そもそも術後せん妄は予防できないの?

『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』より転載。

 

今回は「術後のせん妄予防」に関するQ&Aです。

 

佐々木剛
大阪市立総合医療センター薬剤部
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長

 

そもそも術後せん妄は予防できないの?

 

早期発見、早期介入で予防できる可能性はあります。

 

〈目次〉

 

せん妄とは?

せん妄とは、(表1)のような特徴をもちます。

 

表1せん妄の特徴

 

  • 意識障害(現実認識における清明度の低下)
  • 認知の変化(記憶欠損、失見当識、言語の障害など)
  • 障害が短期のうちに出現し、1日のうちで変動する傾向
  • 障害が一般的身体疾患の直接的な生理学的結果により引き起こされたもの

 

せん妄の要因は、術前・中・後のそれぞれにあります。術後せん妄は(表2)のような臨床的特徴をもち、しばしば、カテーテルや点滴の自己抜去、安静保持困難、昼夜逆転などが問題になります。

 

表2術後せん妄の臨床的特徴

 

  • 高齢者に多い
  • 中等度以上の手術に多い
  • 前駆症状として不眠や不安を訴えるものが多い
  • 手術直後から発症するまでの間に、いわゆる意識清明期間があるものが多い
  • 幻覚が主症状で、ときに興奮を伴うこともある
  • 特に重大な合併症を併発しなければ、通常は1週間以内に消退する
  • 軽快したのち、後遺症を残さない。認知症が進行したように見えるときは、新たな脳梗塞の発症の可能性を考えたほうがよい

 

術前のせん妄の予測と対策

予防対策は、まず術前の評価として、詳細な薬物服用歴の聞き取り、全身状態の評価、知覚・認知障害の発見、手術前の精神的ストレスの有無、神経心理学検査、高齢者専用麻酔計画の使用などの対策を行います。

 

また、患者本人の現在の状況だけでなく、家族から得られる術前の知的水準やADLに関する情報も、術後せん妄の危険因子の予測に重要です。

 

術後せん妄は、その危険因子を予測し、早期発見、早期介入を図ることが大事です。具体的には(表3)のような介入でせん妄の予防を図りましょう。

 

表3術後せん妄の危険因子と術前の予防策

 

  • 年齢(60歳以上)
  • 長時間の手術(4時間以上)
  • アルコール依存
  • 精神病の既往
  • 認知症の合併、せん妄の既往など
  • 検査データの明らかな異常(貧血電解質異常など)
    原因となる疾患の精査・治療
  • 術後疼痛
    薬物療法を中心とした疼痛コントロールなど
  • せん妄を引き起こすことのある薬剤の服用などせん妄を引き起こす薬剤(表4)のチェックを行う
    原因となりうる薬剤を使用している場合、主治医と相談し、できる限り中止する

 

また、薬剤がせん妄の原因になっている場合もあります。せん妄の原因となる薬剤には、(表4)が挙げられます。

 

表4せん妄を起こす可能性のある原因薬剤

せん妄を起こす可能性のある原因薬剤

 

術中のせん妄の管理

術中管理としては、十分な酸素化と適切な組織灌流を得るための血圧維持、電解質異常の補正、適切な薬物使用量、使用する薬物の種類を最小限にとどめる、アトロピン、フルラゼパム、スコポラミンの使用を避けるなどが挙げられます。

 

術後のせん妄への対応

術後対策としては、まず(図1)のように環境整備を行います。術後の疼痛管理も適切に行う必要があります。

 

図1せん妄予防のための環境整備

せん妄予防のための環境整備

 

せん妄を発症した場合は早期発見、早期介入が重要

せん妄が発症した場合の対応としては、原因の除去(原疾患の治療、原因薬物の除去)、環境調整が基本となります。せん妄が起こった場合、原因薬剤(表4)は中止が望ましいですが、薬剤が原因であるかは可能性であって、さまざまな要因の1つにすぎず、患者の病態から中止できない薬剤もあります。中止するかどうかは主治医とよく相談する必要があります。

 


[文献]

  • (1)石川純, 矢部辰一郎:ここが知りたい他科知識  周術期の対応 術後せん妄の管理法は?.JOHNS 2007;23:405-407.
  • (2)Parikh SS, Chung F. Postoperative delirium in the elderly. Anesth. Analg 1995;80:1223-1232.
  • (3)山城守也:高齢者術後精神障害とその対策.消化 器外科 1991;14:65-71.
  • (4)畝本賜男:術後合併症.Clinical Pharmacist 2013; 3:29.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社

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