その症状、もしかしたら有毒植物かも!【致死率が高い有毒植物】|キケンな動植物による患者の症状【6】

嘔吐や気分不良など、中毒症状を訴えて来院する患者の中には、まれに「え?これが?」と驚くようなものが原因の場合があります。
この連載では、外来などで比較的遭遇する確率の高い意外な原因について、特徴的な症状や気を付けておきたいポイントなどについて説明します。ぜひ、看護師の皆さんには「あれ?もしかしたら○○が原因?」と疑える力(知識)を身に付けていただければと思います。

 

守田誠司
東海大学医学部付属病院 外科学系救命救急医学講座教授

山菜_有毒植物

 

〈目次〉

 

前回は遭遇する可能性が高い有毒植物を紹介しました。今回は、間違って食べると死亡する危険が高い有毒植物を紹介します。

 

食べると致死的となる確率が高い有毒植物

表1にあるような有毒植物に遭遇する頻度はそれほど高くはないですが、摂取した場合には非常に重症化するので注意してください。
また、毒性が強いため、間違えて食べてしまう場合と、他殺目的などに用いられる場合があるため、両方の可能性を考えて対応することも大切です。

 

表1有毒植物による死亡者数(平成18年~27年統計より)

イヌサフラン_トリカブト_グロリオサ

 

この期間での死亡例は表の3種のみ
文献1より作成

 

イヌサフラン(図1

危険度レベル 4~5点(5点満点)

 

図1イヌサフランの花(左)と球根(右)

イヌサフラン

 

イヌサフランは、秋に綺麗な花が咲くユリ科の植物で、ギボウシやギョウジャニンニクと間違えて食べられるようです。;

 

イヌサフランには、コルヒチンというアルカロイド系の毒性があります。摂取すると、強烈な消化器症状に伴う、高度脱水と電解質異常が出現し、重症例では幻覚・意識障害などの中枢神経症状が出現します。さらには、呼吸抑制が出現して致死的になります。10年間で4人の死亡例が報告されていますが、同期間中の中毒患者数は16名であることを考えると、死亡率は25%にのぼり、圧倒的に危険植物なので注意してください。ちなみに、コルヒチンは毒性ですが、痛風発作の抑制に使われていたりもします

 

イヌサフランによる中毒症状が発生した患者には、早期に胃洗浄を行い、活性炭や下剤を使用して消化管除染を行います。呼吸抑制に対しては人工呼吸器の使用が必要となります。重症例では血液透析が有効との報告がありますが、エビデンスは確立されていません。

 

トリカブト(図2

危険度レベル 3~5点(5点満点)

 

図2トリカブトの花(左)と実(右)

トリカブト

 

トリカブトは、名前を聞いたことがある方も多いかもしれません。植物性自然毒の代表格です。殺人事件で使用されて以降、有名になりました(後述)。もちろん、殺人事件に使用されるだけでなく、ニリンソウやモミジガサなどと間違えて食べて搬送されてくるケースもあります。

 

トリカブトは、秋に紫色の綺麗な花が咲く、キンポウゲ科の植物です。毒は葉、茎、根のどこにでもあり、日本中に自生しています
トリカブトは、アコニチンやメサコニチンなどのアルカロイド系の毒性を持っていますが、自生場所により毒の含有量が違うことがあります。アコニチンは、洞房結節に直接作用し、刺激伝導系の抑制を起こすことで心室細動など致死的な不整脈が出現して死亡します。

 

トリカブトをニリンソウやモミジガサなどと間違えて食べてしまった場合には、比較的診断がつきやすいですが、他殺などで用いられた場合には診断が難しくなります。原因の分からない心室細動などの不整脈ではトリカブトを頭の片隅に置いておいてください

 

トリカブト中毒の患者へは、胃洗浄を行い、活性炭・下剤を使用して消化管除染を行います。基本は対症療法になりますが、循環動態が高度に不安定な症例では補助循環装置の使用も考慮したほうがよい場合があります

 

