのような流れで行う? [03/08up]

    『基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座』より転載。 今回は、鎮痛・鎮静管理の流れについて解説します。 これだけはおさえておこう 鎮痛・鎮静管理では,「不穏」「痛み」の視点が大事です. 「不穏」の原因... [ 記事を読む ]

  • 鎮痛と鎮静はどのような関係にある? [03/01up]

    『基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座』より転載。 今回は、鎮痛と鎮静の関係について解説します。 これだけはおさえておこう 鎮静薬には鎮痛効果はありませんし,鎮痛薬にも十分な鎮静効果はありません. ... [ 記事を読む ]

もっと見る

関連記事

  • 医療ドラマあるある!間違い探し【4】~オペ室編その2~ [04/05up]

    前回同様、舞台はオペ室です。 あなたは何個、間違いをみつけられるでしょうか? ※記事の最後におまけの問題つき! 【ライター:白石弓夏(看護師)】   ~上級編~3カ所の間違いを探せ!   ★... [ 記事を読む ]

  • 聴診をする際に役立つ医療器具 [09/06up]

    聴診器を使用する際のコツや、疾患ごとの聴診音のポイントについて、呼吸器内科専門医が解説している『聴診スキル講座』ですが、ここでちょっと一息。 ここでは、本編とは別に、聴診に関する豆知識やグッズを紹介します。 コラムの第4話は... [ 記事を読む ]

  • 特発性間質性肺炎の疾患解説 [09/13up]

    この【実践編】では、呼吸器内科専門医の筆者が、疾患の解説と、聴診音をもとに聴診のポイントを解説していきます。 ここで紹介する聴診音は、筆者が臨床現場で録音したものです。眼と耳で理解できる解説になっているので、必見・必聴です! 初... [ 記事を読む ]

  • 肝内胆管が拡張しているエコー像 [09/07up]

    画像検査のなかでも、エコー(超音波)検査は、侵襲度が低く、簡便に行える検査です。 外来や病棟で、看護師が目にすることの多いエコー検査について、コツやポイントを消化器内科医が解説します。 〈前回の内容〉 肝内胆管拡張症は... [ 記事を読む ]

  • エコー検査の準備と片付け [08/17up]

    画像検査のなかでも、エコー(超音波)検査は、侵襲度が低く、簡便に行える検査です。 外来や病棟で、ナースが目にすることの多いエコー検査について、コツやポイントを消化器内科医が解説します。 〈前回の内容〉 腎臓のエコー像 ... [ 記事を読む ]

いちおし記事

モジャ先生との優しい時間|マンガ・ママナースもも子の今日もバタバタ日誌(104)

「相談したいことがある」とモジャ先生を食事に誘ったもも子は… [ 記事を読む ]

リフィーディング現象ってなんだっけ?

場合によっては不整脈や心不全を引き起こすことも…! [ 記事を読む ]

人気トピック

もっと見る

看護師みんなのアンケート

思わずほっこりした「ナースコール」はある?

投票数:
1275
実施期間:
2019年09月27日 2019年10月18日

他の病院事情、一番知りたいことは?

投票数:
1287
実施期間:
2019年10月01日 2019年10月22日

「タピオカの次に流行ってほしい」って思うもの、ある?

投票数:
1167
実施期間:
2019年10月04日 2019年10月25日

参考書や解説書で見かけるけど、実はよくわかってない用語ってある?

投票数:
1021
実施期間:
2019年10月08日 2019年10月29日

「患者さんを怒らせてしまった言葉」ってある?

投票数:
874
実施期間:
2019年10月11日 2019年11月01日

丸めたティッシュの中から意外なモノを見つけた経験ある?

投票数:
416
実施期間:
2019年10月15日 2019年11月05日
もっと見る

今日の看護クイズ 挑戦者1480

◆皮膚ケアの問題◆80歳代男性Aさん。右大腿骨頸部骨折のため入院となりました。観血的整復固定術が行われ、現在のADLは、体動はゆっくりではありますが、介助があれば車いすへの移動が可能です。ベッド上での自力での体位変換は不十分な状態です。Aさんの褥瘡予防ケアについて、適正なケアはどれでしょうか?

  • 1.手術後よりリスクアセスメント・スケールを用いて、褥瘡の評価を行った。
  • 2.現在もベッド上での自力での体位変換が不十分なため、体圧分散寝具の使用や体位変換介助を継続した。
  • 3.車いすに乗るときは、円座(ドーナッツ状クッション)を使用するよう伝えた。
  • 4.仙骨部などの骨突出部にマッサージを行った。
今日のクイズに挑戦!