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2017年09月07日

ケント鈎|鈎(7)

手術室にある医療器械について、元手術室勤務のナースが解説します。
今回は、『ケント鈎』についてのお話です。
なお、医療器械の歴史や取り扱い方についてはさまざまな説があるため、内容の一部については、筆者の経験などに基づいて解説しています。

 

黒須美由紀

ケント鈎

 

〈目次〉

 

ケント鈎は開腹手術で活躍する術野確保の秘密兵器

ケント鈎は消化器外科の開腹手術で活躍

ケント鈎は、主に消化器外科の開腹手術で用いられる器械です。開腹手術であれば、正中切開、斜切開などに関わらず、どのような術式でも使用可能です。

その秘密は、柔軟に対応できるパーツの組み合わせにあります。一般的に、各医療機関の手術室全体で1~数セットが準備されていますが、滅菌処理が必要なパーツが限られているため、準備する側の負担も軽減されています。

 

memoケント鈎のパーツは数種類ある。パーツの管理は必須!

ケント鈎は、とてもたくさんのパーツに分かれていますが、そのすべてを滅菌状態で使用するわけではありません。しかし、パーツを1つでも紛失すると、ケント鈎はしばらく使用できなくなります。そのため、今、何を使用しているか、使用していないパーツは何か、そしてそれはどこにあるかを、必ず確認しておきましょう。

 

ケント鈎は良好な術野を確保できる秘密兵器

かつて、手術の領域では「鈎引き3年」と言われていました。助手となる外科医にとって開腹手術は、「常に十分な術野を確保する必要があり、そのためには助手の外科医がしっかりと鈎などを引いておかなくてはならない」というものでした。

しかし、ケント鈎が登場したことで、助手の外科医の「鈎引き」が、各段に楽になったと言われています。

 

ケント鈎の誕生秘話

ケント鈎の開発者は日本の消化器外科医

ケント鈎を開発したのは、日本人の医師である高崎健(たかさき けん)医師です。現在、高崎医師は、茨城県にある「牛久愛和総合病院」の名誉院長を務めていますが、かつては、東京女子医科大学消化器外科の主任教授を務めていた外科医です(図1)。

ケント鈎は、「Kent鈎」とも書きます。この名称は、開発者である高崎医師の名前「Ken Takasaki」から名付けられました。

図1ケント鈎を手に開発秘話をお話しする高崎医師

ケント鈎を手に開発秘話をお話しする高崎医師

 

高崎医師は、世界的にも著名な食道がん手術の先駆者である中山恒明(なかやまこうめい)医師(1910-2005)の最期の直弟子の一人で、およそ10年にわたる直接指導を受けました。中山医師は「病気を治すのは患者さん自身、医師はその手助けをする 」などの名言を残した医師でしたが、高崎医師は、師匠である中山医師の教えや功績を受け継ぎ、「誰にでもできる、安全でやさしい手術 」を目指し、多くの術式や医療器械の開発に携わりました。

 

40年をかけて改良を繰り返し完成したケント鈎

今から40年ほど前、高崎医師は、非常に困難な食道がん手術の症例にあたりました。これがきっかけで、ケント鈎の開発に取り組まれました。高崎医師の『良好な視野を確保し、消毒する器具もなるべく少なくしたい』という発想をもとに、ケント鈎の開発はスタートしました。
高崎医師の構想から数年を経て、初代のケント鈎が形になりましたが、当時はまだプロトタイプの状態で、各パーツで使用されるネジの頭が器械の外側に出ている状態でした。(図2)。

図2初代のケント鈎

初代のケント鈎

ネジの頭が器械の外側に出ています。

(写真提供:高砂医科工業株式会社)

 

その後、数年にわたる改良を繰り返し、現在流通しているケント鈎が完成しました。特に目立った箇所では、「アーチバー」の部分が真ん中で折れるような形状に改良されたり、「クランピング」を使って支柱をあらかじめベッドのレール部分に固定できるような改良などが行われています(図3)。このような改良を繰り返した現在のケント鈎は、なんと四世代目です。

図3三世代目のケント鈎

三世代目のケント鈎

アーチバー:二世代目以降、真ん中で折れるように改良されました。
クランピング:二世代目以降、ベッドのレール部分で固定するように改良されました。

(写真提供:高砂医科工業株式会社)

 

memo術者にとって最良の器械とは、その工夫を意識させずに使えること

全国の医療施設で使用されているケント鈎は、さまざまな工夫が施されていますが、術者がそれらを意識することはほとんどありません。自然な状態で、術者が良好な視野を得ることができるという証拠です。

高崎医師は、「本来なら、鈎は一種類あれば十分。それぞれの医師が使いやすいと思うものを使えば良い。誰が使っても同じ結果が出せるものでないと、製品にはならない単純なものほど良い。」と話しています。

 

