水痘(水ぼうそう)【疾患解説編】|気をつけておきたい季節の疾患【18】

来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。

 

→水痘(水ぼうそう)【ケア編】はこちら

水痘_水ぼうそう

 

水痘の症状_水痘の主訴_水ぼうそうの症状_水ぼうそうの主訴

 

東出靖弘
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部

 

〈目次〉

 

水痘ってどんな疾患?

水痘は、ヘルペスウイルス科の一種である水痘・帯状疱疹ウイルスに初感染した際に発症する、急性のウイルス感染症です。水ぼうそう (水疱瘡)とも呼ばれます。冬に多く、また子どもに多い病気で、9歳以下の子どもの発症が9割以上になるといわれています。

 

水痘の感染経路・潜伏日数

水痘・帯状疱疹ウイルスは世界に広く分布しています。空気感染を起こすウイルスで、飛沫を気道や眼粘膜経由で取り込むと平均2週間、通常10~21日程度の潜伏期間を経て発症します。発熱とほぼ同時、または1日程度のタイムラグをおいて小さな発疹が体幹に生じ、その後四肢や頭部にも広がります

 

大人や妊婦が水痘にかかった場合は危険

水痘は多くの場合、健常児であれば特段の合併症もなく自然軽快していく疾患です。罹患後は基本的には終生免疫となり、1度罹患すると2度と罹らないといわれます。

 

ただし、ウイルス抗体価が低下することで再発症する報告例もあります。また、大人になっても罹患する可能性があり、子どもでの発症は多くの場合軽症で終わりますが、大人や免疫不全状態で罹患するとより重篤化(肺炎や髄膜炎・脳炎の合併など)することが多いため、注意が必要です。

 

また、妊婦が妊娠初期に水痘に罹患した場合には、胎児に先天性水痘症候群と呼ばれる症候(低出生体重児、四肢形成不全、皮膚瘢痕、部分的筋肉萎縮、脳炎、小頭症、白内障など)が生じることがあり、こちらも注意が必要です。

 

水痘と同じウイルスで起こる帯状疱疹

水痘と同じウイルスで起きる疾患として帯状疱疹があります。これは一度、水痘・帯状疱疹ウイルスに感染した後に体内の神経節に潜伏していたウイルスが、免疫能の低下に伴い再活性化することで生じます。帯状疱疹からは空気感染を起こすことは少ないですが、病変が露出している場合や播種性帯状疱疹となっている場合は伝染して水痘を発症することがあります

 

水痘の処置・治療法

水痘の診断ポイント

発熱を伴う発疹は水痘のほかにも多くありますが、水痘に特徴的なのは頭皮にも水疱が出現することです。言い換えれば、頭皮に水疱が生じた場合は水痘の可能性が非常に高くなります。水痘の皮疹は発症から3~4日は新しいものが出続け、下記の①~③が混在しているのが特徴です。

 

①2~5mm程度の紅斑
②紅暈(こううん:水疱の周りの皮膚にできる発赤)を伴う小水疱
③痂皮化・時に膿疱化(出現から2~4日後)

 

皮疹は口腔内にも出現することがあり、時に経口摂取の妨げとなります。すべての皮疹が痂皮化するのに7~10日かかり、学校保健安全法ではすべての皮疹が痂皮化するまで出席停止とされています。

 

多くの場合は上記のような、典型的な皮疹から診断されますが、病歴や皮疹が典型的ではない場合や免疫力の低下が背景にある場合などに行う補助的な検査としては、水疱擦過物の塗抹試験(Tzanck試験)やIgG、IgMペア血清の測定があります。

 

【水痘診断のポイント】
・新旧混在した皮疹、頭皮にも出現する小皮疹
・地域/所属共同体での流行歴

 

水痘の治療

水痘の治療には、抗ウイルス薬が有効で、重症化を避ける効果があるとされています。種類としてはアシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルがあり、点滴・内服製剤を症状・背景などに応じて使い分けます
ただし、抗ウイルス薬の有用性については賛否両論があります。たとえば欧米では健常小児に対する抗ウイルス薬のルーチン投与は推奨されていません。日本においては統一された見解はなく、医師の判断の下、個々の症例に応じて処方されています

 

