PEGへの「注入」に関するギモン|PEGケアQ&A

『病院から在宅までPEG(瘻)ケアの最新技術』より転載。

 

今回は「注入」に関するギモンについて説明します。

 

岡田晋吾
北美原クリニック理事長

 

〈目次〉

 

水分は、いつ、どのように補給すればいいの?白湯じゃなきゃだめですか?

栄養剤投与30分前までに水分を注入するのが理想です。白湯に限らず、水道水などを用いても問題ありません。

 

多くの場合、栄養剤だけでは、必要な水分量をすべてまかなうことはできません。そのため、水分を追加する必要があります。

 

このような水分を「追加水」と呼ぶことが多いようです。追加水という呼び方からわかるように、栄養剤を入れた後に水分を入れることが多いと思います。栄養剤の後に水分を入れることで、チューブ内の栄養剤を洗い流す効果を期待しているのかもしれません。

 

基本的に必要水分量が確保できればよいので、「水分投与は栄養剤投与の前でも後でもよい」と思われます。ただし、栄養剤で胃内が充満しているところに水分を入れると、胃食道逆流や瘻孔からの漏れにつながる危険性があります。

 

水分を単独で投与した場合、比較的早く胃より排出されることがわかっています。そのため、今では栄養剤を注入する前に入れることが多いようです。少なくとも30分前までに、水分を注入し終えておけばよいでしょう。

 

以前は、追加水として白湯(湯ざまし)をよく使っていましたが、これには根拠はありません。そのため、水分を投与する際は、普通に水道水などを用いても大丈夫です。

 

胃瘻への接続(栄養投与)のとき、手袋をする必要はありますか?

原則的に手袋は不要です。ただし、複数患者への栄養投与を行う場合や、感染リスクが高い場合などには、手袋を使用するのが望ましいでしょう。

 

胃瘻からの栄養投与は、基本的に「健常人が食事を取るときと同じ」と考えてよいでしょう。われわれが茶碗を持つとき手袋をしないように、原則的に手袋は必要ありません。

 

しかし、療養環境によっては手袋が必要な場面があります。同じ看護師が複数の患者の接続を行う場合や、感染のリスクが高い環境などでは、手袋を使用したほうがよいでしょう。

 

施設などでノロウイルスなど感染性胃腸炎が発生している場合には、胃瘻への接続によって感染する危険性があります。

 

その一方で、在宅など1人の患者だけを見ている場合には、手洗いをしっかり行うことで十分だと思います。

 

患者の状況や療養環境に考慮して選択してください。

 

食塩は、どのように追加するの?

栄養剤投与後「フラッシュ」するときの水に、不足分のNa量を溶解して投与します。追加量が少ない場合は、栄養剤に混ぜて投与してもかまいません。

 

多くの栄養剤はNa(ナトリウム)の含有量が少なくなっています。よく使われる医薬品タイプの栄養剤の場合、1,000kcalで2~3gほどしか入っていません。その理由として、①Naが多いと粘度が高くなって細いチューブから入れにくくなってしまうこと、②Na制限のある患者さんには使いにくいこと、などが挙げられます。

 

短期であれば、Naが少なくても生体が水分調節を行うため、低Na血症を示すことは、あまりありません。しかし、長期になると低Na血症となり、進行すると意識障害が起こります。

 

そのため、必要なNa量を計算し、栄養剤から摂取できるNa量を引いた不足分を投与する必要があります。多くの場合、約3~4g/日のNaC(l塩化ナトリウム=食塩)の追加が必要と思われます。

 

ただし、薬剤のなかには、低Na血症を起こす可能性のある薬剤(ラシックス®、フルイトラン®など)もあります。多くの薬を飲んでいる高齢者では、注意が必要です。

 

図1

 

食塩の投与方法

NaClは、投与終了後のチューブフラッシングの際に、水に溶解して投与します。

 

NaClの追加量が少ない場合には、栄養剤に混ぜて投与してもかまいません。ただし、塊ができてしまう場合もあるので、細いチューブ(腸瘻など)の場合には、栄養剤とは別に入れたほうが無難です。

 

酢水を充填していなくても、栄養剤投与前に水でフラッシュしなければいけませんか?

最低でも1日1回、栄養剤の初回投与時にはフラッシュしたほうがよいでしょう。フラッシュによって、チューブや接続部の異常を発見できるためです。

 

通常は、チューブがきれいであれば、水でフラッシュしなくてもいいかもしれません。しかし、水でフラッシュすることで、チューブや接続部の異常を見つけることができます。

 

たとえば、PEGカテーテルの先端が十二指腸に入って壁にぶつかっている場合などには、フラッシュするときに抵抗を感じます。

 

毎回フラッシュを行う必要性はないかもしれませんが、その日の初回投与のときには、フラッシュを実施することをお勧めします。

 

ただし、腸瘻の場合には、チューブが詰まりやすいので、フラッシュをこまめに行ったほうがいいでしょう。

 

家族から「本人の好きなコーヒーやビールなどを、PEGから入れてあげてもいいですか?」と聞かれたのですが…

少量であれば、投与しても大丈夫です。患者の希望を確認しましょう。

 

筆者は「少量ならいいですよ」と話しています。もちろんビールを1Lも入れることは、おなかも張りますからやめましょう。

 

患者のなかには胃から上がってくる香りやげっぷを楽しまれる方もおられます。患者の望みにこたえることも、重要だと思います。

 

癌の末期で胃瘻を減圧用に使用している場合にも、患者が望む場合には、口からお酒などを飲んでもらいます。胃瘻から外に出てしまいますが、のど越しなどを味わうのもよいことですね。

 

栄養剤投与前の「胃内の脱気」は、毎回実施したほうがいいですか?