国内外で活躍するケント鈎

ケント鈎は、現在、食道の手術より肝胆膵の手術で使用されることが多いようです。実際に、肝臓の手術をレクチャーするための動画や、マニュアルとなる文書などにもケント鈎が登場するシーンが多々あります。全国80~90%以上の医療機関で、何らかの手術に使用されているそうです。

また、ケント鈎とは違う名称で、海外製品を取り扱っている医療器械メーカーもあります。しかし、元を正せば、ケント鈎をモデルとして、海外で新たに開発された製品であることが多いようです。

 

ケント鈎の特徴

サイズ

ケント鈎は、複数のパーツを組み立てて使用するため、各パーツのサイズはさまざまです。たとえば、一番長い支柱の部分は、長さが60cm程度ありますが、鈎を固定するための「アーチバー」は、それよりも長くできています(表1)。

表1現在のベーシックセット(構成品一式)で使用するパーツ類

現在のベーシックセット(構成品一式)で使用するパーツ類

(写真提供:高砂医科工業株式会社)

 

形状

ケント鈎は、複数のパーツを組み合わせて使用するため、それぞれのセットによって形状が異なります。表1のケント鈎は、「ベーシックセット」ですが、このほかにも「ウィングレトラクターセット」などがあります。

それぞれ特徴的な形状をしているので、自身の施設で使用するケント鈎のセットにあるパーツの形状と名称を覚えておきましょう。

また、ケント鈎の構造は単純なものです。誰でも簡単にセッティングすることができ、術中に変形させることも可能です。さらに、消毒するパーツが極力少ないことも、メリットの一つです。

 

memo鈎の形状が翼状のウィングレトラクターセット

ケント鈎には、ウィングレトラクターセットと呼ばれるものがあります。これは、鈎の部分が翼状になっているのが特徴です。1つの鈎(ウィングレトラクター用ブレード)で使用するものもあれば、2つの鈎を組み合わせて使用するものもあります(図4)。

図4ウィングレトラクター本体とブレードの組み合わせ例

ウィングレトラクター本体とブレードの組み合わせ例

鈎(ウィングレトラクター用ブレード)が1つのタイプです。

(写真提供:高砂医科工業株式会社)

 

材質

ケント鈎は、すべてのパーツがステンレス製です。

 

製造工程

複数の形状のパーツがあるため、製造工程もさまざまです。

支柱

金属の長い棒から必要なサイズを切り出して、先端部分を丸く加工(切削加工)し、5cm刻みの目盛りを彫り、その後、磨き加工などを行います。

フリッチ状弁

金属の板から必要な形状を切り出し(板金加工)、規定の形に折り曲げ(プレス曲げ加工)、最後に磨き加工などを行います。

 

memo牽引器の加工方法

牽引器は、器械の中に細いワイヤーが巻き込まれています。さらに、このワイヤーを適切な長さで止め、ロックする機能も付いています。この部分の加工は、複数の加工方法を組み合わせています。

 

価格

ケント鈎を一式で購入する場合、価格は50万円以上です。使用している際、破損や紛失などをした場合は、そのパーツだけを追加購入することもできます。

 

寿命

ケント鈎の寿命は、特に決まっていませんが、やはり使い方や保管の仕方によって、耐用年数が変わってきます。特に、ワイヤー部分は頑丈にできていますが、使用頻度によりワイヤーがささくれてくることがあります。その際は、メーカーにワイヤーの交換を依頼する必要があります。

また、鈎の部分も簡単に形状が変わってしまうことはありませんが、保管の際にケースの中に無理に押し込んでしまったり、洗浄・滅菌の際に丁寧に扱われない場合は、金属疲労や変形を招く恐れがあります。

 

ケント鈎の使い方

使用方法

ケント鈎は、次の①~⑤の手順で使用します。

 <不潔下での操作>
①患者さんの入室前か麻酔開始前に、支柱を手術台脇のレールに取り付けておく
②患者さんの腹部を消毒する前に、2本の支柱の天辺にあるアダプターに、アーチ型バーを取り付ける

 <これ以降は清潔操作>
ドレーピング後、ドレープを挟むようにして、アーチバーに牽引器を取り付ける
④手術開始後、開腹したら牽引器のワイヤーを緩め、先端に鈎を取り付ける
⑤鈎の部分を腹壁にかけ、ワイヤーに緩みが無いように巻き取る(現行品では自動でロックがかかります)

上記の手順で、開腹中、術野を広く確保しておくことができます(図5)。

図5ケント鈎の使用方法

ケント鈎の使用方法

胃全摘術、肝切除術など、広範囲の手術で使用できます。

(写真提供:高砂医科工業株式会社)

 

類似器械との使い分け

ケント鈎と形状が似ており、同じような使用方法をとる別名称の器械もありますが(他社のメーカーで違う名称で扱っていることがある)、使用目的、使用方法は同じです。

 