それ以外は、各症状に対する対症療法となり、皮膚掻痒感に対し石炭酸亜鉛化リニメント(フェノール・亜鉛華リニメント)の外用や抗ヒスタミン薬の内服を行います。また、発熱に対しては解熱鎮痛薬としてアセトアミノフェンを用います。解熱鎮痛薬としてアスピリンを用いてしまうとライ症候群という重篤な合併症を起こすことがあり、禁忌となります(後述します)。

 

水痘の予防

前述しましたが、水痘・帯状疱疹ウイルスは空気感染を起こし、かつ感染力も強いウイルスです。ところが、感染経路がヒト-ヒト感染であることと、有効なワクチンが開発されていることから、予防接種での感染予防が効果的な疾患です。

 

日本では、2014年10月より水痘ワクチンの予防接種が任意接種から2回の定期接種となりました。2回の水痘ワクチンの予防接種により、軽症の水痘も含めてほぼ100%予防できると考えられています。また、疾患や内服薬による 免疫抑制状態にあるといった諸事情により、ワクチンを接種できない人についても、今後ワクチン接種者が増えることで媒介する患者が減り、間接的に感染リスクの減少が期待できます(これを集団免疫と呼びます)。

 

 

感染を拡大させない

水痘では特に感染拡大の防止が重要となります。
水痘ウイルスは空気感染を起こすため、濃厚接触をしなくても伝染します。水痘のほかに空気感染を引き起こす感染症としては結核麻疹が有名です。また、毎年大流行するインフルエンザは飛沫感染といわれており、濃厚接触が伝染の原因となります。水痘の感染から発症までは約2週間かかりますが、皮疹の出現の約2日前から他者への感染性が出始め、すべての水疱が痂皮化するまでその感染力は続くと言われています。皮疹が出るまでの前駆症状としては、発熱・倦怠感(乳幼児では不機嫌)程度で、特異的な所見はありません。したがって、皮疹の出現前に水痘を疑うことは非常に困難です。

 

つまり、皮疹に気づいた時にはその2日前から接触していた人は感染している可能性があり、既に感染が拡大している可能性があります。問診上、水痘に罹患したことのない患者、免疫の落ちている入院患者や妊婦には注意が必要です。

 

救急外来に水痘が疑われる症状の患者や、接触歴が濃厚な患者が受診した場合には、ほかの患者・家族との接触が最小限となるように配慮すべきです。可能ならば陰圧室での診察が望ましいでしょう。また、診療に当たるスタッフにも免疫があることを確認すべきです。

 

帯状疱疹患者にも注意

入院患者がたまたま帯状疱疹を発症した場合、高齢者は免疫を獲得していることが多いのですが、見舞い家族に妊婦や乳幼児が含まれる場合はやはり注意を払う必要があります。もし、帯状疱疹を発症した患者と接触してしまった場合、接触後約72時間以内に緊急ワクチン接種を受けた場合には発症の防止や症状の軽減ができるとされており、緊急ワクチン接種が感染制御の方策としてとられる場合があります。

 

小児の水痘患者へのアスピリン投与に注意

もう一つの注意点としては、小児の水痘患者にアスピリン(アセチルサリチル酸製剤)を投与すると、ライ症候群(Reye’s syndrome)と呼ばれる重篤な合併症を引き起こす可能性があることです。

 

ライ症候群とは、脳症による嘔吐意識障害、痙攣、肝への急激な脂肪蓄積など致死的な経過をたどることがある症候群で、特定の感染症の罹患中におけるアスピリン内服がリスクファクターと考えられています。この特定の感染症とは、水痘のほかに、インフルエンザなどのウイルス感染でも生じ得ます。したがって、水痘患児に対して誤ってアセチルサリチル酸製剤が使用されないようにくれぐれも注意が必要です。さらに言えば、病院から処方しない場合でも、家にあるほかの解熱鎮痛薬を流用しないように病児の家族にも指導することが望ましいでしょう。

 

また、アスピリンを常用している児(川崎病罹患後など)が水痘に罹患した場合には、休薬の是非などについて主治医への確認が必要となります。

 


[参考文献] 

 

 


[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長

 

芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 副看護部長 救命救急センター看護師長

 


[Design]
高瀬羽衣子

 


 

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