できれば毎回実施するのが理想です。漏れや胃食道逆流を防ぐために「胃内の脱気」は重要な手技です。

 

胃内の脱気は、重要な手技です。胃内圧が高いところに栄養剤を注入すると、漏れや胃食道逆流が起こりやすくなるからです。

 

健常者も同じですが、胃の排出は、毎回同じとは限りません。便秘になっていれば、当然、胃内圧は上がってきます。健常者は、自分でおなかが張っているのを感じて食事量を減らすことができますが、意識状態の悪い方は、腹部膨満感などの症状を伝えることができません。

 

できれば毎回、胃内の脱気をすることが望ましいですが、腹部の所見や排便状況などを見て必要ないと判断したら、毎回行わなくてもいいでしょう。

 

ただし、大量に栄養剤が引けてくるような場合には、排便状況や腹部所見と合わせて「患者の体に何か起こっていないか」を検討することが必要です。

 

図2

 

PEG患者に微量元素はいらないの?

まずは、使用している栄養剤の組成を確認してください。十分量が入っていない場合には、微量元素が配合された栄養補助食品などの使用を考慮します。

 

長期にわたって経腸栄養を受けている患者では、微量元素が欠乏してくる場合があります。亜鉛やセレン、銅などが欠乏すると皮膚炎などの合併症を起こすことになります。

 

食品タイプの栄養剤のなかには、微量元素も摂取できるものがありますので、いま使っている栄養剤の組成をよく見てみましょう。もし、十分な量が入っていないようであれば、微量元素が配合された補助栄養剤をPEGから投与することも考慮します。

 

北美原クリニックでは、必要に応じて、栄養補助食品であるブイ・クレス(ニュートリー)やサンキストポチプラス(クリニコ)などを紹介しています。

 

ただし、栄養補助食品を用いる場合は、患者自身による購入になりますので、費用面などについて、よく説明しておくことが大切です。

 

処方薬や食品から摂取できる場合も

胃炎などでプロマック®を処方されている患者の場合、プロマック®から亜鉛を摂取することができます。

 

銅は、ココアなどからも摂取できます。

 

栄養剤の投与は「1日3回」でなければいけませんか?

1日2回でもかまいません。ただし、その場合には、栄養剤や水分の投与法を検討する必要があります。

 

多くの施設では、1日3回投与が一般的だと思います。これは、健常者の食事が1日3食であることが多いのに合わせただけかもしれません。

 

必要なエネルギー量が確保されれば1日2食でもいいように、経腸栄養を1日2回投与としてもかまいません。

 

たとえば、リハビリテーションを行っている患者の場合、1日2回投与であれば、リハビリテーションの時間を確保できます。また、経腸栄養にかかわる看護師や介護者の負担も軽減され、浮いた時間を他のケアに回すこともできます。ただし、1日2回投与とする場合、投与法を検討しなければいけません。

 

3回の分を2回で投与するわけですから、1回投与量は1.5倍くらいの量になります。量を減らすために、高濃度の栄養剤を使用することも考慮する必要があります。

 

また、水分の投与量や投与法も検討しましょう。

 

経口摂取を併用しているPEG患者の場合、食事と胃瘻からの栄養投与の順番はどうすればいいですか?

できるだけ経口摂取を優先してください。まずは患者がどれくらい経口摂取できるかを把握し、状況に合わせて調節していきましょう。

 

食事は摂取できるけれども摂取カロリーが十分ではない場合には、胃瘻からの栄養投与で不足分を補充します。胃瘻からの栄養剤投与はあくまでも補充ですから、まずは経口摂取を優先します。そうしないと食事摂取量が落ちてしまい、楽しみも奪ってしまいます。

 

患者が、いつ、どれくらい経口摂取をするのかを把握して、栄養剤投与の時間や量を決めればいいでしょう。

 

たとえば「朝と夜は食事を摂るが、昼は食べられない」ようであれば、昼に胃瘻から注入するようにします。

 

また「朝・昼・夜と3食摂るが、夜に多く食べる」場合には、朝・昼の食事のあとに栄養剤を投与すれば負担とならないでしょう。

 

患者の状況に合わせて計画を立てることが大切です。

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2010照林社

 

[出典] 『PEG(胃瘻)ケアの最新技術』 (監修)岡田晋吾/2010年2月刊行/ 照林社

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