グロリオサ(図3

危険度レベル 3~5点(5点満点)

 

図3グロリオサの花(左)と球根(右)

グロリオサ

 

グロリオサは、トリカブトと同率2位の危険植物です。ツル性のユリ科の植物で、観賞用としても販売されています。

 

グロリオサの根をヤマノイモと間違えて食べることで中毒となり、搬送されてくるケースが多いようです。グロリオサは、死亡者数No.1のイヌサフランと同様、コルヒチンを毒性に持っています。とにかく危険な植物です。
グロリオサによる中毒患者の症状や治療法は、イヌサフランに準じます。

 

番外編 シアン化物

危険度レベル 1~3点(5点満点)

 

シアン化物と聞くと、知らない人もいるかもしれませんが、青酸カリ・青酸ナトリウムと聞けば、猛毒というイメージがあるでしょう。これらはシアン化物の1つです。よく、ドラマの殺人事件などで出てきますよね。

 

実はこのシアン化物、アーモンドやリンゴの種子内に存在します。また、青梅にもアミグダリンという物質が存在し、食べると消化酵素などによりシアン化水素が発生します。昔から「生の青梅は食べるな」と言われていたのはそのためです。とは言え、数百個以上食べないと致死的にはなりません。どれも含有量は少量なので、臨床的に問題はありませんが、小児など体重が軽い場合には中毒症状が出現することもあります。

 

 

生の青梅を数百個以上食べる人はいませんよね…。

 

自然毒の特徴を巧みについた事件

1986年に発生した「トリカブト保険金殺人事件」ってご存知でしょうか?30年ほど前の事件なので、若い方はご存じないかもしれませんが、聞いたことぐらいはあるかもしれません。
どのような事件かというと、妻にトリカブトの毒であるアコニチンを飲ませて殺し、保険金を騙し取ったというものです。ちなみにこの妻は犯人にとって3人目の妻で、前妻の2人も急性心筋梗塞などにより急死しています。また、この2人にも多額の保険金がかけられていました。この事件は連日のようにニュースやワイドショーで取り上げられ、トリカブトの名を有名にしました。

 

この事件の裁判で争点となったことがあります。
警察は、犯人が3人目の妻に対してアコニチンを服用させ死亡させたと主張しました。しかし、アコニチンは即効性があるため、内服から数十分で死亡に至るはずですが、妻は数時間後に死亡していたのです。したがって、当時、犯人はアコニチンによる死亡ではなく、病死であると無罪を主張しました。

 

実は、これには自然毒を利用したすごい裏があったのです。そのポイントは「テトロドトキシン」です。あれ、聞いたことあるけど…と思った方(「聞いたことない」という方は、フグ中毒の回をご覧ください)。
アコニチンはナトリウムチャネル活性作用で毒性を発揮しますが、テトロドトキシンはナトリウムチャネル不活性作用で毒性を発揮します。つまり、アコニチンとテトロドトキシンは拮抗作用(反対の作用)を持っているのです。犯人は、この作用を巧みに用いたのです。
犯人はアコニチンとテトロドトキシンを同時に服用させました。そうすることで、しばらくはアコニチンとテトロドトキシンの作用が拮抗するため、毒性は発揮しませんが、テトロドトキシンの半減期がアコニチンに比べて短いため、徐々にアコニチンの毒性が発揮され、妻は死に至っていたのです。まるでミステリー小説のような本当の話です。

 

自然毒は、知識があれば比較的入手が容易で、かつ通常の毒に比べて疑われにくいのも事実です。そこを巧みについた事件でした。

 

原因不明な中毒患者はここにも注意!

中毒の患者が搬送されてきた時、原因が不明な場合などで、毒殺を目的にしたのでは?と疑う場合には警察に相談した方がよいでしょう。仮に間違えて家族で食べてしまったという場合でも、実は無理心中であったり、家族による殺人目的なんてことも十分に考えられるので、どちらにしても警察には一報しておきましょう。

 


 


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ロケットデザイン

 

[Illustration]
山本チー子

 


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