禁忌

特に、禁忌はありません。

ケント鈎は、おもに開腹手術で使用されますが、その術式は、胃全摘術、肝切除術などさまざまです。また、最近は開腹手術以外でも使用することがあるそうです。

 

ナースへのワンポイントアドバイス

使用するセットのパーツは要確認! 取り間違いを防ごう

ケント鈎は、見た目から取り間違えるようなことはあまり考えられない器械です。しかし、複数のセットがあり、それぞれのセットで使用するパーツが異なっています。

手術中、器械盤の上に(清潔野に)出ているものが何か、そのセットにはどのようなパーツが含まれているのか、また術野に出ているものは何か、器械盤に残っているものは何か、しっかりと確認しましょう。

 

memo施設や術式ごとにケント鈎のセット内容を確認しておく

基本的には、ベーシックセットを使用するケースが多いようですが、医療機関によっては複数のセットを準備しているところがあります。術式に応じて、使い分けているかもしれません。

自分が勤務する手術室には何があるのか、実際に使用するのは何なのか、事前に確認しておきましょう。

 

使用前はココを確認

ケント鈎は、使用前に確認するポイントがいくつかあります。その一例として、下記①~③があります。

①牽引器のワイヤーに切れや緩み、ほつれが無いか(ワイヤーはより線になっているので、使用頻度などにより、ほつれが生じることがあります)(図6①

②牽引器のワイヤーロック機能に問題は無いか(図6②

③鈎の部分のゆがみ、欠け、キズが無いか

図6使用前に確認すべき牽引器のポイント

使用前に確認すべき牽引器のポイント

ワイヤーの確認と、レバーの確認が必須です。
レバーから手を離すとレバーは定位置に戻り、巻き取る方向にのみ回転します。

(写真提供:高砂医科工業株式会社)

 

いずれのパーツも、実際に使用するシーンを思い浮かべることができれば、問題に気づくことができるでしょう。

 

術中はココがポイント

複数のパーツのうち、術野で使用しているパーツ、使用せずに器械盤に残っているパーツの数を確認します。また、滅菌が必要なパーツと不要なパーツ(不潔下でセットするもの) がありますので、どこまでが清潔でどこからが不潔なのか、考えて器械出しをします。

 

使用後はココを注意

術野からケント鈎が戻ってきたら、まずは鈎(あるいはウィング)の部分に、欠損や破損など損傷がないかを確認します。この時点で問題があれば、術野の確認が必要です。問題がなければ、生理食塩液などを含ませたガーゼで血液や組織などの付着物を拭き取っておきます。

ケント鈎は、閉腹し始めたら使用しなくなりますが、手術の最後(器械を不潔にする)まで、パーツの在り処を把握しておきましょう。

 

片付け時はココを注意

洗浄方法

洗浄方法の手順は、ほかの器械の洗浄方法の手順と同じです。

(1)手術終了後は、必ず器械カウントと形状の確認を行う
(2)洗浄機にかける前に、先端部に付着した血液などの付着物を、あらかじめ落しておく

特に、牽引器のワイヤー部分は、付着物が付いたまま巻き取ってしまうと、洗浄機にかけても汚れが落としにくくなるため、注意が必要です。

(3)感染症の患者さんに使用後、消毒液に一定時間浸ける場合、あらかじめ付着物を落としておく

滅菌が必要なパーツは洗浄器での洗浄が必要ですが、滅菌しないパーツは清拭のみとすることもあります。しかし、血液の付着などがあった場合は、ほかのパーツと一緒に洗浄器にかけることもあります。

(4)洗浄用ケース(カゴ)に並べるときはほかの器械と分けて置くのがベスト

ケント鈎を洗浄するときは、可能な限りほかの器械とは分けて洗浄しましょう。ほかの器械と同じケースで洗浄・乾燥を行うこともできますが、ケント鈎は基本的に1手術室内に決まった数量(1セットなど)しかありません。そのため、ケント鈎のみでセット化し(専用トレイに入れるなど)、滅菌しましょう。ケント鈎のパーツとほかの器械が混同しないよう、ケント鈎だけを1つのケースに入れて洗浄できると良いでしょう。

 

滅菌方法

ほかのステンレス製の器械類と同様に高圧蒸気滅菌が最も有効的です。

ケント鈎は、滅菌が必要なパーツと、未滅菌で使用するパーツに分かれているため、滅菌時にはこれらのパーツがきちんと区別されているのかを確認します。滅菌完了直後は非常に高温になっているため、ヤケドをしないように注意しましょう。

 

 


[参考文献]


[執筆者]
黒須美由紀(くろすみゆき)
元 総合病院手術室看護師。埼玉県内の総合病院・東京都内の総合病院で8年間の手術室勤務を経験


Photo:kuma*


協力:高砂医科工業株式会社


著作権について

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